連載 | #8 KAI-YOU編集部ネタバレ全開座談会

『タコピーの原罪』ネタバレ考察座談会 “おはなし”は孤独も救う

『タコピーの原罪』ネタバレ考察座談会 “おはなし”は孤独も救う
『タコピーの原罪』ネタバレ考察座談会 “おはなし”は孤独も救う

KAI-YOU『タコピーの原罪』ネタバレ全開座談会

2021年上半期、インターネットをざわつかせ続けた漫画『タコピーの原罪』。新進気鋭の漫画家・タイザン5さんによる意欲作です。

育児放棄や毒親、いじめといった現代の社会問題に通ずる本作のモチーフ、そしてあまりにも説得力のあるその描写に、Web漫画アプリ/サイト『少年ジャンプ+』での連載開始時から話題に。

最新話が毎週金曜日に更新されるたびその話題はSNSを席巻し、作中の「わ わかんないっピ…」という台詞はネットミームにもなりました。 今回、そんな衝撃の話題作『タコピーの原罪』について、KAI-YOUメンバーが語り尽くします。

※この記事は漫画『タコピーの原罪』の多数のネタバレを含んでいます。

目次

『タコピーの原罪』座談会登場人物

うぎこ
KAI-YOUの広報担当。座談会では常に司会をつとめ、KAI-YOUの荒くれ者たちの手綱を握るお姉さん。『タコピーの原罪』ではまりなちゃんが好き。理由は「負けヒロインなので」。
わいがちゃんよねや
KAI-YOU inc.のCEO。タイザン5先生がめっちゃ好き。『タコピーの原罪』では東くんが好き。『タコピーの原罪』を社内でいち早くキャッチし、布教活動を行っていた。しかし社内では作中の苛烈ないじめ描写などで拒否反応を示す人が多く、悲しくなっていた。
新見直
「KAI-YOU Premium」編集長/KAI-YOU inc.のCOO。なぜか今回は、始まる前から鼻息が荒い。「ごめんだけど、今日はみんなの感動に水を差すマンとして馳せ参じました。『タコピーの原罪』好きの全ヘイトを俺が一身に引き受けます」と宣言し他参加メンバーを警戒させている。
古見湖
YouTubeチャンネル「KAI-YOU Videos」ディレクター。『タコピーの原罪』で描かれる家庭内に問題を抱えた子どもというモチーフに思うところがあり、実際に児童福祉の現場で働く同居人と『タコピーの原罪』についてディスカッションを行い、今回の座談会に臨んだ。
小林
KAI-YOUの編集者/Webディレクター/漫画コンシェルジュ/ボドゲ研究家。『タコピーの原罪』については、子どもたちが追い込まれる度に盛り上がるネットの反響に対して「どうかと思う」とブツブツ言い座談会への参加に難色を示していたところ、古見湖に「コバヤシさんってTwitterコンシェルジュじゃなくて漫画コンシェルジュですよね?」と煽られ、参加が決定した。

漫画コンシェルジュ発狂!『タコピー』の衝撃

KAI-YOUお馴染みの座談会! 第8回は『タコピーの原罪』について語りたくて仕方がない4人に集まってもらいました。よろしくお願いします。

よろしくお願いします!!!!

更新されるたび、常に話題になっていた『タコピーの原罪』。まずは自己紹介も兼ねて、印象に残ったシーンを教えてください。

私は、第5話「東くんの介在」です。まりなちゃんを殺してしまったしずかちゃんたちに、東くんが自首を勧めるところ。飼い犬・チャッピーに会うため少年院に入る訳にはいかないしずかちゃんは、事件を隠蔽するため逆に「他には誰もいないの」「お願い 東くんしかいないの助けて」と東くんを落としにかかる。

それに対して、東くんがしずかちゃんにメロメロになっちゃったのにビックリしました。「魅了の魔法でも使ってるの?」って。

その後、何度も東くんを骨抜きにしちゃうし、タコピーもときめかせちゃうし。まさに魔性の女ですよね。恐ろしい…🥶

わかる! めっちゃ好きあのシーン😲

僕が『タコピーの原罪』という漫画がマジで面白くなると思ったのは、第4話「タコピーの救済」です。

タコピーがハッピー道具・タイムカメラでまりなちゃんを撲殺してしまうシーン。そして、最後に『タコピーの原罪』とタイトルロゴが大きく映された一枚絵で締めくくられる。

「タコピーがしずかちゃんを救う話だと思ったら、タコピーが手を汚しちゃうの!? どこに向かうんだろう、この漫画…」って思いました。

あそこは衝撃が強かったですよね。漫画コンシェルジュの小林くんはどうでしたか? 連載中は、KAI-YOU内で話題に上がるたび眉をひそめていましたが…。

そんな顔に出てました!? ……そうですね、僕は小さい子が悲惨な目に遭っているコンテンツが苦手なので、クオリティの高さはわかるものの、Not for meな作品ではありました。僕が明確に忘れられないのは、しずかちゃんの父親の台詞です。

