ついに再開しましたね。希代の漫画家・冨樫義博さんの最高傑作であり、これまでの漫画史を更新し続ける怪作『HUNTER×HUNTER』が。
冨樫義博という漫画家は、“漫画表現の限界”に挑むことを現在執筆中の「王位継承編」の一つのテーマというか目的としています。
冨樫:今回のシリーズはシンプルに、ものすごく人数を増やしたらどうなるだろうっていうのを、とにかく極端にやってみた。出典:ジャンプGIGA 2016 vol.2
冨樫:私の中の記憶では、たぶん、キャプテン翼のこのシリーズ(「ジュニアユース編」)が一番ジャンプの中で名前のある人物が数多く出てた。今回のシリーズ(王位継承戦編)で、これを超えることを自分の中で裏目標にしている。引用元:ジャンプ流!DVD付分冊マンガ講座(21)
これらのインタビューコメントの通り、文字通り漫画史上で最大数の登場人物たちとその思索や思惑が交差するという、とてつもない物語が展開されています(いずれの雑誌も2016年刊行。このコメントが8年前という事実に、記事を執筆しながら戦慄しています)。
張り巡らされた伏線と謎の数々──「王位継承編」のここに注目しよう
……いや、難しすぎるんです。
「王位継承編」に入ってからというもの、理解しながら読もうとするとコミックスを一冊読み終えるのに3~5時間は平気でかかるため、正直、読み飛ばしてしまっている人も多いのではないかとも思います(本当に難解すぎるので、理解できなくても負い目を感じる必要はありません)。
この記事では、そもそもの目的地である暗黒大陸に向かう船の中で繰り広げられている「王位継承編」を読解しやすくするために、物語で提示されている特に重要そうな謎や伏線をかいつまんで説明してみたいと思います。
第14王子・ワブルの守護霊獣/なぜ発現しないのか?
「王位継承編」は超人数による群像劇ですが、いちおうの主人公を設定するならば、クラピカがそうなるでしょう。
そんな彼が警護しているのが、カキン王国の王位継承権を有する人間のうち、最も下位の王子であるワブル(及びオイト王妃)です。赤ん坊なので意志を示していません。そして、その守護霊獣がまだ一度も発現していません。
継承戦の序盤、禍々しいオーラがワブルの乗るベビーカーから発せられるシーンがあり、守護霊獣によるものだと長らく考えられていました
しかし、最新エピソードで新たに提示された謎──ビヨンドの子どもが紛れ込んでいる──により、本当に守護霊獣によるものなのかという疑問も生まれはじめています(記事後半で解説します)。
「11人いる!」の能力者(暗殺者)は誰か?
ワブル王子/オイト王妃の部屋(1014号室)にて、クラピカが戦力を均衡化し、王位継承戦を長引かせて膠着化させるために、非能力者に向けた念能力のレッスン会を毎日開催しています。
しかし、そこには暗殺者が紛れ込んでおり、念能力「11人いる!(サイレントマジョリティー)」により犠牲者が次々に出ています。
暗殺者目線でのモノローグはあるのですが、まだ犯人は明かされていません。
しかし、これは読者側の推理により導くことが可能となっており、在野の『HUNTER×HUNTER』識者たちが様々な考察/推理を展開しています。
なお、冨樫義博さんの傑作『レベルE』の「高校野球地区予選編」でも、似たように超能力を使った犯人を推理することで、犯人を導くことが可能になっています。そして『レベルE』では作中で最後まで犯人を明示しない手法がとられています。
もしかしたら『HUNTER×HUNTER』でも同様の措置が取られるのではないか? と往年の冨樫義博ファンの筆者はそっちにワクワクしています。
第1私設兵・バビマイナの動向/円を解いた理由
権謀術数、様々な人間の悪意が渦巻く「王位継承編」ですが、本当に稀に、そんなに敵対的な立場を取らない(ように見える)人物が登場します。
若き王子たちを逃がすために自死したおじいちゃんハンターのキーニ、社会正義のためか自身が仕えている第4王子・ツェリードニヒを殺そうとする第4私設兵・テータがそれです。
それらと同じく、第1私設兵のバビマイナが円を解いた理由も上記のような“情け”や“正義感”と受け取ることは可能ですが、もっと意味ありげに描かれています(執拗に、円を解いた理由を読者に考えさせます)。
バビマイナの動向は、第1王子・ベンジャミンの思惑とはまた違った目的や意志を感じさせます。今後の展開を読み解く上で重要なキャラクターでしょう。
カキン王・ホイコーロの役割と棺の部屋
序盤であっさりと殺されてしまった第12王子・モモゼのものと思われる遺体を、棺の中に納めるカキン王国の現王・ホイコーロ。棺と思われる装置は、ちょうど14台あります。王子の数とぴったりです。しかし、14台だからこそおかしいと思いませんか?
