連載 | #11 KAI-YOU編集部ネタバレ全開座談会

『呪術廻戦』ネタバレ全開座談会 冨樫義博以後から考える“現代の少年漫画”

『呪術廻戦』は冨樫義博作品を越えられたのか?

よねむら 前日譚である『東京都立呪術高等専門学校』で死んだはずの夏油傑が、『呪術廻戦』でも暗躍していて。「懐玉・玉折編」で夏油傑が“最悪の呪詛師”になってしまったバックボーンが描かれて。

ふるみ そうですね。

よねむら でも結局、夏油傑も物語の元凶である呪詛師・羂索に肉体を乗っ取られていたことが明らかになって。生前に持っていた葛藤や目的意識もどっかに飛んでいってしまっていた

夏油傑の体を乗っ取った羂索が表紙を飾る『呪術廻戦』第16巻/画像はAmazonより

よねむら じゃあ、『呪術廻戦』の物語における夏油傑の存在って一体何だったんだろう。

ふるみ 羂索はマジで好奇心の塊みたいな奴でしたからね。

にいみ あれこそもう本当に相容れない、理不尽な“厄災”だったみたいな存在だったんじゃないかな。

うぎこ 『ジョジョの奇妙な冒険』第8部「ジョジョリオン」の完結記念に行った座談会でも話題に上がりましたが、東日本大震災以降、悪役を理不尽な厄災として描くみたいな風潮はあるような気はしますけどね。

よねむら もちろん、そういう解釈はできると思うんだけど、そうだとしたら「あのエピローグは何だったんだ?」という話にならない?

あれこそ、まさしく『幽☆遊☆白書』のオマージュじゃん。もう特にラストの3話は、完全にそのまま『幽☆遊☆白書』だった……

うぎこ それはもう本当に、誰が見てもそうでした。インターネットでもみんな「『幽☆遊☆白書』じゃん」って言ってました。

にいみ そんな『幽☆遊☆白書』感あったんだ。俺はもう『幽☆遊☆白書』を覚えてないので、マジで全然わかんなかった。

よねむら いや、ぜひ『幽☆遊☆白書』の19巻読んでいただきたいです。

『幽☆遊☆白書』19巻/画像はAmazonより

にいみ ちなみに、どこがそんなに『幽☆遊☆白書』っぽかったんですか?

よねむら 『呪術廻戦』第269話「検討」で、呪術高専側が人外魔境新宿決戦の反省会をしているのって、『幽☆遊☆白書』第170話「宴のあと」で蔵馬と桑原和真が「魔界統一トーナメント」の結果を振り返っているのと同じだし。

第269話「検討」

よねむら 『呪術廻戦』最終回「これから」で、それぞれ日常に戻って、虎杖悠仁・伏黒恵・釘崎野薔薇の3人が、呪術師として、見た目を変える迷惑呪詛師が起こした事件を解決するのも、『幽☆遊☆白書』のエピローグで、浦飯幽助が魔界から人間界に戻って、霊界探偵に復帰して妖怪トラブルを解決するのと構造的に相似している。

にいみ 雰囲気とか構造とか演出とかってこと?

よねむら そうです。だから、正直なところ「クリエイターとしてどうなの?」とも思ってしまった。物語の最後をどう締めくくるかって、その作品がその作品たらしめるものだよね。むしろ、そこで作品の出来が決まるというか。

『呪術廻戦』は徹頭徹尾、他作品のオマージュやパロディが多いのは周知のとおりだと思うんだけど、最後の最後までそれに委ねてしまったのは、毎週楽しみに読んでいた読者としては、ちょっとあまりにも虚しくなってしまった……。

にいみ 俺は正直『幽☆遊☆白書』へのオマージュ・パロディがそこまでわからなかったんだけど、そんなに同じなんだとしたら、作家としての矜持を疑ってしまいたくなるよねさんの気持ちはわからなくもない。

よねむら 前回の座談会を読んでもらえるとわかるんですけど、僕はめちゃめちゃ『呪術廻戦』という作品に期待していたんです。

冨樫義博さんでさえ『幽☆遊☆白書』で描ききれなかったテーマに挑む作品が出てきたんだと思って読んでいた。だからその分がっかりしたのかもしれない。

ふるみ それはもう物語の中盤で、無理だと諦めたんだろうなって思いましたね……。

「渋谷事変編」で、羂索の意に反して勝手に夏油の肉体が動いて、右手で自分の首を締めたシーンがあったじゃないですか。結局アレ、何の伏線でもなくて。

よねむら あった、あった。何でもなかった。

ふるみ で、『呪術廻戦 公式ファンブック』で、アレは夏油の意志でも何でもなく、「首がもげたトンボが動いたみたいなアレです」ってコメントしてたんですよ。

あの時点で、芥見下々さんは、よねさんの言う冨樫義博さんでさえ描ききれなかったテーマ挑戦するのは辞めたんだと思ったんですよね。「もう、このままのスピード感・勢いで『呪術廻戦』は終わらせるしかない」みたいな。

1
2
3
4
この記事どう思う?

この記事どう思う?

過去のKAI-YOUネタバレ全開座談会はこちら!

『呪術廻戦』連載再開記念ガチ考察座談会 冨樫義博へのリスペクトと、その超克.jpg

『呪術廻戦』連載再開記念ガチ考察座談会 冨樫義博へのリスペクトと、その超克

人間の負の感情から生まれる“呪い”と対峙する漫画『呪術廻戦』。 2018年、芥見下々さんにより『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が開始された本作は、2020年10月にTVアニメ化され、コミックスの累計発行部数も5000万部を突破。 現在の『ジャンプ』代表作品のひとつとして数えられています。 呪い…

kai-you.net
『シン・仮面ライダー』座談会 日本映画業界と庵野秀明に託された使命.jpg

『シン・仮面ライダー』座談会 日本映画業界と庵野秀明に託された使命

庵野秀明監督と、往年の特撮作品、および東映や東宝といった日本映画業界が総力をあげて製作する「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」。 『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン』を筆頭に、長らく続く日本映画史の中でも意欲的かつ、記録と記憶に残るヒット作を生み出した。 これによって、“庵野秀…

kai-you.net
“五条悟世代”が抱える呪いの正体──メタ漫画としての『呪術廻戦』とその理由

“五条悟世代”が抱える呪いの正体──メタ漫画としての『呪術廻戦』とその理由

『呪術廻戦』という作品の顔であり続けた五条悟は、1989年12月生まれと設定されている。私事だが、1988年12月生まれの筆者はちょうど彼と1歳違いである。同世代と言っても差し支えないだろう。「五条悟世代」は、「昭和」と「平成」の端境期に生まれた世代である。筆者...

premium.kai-you.net

関連キーフレーズ

連載

KAI-YOU編集部ネタバレ全開座談会

その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。