2021年10月クールの新作アニメがスタートした。注目作に触れていくと、大塚明夫へのキャスト変更や押井守の各話脚本と話題に尽きない『ルパン三世 PART6』に動画工房ならではの暖かい質感漂う『先輩がうざい後輩の話』、作画と演出が心地よい『王様ランキング』『古見さんはコミュ症です。』。
劇場アニメでも、『イヴの時間』吉浦康裕監督の約8年振りの長編監督作『アイの歌声を聴かせて』やシリーズ最新作『ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア』などが話題を呼んでいる。
そんな中、日本テレビ「金曜ロードショー」枠にて、京都アニメーション制作の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が放送される。2週連続の編成で、第1週10月29日(金)はテレビシリーズの特別編集版。翌週11月5日(金)は2019年に公開された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』が放送される。
本放送をTOKYO MXほかで行い、在阪局でテレビ朝日系列の朝日放送テレビによる関連会社・ABCアニメーションが出資を行っている『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が、まさかの「金曜ロードショー」でオンエア! という驚きがアニメファンにはあったのも事実。
同時に、この放送を機に、この美しい物語に触れる視聴者が増えることを祈り、今回は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を取り上げたい。原作小説との違いや京都アニメーションならではの演出手法に着目し、本作がどのように制作されたのか。その点にフォーカスを当てて紹介する。
※文:羽海野渉=太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
5分でわかる『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、暁佳奈(あかつき・かな)による第5回京都アニメーション大賞の小説部門大賞受賞作をアニメ化したものだ。
原作小説は本編上下巻に加え、外伝と完結篇『エバー・アフター』の計4冊が刊行中。監督はそれぞれ、テレビシリーズと劇場版は『境界の彼方』の石立太一、外伝は『響け!ユーフォニアム』第8話が印象深い藤田春香が務めている。
シリーズ構成は先月の連載でも取り上げた『平家物語』と同じく吉田玲子が担当。2018年1~4月にテレビシリーズを放送後、2019年9月に外伝、2020年9月に劇場版が公開されている。 大陸を分断する戦争に従事していた女性、ヴァイオレット・エヴァーガーデン。彼女は軍人を辞め、手紙の代筆業に出会う。その仕事は、人々の想いを汲み取って言葉にするもの。依頼人と出会い、相手の想いに触れていく彼女は、ある日大切な人から告げられた言葉の意味を知っていく。
ご存じのように、京都アニメーションといえば美麗な作画と演出、撮影(様々な手法でシーンを印象的にする撮影処理)によって多くのファンを獲得している制作スタジオだ。
『涼宮ハルヒの憂鬱』『CLANNAD』『けいおん!』『Free!』『響け!ユーフォニアム』と人気タイトルを挙げれば暇がない。コロナ禍で配信サイトが好調だったことは、元々緻密な画が注目を集めていた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が多くの人に観られる一因となっただろう。 2019年夏に起きた放火事件と2020年初頭からのコロナ禍の影響により2回の公開延期を余儀なくされた『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だったが、2020年9月に公開されるや否や大ヒット。
同時期に公開された『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の未曽有のヒットの裏となってはしまったが、『映画 けいおん!』や『映画 聲の形』を越す約21億円という興行収入となり、京都アニメーション映画作品としては最もヒットしたタイトルとなった。ロングラン上映も行われ、劇場版で初めて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に触れた人も多いだろう。
例えば、『中二病でも恋をしたい!』はオリジナルキャラクターを追加してラブストーリーではなく部活ものに再構成。『Free!』は原案の『ハイ☆スピード!』からキャラクターの年齢を変更し、ほぼオリジナルストーリーとなった。
また、富士見ファンタジア文庫原作の『甘城ブリリアントパーク』でもオリジナルキャラクターを追加し、ストーリーも大幅に変更。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』もこの例に違わず、オリジナルキャラクターの登場や設定変更が行われている。 この方針が「原作に忠実なアニメ化」が是とされている現在のアニメとは食い違っているのではないか、というツッコミもあるだろう。だが、アニメはアニメ、原作小説は原作小説であり、メディアごとに得意な演出は異なっている。
