カバーイラストは伊藤計劃さんの傑作SF『ハーモニー』や、昨年末に発売され創刊以来初となる3刷の快挙を成し遂げた『SFマガジン』の「百合特集」号を担当したシライシユウコさんによるもの。このアンソロジーに対する早川書房の本気度合いがうかがえる。
宮澤伊織さん、草野原々さんなどの百合SFジャンルを切り開く気鋭や、2月に大長編SF「天冥の標」シリーズを完結した小川一水さんなどのベテランに加え、見知らぬ名前と気になるタイトルがある。
南木義隆さんによる『月と怪物』だ。
その正体は「百合文芸小説コンテスト」に投稿されるや百合クラスタの注目を集めたソ連百合と、その著者・ナムボク(ついたことなし)さんである。
【おしらせ】
— 溝口力丸 (@marumizog) 2019年6月18日
百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』にはナムボク=南木義隆さんの《ソ連百合》こと「月と怪物」が、大幅改稿のうえ収録されています。全9篇、まもなく発売。https://t.co/SDLQjFcO6V pic.twitter.com/NxP7wsT62g
「百合文芸小説コンテスト」の鬼子『月と怪物』
イラストコミュニケーションサービス・pixivにて開催されていた、百合漫画専門誌『コミック百合姫』(一迅社)とのコラボ企画「百合文芸小説コンテスト」。女性同士の恋愛や友愛をテーマにした小説を募集したコンテストである。
そのコンテストに投稿された南木さんの『月と怪物』が、軍拡に進むソ連による「国家の暴力的な思惑に揺れ動く個人の運命」という強烈なテーマで読者の注目を集めたことや、百合とSFの距離感が密接なものになっている点は以前にもお伝えしたとおり(関連記事)。
pixiv上で70,000view、5,400ブックマークを獲得した話題作で、今回の収録に際してロシア研究者や編集の意見を踏まえた全面改稿がなされた決定版になるという。
告知通り、ソ連百合こと「月と怪物」が南木義隆名義で6月20日発売の百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』(早川書房)に収録されます。物語の筋は一切変わらず、ロシア研究者の方や編集の意見を得つつ、徹底的な校正を経て全面改稿した決定版です。大きく引き上げて下さった皆様に感謝します。 pic.twitter.com/UySo6eRz72
— 南木義隆 a.k.a.ついたことなし (@tsuitakotonasi) 2019年6月18日
SFの豊穣な可能性に触れる機会となりそうな1冊
そんな『月と怪物』が収録される『アステリズムに花束を』。前述のとおり錚々たる顔ぶれが並んでおり、百合SFとしてだけでなくSFジャンルの持つ豊穣な可能性に初めて触れる読者にとってもオススメできる1冊になりそうだ。
発売にあわせて担当編集である溝口力丸さんらは6月20日(木)21時から「VTuberってSFですか?」と題した座談会をバーチャルYouTuber・届木ウカさんのチャンネルにて配信する。こちらもお見逃しなく。担当編集の自分は91年生まれ、今年で28歳です。その肌感覚として、1990~2010年代にハヤカワSFや百合要素のあるアニメにふれて人生が変わった世代なら絶対に本書を楽しめるはず。普段そんなに小説を読まない方にこそ読んでほしい、一生ものになるかもしれないアンソロジーです。よろしくお願いします。 pic.twitter.com/q8wvo5Nq5x
— 溝口力丸 (@marumizog) 2019年6月19日
また早川書房では『アステリズムに花束を』と同時に月村了衛さん『機忍兵零牙〔新装版〕』、森田季節さん『ウタカイ 異能短歌遊戯』、矢部嵩さん『〔少女庭国 〕』を百合SFフェアと銘打って一挙刊行(外部リンク)。ハヤカワの夏は百合の夏となりそうだ。今週20日(木)、世界初の百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』の発売を記念して、不老不死ドールVtuberの届木ウカさん、無限の時間を生きるバーチャルワオキツネザルさん、人間の草野原々さんと溝口の4人で座談会の配信をすることになりました。21時から以下のURLで!https://t.co/gLHknXprXo pic.twitter.com/eekJ13Kg5c
— 溝口力丸 (@marumizog) 2019年6月17日
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「百合文芸小説コンテスト」各賞が発表
6月18日には前述の「百合文芸小説コンテスト」について各賞が発表されている。大賞に輝いたのは洲央さんの『ラブソングを叫ぶワケ』(外部リンク)。
『コミック百合姫』の8月号掲載の選評によれば"恋愛と名付けられるかわからない高校生ならではの女性同士の感情のぶつかり合いが素晴らしい青春小説。フレッシュな文体でとても読みやすくちょうど良いエモ感を感じられる作品でした"とのこと。
こちらの作品は『コミック百合姫』の9月号に表紙、挿絵付きで掲載される。
以前の記事では「コンテスト応募作品をざっと眺めたところ、学校などの日常を舞台に、2人の物語を繊細な文体に乗せた作品が多い印象」と書いたが、一次選考通過作品のあらすじや付いているタグを見る限り、SF以外にもファンタジーやホラーなど様々なジャンルとの融合の試みがされていたことは、今後の百合モノのジャンル展開としても見逃せないところだ。百合文芸小説コンテスト、ソ連百合という意味不明ワードでトレンド入りしてpixivで70000viewに5400ブックマーク超えたからこれは大賞五万か百合姫賞三万は余裕でしょ、待っとれよ東京ガスーーーーゥ!と思ったら無事無冠で終わったので泣きながら公園の噴水で体を洗ってる。 https://t.co/VsuvF7J1Hu
— ついたことなし/ナムボク (@tsuitakotonasi) 2019年6月18日
「百合の夏」に備える
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