応募期間は1月27日で終了し、現在は審査結果を待つ段階。特設サイト(外部リンク)から応募作品を閲覧することができる。
そんな中、ある作品が注目を集めている。
タイトルは『月と怪物』。なんと言っても作中の舞台は1944年、第二次世界大戦の末期、ソビエト連邦である。
コミック百合姫×pixivの公式企画「百合文芸小説コンテスト」
「百合文芸小説コンテスト」は、世界で唯一の百合漫画専門誌『コミック百合姫』とのコラボで行われている「pixiv」の公式企画。『コミック百合姫』編集部などの選考で女性同士の恋愛や友愛をテーマにした小説を募集したところ、1300件以上の投稿があった。
大賞には賞金5万円の他、『コミック百合姫』に扉イラスト・挿絵イラスト付きで掲載、書店配布予定の小冊子へ収録などの副賞が用意されている。
世界で唯一の百合漫画専門誌に掲載されるのだから、百合界における大変な栄誉であることは間違いない。
淡々と国家に振り回される個人を描く『月と怪物』
百合といえば、主役となる女性の2人の関係性に焦点を当てるものが主流。コンテスト応募作品をざっと眺めたところ、学校などの日常を舞台に、2人の物語を繊細な文体に乗せた作品が多い印象だ。
しかし投稿者名「ナムボク(ついたことなし)」さんによる話題の小説『月と怪物』は、あらすじからして全く異なる。百合要素に加え、ハードなSFの要素が盛り込まれているのだ。
『月と怪物』を読む
"国家というこの世界を我が物で闊歩する巨獣が互いを喰らいちぎり、血を流し身もだえするかのような時代にセールイ・ユーリエヴナは産み落とされた。"という書き出しから始まる本編も、他の応募作品からは浮いたものだ。あらすじ
舞台はソビエト連邦。アルコール中毒者の親から家出したエカチュリーナ姉妹は首都でホームレス生活を送るが、同じくホームレスの老人による密告によって当局によって捕縛され、ソビエト連邦が極秘に行っていた宇宙開発のための専用施設で育てられることとなる。姉が生来的に持っていた共感覚を生かそうという考えだったのである。(この実験は実際に行われたいくつかの実験がモチーフになっている)姉はそこでソビエト軍の軍人と恋に落ちる。しかし実験は失敗に終わり、姉は廃人となる。やがて施設内でのクーデターが成功し、姉妹は脱走する。姉は廃人であるのだが。そして隣国にて養子となり姉妹は育つ。姉が恋をしていた軍人は粛清として強引な宇宙開発実験により犠牲になった。やがて姉も廃人のまま寿命でなくなる。妹は姉と義姉になったかもしれない軍人について思いを馳せる老後を送る。しかしながら、その妹もまた首都を狙った無差別テロ事件によって無残な最期を遂げることとなる。『月と怪物』
米ソによる軍拡と、宇宙開発競争という個人を顧みない国家の暴力的な思惑を淡々と描く。そこから取り残された主人公たちの関係性、互いを思う描写が淡白なものでも救いのように胸に残る。
27日に投稿されたこの作品は29日になると読者に発見され、話題が沸騰。閲覧数5万件を達成する事態となった。
作者(ついたことなし=追田琴梨)です。私が別名義で投稿したものなので、盗作等ではないです。たくさんの方に読んで頂き感謝に堪えません.. https://t.co/bWlXz1gcQr
— ついたことなし/ナムボク (@tsuitakotonasi) 2019年1月30日
「謎のソ連百合小説が百合文芸小説コンテストに投稿されて百合クラスタがざわめく」https://t.co/peIqPNQYkc にコメントしました。
百合とSFとの蜜月関係はまだ続く
奇しくも昨年12月に発行された早川書房の文芸誌『SFマガジン』2019年2月号は「百合特集」。作家・柴田勝家さんによる「コミック百合姫」編集長へのインタビューが掲載されるなど、SFと百合の距離は密接なものとなっている。なお、該当号は、予約時点で重版が決定。それでも在庫が追いつかず、50年以上続く『SFマガジン』始まって以来の3刷目という快挙を達成したことも書き添えておきたい。
選考の結果、どの作品が大賞に輝くのかは分からない。ただ、このような一般公募のコンテストからも百合SFがジャンルとして注目を浴びるのであれば、百合とSFとの蜜月関係はまだまだ続くのではないだろうか。【速報】
— 早川書房公式 (@Hayakawashobo) 2018年12月26日
SFマガジン百合特集は予約在庫全滅に対応するため、緊急の発売前重版を行いました。しかしその在庫も一瞬で枯渇。よって本日、追加の重版が決定! 3刷目の増刷は1959年の創刊以来、初めての快挙となります。
"百合の時代" 開幕のベルが鳴る――SFマガジン2月号全目次https://t.co/pq43Ni6nAd
“百合の時代”到来か?
この記事どう思う?
関連リンク
0件のコメント