王位継承戦=「壺虫卵の儀」は、最後の1人になるまで血を分け合った14人の兄弟姉妹同士が殺し合うバトルロイヤルです。そうなると、必要な棺の数は13台が適正でしょう。なぜ14台あるのか? そもそもこの部屋と、中心にある装置はなんなのか?
また、第9王子・ハルケンブルグが王位継承戦そのものに反旗を翻し、中止させるためにホイコーロに銃を向け、発砲しました。しかしホイコーロの守護霊獣と思われる何かに銃弾は止められ「ワシはもう儀式の一部ホ」「役割がありそれが終わるまで死ぬ事もないホ」との言葉を残しました。
この騒動の顛末は、ハルケンブルグが王位継承戦の中断を諦め、本格的に参戦していく契機にもなっています。
王の座を譲ることが確定しているはずのホイコーロの存在と役割とは何なのか? 「壺虫卵の儀」自体にも、まだ提示されていないルールや秘密が隠されていそうです。
ヒソカの怪しさ/偽物説
暗黒大陸に向かう船・ブラックホエール号には、幻影旅団も乗り込んでいます。その目的は「ヒソカへの復讐」です。そのため、ヒソカもブラックホエール号に乗り込んでいると考えられてきました。
そんな中、第3王子・チョウライのケツモチであるヤクザ・シュウ=ウ一家の構成員・リンチとザクロがヒソカを発見します。しかし、このヒソカ、どう考えても怪しいのです。
まず、ヒソカの特徴である台詞末尾のトランプマークがありません(1回だけあります)。さらに何度も「お前がヒソカか?」と問われても無言を貫き通しています。なんか雰囲気もいつもと全然違いますよね。
ここで、もう一つの伏線が効いてきます。幻影旅団のメンバー・ボノレノフが、自身の“変身能力”の使い道を団長であるクロロに相談するシーンが描かれているのです。
ボノレノフの能力を拝借し、ヒソカに変身しているクロロだと考えるのはわりと自然なようにも思えます。
ヒソカですが、やはり偽物であることが明かされましたね。ただクロロではなく、ストレートにボノレノフが変身していました。
ヒソカ(本物)はすでに王子の誰かとコンタクトをとっており、警備の役割を担っていそう。第1層にもいけるそうです。どの王子の陣営に入っているのか、気になります。また、クロロとの衝突は絶対に避けられないでしょう。
司法局のメガネくん(カイザル)の真意と正体
カキンの王族たちが王位継承戦で様々な派閥を組織する中、“中立な存在”として船内の治安維持や裁判などの役割を担っているのが司法局です。王族への監視や拘束といった命令も出せるため、非常に強い権限を持った組織だと言えます。
そこの職員であるメガネくんカイザルが、とても印象的に描かれています。第10王子・カチョウの警護にあたっていたハンターのセンリツが晩餐会で披露した演奏に聴き惚れ、以後、センリツに対して「僕は君が好きだ」と明確な好意を示しています。
しかし、心音から感情や嘘を見抜くことができるセンリツは、カイザルの“原子時計ばりの正確な心音”から、その言動が嘘であると看破しています(少なくともセンリツはそう確信しています)。センリツは念能力者によって操作されていると訝しみ、あるいは王子への刺客であると警戒している状況です。
とはいえ描写的に“敵”だという確証があるわけではありません。実は本当にセンリツのことがただ好きで、協力している可能性も捨てきれません。司法局の立場も含めて、要注目のキャラクターだと言えるでしょう。
王立軍学校4期生──ツェリードニヒの同級生たち
クラピカ及びハンター協会のハンターたち、14人の王子、幻影旅団、3組のマフィア、カキン王、そしてビヨンドなど──本当に多様なキャラクターと各陣営の思惑が交錯する状況となっていますが、最新38巻では、さらなる新勢力が登場しました。
それが王立軍学校4期生の面々です。彼らは王族の中で最も邪悪な存在として描かれている(王位継承戦でラスボスになりそうな)第4王子・ツェリードニヒの同窓生です。
それぞれの登場人物がその目的を達成しようと思慮に思慮を重ねて動いていますが、彼らの目的はちょっと他とは位相が違うように感じます。それは「自身の生命を守る為、全力で彼女(モレナ=プルード)を回避する」ということ。モレナとは、第4王子を裏切り船内で暴虐を働き始めたエイ=イ一家組長です。他の勢力は全力で闘争の坩堝へとその身を投じているのに、彼らは「回避する」。異質です。
……これは完全に冨樫義博的創作メソッドの一つなのですが、何かと何かが対立したり争ったりしている時に、想像外の方向から新たな回答を導き出す存在は、非常に重要に描かれます。
