「面白い漫画がある」──そう言って友人たちに勧めたくなるのが、和山やまさんの漫画だ。
和山やまさんは、伊藤潤二さんや小林まことさんから影響を受けたという筆圧の強いタッチにギャグセンスを盛り込み、強烈な個性を持つキャラクターたちが織り成す日常劇を得意とする漫画家。
短編集『夢中さ、きみに。』で第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第24回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、「このマンガがすごい!2021」オンナ編では『女の園の星』が1位、『カラオケ行こ!』が5位にそれぞれ入賞するなど、今注目の作家だ。
その魅力とはどんな部分にあるのか? 先日第2巻が刊行された『女の園の星』を中心に、面白さの理由を探ってみたいと思う。
文:安藤エヌ 編集:小林優介
女子校の教師・星先生を主人公とし、日々の学校生活にユーモアとギャグを織り交ぜて描いた『女の園の星』でも、「意外な出来事起点から始まる筋の通ったストーリー」はよくみられる。
第2巻収録の「6時間目」では、とある生徒が持ちかけてきた話から星先生の中学時代の卒業アルバムに載った星先生の写真が披露されるのだが、なぜかその肩にはクワガタが乗っている。
一見つながらないように見える点と点を結ぶ構成力が、物語を成立させている。そうすることで、読者がストーリーの起点と終点それぞれで感じたものを一連の「起伏」として心地よく受け取ることができるようになっている。
『カラオケ行こ!』で主に描かれるのはヤクザと中学生男子という一般的に接点のなさそうな2人であり、しかも、そのヤクザは中学生に歌を教えてくれと頼み込んでくるという展開になっている。 また、キャラクターの描き方自体も、筆圧の強いタッチで描かれるキャラクターに、ダウナーな雰囲気をまとわせることで化学反応が生まれている。
インパクトのある型破りな起点からはじまるストーリー、意外性のあるタッチで描かれる、キャラクターの性質。
それぞれに生まれる不思議なマッチングが、世界観をより強固なものにしているといえるだろう。 また、「意外性」といえば欠かせないのが、読者を爆笑の渦に巻き込む独特なネーミングセンスも忘れてはならない。
『女の園の星』で星とともに登場する、もうひとりの教師・小林が女子生徒から付けられたあだ名「ポロシャツアンバサダー」。
これは小林がよくポロシャツを着ていることから付けられたものだが、ほかにもタペストリーという単語を間違って覚えていたことから付けられた「ペタリスト小林」など、1度聞いたら忘れられないほどのインパクトを持つネーミングが登場する。 そういった「字面だけで充分に人を笑わせることのできるネーミング」に、その名前が生まれるまでの筋の通ったストーリーを詳細に描写することで、よりおかしさが倍増する。
何の脈絡もなさそうなネーミングにも「意味」を付与し、印象付けることによって、読者はキャラクターに対して愛着がわき、まるでキャラクターたちと友人関係になったような感覚になる。 和山作品のキャラクターがファンから愛されている理由は、そのような親しみやすいネーミングが作中に登場していることにもあるだろう。
また、キャラクター同士の「距離の縮め方」にも、意外な過程が描かれるのが和山作品の特長だ。
出会いから紆余曲折を経て成熟し、ひとつの関係に収まる――といった王道ではない、「意外な出会い」「意外な交流」「意外な関係への変化」という、読者の誰もが予想できない方向へと進んでいくのだ。
和山やまさんは、伊藤潤二さんや小林まことさんから影響を受けたという筆圧の強いタッチにギャグセンスを盛り込み、強烈な個性を持つキャラクターたちが織り成す日常劇を得意とする漫画家。
短編集『夢中さ、きみに。』で第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第24回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、「このマンガがすごい!2021」オンナ編では『女の園の星』が1位、『カラオケ行こ!』が5位にそれぞれ入賞するなど、今注目の作家だ。
