『呪術廻戦』は冨樫義博作品を越えられたのか?
よねむら 前日譚である『東京都立呪術高等専門学校』で死んだはずの夏油傑が、『呪術廻戦』でも暗躍していて。「懐玉・玉折編」で夏油傑が“最悪の呪詛師”になってしまったバックボーンが描かれて。
ふるみ そうですね。
よねむら でも結局、夏油傑も物語の元凶である呪詛師・羂索に肉体を乗っ取られていたことが明らかになって。生前に持っていた葛藤や目的意識もどっかに飛んでいってしまっていた。
夏油傑の体を乗っ取った羂索が表紙を飾る『呪術廻戦』第16巻/画像はAmazonより
よねむら じゃあ、『呪術廻戦』の物語における夏油傑の存在って一体何だったんだろう。
ふるみ 羂索はマジで好奇心の塊みたいな奴でしたからね。
にいみ あれこそもう本当に相容れない、理不尽な“厄災”だったみたいな存在だったんじゃないかな。
うぎこ 『ジョジョの奇妙な冒険』第8部「ジョジョリオン」の完結記念に行った座談会でも話題に上がりましたが、東日本大震災以降、悪役を理不尽な厄災として描くみたいな風潮はあるような気はしますけどね。
よねむら もちろん、そういう解釈はできると思うんだけど、そうだとしたら「あのエピローグは何だったんだ?」という話にならない?
あれこそ、まさしく『幽☆遊☆白書』のオマージュじゃん。もう特にラストの3話は、完全にそのまま『幽☆遊☆白書』だった……。
うぎこ それはもう本当に、誰が見てもそうでした。インターネットでもみんな「『幽☆遊☆白書』じゃん」って言ってました。
にいみ そんな『幽☆遊☆白書』感あったんだ。俺はもう『幽☆遊☆白書』を覚えてないので、マジで全然わかんなかった。
よねむら いや、ぜひ『幽☆遊☆白書』の19巻読んでいただきたいです。
『幽☆遊☆白書』19巻/画像はAmazonより
にいみ ちなみに、どこがそんなに『幽☆遊☆白書』っぽかったんですか?
よねむら 『呪術廻戦』第269話「検討」で、呪術高専側が人外魔境新宿決戦の反省会をしているのって、『幽☆遊☆白書』第170話「宴のあと」で蔵馬と桑原和真が「魔界統一トーナメント」の結果を振り返っているのと同じだし。
よねむら 『呪術廻戦』最終回「これから」で、それぞれ日常に戻って、虎杖悠仁・伏黒恵・釘崎野薔薇の3人が、呪術師として、見た目を変える迷惑呪詛師が起こした事件を解決するのも、『幽☆遊☆白書』のエピローグで、浦飯幽助が魔界から人間界に戻って、霊界探偵に復帰して妖怪トラブルを解決するのと構造的に相似している。
にいみ 雰囲気とか構造とか演出とかってこと?
よねむら そうです。だから、正直なところ「クリエイターとしてどうなの?」とも思ってしまった。物語の最後をどう締めくくるかって、その作品がその作品たらしめるものだよね。むしろ、そこで作品の出来が決まるというか。
『呪術廻戦』は徹頭徹尾、他作品のオマージュやパロディが多いのは周知のとおりだと思うんだけど、最後の最後までそれに委ねてしまったのは、毎週楽しみに読んでいた読者としては、ちょっとあまりにも虚しくなってしまった……。
にいみ 俺は正直『幽☆遊☆白書』へのオマージュ・パロディがそこまでわからなかったんだけど、そんなに同じなんだとしたら、作家としての矜持を疑ってしまいたくなるよねさんの気持ちはわからなくもない。
よねむら 前回の座談会を読んでもらえるとわかるんですけど、僕はめちゃめちゃ『呪術廻戦』という作品に期待していたんです。
冨樫義博さんでさえ『幽☆遊☆白書』で描ききれなかったテーマに挑む作品が出てきたんだと思って読んでいた。だからその分がっかりしたのかもしれない。
ふるみ それはもう物語の中盤で、無理だと諦めたんだろうなって思いましたね……。
「渋谷事変編」で、羂索の意に反して勝手に夏油の肉体が動いて、右手で自分の首を締めたシーンがあったじゃないですか。結局アレ、何の伏線でもなくて。
よねむら あった、あった。何でもなかった。
ふるみ で、『呪術廻戦 公式ファンブック』で、アレは夏油の意志でも何でもなく、「首がもげたトンボが動いたみたいなアレです」ってコメントしてたんですよ。
あの時点で、芥見下々さんは、よねさんの言う冨樫義博さんでさえ描ききれなかったテーマ挑戦するのは辞めたんだと思ったんですよね。「もう、このままのスピード感・勢いで『呪術廻戦』は終わらせるしかない」みたいな。
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その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
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