笑顔で語るのは、“日本一小さい”とも言われる、福岡県北九州市にある「南大門」のご主人。 その立地にも度肝を抜かれた。 北九州市は門司(もじ)区にある、味のあるレトロな中央市場。狭い通路を歩いていると、突如その一角に現れるのが南大門だ。
40年以上も北九州市で焼肉に打ち込んできたご主人が、病気で倒れてお店を畳むこととなる。その後徐々に回復してきたため、現在は1組限定の焼肉屋を営んでいる。
この門司港の名物店、そしてご主人のスタンスこそが、北九州市という街の独自性を強く象徴している。
リモートワークの学びと北九州市の多様性
KAI-YOUが北九州市と組んで、その魅力を発信するようになって早2年。別件を含めて筆者はすでに4回、この地を訪れている。中でも今回の出張は、これまでで一番長い滞在となった。
今回が「1週間まるまる北九州市で暮らして、リモートワークをしながらプチ移住を体験してほしい」という依頼だったからだ。
旅とも旅行とも違う、プチ移住。移住先としてじっくり北九州市に向き合った筆者の目に映った、北九州市の姿。
目次
リモートワークと禁煙とリフレッシュと
独りぼっちの北九州市?
たなかと遊び倒した「北九州市」
本当の“多様性”とは何か?
写真で巡る北九州市
リモートワーク、どうだった?
現在、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっている中、すでに数々の企業や団体がリモートワーク(最近ではテレワークとも)を採用し始めている。IT系ライターはじめ多くの先人たちがそのメリット・デメリットを紹介しているが、1週間リモートで仕事をし続けた筆者の意見を駆け足で綴る。
テレワークの利点
圧倒的な時短
前後の移動時間が不要になる、だけではない。わざわざ足を運んで打ち合わせをする場合、なんとなく双方ともに“1時間くらい話さないと”みたいな暗黙の了解が存在する。
世間話をふくむ、当人たちもそれと意識しない引き伸ばし工作が介在している場合は多い。
しかし、これがリモートでのビデオや音声での打ち合わせとなるとこの謎の気遣いは雲散霧消し、とにかく必要なことだけを簡潔に話そうというモードに切り替わる。
これまで45〜60分ほどが平均だった打ち合わせ時間が、15〜20分、長くても30分程度に短縮される。仕事の効率化、こんなところから実現できた。
会議も同じで、通常、現実のすぐそこに相手がいるとまだ耐えられても、映像・音声のみという形で情報量が制限されると、途端に集中力が長時間続かなくなるため、結果的に無駄口が減り時短に繋がる。 なお、初顔合わせの打ち合わせが数件あったためビデオ通話も試してみたが、ポケットwi-fiによるネット環境に加えて、海から吹きつける強風でまともに音を拾えず苦労し、結局すぐに電話に切り替えた。 いろいろなパターンを試したが、結論としては、ビデオ通話で最初だけ顔合わせをして、あとは通話に切り替えればなにも不便がない。お互いPCで資料を確認しながら話せて実に健やかだ。
働く場所を選ばないことの素晴らしさ
北九州市には快適なコワーキングスペースが複数存在するので、そういった場所を活用して集中することもできる。 筆者は、広々として小ぎれいなスペースに、1日で1200円というお手頃価格の小倉駅近くのコワーキングスペース・秘密基地を愛用した。 宿泊していた北九州市を代表する観光名所の一つ、レトロな街並みが広がる港町は門司港にあるゲストハウス・PORTO(ポルト)でも仕事は捗った。 筆者は今年になって禁煙したため、仕事中、タバコの代わりにどうやって仕事間の区切りをつくりリフレッシュをするか、という命題に悩まされてきた。テレワークを行って気づいたのは、働くスペースを変えるだけでそのリフレッシュを簡単に得られるということだ。 働くスペースを自分の意志で選べる、というのがこんなにも心に安寧をもたらすとは。
テレワークの弱点
存在の希薄さ
存在が希薄になる。これは全く文学的な意味ではなくて、同じチャットツール(KAI-YOUはSlack)で同期して仕事をしているのに、お互いにとっての存在感が薄れてしまう。例えば、会議の時間にスタンバっているのに連絡がとれず、様子を聞けばすでに会議が始まっているではないか!ということが起こり得る。 ずっとビデオを相互に繋げておけばどうか、という意見もあったが、迂闊に変顔もできないので筆者には無理だった。
全員がリモートの場合、こういった現象は起きないかもしれない。本部の機能が特定の場所にあり、自分だけがリモートである場合、その現場の空気感との齟齬が発生する場面は多々あった。 ビデオ通話においては、画質や音質の問題もあるが、一番難儀するのは“遅延”だ。こちらの発信と向こうの受信とで、どうしても多少のラグが起こる。このラグは無視できないものでもないが、対面と比べて無用なぎこちなさを生まなかったとは言えない。
取材はリモートでは難しい
テレワークの欠点とまでは言えないが、筆者の職業柄、唯一、どうしてもリモートでは実現しづらいもの。編集者にとって、原稿を読むことと並んで最も重要な仕事である取材だ。打ち合わせが通話でいいなら取材もそれで済むと思うかもしれないが、それは大きな間違いで、対面とビデオ通話とでは情報量が桁違いだからだ。
相手のいる取材は、全神経を使って対象者の身振り手振り、表情や目線、口元の動きなどをうかがいながら、その人の呼吸や空気感を読み、こちらは質問や相槌をそこに差し込む。