その魅力とはどんな部分にあるのか? 先日第2巻が刊行された『女の園の星』を中心に、面白さの理由を探ってみたいと思う。
文:安藤エヌ 編集:小林優介
「意外」な出来事をつなぐ構成力が生むおかしさ
まず、和山やまさんの作品で描かれるストーリーを見てみると、おおよそどの作品にも共通していることがある。それは、「意外」「未知」を起点に展開される物語であるということだ。女子校の教師・星先生を主人公とし、日々の学校生活にユーモアとギャグを織り交ぜて描いた『女の園の星』でも、「意外な出来事起点から始まる筋の通ったストーリー」はよくみられる。
第2巻収録の「6時間目」では、とある生徒が持ちかけてきた話から星先生の中学時代の卒業アルバムに載った星先生の写真が披露されるのだが、なぜかその肩にはクワガタが乗っている。
生徒が言うように、なぜ星の肩にクワガタが乗っているのか、読者も予想ができない。そこから”なぜそんな状況に陥ったのか”というストーリーが語られていく。「意味わかんなすぎてうちの頭で処理できなくてさ なにこれ 反抗期?」
一見つながらないように見える点と点を結ぶ構成力が、物語を成立させている。そうすることで、読者がストーリーの起点と終点それぞれで感じたものを一連の「起伏」として心地よく受け取ることができるようになっている。
「意外」な関係性が生む化学反応
意外な2つの点(要素)が結ばれ、化学反応によって唯一無二の魅力を放っている例は、ほかにも多々ある。『カラオケ行こ!』で主に描かれるのはヤクザと中学生男子という一般的に接点のなさそうな2人であり、しかも、そのヤクザは中学生に歌を教えてくれと頼み込んでくるという展開になっている。 また、キャラクターの描き方自体も、筆圧の強いタッチで描かれるキャラクターに、ダウナーな雰囲気をまとわせることで化学反応が生まれている。
インパクトのある型破りな起点からはじまるストーリー、意外性のあるタッチで描かれる、キャラクターの性質。
それぞれに生まれる不思議なマッチングが、世界観をより強固なものにしているといえるだろう。 また、「意外性」といえば欠かせないのが、読者を爆笑の渦に巻き込む独特なネーミングセンスも忘れてはならない。
『女の園の星』で星とともに登場する、もうひとりの教師・小林が女子生徒から付けられたあだ名「ポロシャツアンバサダー」。
これは小林がよくポロシャツを着ていることから付けられたものだが、ほかにもタペストリーという単語を間違って覚えていたことから付けられた「ペタリスト小林」など、1度聞いたら忘れられないほどのインパクトを持つネーミングが登場する。 そういった「字面だけで充分に人を笑わせることのできるネーミング」に、その名前が生まれるまでの筋の通ったストーリーを詳細に描写することで、よりおかしさが倍増する。
何の脈絡もなさそうなネーミングにも「意味」を付与し、印象付けることによって、読者はキャラクターに対して愛着がわき、まるでキャラクターたちと友人関係になったような感覚になる。 和山作品のキャラクターがファンから愛されている理由は、そのような親しみやすいネーミングが作中に登場していることにもあるだろう。
また、キャラクター同士の「距離の縮め方」にも、意外な過程が描かれるのが和山作品の特長だ。
出会いから紆余曲折を経て成熟し、ひとつの関係に収まる――といった王道ではない、「意外な出会い」「意外な交流」「意外な関係への変化」という、読者の誰もが予想できない方向へと進んでいくのだ。
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安藤エヌ
ライター
20代のフリーライター。日本大学芸術学部文芸学科卒。音楽、マンガ、映画など主にエンタメ分野で執筆活動中。直近では「ROCK'IN ON JAPAN 2020年7月号」にてシンガーソングライター・あいみょんのコラムを寄稿。過去に同メディアのWebでもコラムを執筆しているほか、様々なエンタメメディアに記事を寄稿している。「今」触れられるカルチャーについて、新たな価値観と現代に生きる視点で文章を書くことを得意とする。
Twitter:@7th_finger
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