考察抜きで漫画を描けない 人気漫画を蝕む現代病
ふるみ まず前提として、僕は現在のコンテンツの消費速度という観点から『呪術廻戦』を評価しています。
前回の座談会でも話題になったんですが、『呪術廻戦』は急に回想を入れたり、本当に説明が必要な要所にだけピンポイントで挟んだりと、話の組み立て/構成がすごい目まぐるしく、飽きさせないつくりになっていました。
例えるなら、大長編の映画に対するYouTube動画のようなスピード感を保ったまま、完結を迎えたと僕は思ってます。
一方で、前回の座談会で新見さんは「おそらく芥見下々は意外と理屈屋なんだよね」って指摘していたじゃないですか。
にいみ うん、すごい理屈屋だと思う。
ふるみ 毎週何かしらの話題をつくって、注目度を維持したまま完結を迎えなければいけないという人気作ゆえのしがらみと、芥見下々さんの「説明したい」というその思惑が、物語が進んでいくにつれて、どんどんコンフリクトしていったんだろうなと。その苦しみは毎週読んでてすごく感じました。
にいみ それね、俺もマジで感じた。単行本とかファンブックとかには、いちいちその言い訳が入ってるんですよ。「本当はこれをどっかで説明したかったんだけど描けなかった」みたいなのが。
『呪術廻戦 公式ファンブック』/画像はAmazonより
にいみ 『ONE PIECE』にしろ『HUNTER×HUNTER』にしろ、やっぱり現在の少年漫画の受容って考察が中心じゃないですか。
SNSやYouTune、ネット掲示板でとにかく考察が盛り上がりすぎているから、それを作家や編集部・出版社側も無視できなくなっている。クリエイターの矜持として、読者の考察を超えた物語にしなくちゃいけない。尾田栄一郎さんや冨樫義博さんでさえ、考察を気にしていると話しているくらい。
ちなみに、さっきよねさんが『幽☆遊☆白書』のオマージュだって言ってた『呪術廻戦』第269話「検討」なんだけど、俺は考察厨(=考察が大好きな読者)のために用意した答え合わせだったと思ってる。
ふるみ 本当、読者へのレスですよ。
にいみ 多分、芥見下々さんも「これどうなってんの?」「これこうしてればよかったじゃん」みたいなことを考察厨に言われ続けて、本人もそれを気にしてたんじゃないかな。だから、わざわざ「いや、あれはこういう可能性もあったんだけど、実際それはできなかったよね」って、本編でキャラクターたちに言わせたんだと思う。
俺はやっぱりあれは、現代の考察文化に起因するしがらみだと思ったけどね。
ふるみ そうですね。だって五条悟の術式「無下限呪術」と領域展開「無量空処」の説明とか、単行本の1話と1話ごとの間に、何回にも渡って書かれてましたもんね。
やっぱり現代だと、本編で複雑なロジックや設定を説明するパートが取れないんじゃないですかね……?
うぎこ いや、そうだと思いますよ。「死滅回游編」を読んだとき、芥見下々さんがやりたいことって『HUNTER×HUNTER』のグリードアイランド編(※)だと思ったんですよ。
(※)グリードアイランド:『HUNTER×HUNTER』に登場する、念能力者によって制作された念能力者しかプレイできない幻のゲーム。クリア条件は、指定されたカード100種類を集めること。劇中では、カードの効果やグリードアイランドのゲームシステムを軸に、100種類のカードを巡る駆け引き・頭脳戦が繰り広げられた。
うぎこ でも、あれってルールが綿密に練り込まれていて、それがちゃんと噛み合ってないと、面白くならないじゃないですか。その上で、めちゃくちゃ説明が必要だし。
現代の週刊連載とその消費速度で、それをどう捌けばいいのかという難しさはあったんだろうなとは思いましたね。
ふるみ そうですね。今「G.I.カード」の一覧とかカードの効果の説明とか出しても読み飛ばされちゃいますからね。
にいみ それこそ、『HUNTER×HUNTER』の最新章「王位継承編」はとんでもない文字量になっているけど、どうしてもスピード感が薄れるし、結局多くの人はそれで振り落とされちゃうんだよね。だから、絵でとにかくどんどん展開させていかなきゃいけない。
にいみ 多分、芥見下々さんは、コマの数とその説明のバランスみたいな部分を、かなり気にしてたんだとは思うんですよね。
うぎこ そこへの葛藤はすごく見えていました。結局、夏油傑が雑に処理にされてしまったのも、すぐに次の展開に持っていって話をドライブさせていかなければいけないっていう焦りもあったのかな。
もし『呪術廻戦』が『NARUTO』や『BLEACH』の時代に連載されていれば、もうちょっとゆっくり描けていたのかもしれない。現代病的なものを感じましたね。
ふるみ そうですね。夏油傑の意識が、羂索に乗っ取られた肉体に残ったまま……。
にいみ でもそれで言うと、俺は『呪術廻戦』の物語のテーマからいらなかったから、夏油傑を早々に処理したんだと思ったけどな。
よねむら え!? にいみさん、だったら夏油傑のことをあんな風には描かないでしょ。
ふるみ そうですね。夏油傑の復活が、もしかしたら構想としてあったのかもしれないけど、今回の『呪術廻戦』では描き切れないと思って、取捨選択した部分はあると思います。
にいみ まさに、『呪術廻戦』という物語が選び取ったテーマにおいて、夏油傑が要らなくなったと思うんですよね。
俺は『呪術廻戦』は確かに成長譚なんだけど、ある種逆説的というか、“逆説的成長譚”だと思ったんだよね。責任を押し付けられていた子どもたちが子どもに立ち還るまでのお話だと受け止めてて。
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連載
その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
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