いくら面白い小説でもそのままアニメにしたら面白さが損なわれる場合があり、メディアに適した翻案が必要だ。テーマ性をそのままに作品がよりよくなる形を追求しているという意味で、京都アニメーションの方針は間違っていないように思う。なぜなら、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は原作から一部を変更したことで素晴らしいアニメになったと考えているからだ。
加えて、美術や撮影というここ10年のアニメで特に重要視されるようになった工程でどのような演出を施すのか。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はその点、京都アニメーションならではの美麗な作画だけでなく、美術と撮影にも比重を置いて作品づくりを行った。 例えば第8~9話の戦場を駆けるヴァイオレットのシーン。カメラを揺らして陰影を付けることで、一気に戦場の臨場感が増す。対して自動手記人形として活躍する際は戦場とは異なり鮮やかな背景と、煌びやかな彼女の姿を打ち出すことで、作品内にコントラストを付けることに成功した。
また、全編にわたる光学表現や広角レンズ演出も心地よく、その結果、全編にわたって魅了される作品世界をつくりあげることができたのだ。
原作からの変更点の一例として、ヴァイオレットが自動手記人形となるまでをアニメでは描いているが、原作は冒頭より仕事に従事しているという違いがある。そしてテレビシリーズ第2話から第4話まではほぼオリジナルストーリーなのだ。『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』PV
アニメではヴァイオレットがなぜ代筆業という仕事に従事するようになったのか、そして慕っているギルベルト少佐との関係性がどうなのか。その2点に焦点を当てるようにした結果、このような構成になったのではないか。特にギルベルト少佐関連の描写は原作とアニメでは異なっており、そこから劇場版に繋がっていくための変更点としては特に重要なものだろう。
今回「金曜ロードショー」で放送される特別編集版は第1~3話と第7話、第9話、第10話が中心になる。物語の根幹が描かれる冒頭部はもちろん、ヴァイオレットとギルベルト少佐の関係性がクローズアップして描かれる感動譚で、武本康弘が絵コンテ・演出した本作における最重要エピソード第9話「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は必見だ。
劇場アニメでも、『イヴの時間』吉浦康裕監督の約8年振りの長編監督作『アイの歌声を聴かせて』やシリーズ最新作『ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア』などが話題を呼んでいる。
そんな中、日本テレビ「金曜ロードショー」枠にて、京都アニメーション制作の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が放送される。2週連続の編成で、第1週10月29日(金)はテレビシリーズの特別編集版。翌週11月5日(金)は2019年に公開された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』が放送される。
本放送をTOKYO MXほかで行い、在阪局でテレビ朝日系列の朝日放送テレビによる関連会社・ABCアニメーションが出資を行っている『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が、まさかの「金曜ロードショー」でオンエア! という驚きがアニメファンにはあったのも事実。
同時に、この放送を機に、この美しい物語に触れる視聴者が増えることを祈り、今回は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を取り上げたい。原作小説との違いや京都アニメーションならではの演出手法に着目し、本作がどのように制作されたのか。その点にフォーカスを当てて紹介する。
※文:羽海野渉=太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
目次
京アニの傑作『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
原作小説は本編上下巻に加え、外伝と完結篇『エバー・アフター』の計4冊が刊行中。監督はそれぞれ、テレビシリーズと劇場版は『境界の彼方』の石立太一、外伝は『響け!ユーフォニアム』第8話が印象深い藤田春香が務めている。
シリーズ構成は先月の連載でも取り上げた『平家物語』と同じく吉田玲子が担当。2018年1~4月にテレビシリーズを放送後、2019年9月に外伝、2020年9月に劇場版が公開されている。 大陸を分断する戦争に従事していた女性、ヴァイオレット・エヴァーガーデン。彼女は軍人を辞め、手紙の代筆業に出会う。その仕事は、人々の想いを汲み取って言葉にするもの。依頼人と出会い、相手の想いに触れていく彼女は、ある日大切な人から告げられた言葉の意味を知っていく。
ご存じのように、京都アニメーションといえば美麗な作画と演出、撮影(様々な手法でシーンを印象的にする撮影処理)によって多くのファンを獲得している制作スタジオだ。