チャッピーに会うため、第11話「日本縦断しずかツアー」で遥々北海道から東京まで父親の元を訪れたしずかちゃん。そこには、父親の別の子供・さつきが。

さつきが「この子だあれ? なんでお父さんのことお父さんって呼ぶの?」と尋ねると、あろうことか父親は「………うーん…… よくわからないなぁ…」としらばっくれた。

僕、親のエゴみたいなの本当にダメなんです。東くんのお母さんみたいに、自分の子供に理想を押し付けるタイプは、それが物語だという前提においてなら、展開次第ではまだ和解の余地がある。でも、自分のエゴで産んだ子供が見るからに尋常ではない姿で目の前に現れたことに対して、一切の責任を取ろうとしないのは…! クズとしての解像度が高いからこそ、僕の地雷のど真ん中を踏みぬいてきました。

思い出しただけでイライラしてきた……!! 11話の更新日も、夜中読んで寝られなくなっちゃったんですよ! ホント、お前は何やねん……!! ウォーッ!!(発狂)

どうどう、落ち着いて(困惑)。確かに、しずかちゃん目線から描かれたあの一連のシーンはTwitterでも大きな話題になってましたね。しずかちゃんの母親はお父さんにとっての現地妻で、しずかちゃんは妾の子なんじゃないかって考察もありました。

俺は、印象に残ったのは、ネットミームにもなった「わ わかんないッピ…」かな(笑)。

第15話「しずかちゃん」で、しずかちゃんに石でボコボコにされそうなタコピーが言ったのが印象的だった。解決策なんてわかんない、それでもハッピー握手をしながら寄り添おうとするところ。

タコピーがしずかちゃんに謝るシーンですね。古見くんはどうでした?

僕が『タコピーの原罪』で凄いと思ったのは、第7話「タコピーの告解」ですね。

まりなちゃんの死を隠蔽するため、タコピーはハッピー道具・へんしんパレットで変身し、彼女として生活する。まりなちゃんの家庭環境は最悪で、母親は毒親としか言いようがない。しかしそんな母親でも、まりなちゃんが偽物であることに気づいて「まりなを返してください!」「帰ってきて…」と懇願する。

タコピーにとって、まりなちゃんはしずかちゃんを虐める悪人だった。それでも、誰かにとってはかけがえのない存在。よく言えば無垢、悪く言えば無知なタコピーが、そこにたどり着いて「まりなちゃん 殺してごめんなさい」と泣きながら謝る。

人を殺しちゃいけないって、丁寧に説明するとこういうことなんだなって。その描写が卓越しててすごく食らいましたね。

そうですね、『タコピーの原罪』は重たい話がずっと続く作品でした。ここからは、ひとりひとり持ち寄ったテーマについて話していきたいと思います。まずは、小林くんの「『タコピーの原罪』のジャンルは結局何だったのか?」。

『タコピー』は社会派作品か?青春物語か?

マジで謎なんですよね。そもそもサスペンスなのか、SFなのか…。僕は最後まで決めきれなかったんですよね。みなさんはどのように読まれましたか?

その問題ね! いい質問ですね(食い気味)。普通に読むなら、どう考えてもSFでしょ。

僕は色々混ざってると思ったけど。いい質問ってどういうこと?

何のジャンルとして『タコピーの原罪』を読んでいたかによって、最終話「2016年のきみたちへ」の終わり方に対して、満足度が違いそうだなと。サスペンスなのかSFなのかで、求められるリアリティが変わってくるじゃないですか。

僕は最初、現実の社会でも問題視されているモチーフを扱っているので、漫画『「子供を殺してください」という親たち』のように社会福祉に切り込む作品だと思ってました。でも、実際はそうじゃなかった。

そういう作品ではあったんじゃないですか? 本編では、しずかちゃんもまりなちゃんも、家庭環境の問題が結局解決されない。

現実でも福祉などの外部援助が上手くいかず、家庭問題の多くが悲惨な結末を迎えてしまっている。そういう観点から言えば、かなりリアル寄りな話だと思いました。

マジ!? 普通にしずかちゃんとまりなちゃんと東くんの青春物語として読んでたけどな…。ファンシーな宇宙人が出てくる時点で、そんなリアルな話だとは思わないし。

私も割とそうだったな。なんか『チェンソーマン』と同じくらいのテンションで読んじゃった。物語を作る上で、貧困とか子供の虐待とかが背景として下敷きになってるんだろうなって感じだった。

