「週刊少年ジャンプ」(集英社)の看板作品のひとつにして、芥見下々さんの代表作である漫画『呪術廻戦』。
MAPPAによるTVアニメ化(1期・2期)および劇場アニメ化の影響もあり、コミックスの累計発行部数は1億部を突破(2024年10月時点)。海外からも反響を呼ぶ大人気作品となりました。
『呪術廻戦』最終30巻/画像はAmazonより
6年半に渡る「週刊少年ジャンプ」での連載最終回を迎え、ポップカルチャーメディアのKAI-YOUでも『呪術廻戦』の話題で持ちきりに。
しかしどうやら、『呪術廻戦』に対し思うところがあるメンバーもいるようで……!?
(※)この記事には、『呪術廻戦』および『幽☆遊☆白書』のネタバレが含まれます。ご了承ください。
目次
『呪術廻戦』完結記念座談会 登場人物紹介
わいがちゃんよねや
KAI-YOUの代表取締役社長。1986年生まれ。敬愛する冨樫義博作品を他人に勧めすぎて、社内で『HUNTER×HUNTER』ハラスメントとして大問題を引き起こす。『呪術廻戦』には、冨樫義博作品を超えようとする気概を見出し、期待を寄せていたが……?
新見直(にいみなお)
「KAI-YOU Premium」編集長、KAI-YOUの副社長。1987年生まれ。なぜか志半ばで挫折したり、罪悪感に苦しんだりする屈折したキャラクターを愛しがち。『呪術廻戦』だと、姉・伏黒津美紀を救えなかった伏黒恵。
古見湖(ふるみ みずうみ)
KAI-YOU Videosディレクター。1996年生まれ。TCGプレイヤーという出自もあり、大会やパック開封で運に振り回されてるシビアな彼だが、「豪運」を武器にする秤金次の「俺は“熱”を愛している」「実力で運を掴むんだよ」というセリフにシビれた。
うぎこ
KAI-YOUの広報担当。年齢非公開。またしてもKAI-YOUの荒くれ者たちによる論争に巻き込まれる。『呪術廻戦』では、禪院真希と禪院真依姉妹の「全部 壊して 全部だからね お姉ちゃん」のシーンに号泣した。
悪役から考える少年漫画としての『呪術廻戦』
2024年12月某日、KAI-YOUオフィスにて────。
にいみ ────俺はずっと、主人公の虎杖悠仁と宿儺が対極的なキャラクターだと思ってたんだけど、実は虎杖悠仁の対極は五条悟だったんだよ。それで、2人の間にいたのが宿儺で……。
よねむら え、急にどうしたの!?
ふるみ 宿儺が虎杖悠仁と五条悟の間?
にいみ 第236話「南へ」の中で、五条悟自身が死後の世界らしき空港で夏油傑や七海建人たちと会話する中で暴露していたんだけど、五条悟というキャラクターは結局、自分の全力をぶつけたいという欲望を根底に抱えていて。結果的に五条悟は宿儺に敗北してしまうんだけど、それで満足できたし、悔いのない死を迎えられたよね。
ふるみ ああ、いいシーンでしたね。あそこ。
にいみ 最高でした。対して虎杖悠仁は、祖父から死の間際に受けた「オマエは強いから人を助けろ」「オマエは大勢に囲まれて死ね」という“呪い”の遺言をはじめ、ずっと自分の役割とか使命とかに縛り付けられていた。
その上で宿儺は、「俺は俺の身の丈で生きているに過ぎない」「貴様らは身の丈にあった不幸を生涯噛み潰していればいいのだ」と傍若無人・残虐非道に振る舞っていて、一見自由を謳歌しているようにも見える。
でも、実は「異形の忌子として生まれた自分を蔑み虐げた者達」への復讐心をどこかに抱えていて、“呪い”としての行動原理に囚われていた。
そういう意味で、虎杖悠仁と宿儺の生き方は表裏一体で、むしろ一番遠い存在だったのが五条悟だったんだなって。
うぎこ なるほど。だから、最終回「これから」の回想シーンで、五条悟が虎杖悠仁に「もう五条悟とかどーでもよくない?」「一人くらい僕のこと忘れて、僕とは全く違う強さを持つ人間がいた方がいい」って言ってたんですね。
にいみ 虎杖悠仁は、第1話「両面宿儺」で宿儺の指を飲み込んだことを機に呪術師になって、そこから「正しい死/間違った死」というテーマについて逡巡し続けて、自分なりの答えも出せた。そこに虎杖悠仁の強さがある。
対して五条悟は、菅原道真を先祖とする御三家の当主で、数百年ぶりに現れた六眼持ちの無下限呪術使いという設定はあるものの、そこに何の理由も意味もなく、最初っから最強だった。結構コントラストが効いてたと思いますよ。
よねむら その2人が対照的なのはその通りだと思うんだけど、宿儺のキャラクター性についてはまったく理解できなかったけどな……。
宿儺が表紙を飾った『呪術廻戦』第29巻/画像はAmazonより
ふるみ え!? 「人外魔境新宿決戦」編や「終わり」編で、宿儺の過去や内心がちゃんと描かれていたじゃないですか?