まさに主人公(ゴン)がそうだったのですが、王立軍学校4期生のスタンスは明らかに現在の王位継承編から浮いています。なにより、悪の権化であるツェリードニヒを一人の友だちとして認識している存在──ゲームにおける“バグ”みたいな勢力です。
わかりやすく言うと、キメラアント編のウェルフィンみたいな存在になるのではないかと筆者は思っています。そんな彼らが中心的な役割を担っていくことを期待しています。
「全力でモレナを回避する」という宣言も虚しく、王立軍学校リーダー格のボークセンがあっさりモレナ陣営に誘拐されてしまったのには驚きました。
しかし、モレナvsボークセンの「交渉ゲーム」は『HUNTER×HUNTER』の中でも屈指のエピソードとなりました。モレナの残酷な過去と絶望、カキン帝国の闇が明かされつつ、“主体”という『HUNTER×HUNTER』全体に通底するテーマを鮮やかに描いています。
ボークセンも明らかに顔つきが冨樫義博先生によって美形に描かれるようになり、今後の王位継承戦での最重要人物になるのは間違いないでしょう。本当にかっこいいキャラです。
ビヨンドの子どもたち/王子にもビヨンドの息子や娘がいる?
さて、連載再開(掲載再開)と同時に、さらに新たな謎が提示されました──それがビヨンドの子どもたちです。
なんとビヨンドは、カキンの上級兵士を偽装結婚させ、各々の妻との間にビヨンド自身の子どもをつくり、それを夫婦に王子の側近護衛として育てさせる、という非道行為を行っていたという告発。その数10人以上。
しかも、ビヨンドの子どもたちは生まれながら念能力が使えるだけでなく、「詛贄者(ソエモノ)」として対象者を呪殺する役割が与えられていると言います。さらに! ビヨンドの子どもが“王子の中にもいる(かもしれない)”と、「詛贄者」の一人である第5王子私設兵・ロンギによる爆弾発言。
ここにきてさらに風呂敷を拡大するのか──と眩暈がします。謎が謎を呼ぶ状況に「ビヨンドの子どもは誰なのか?」という新たなトピックが生まれてしまった状況です。
個人的には、冒頭に書いた「ワブルの守護霊獣はなぜ発現しないのか?」も、ここに由来しそうだと踏んでおります。
ほかにもいろいろ伏線や謎はある! 多すぎる!
上には特に重要と思われる伏線や謎をあげてみましたが、他にもたくさんあります!
まだ多くの王子たちの守護霊獣の能力が明らかになっていなかったり、第11王子のフウゲツに憑りついた呪霊の正体や犯人も不明。
さらに、途中に差し込まれた幻影旅団の結成秘話で登場したシーラの行方や、クルタ族との関わりなども挙げたらキリがありません。そもそも、継承戦はどう着地するのか──いろいろ考察の余地が散りばめられています。
個人的には、センリツの見た目が変貌してしまったきっかけだという「闇のソナタ」も暗黒大陸由縁の重要な伏線だと睨んでいるのですが……。かれこれもう20年くらい、解決されるのを待ってます。
『HUNTER×HUNTER』が連載開始した1998年から早26年。これらの膨大な謎や伏線が解き明かされる日は来るのか。座して待ちましょう。
この記事どう思う?
連載
1998年より『週刊少年ジャンプ』にて連載を開始した漫画家・冨樫義博さんが描く『HUNTER×HUNTER』。 主人公のゴン=フリークスが父親であるジンを探すためハンターとなり、キルア、クラピカ、レオリオといった仲間達との絆を深めながら、未知なる敵との戦いを描きます。 緻密に計算された高度な攻防と読者の予想を上回り続ける展開で人気を博す一方、非常に寡作なことでも知られ、現在までに500回以上の休載を繰り返していることも話題となりました。 冨樫義博『HUNTER×HUNTER』超特集では、そんな本作に魅せられたKAI-YOUの面々が、作品にまつわる疑問や伏線などを考察するコラム記事を執筆。ときには座談会も実施しながら、一読しただけでは伝わりづらい冨樫義博作品に通底する思想を紐解きます。
2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:11597)
連載再開の二話目、カチョウとセンリツが激論交わしてるシーンで、センリツの瞳塗り分けがカチョウになってる
凡ミスなのか、精神的な何か同期なのか
コミックでどうなるか
匿名ハッコウくん(ID:10996)
王位継承編、難しすぎて読まなくなっちゃっていたので助かりました…!