よく『ドラえもん』と対比されているよね。作者のタイザン5さんもインタビューで言ってたんだけど、「『ドラえもん』が好きなので『陰湿なドラえもんをやりたい』と思いついた」んだって(外部リンク)。

広場に空き地があって土管があったり、ヒロインの名前が「しずかちゃん」だったり、タコピーがハッピー道具を出してくるところだったり、露骨なまでに『ドラえもん』をモチーフにしている部分はある。

だから、そもそもそんなリアリティのあるサスペンスとしては読めないと思うけどな。

最終回でタコピーが消えちゃうのも、『ドラえもん』でいう「さようならドラえもん」感ありましたしね。しずかちゃんがのび太くんで、まりなちゃんがジャイアンで……。

でも、そういうファンシーなタコピーを通して、現代社会の歪みを描き出す作品なんじゃないかなと僕は期待していたんですよね。

この話題は、俺が持ってきた「『タコピーの原罪』はリアリティレベルのコントロールに成功してるか?」という問いに通ずるところがあるんだけど。多分、そう思わせる理由は、タイザン5さんの画が、あまりにも説得力がありすぎたからだと思う。

デフォルメされたタコピーのデザインに反して、傷ついている子供達の表情があまりにもリアルすぎる。単なる空想SF漫画としてはどうしても読めない。

第1話「2016年の君へ」のしずかちゃんの家の荒れ具合の生々しさは凄かったですよね。

なるほどね。リアルな絵柄ではないけど、マジで唯一無二の素晴らしい絵だと思う。

すごい魅力的な絵ですよね。どちらかって言うと、最近流行りの目が特徴的な絵柄に近いなって思った。キラキラしてて、目の印象が凄くないですか?

過去の読み切り『ヒーローコンプレックス』『キスしたい男』とも違ってて、今回は迫力が凄かった。リアルとは確かに違うけど、明らかに何か執念を込めて真に迫る形で描かれていた。それが、リアリティレベルを規定する部分はあると思う。

荒れてる家庭の描写もリアルでしたね。第12話「2022年のきみへ」では、まりなちゃんのお母さんが紅茶キノコ(コンブチャ)にハマってたり。

絵柄然り描写然り、社会問題を取り扱っている作品としてタイザン5先生は描いていると感じていました。なので、『ドラえもん』とかの単なるファンシーなSFとして読んでなかったです。

なるほどね。みんな社会派な作品として読んでた感じか。『タコピーの原罪』って話数だと全16話、単行本だと上下巻で短くまとまっているじゃないですか。社会派な作品として期待してた人からすると、物足りないなって感じですか?

物足りないというより、置いていかれちゃったって感じですね。

最終話、よねさんやうぎこさんが読んでいたように、青春物語的に駆け抜けて言ったじゃないですか。「まりなちゃんにあんなに苛烈にいじめられていたのに、しずかちゃんは許すんだ」みたいな引っかかりは正直ありますね。

別に文句があるとかそういうことじゃないですし、あの終わり方だというのも納得できる。でも、細かな引っ掛かりがあったことで、そこに引っかかっているうちに疾走感からは置いていかれてしまったな…という印象でした。

うーん、そもそもしずかちゃんやまりなちゃんの仲が悪いのって、親から一方的な関係を押し付けられてるからじゃないですか。親と相互的な関係が築けない状態で育ってるから、学校で2人ともうまく関係が築けないんですよ。

だから、しずかちゃんもまりなちゃんも一方的に他人と接する。いじめたり、他人の話を聞かずに暴走しちゃったり。2人ともお互い親や家庭が悲惨だっていう共感できる要素を持っているはずだったのに。

お互いがそれに気づけたら、あとは上手くいくんですよね。タコピーの命を犠牲にしたタイムリープによって、2人は“対話”するキッカケが得られた。僕はそういう風に読んだので、納得の終わりではありました。

それでも、あんな簡単にあそこまで苛烈ないじめを許せるものなんですかね……?

しかも、2人はタコピーが消えてしまったことを、かなり緩く共有するんですよね。ちらっとノートに描かれたタコピーっぽい絵を見て、よく思い出せないけど悲しくなって泣いてしまう。それで乗り越えてしまう。

物語の疾走感とは裏腹に、僕がそこに乗れなかったんですよ。

うーん、私は良いラストだと思いましたけど。

ちょうど、よねさんも「ラスト、賛否両論あるけどどう思った?」というテーマを持ってきてくれていました。よねさんと新見さんは最終話、どうでしたか?

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