まだ「修羅の国」とか言ってんの? ぼくりりと探る北九州の“本当“の魅力

まだ「修羅の国」とか言ってんの? ぼくりりと探る北九州の“本当“の魅力
まだ「修羅の国」とか言ってんの? ぼくりりと探る北九州の“本当“の魅力

POPなポイントを3行で

  • 北九州の魅力をさぐる、ぼくのりりっくのぼうよみ(ぼくりり)による探訪記
  • 海の幸、鍾乳洞、地元民と酌み交わす酒、ラーメン、文豪の地、漫画ミュージアム…
  • ぼくりりが考える、東京と地方の違い。それぞれの魅力とは?
北九州市と聞いて何を思い浮かべるだろうか。

明治時代、「黒いダイヤ」と言われた筑豊炭田の石炭や八幡製鐵所(やはたせいてつしょ)を中心とした鉄鋼業で、日本の近代産業の発展と戦後の復興をいち早く成し遂げ、また日本の高度成長を支えてきた。

だが多くの人がイメージするのは、ネットでも揶揄される「修羅の国」という言葉ではないだろうか。

工業地帯であることからの環境汚染のイメージ(北九州市のイメージカラーを聞くと、灰色と言われることが多々あるそうだ)、大規模暴力団の存在や派手な成人式を強調する報道は、これまで北九州市という地域の本来の姿を覆い隠してきた。

実際、10代までの時間を同じ九州で過ごしてきた筆者も、福岡には度々足を運びながら、博多から少しばかり離れた北九州市には少なからず「荒れている」という印象を抱いていた。

そして、北九州市がかつての深刻な公害問題を克服し、現在では環境分野での先進的取り組みが国内外で高く評価されていること、また、長年の懸案となっていた治安の改善も目覚しいこと。次世代育成環境ランキングでは政令指定都市で6年連続1位、また2018年には全国でもっとも住みたい地方都市1位に選ばれるなど、街は大きな変化の中にあるということ。そんなことなど、知りもしなかったのだ。

今回、そんな北九州市の地を巡ってもらうのが、シンガーソングライターであるぼくのりりっくのぼうよみ(以下ぼくりり)さんだ。 ぼくりりさんは、ネット上で早くから才能を開花させ、ジャンルというカテゴリー分けに捉われない楽曲を生み出して高校生でメジャーデビューを果たした。“早熟の天才”としてメディアから注目を集める存在。リリックの文学性の高さも評価され、エッセイや短編小説の執筆も行う。

地元や自身のルーツであるネットをレペゼンすることなく特定の領域に縛られないため、実体が掴めそうで掴めない、土着的文化の色濃い北九州市とは一見対極にありそうなアーティストだ。また、つい1ヶ月前に20歳を迎えた新成人でもある。

城下町、工業地帯、国際貿易の拠点、豊かな海産物など多様なバックグラウンドをもち、ネット上の風評に抗い再び奇跡の復活を遂げつつある北九州市と交わったぼくりりさんは、一体なにを感じるのだろうか。2日間、ともに北九州市の本当の魅力を探索した。

取材・文:和田拓也 撮影:山口雄太郎 編集:新見直 協力:ぼくのりりっくのぼうよみ/北九州市

「最高の旅」の予感に胸膨らませながら、小倉に降り立つ

快晴の北九州市に降り立ち、工業地帯の風景を遠くに眺めながら空港からバスで走ること約30分、最初にやってきたのは小倉駅だ。 すぐに出迎えてくれるのは、「ポップカルチャーの街」を目指す北九州市の新たなシンボル『銀河鉄道999号』だ。この小倉駅始発のモノレールは、旅の始まりを告げるように建物の合間をぬって頭上を走り抜けていく。

北九州市はツアーで福岡に来たときに、宿泊場所として来たことがあるんですけど、ゆっくり回ったことはありません。食べることが『自分カースト』の中でもっとも高いので、今回は北九州グルメを一番楽しみにしています!」とぼくりりさん。

活気あふれる北九州市の台所。色濃く残る昭和の風情

小倉城の城下町であった北九州市には、魚町、米町、馬借、船場町、鍛冶町、紺屋町など、当時商いごとに区切られた町名がいまでも多く存在する。

なかでも、北九州市随一の繁華街で、アーケード商店街発祥の地でもあるのが魚町だ。江戸時代、玄界灘で獲れた魚が荷揚げされていたこの町は、古くから「北九州市の台所」といわれている。 最も目を見張るのが商店街の活況ぶりだ。筆者も地元で身をもって経験しているが、地方の商店街は閑古鳥が鳴いていることも多く、シャッター街となってしまうケースも少なくない。だから、土日とはいえこれだけの人が、個人経営の店が多く集まる商店街に集まるのは新鮮だった。

