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連載 | #3 アニメーションズ・ブリッジ

アニメ『平家物語』レビュー 山田尚子と吉田玲子が語り直す女性の物語

今、女性から語られる『平家物語』

最も重要な点は、オリジナルキャラクターのびわを主人公に据えたことで、男尊女卑はびこる中世社会において女性たちがどのように生き抜いていたのかがわかることだ。

おそらくここは意図的なのだが、びわや平徳子が何を思い、生きて/死んでいったのか。そこにフォーカスを当てることで、今までになかった『平家物語』をつくろうとしているのではないだろうか。

びわと平徳子が初めて顔を合わせるシーン

原作書籍の訳を手掛けた古川も、テレビアニメ版『平家物語』の主役は女たちであると示し、原作に秘められた決定的ポイントに迫っていると指摘している。 女性を主役として構成された『平家物語』を、山田尚子と吉田玲子という女性タッグで手掛けていることも、今作の肝であるように感じる

古川は原作書籍の「前語り──この時代の琵琶法師を生むために」において、平家物語は琵琶法師たちが語り広めていたという史実をもとに再構成したと記している。繰り返し語られてきた平家物語において、今この時代に語るのに相応しいのは何者なのか

そこで、古川の手による琵琶法師が語った原作を踏まえつつ、山田と吉田によるアニメにおいて、アニメオリジナルキャラクターである琵琶法師のびわを語り手としたことは、平安の世に生きた女性を主軸にしたいという表れである。

吉田玲子といえば、古くは『猫の恩返し』、近年での『若おかみは小学生!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のように、女性を主人公格にした上でその周囲の人々との交流を経て成長していく、もしくは変化していくという物語に定評がある。

山田尚子とのタッグ作品を振り返ると、『たまこラブストーリー』の北白川たまこないし常盤みどり、『リズと青い鳥』の鎧塚みぞれと傘木希美、『映画 聲の形』の西宮硝子のように何かしらのアクションによって成長/変化していく少女たちの姿が描かれてきた

びわも自分の行動によって親を亡くし、その敵である平家と交流を重ねていく中で、世の中のうねりに直面する。そして未来が見えるという能力によって、平家が滅ぶことを(なんとなく)知っている中で、彼女が物語をどう語るのか?

それが山田と吉田の描く『平家物語』の主軸になるのではないだろうか。
アニメ『平家物語』PV

高畑勲が古川日出男『平家物語』に寄せた言葉

とはいえ、まだ配信されているのも第2話まで。これからどのように平家の滅亡を描くのか、そしてどのようにびわを語り手として物語を紡いでいくのか、その全貌はいまだ判明していない。

『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』の担当回が斬新だった戸澤俊太郎氏や『エロマンガ先生』を手掛けた竹下良平氏らの参加が告知されているが、どのようなカラーリングを持った作品がつくられるのか、このシリーズに期待を抱いている。

生前、『平家物語』のアニメ化を考えながらもこの世を去ってしまった高畑勲監督は、「私は、あの壮絶な合戦の騎討や組射ちは、アニメーションでしか表現できない、と確信してきました」と原作付属の小冊子に寄せている。その言葉にあるように、アニメーションでしか表現できない『平家物語』の真髄をどのように山田尚子監督と吉田玲子氏は描くのか。その全貌が明らかとなる日を楽しみにしたい。

なお、本作はFOD独占配信ということでネットは大荒れした。ここでは配信独占の是非に関しては言及しないが、個人的には独占配信だからといって面白い作品を観ないのはもったいない、と思う。

そもそも、『平家物語』は配信がFOD独占というだけであって、フジテレビやBSフジで放送予定なので、契約せずに観ることも可能だ。と言いつつ、FODは9月16日に毎週1話ずつ更新という形で配信スタート。フジテレビは2022年1月放送スタート予定なので、1クールのラグがあることとなる。

ただ、第1話は無料配信なので、これを機に観ていただきたい。

ここから無料で1話を視聴可能!

鬼の妹に、幼なじみを殺された兄の葛藤『鬼人幻燈抄』

中西モトオ『鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々』/Amazonより

さて、そんな『平家物語』と合わせて読みたいのが、こちらも大河小説である中西モトオ『鬼人幻燈抄』(双葉社)である。

初出は「小説家になろう」「Arcadia」に掲載されたウェブ小説で、江戸時代から平成までの間、人と鬼の狭間で心を揺らしながら戦い抜く少年の物語である。

『鬼人幻燈抄』の肝は、主人公・甚太が倒すべき相手が妹であること。そしてその理由は、好きだった幼なじみの女の子・白雪を妹が殺してしまったからだ。

妹・鈴音は鬼であったもののそれまで大人しくしており何もしないと思えば、両想いだった白雪がしきたりのために兄が戦闘で村を離れている間に長の息子と交わろうとしていた瞬間を目撃。そして白雪を殺害したのだった。

そして彼女が告げたのは、170年後に、全てを滅ぼす鬼神となって再び現れるという予告。憎しみから自らも鬼と化した兄は、大切な妹を復讐心から殺すべきか否か、鬼と人の狭間で悩みながら遥か遠い未来での戦いを目指すという物語だ。

これももちろん歴史ものではあるが、特徴的なのは江戸時代から平成まで、途方もない時代を旅すること。そのため甚太がやっていたこと、触れていたことがダイレクトに「こういうこともあったのかも?」という気持ちを抱かせる。

そして重要なのは、時を経ても不変の想いがあること

年齢を重ねない鬼の周りで生きる人間、とりわけ少女たちの強さに心惹かれるのも魅力の一つだろう。無念の思いで死んだ白雪の気持ちや、時代を超える巫女「いつきひめ」、数百年以上もの間悩みながら戦い抜いていく甚太のパッションに圧倒されたら、一冊を読み終えるのはすぐ。現在単行本が刊行されている第7巻まで読み終えるのもすぐだろう。

時を超えて現在に続く物語に、この秋はぜひ浸っていただきたい。

©「平家物語」製作委員会

文学作品とアニメ

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