若手アニメーター/イラストレーターのうなばら海里さんもまた、数多くの企業タイアップや商業作品などを担当する注目クリエイターの1人だ。
小学校時代、自宅にあったMacとPhotoshopを使って、工作の課題にPCで描いたイラストを本にして提出。「今思えば最初の同人誌です(笑)」と話すほど、幼少期から絵を描くことに親しんできた。その後、多摩美術大学グラフィックデザイン学科に進学。大学で学んだアニメーションに魅了され、アニメーターを志すことになる。
アニメスタジオ勤務を経て、現在はフリーランスとして活動するうなばら海里さんは今回、高速インターネットでお馴染み「NURO 光」のループアニメ『作業用 "高速" Lo-fi Hip Hop』を担当した。
「ループアニメの魅力は終わりがないこと」と語る一方で、制作時間に比べすぐ消費されるアニメの儚さも魅力だと言う、うなばら海里さん。そんな若手アニメーターが、現在のアニメシーンに馳せる思いとは──。
取材・文:阿部裕華 編集:恩田雄多
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全く予想をしていなかった、アニメーターへの道
──小さい頃からアニメはお好きでしたか?ランドリーなリサイクル☀️#次のリサイクル考えてみた pic.twitter.com/3lQXvzxXbP
— うなばら海里 (@kyli_u) June 4, 2021
うなばら海里 好きでしたね。親の影響もあって、小さい頃からスタジオジブリ作品が大好きでした。
レーザーディスクの『天空の城ラピュタ』を見たり、家族でドライブに行くときはジブリのサウンドトラックや主題歌のCDを聴いたり、原初的なアニメ体験はジブリ作品です。
──DVDでもBlu-rayでもなくレーザーディスク……当時としても貴重なメディア媒体で鑑賞されていたんですね。
うなばら海里 レアですよね(笑)。小学生くらいは、キッズステーションやカートゥーン ネットワークで放送されているアニメ、あとは「おもしろフラッシュ倉庫」のフラッシュアニメも見ていました。
──幼少期から幅広くアニメに触れていますが、アニメーターを志したのは大学入学後とうかがいました。多摩美術大学グラフィックデザイン学科は「タマグラアニメーション」という呼称でも知られているので、てっきり入学前から意識されていたものと思いました。
うなばら海里 周りからも驚かれます(笑)。アニメがやりたくて入学してきた人も多い中、恥ずかしながらアニメの授業があることを知らずに入学しました。
昔から絵を描くのが好きで、小学生の頃からイラストレーターになりたかったので、大学に入るまで、まさか自分がアニメをつくるとは思っていなかったんです。
──アニメーション制作に興味を持ったきっかけは?
興味の範囲から仕事にしたいと思うようになったのは、その後に制作した『アンクレットと蒼い海』の影響が大きいですね。『ピッケ』は1人で制作をしていたのですが、『アンクレット』は3人グループによる制作で、意見を出し合う中で人とつくり上げる面白さに気づきました。
あとは、課題以外で制作したアニメーションがSNSで評価を得たことも大きかったかもしれません。自分の投稿に国内外のユーザーからたくさんの感想が寄せられたときに、アニメーションの持つ力を強く実感しました。
──課題作品である『ピッケ』『アンクレットと蒼い海』もですが、卒業制作の『その先の旅路』はSNSでの反響や様々な賞の受賞など、ご自身にとっても印象的な作品なのではないでしょうか?
イラストや漫画で同じテーマを描いても、ここまでの反響には至らなかったと思います。ピアノだけの音楽とセリフなしの3分間のアニメーションという表現が、自分の伝えたかったテーマにとてもマッチしていたんだと感じています。アニメーションだからこそ、伝えたいメッセージを作品として表現できました。
作品づくりにおける「公共性」と「共感」
──アニメーターとしてだけでなく、イラストレーターとしても活動されていますね。1本に絞らなかった理由はありますか?うなばら海里 イラストとアニメーションは互いに延長線上にあるものだと思っています。絵を何枚も描いて動かすことで、描かれたキャラクターに命を吹き込むのが手描きアニメーションの手法です。
なので、一枚絵の力はとても大切です。自分の線や色を持っていることは作家性にも繋がりますし、大事にしていきたい。アニメーターとイラストレーター、今後も両方やっていきたいです。
──うなばらさんがSNSに投稿されている作品の多くは「女の子」「動物」「食べ物」がモチーフになっていると感じます。何かこだわりがあるのでしょうか?
うなばら海里 SNSに投稿する作品に関しては、「公共性」や「共感」を大切にしてきました。大学でビジュアルコミュニケーションを学んだことから、作品をつくる上では見た人に与える感情に重きを置いています。同時に私自身、人を喜ばせたり楽しませたりするのが好きな性格なのも大きいかもしれません。
その点で、「女の子」「動物」「食べ物」の3つは特に共感を集めやすいモチーフだと感じています。それに、描いていて楽しいです(笑)。 うなばら海里 一方で、創作という意味では、自分の深いところにある“共感されないかもしれない”部分の表現に対する執着もあって。その1つが『その先の旅路』における「死」というテーマだったりします。
宮沢賢治作品のような、平原にぽつんと立って遥か遠くを見ているときみたいな感情を、自分のアニメーションで表現できないかということは常々考えています。ただ、そういう私自身の内側を見せるような作品をつくれていないのは課題でもあるので、今後表現できるようになっていきたいです。
──楽しみです。モチーフ以外に、たとえば動きの部分で、アニメを制作する際に意識していることはありますか?
うなばら海里 作画の部分では、『NHK みんなのうた』や『らんま1/2』、『キョロちゃん』のOP映像などを手がけてきた南家こうじさんのような動きに憧れています。
アニメーションの動きをよく「ヌルヌル動く」と表現することがありますが、南さんはただヌルヌル動くのではなく、メリハリが効いた絶妙な塩梅のアニメをつくられるので、すごく好きなんです。
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