小倉駅からすぐの魚町入り口には、創業1950年のパン屋「シロヤベーカリー」。ほとんどのパンが100円以下。特に練乳がぎっしり詰め込まれているサニーパン(90円)はちょうどいいサイズ感で、地元民のソウルフードとして長年親しまれている。パンの表面も甘い練乳で包まれており、指先に残った懐かしい甘さまで堪能してほしい。

「魚町はここ数年の間に多くのお店が出来て、賑わいが戻ってきている実感があります」と、北九州市職員の森井さんは話す。夜の活気も、数年前より確実に賑やかになっているという。

水上にひしめき合う「旦過市場」

魚町で北九州市の食を堪能する上で外せないのが「旦過市場(たんがいちば)」。川にせり出すかたちで、昭和30年代に建てられた長屋やバラックがひしめきあう、日本有数の水上マーケットだ。

神嶽川(かんたけがわ)を通る船が魚を荷揚げしたことから、このような形の市場が自然に形成されたそうだ。

ぼくりり「室外機がめちゃくちゃかっこいい...。攻殻機動隊のような、サイバーパンクの世界観ですね」 日本で初めて24時間営業を始めたスーパーマーケット「丸和スーパー」のある入り口から旦過市場へ入ると、迷路のような細い路地にお店がひしめき合う。「ぬかみそ炊き」といった江戸時代から伝わる北九州市名物からクジラなどの珍しい食材まで、新鮮な海産物が所狭しと並び、こちらも多くの人で賑わっている。

政令指定都市の中で「物価の安さNo.1」は伊達じゃない

あまりの美味しさに、余ったカナッペも平らげたぼくりりさん

ぼくりりさんが北九州市へ来て最初に食べたのは「カナッペ」。魚のすり身に玉ねぎ、にんじん、胡椒をまぜ、薄い食パンで巻いて挙げた旦過市場の名物だ。

ぼくりり「胡椒がピリっときいてますね。食感もすり身とは思えないほど、信じられないくらいふわふわしてます!」

市場の海産物で自分だけの丼をつくれる「大學堂」

次に立ち寄ったのは、旦過市場の超人気店「大學堂」だ。北九州市立大学の大学生と市民、市場がタッグを組んで運営しており、学生自身が店に立って自分たちの考案したメニューが並ぶ。 ここで絶対に「体験」して欲しいのが、大學堂が生み出したヒット商品「大學丼」だ。注文すると渡されるのは白米だけが盛られた丼ぶり なんと、自分で旦過市場を回って具材をチョイスし、オリジナルの丼ぶりをつくるというものだ。丼ぶりを持って食材を集めて回るスタイルは、もはやアトラクションだ。これを目当てに、全国から観光客が旦過市場に集まる。

「どっからきたとね?東京ね? うまいもんいっぱい食べていき!」と、フランクに話しかけてくれる

ぼくりり「これはもう、エンターテインメントですね。贅の限りを尽くしてる気分です」

市場で購入した海産物を、せっせとご飯に盛り付けていくぼくりりさん。まだ口にしていないのに、すでに満面の笑み

ぼくりり「普段食べてる魚と全然違います。特にうに。口の中にいれると一度うにの形が残るんです。それを舌で押すと潰れ、旨味がぶわっと出てくる。そこに魚介の臭みというものはまったくない。生まれてきてよかった…。これ仕事ですよね? 世の中の仕事という概念が刷新されています(笑)」

玄界灘産のうにをはじめ、ブリ、イカ、サワラ、イカ、赤貝...など米が見えないくらいに盛り、どれだけ盛れるかスタッフに対抗意識を燃やす。「ごはんが見えない!!」

ぼくりり「旅って、どこにピークを持ってくるかというところがあるじゃないですか。開始からいきなり絶頂なんですが、大丈夫ですか?(笑)」
ぼくりり、北九州のヤバすぎる海鮮丼を食べて崩れ落ちる!!

明治・大正の浪漫残る、かつての貿易拠点「門司港」

かつて石炭などを扱う国の特別輸出港に指定され、日本のエネルギー産業を支える重要な国際貿易港だった門司港。いまだに残るレトロな街並みは「門司港レトロ」として観光名所に。JR門司港駅は国の重要文化財に指定されている

「陽のあたる場所」で焼きカレー

ぼくりりさんが堪能した次なる北九州市グルメは、門司港発祥といわれる焼きカレー。訪れたのは門司港名物の焼きカレーフェアでグランプリも獲得した、20年以上続くレストラン「陽のあたる場所」だ。 山口県と福岡県を繋ぐ「関門海峡」を臨み、喧騒が海にかき消されたかの様な、静かな空間で味わう焼きカレーは絶品だ。