この一発勝負の場においては、前述した、ビデオ通話によるささいな“遅延”が致命傷にもなりえる。ほんの一呼吸でもズレてしまえばリズムが総崩れになることもある。
大袈裟ではなく、これは同業者であればわかってもらえるはずだ。
今後5Gや通信技術がさらに発展すればここも解消されるかもしれないが、現時点ではそのように考えている。
だから、例えば大きな商談などはやはり対面の方がいい場合もあるだろう。人間は、目と耳でのみ対象を認識するわけではないということを痛感する良い機会だった。 しかしいずれも、職種や仕事内容、各自の習熟度に大きく左右されることだろう。たとえば元シンガーソングライターであるたなか氏は「曲づくりならリモートワークに向いてる」と太鼓判を押してくれた。
ポルトの代表(宿主)であり、多くの事業を抱える菊池勇太さん。門司港や福岡市、たまに東京など各地を行ったり来たりして、奥さんのいる家には数週間に一度しか帰れない生活を数年間送っている。 彼の「リモートワークなんて簡単です、どこでも働けますよ」という言葉の説得力は一味違う。
北九州市の地域性
実は、筆者は最初、プチ移住してほしいという依頼を丁重にだが断固として拒否した。週の半分以上を、仕事が終わって深夜飲みに繰り出す生活を10年以上続けてきた筆者にとって、友達のいない場所に(仮に1週間とは言え)移住するなんて、とても想像できなかったからだ。
この予想は良い意味で裏切られることとなる。
「兄ちゃんどっから来たん?」「良い靴履いとるねえ」飲食店はもちろん、銭湯で、スーパーで、商店街で、地元の人から話しかけられることが度々あった。お店の人ではない、通行人やお客さんから。
スーパーで並んでいて「今日は晴れてよかったねえ」と見知らぬ人に世間話を持ちかけられた経験はこれまでない。
筆者がよそ者だからかもしれない。「ここの人らは、見かけない人がいたらまず声かけますね」とはポルトの菊池さん。
かつてラッパー・ハハノシキュウさんが立ち寄った角打「かどまん」では(関連記事)、女将さんはじめ地元の人が、その人や土地の歴史を(とても記事に書けないこと含めて)赤裸々に語ってくれて、退屈しない夜を過ごした。 ゲストハウスという性質上、ポルトでも多くの人と──他の宿泊客はもちろんスタッフさんたちとも──酒を酌み交わすこととなった。 話し相手がいない、酒を酌み交わす相手がいないという不安から、自分よりも適任がいると辞退した筆者に「だからこそ北九州市に住んでみてほしい」と説得された意味が、今ならわかる。
たなかの北九州市訪問フォトレポート
途中、一泊二日でたなか氏が北九州市に遊びに来てくれたのも、独りぼっちは嫌だという筆者の身勝手なワガママが理由だった(アーティストだった前職「ぼくのりりっくのぼうよみ」時代から数えると2度目の北九州市訪問)。とにかくボルダリングにハマっていて、週の半分以上クライミングジムに通っているというたなか氏。北九州市の中心地・小倉駅に到着するや否や、直結する駅ビルのエスカレーターを下ると忽然と現れるユニークなクライミングジムに直行した。 彼の提唱する「#サク壁」なる概念があって、短時間でサクッと壁に登る行為を推奨するというもの。
まさに小倉駅はサク壁にピッタリの立地で、壁の登り心地も含めてご満悦の様子。 ジムによってコースは様々で、このジムは課題が「辛(から)い」としきりに感嘆しつつ、課題を陥落させる(たなか氏いわく「落とす」)ためにシミュレーションを重ねながら一つ一つに取り組む姿と闘志を燃やす目は完全に冒険家のそれ。今日はPCAでサクッと登ってきました!!めちゃ楽しかった〜 #サク壁 という言葉を流行らせてえ ボルダリングはシューズレンタルできるしそんなに汗かかないし短時間でサクッとやれるしめちゃおすすめだぜ カラオケ行くとかプリクラ撮るとかのノリで壁にいってほしい・・・みんなでサク壁しよう!!!! pic.twitter.com/ltKSknnUht
— たなかです / やきいも屋やる (@aaaaaatanaka) February 25, 2020
みんなで北九州市の壁を堪能したことは言うまでもない。 その後も、道中で地元の美味しいものを食べ歩いたり 宿でゴロゴロしたり 門司港にしか出回っていない幻の芋焼酎「地芋」を美味しくいただいたり 女将さんにアーンしてもらったり 翌朝は、コーヒー豆を挽いて宿の朝食と一緒にいただいたり 散歩の途中で本屋を巡ったり 動物ビスケットにテンションあがったり 「ここから俺たちの爆釣伝説が始まる」という予感で満たされたり 厳しい自然を前に人間はちっぽけだったり 焼き芋屋を始めるから北九州市の人気店を偵察したり 最後もサク壁したり 地元の人たちと打ち上げしたり あっという間の絶品ご飯とお酒とボルダリングと釣り旅を終えて、「北九州市、ほんとに良いところだ…控え目に言って最高の旅だった…」と言い残し みんなに見送られてたなか氏は去っていった。 3月10日から11日にかけて北九州市に滞在した様子は、たなか氏が自身のSNSでも積極的に発信してくれている(Twitter)。記事の最後には、彼のフォトギャラリーも。北九州でも #サク壁 をやっていく pic.twitter.com/SHSiAxl5BF
— たなかです / やきいも屋やる (@aaaaaatanaka) March 10, 2020
今すぐたなか氏のフォトレポートを見たい人はこちら 記事は続く。最後は、これまで見えてこなかった北九州市のもう一つの顔について。
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