大人から少年少女へ──虎杖悠仁に見る『呪術廻戦』の真のテーマ
にいみ 冒頭でも話したけど、虎杖悠仁はずっと「正しい死」に囚われていたじゃないですか。
にいみ でも、前回の座談会で指摘したとおり、その考え方は人から生まれた特級呪霊である真人の思想と表裏一体になっていて。2人は「本物/偽物」「正しい/間違い」という二項対立に囚われ続けたあわせ鏡的な存在でした。
虎杖悠仁は、呪いによる殺人は「間違った死」だと否定しようとしていた。でも、「負の感情こそ偽りのない真実で、そこから生まれた我々こそ本物の“人間”」だとする呪い側から見れば呪いを祓うこと(≒人を助けること)も本質的には一緒で。
よねむら はい。
にいみ で、265話「あの日」で虎杖悠仁が「自分の役割を理解して全うしていくことが、生きていくことなんじゃないかって、最近まで思ってたんだ」「それで死ねたら、正しく死ねたって言えるんじゃないかって」「でも今は、それは少し違う気がしてる」って独白したように、「正しい死」なんてないって気づくじゃないですか。
にいみ 人間は生きてるだけで価値があるんだ、みたいな話になっていく。人間は誰しも間違えるし、だから逆に間違えたっていい、自分の役割や責任に縛りつけられる必要はないんだよ、と。
『呪術廻戦』は結果的に、少年少女たちが、押し付けられてきた責任とか役割とかから解放されるために、大人たちのサポートも受けながら、自分の実力ではねつけて、最後に正しく、少年少女に戻るっていう話だったと思うんです。
ふるみ 少年少女に。
うぎこ なるほどね。
にいみ だから俺は、『呪術廻戦』はむしろ今こそ描かれるべき少年漫画じゃないかなと思ったんですよね。性急に大人になれとか、とにかく社会において役割を見つけなさいとか、社会に貢献しなさいとかいう呪いから、自由になっていくって話だと思った。特に最終盤、大人と子ども的な区別が強調されていたし。
にいみ それがどこまで構想されていたかはわからないけど、結果的にそういったテーマが立ち現れてきた時に、夏油傑が夏油傑のまま虎杖悠仁たちの前に立ちはだかっていれば、そのルートには到達できなかったんじゃないかと。完全な災厄としての羂索にさえ手を差し伸べるという飛躍的発想が虎杖悠仁には必要だったと読んでいます。
これを描こうとした『週刊少年ジャンプ』の看板作品は、すごい面白いなと思ったんですよ。普通は子どもから大人になることが成長だから。
よねむら いやそれ、読み解ける人いるかな?
にいみ テーマという観点から言うと、『呪術廻戦』は「エヴァンゲリオン」シリーズと比較をしてる人も割といて。そういう風に言及している人は、多分そのテーマを読み解けてるんだろうと思う。
よねむら うーんでも、やっぱそれ『幽☆遊☆白書』だなっていう感想も同時に……。
うぎこ 結局『幽☆遊☆白書』に戻っていくんだね。
よねむら 申し訳ない^^
にいみ ただ、だとすると逆に、その『幽☆遊☆白書』のテーマを改めて、現代に変奏して描く必要性は、俺はあると思った。
よねむら ああ、なるほどね。
うぎこ 「自分なんて社会の歯車でいい」「そのちっぽけな1個でいいんだ」って考えている現代の子どもたちに、「そうじゃないんだよ、子どもでいていいんだ」「日常をもっと楽しんでいいんだよ」みたいなメッセージを伝える、ということですね。
にいみ 正直、俺も『呪術廻戦』でそのテーマがうまく表現できていなかったとは思う。虎杖悠仁がなぜ、自分の役割や責任に縛られなくていいと気づいたのか、もっと説得力のある描写や必然性のある展開があるべきだった。
脹相とか東堂葵とかが虎杖の“呪い”を解いてくれる存在だったけど、本当は作品のテーマ的にもうちょっと必要だったと思う。
よねむら そうだよ。どう考えても主人公をうまく扱えてなかったからね。
ふるみ 虎杖悠仁、特殊な主人公ではありましたもんね。KAI-YOU Premiumの論考にもありましたが、物語が進むにつれて存在感がどんどんなくなっていっちゃいましたし。かと思えば、急にめちゃくちゃ強くなって宿儺を圧倒して。面白い主人公です。
にいみ 急にめきめき存在感が強まっていくとか、「ここでV字回復すんの?」みたいな展開とかは、常に話題性をつくらなくてはいけないという現代のジャンプ漫画作品に向けられる高い期待値から来る要請だと思う。
でも、芥見下々さんがやりたかったテーマはちゃんと滲んでいたように思う。すごく難しいテーマだし、それを少年漫画でやるっていうのが、やっぱ挑戦だなと思った。
ふるみ 大人と子供。
うぎこ いや、そうですね。そのテーマを今描く必然性や意味は確実にあると思うし、その上で28巻で終わらせたっていうのは、やっぱ評価すべき点だと思いますけどね。いや、素晴らしい挑戦的作品だったと思うよ。
にいみ 俺もそう思う。
よねむら 「挑戦的作品だった」っていう結論は間違いないです!
ふるみ 挑戦的でしたよ。
うぎこ 挑戦的でした。秤金次ではないんですが、本当に“熱”のある作品だったと思います。芥見下々先生、6年半の連載お疲れ様でした!
よねむら お疲れ様でした!

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その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
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