我慢できず、まさかのハンバーグと焼きカレー両方を食すぼくりりさん

北九州市の門司港は、明治時代横浜や神戸と並ぶ国際貿易の拠点であった。明治・大正時代の文明開化を思わせるレトロな建造物が現在も残り、デートスポットとしても人気が高い。宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の場となった巌流島への周遊フェリーも人気だ。

(左)三井物産の社交倶楽部としてつくられた「旧門司三井倶楽部」/(右)門司港が誇る歴史的料亭「三宜楼」

「旧門司三井倶楽部」はかつてアインシュタインも宿泊。現在、国の重要文化財に

賃貸を見るのが最近の趣味というぼくりりさん。北九州の家賃の安さ(政令指定都市1!)に、早くも移住を検討?

太古の大地の足跡と、幻想的な自然が溢れる場所

日本三大カルスト台地「平尾台」の絶景

北九州市のいいところは、都市と田舎のいいとこどりをした、ほど良さ」。北九州市職員の石川さんと森井さんは口を揃えて話す。

日本三大カルスト台地のひとつにも数えられる「平尾台」は、その田舎の良さが凝縮された場所だ。カルスト台地とは、石灰岩でできた地形のことをいう。

古代に珊瑚礁として形成されたという広大な台地と、無数に立ち並ぶピナクル(石灰岩の露石)が、車で向かった一向の目の前に広がる。これまでの工業地帯のイメージや、さらに小倉駅から約30分の位置にあることから、驚きはより大きかった。

景観維持や害虫駆除、林野火災の防止の観点から、2月末に野焼きされたばかり。植物が育つと緑が鮮やかに広がり、羊が放牧されているように見えることから、「羊群原(ようぐんばる)」と呼ばれる

ぼくりり「ものすごい景色ですね……。ここでMV撮りたいです。絶対カッコよくなりますよ」

特撮などの舞台として利用されることも多いという

文句なしの天然記念物「千仏鍾乳洞」

さらに山の奥まで進むと、千仏鍾乳洞(せんぶつしょうにゅうどう)がある。 平尾台にはケイビング(洞窟探検)をできる鍾乳洞がいくつもあり、サンダルを無料で借りて気軽に探索できる千仏鍾乳洞は、“体験型鍾乳洞”といわれている。

何万年もかけて自然が形成した鍾乳石と肌に触れるひんやりとした空気は、まさに日本の歴史と神秘を感じさせてくれる。鍾乳洞は初体験だというぼくりりさんも、興奮して突き進んでいく。 ぼくりり「最近モンスターハンターにすごくハマっているんですが、鍾乳洞の中に足を踏み入れた時、その世界に迷い込んでしまったんじゃないかと思いました。水も本当に綺麗!」

千仏鍾乳洞の入り口は、大小30余りの鍾乳石が垂れ下がる大偉観

ぼくりり「気分は小学生。ワクワクが止まらず、完全にマンガの主人公になった気持ちで冒険できます。それぞれの鍾乳石の、ネーミングセンスもすごいそそるんだよなあ」

中盤からは水に足を浸して進む。水は足が凍ってしまうかというほど冷たく、しかしより岩の肌理が冴えて幻想的になっていく。 最後は電気もなくなり、自然光の一切届かない完全な暗闇となる。そんな空間に普段身を置くこともないので、落ち着くのか、興奮しているのか、はたまた不安に駆られているのか自分でもわからなかった。だが、手に持つiPhoneの光に安堵したのは確かだった。

鍾乳洞は約900メートルに渡って延び、地表から染みこんだ水でできた地下川が流れる。一行が訪問した3月は、肌を刺すような水の冷たさだった

そして一番のハイライトは「地獄トンネル」だ。あまりに小さいため引き返すスタッフも多くいたが、「いや、これは行くでしょう!」とぼくりりさんが真っ先に突入。ぼくりりさんとともにいた筆者も…もちろん行かざるを得なかった。

膝上程度しかない「地獄トンネル」をくぐるには、冷水に下半身を沈める必要がある。その先には「第1の滝」が

鍾乳洞で禁断の「地獄トンネル」を潜ったぼくりり 彼を待ち構えていたのは!?
ぼくりり「ここはマストスポットですね。夏に来れば水も冷たくて気持ちがいいでしょうし、絶対に楽しいと思います。そして絶対地獄トンネルくぐったほうがいい。第3の滝まで行きたかった…」
ぼくりりが鍾乳洞に大興奮! 即興お経!?
そう興奮して話すぼくりりさんを見て、「これまで色々な方をご案内して来ましたけど、ここまで楽しんでいただいたかたははじめてです(笑)」と、森井さんは嬉しそうに話した。


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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1829)

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