『涼宮ハルヒの憂鬱』『CLANNAD』『けいおん!』『Free!』『響け!ユーフォニアム』と人気タイトルを挙げれば暇がない。コロナ禍で配信サイトが好調だったことは、元々緻密な画が注目を集めていた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が多くの人に観られる一因となっただろう。 2019年夏に起きた放火事件と2020年初頭からのコロナ禍の影響により2回の公開延期を余儀なくされた『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だったが、2020年9月に公開されるや否や大ヒット。
同時期に公開された『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の未曽有のヒットの裏となってはしまったが、『映画 けいおん!』や『映画 聲の形』を越す約21億円という興行収入となり、京都アニメーション映画作品としては最もヒットしたタイトルとなった。ロングラン上映も行われ、劇場版で初めて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に触れた人も多いだろう。
原作を翻案してアニメ化する京アニのスタイル
暁佳奈による原作が存在している『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』だが、「原作に忠実なアニメ化」ではないことが特徴の1つだ。昨今は原作から描写を変えると叩く視聴者も多いのだが、京都アニメーション作品、とりわけ京都アニメーション大賞を経た作品に関しては原作とは異なる展開を描くことが多い。例えば、『中二病でも恋をしたい!』はオリジナルキャラクターを追加してラブストーリーではなく部活ものに再構成。『Free!』は原案の『ハイ☆スピード!』からキャラクターの年齢を変更し、ほぼオリジナルストーリーとなった。
また、富士見ファンタジア文庫原作の『甘城ブリリアントパーク』でもオリジナルキャラクターを追加し、ストーリーも大幅に変更。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』もこの例に違わず、オリジナルキャラクターの登場や設定変更が行われている。 この方針が「原作に忠実なアニメ化」が是とされている現在のアニメとは食い違っているのではないか、というツッコミもあるだろう。だが、アニメはアニメ、原作小説は原作小説であり、メディアごとに得意な演出は異なっている。
いくら面白い小説でもそのままアニメにしたら面白さが損なわれる場合があり、メディアに適した翻案が必要だ。テーマ性をそのままに作品がよりよくなる形を追求しているという意味で、京都アニメーションの方針は間違っていないように思う。なぜなら、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は原作から一部を変更したことで素晴らしいアニメになったと考えているからだ。
劇場版へと繋がるヴァイオレットとギルベルトの描写
というのも、原作小説では「文字のみの表現」に特化した描写が存在する。効果的な挿絵の配置はもちろん、舞台の暗転を意味するような、黒い紙に白いフォントの演出も登場し、上下巻の原作を一気に読ませてくる。そういう意味では暁による原作も素晴らしいのだが、これをそのままアニメというメディアに落とし込むことはできない。加えて、美術や撮影というここ10年のアニメで特に重要視されるようになった工程でどのような演出を施すのか。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はその点、京都アニメーションならではの美麗な作画だけでなく、美術と撮影にも比重を置いて作品づくりを行った。 例えば第8~9話の戦場を駆けるヴァイオレットのシーン。カメラを揺らして陰影を付けることで、一気に戦場の臨場感が増す。対して自動手記人形として活躍する際は戦場とは異なり鮮やかな背景と、煌びやかな彼女の姿を打ち出すことで、作品内にコントラストを付けることに成功した。
また、全編にわたる光学表現や広角レンズ演出も心地よく、その結果、全編にわたって魅了される作品世界をつくりあげることができたのだ。
原作からの変更点の一例として、ヴァイオレットが自動手記人形となるまでをアニメでは描いているが、原作は冒頭より仕事に従事しているという違いがある。そしてテレビシリーズ第2話から第4話まではほぼオリジナルストーリーなのだ。
今回「金曜ロードショー」で放送される特別編集版は第1~3話と第7話、第9話、第10話が中心になる。物語の根幹が描かれる冒頭部はもちろん、ヴァイオレットとギルベルト少佐の関係性がクローズアップして描かれる感動譚で、武本康弘が絵コンテ・演出した本作における最重要エピソード第9話「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は必見だ。
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連載
毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。
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