よねむら そのバックボーンって、本当に最終決戦の最中、なんなら終盤の終盤にようやく明かされたわけで……。正直、取ってつけた感は否めないし、むしろ逆に矮小化しちゃってるとさえ思う。
というより、それまで宿儺は、登場人物たちはともかく、読者にさえ感情移入をさせない異質の存在として描かれていた。
まず前提として、僕はあらゆる悪役にも事情があると思うんですよ。現実の戦争でも、良い国と悪い国が戦っているんじゃなくて、それぞれの正義が衝突して戦っている。犯罪者だってそうなってしまうバックボーンがある。それは令和の現在にとって周知のことで、勧善懲悪という少年漫画の王道的なフォーマットは、現代においてはフェイクでしかない。
で、2021年にKAI-YOUでやった座談会でも言ったんだけど、芥見下々さんは明らかに冨樫義博さんのフォロワーじゃないですか。
よねむら 冨樫義博作品がエポックメイキングであることのひとつは、少年漫画における、使い古された勧善懲悪というフォーマットを更新した点にある。『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』では、悪役にも事情があるし主人公サイドにも悪意がある──つまり、人間は複雑な存在であると描かれている。
じゃあ、悪役を読者にまったく感情移入させなかった『呪術廻戦』は、先達である冨樫義博作品よりも、ダウングレードしているってことにならない?
にいみ 少し前であれば確かにその指摘は最もだと思うんですが、逆に今はもうその展開にみんな飽きてるんすよね。
うぎこ それは私もあると思いました。吾峠呼世晴さんの『鬼滅の刃』もそうだったんですけど、悪役にも事情があって可哀想な過去があるという物語があまりにも多くなりすぎて。みんな「ちょっとそれダルイな……」って思っている風潮は感じています。
ふるみ 読者目線から見ると、悪は悪らしく、残酷で理不尽であってほしいというか。週刊連載に適した、突っ切ったカタルシスみたいなのが求められた結果、ああいう悪役になったのかなって思いました。
よねむら わかるよ。説教臭いという指摘も、商業的に単純明快でわかりやすい勧善懲悪な方がいいという意見もわかる。でもそれを諦めないのって、めちゃくちゃ大事なことじゃない?
「善/悪とは何か?」みたいな問いって、明確に答えが出せない。言ってしまえば、だから戦争は終わらないし犯罪もなくならない。それをどう着地させるのかって、むしろ現代社会において大きな課題だと思うんですよね。
よねむら 冨樫義博さんの『幽☆遊☆白書』でさえ、そのテーマを描き切ることはできなかった。『幽☆遊☆白書』は最後、人間と妖怪/魔族の共存に着地するんだけど、あれは理想論で、言ってしまえば嘘なわけです。
にいみ うーん、それでいうと『呪術廻戦』は、むしろその「正義・善/悪とは何か?」みたいなテーマを、割としつこく問い続けていたと思うけどな……。
よねむら 主人公の虎杖悠仁に関してはそうだね。でも悪役は……。
ふるみ でもそれこそ、夏油傑はそこで苦しんでいたじゃないですか。守るべき非術師の醜さ/残酷さに絶望して、非術師を皆殺しにして呪いがない世界を実現しようとしていた。
よねむら いやそう。まさにそうなんだけど、夏油傑こそ完全に、少年漫画史に残るエポックメイキングな敵キャラクターである『幽☆遊☆白書』の仙水忍(※)をモデルにしてつくられたキャラクターじゃないですか。
(※)『幽☆遊☆白書』魔界の扉編では、かつて浦飯幽助と同じ霊界探偵として妖怪たちから人間を守っていた仙水忍が、人間が妖怪を捕らえ凌辱する様を目の当たりにしたことで人間を滅ぼそうとする。ヒーローの側に立っていたキャラクターが守るべき対象に疑念を抱き主人公たちと対立するという構図が『呪術廻戦』の夏油傑と共通している。
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