連載 | #3 アニメーションズ・ブリッジ

アニメ『平家物語』レビュー 山田尚子と吉田玲子が語り直す女性の物語

アニメ『平家物語』レビュー 山田尚子と吉田玲子が語り直す女性の物語
アニメ『平家物語』レビュー 山田尚子と吉田玲子が語り直す女性の物語

牛尾憲輔さんによるTVアニメ『平家物語』オリジナルサウンドトラックEP配信ジャケット

POPなポイントを3行で

  • TVアニメ『平家物語』の魅力とは
  • 古川日出男から山田尚子・吉田玲子へ継がれたもの
  • 合わせて読みたい大河小説『鬼人幻燈抄』
歴史ものの作品の魅力といえば、私たちの生きる現代へその世界が地続きになっていることだと思う。「誰が何をしたから、今の世界にもそれが残っている」なんてキャラクターたちの選んだスイッチが現代まで繋がっていることを知りたくて、歴史ものを追っている気さえするのだ。

大河ドラマの楽しみ方はまさにそうで、描写されている出来事があったからこそいまの日本があると知る楽しみがある。フジテレビ系列でテレビシリーズ第一期の総集編と劇場版を放送した『鬼滅の刃』もそうで、大正時代に竈門炭治郎たちがいた……そんなifを感じながら今を楽しむことができるだろう。

さて、そんな歴史ものの中でも昔々に書かれた古典はどうだろうか。当時の空気感を如実に表していて、解読こそ難しいが、当時の世相も知ることができるエンターテインメントといえる。

そんな古典の一つで、日本が誇る軍記物語『平家物語』がテレビアニメとなる。

文:羽海野渉=太田祥暉(TARKUS) 編集:新見直

目次

アニメファンを驚かせた布陣

その知らせが報じられると、アニメファンのみならず様々な人が驚いた。監督を務めるのは、京都アニメーションで『けいおん!』『映画 聲の形』『リズと青い鳥』などを手掛けた山田尚子

脚本は、その三作で山田尚子監督とタッグを組んだ吉田玲子

キャラクターデザインは『フリップフラッパーズ』や『映画 ドラえもん のび太の新恐竜』の小島崇史。劇伴は『映画 聲の形』『リズと青い鳥』のほか、『チェンソーマン』が控える牛尾憲輔

そして制作は『DEVILMAN crybaby』『映像研には手を出すな!』のサイエンスSARUという布陣。

京都アニメーション以外で作品を手掛けるのが初めての山田。そしてかの高畑勲監督も映画化を考えたものの遂には成立しなかった『平家物語』という題材(外部リンク)。

それを、10年以上前に『源氏物語千年紀 Genji』を製作したフジテレビとアスミック・エースが+ULTRA枠で放送する。これで期待しない方が無理という話だった

山田尚子監督の丁寧な演出で引き込まれるアニメ『平家物語』

古川日出男『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 第9巻 平家物語』/Amazonより

原作は、鎌倉時代に成立した『平家物語』を、小説家・古川日出男が現代語訳した『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 第9巻 平家物語』(河出書房新社)。

そこからオリジナルキャラクターの琵琶法師・びわを主人公に据え、彼女と平家の交流を軸として時代に翻弄された人々の群像劇を描いていく。

アニメオリジナルキャラクターとなるびわ

まず本作の魅力の一つは先にも述べた、現代まで地続きであるということである。『平家物語』の内容こそ知らずとも、「祇園精舎の鐘の声」の書き出しを諳んじられる人も多いだろう。

かつて天皇に近しい立場だった平家が、その栄華に驕った結果没落していったという内容であるが、その結果があったからこそ武士の時代に突入した、ともいえるのである。

長い武家社会を経て、明治維新という流れがあるわけで、実際に起こったことはこのような流れだったのかもしれない、と歴史の可能性に浸れるのが面白い。

平重盛

そしてアニメファン的視点ならば、注目したいのは、第1話のファーストカットから山田尚子監督らしい演出でスタートしたことである。

これまで『たまこラブストーリー』や『映画 聲の形』、『リズと青い鳥』で見られた丁寧で愚直なカメラワークと演出によって、壮絶な世界を生き抜くびわという女の子がどのように平家一族と呪わしく結びついてしまったのかが浮かび上がってくる。

劇伴の使い方もとても上手く、作品のテンポに心を奪われるのも必至な構成となっていた。個人的には京都アニメーション出身のアニメーター、松尾祐輔氏や植野千世子氏、雪村愛氏、秋竹斉一氏の参加も嬉しい。

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アニメーションズ・ブリッジ

毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。

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