地方はカッコつけなくていい。15歳で故郷を出たさなり、北九州市を巡る

POPなポイントを3行で

  • ラップ・アーティスト「さなり」の北九州市探訪
  • 15歳でひとり上京したさなり、北九州市に何を思う?
  • 地方の街おこしに活きる、さなりの「カッコつけない」
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これまでに、元“ぼくのりりっくのぼうよみ”ことたなかさん、“日本一脱げるシンガーソングライター”の藤田恵名さん、小説家で“日本一家にいたいラッパー”のハハノシキュウさんと、個性的なアーティストたちを北九州市に招き、それぞれの視点からこの土地の魅力について語ってもらってきた。

これで4度目となるKAI-YOUの北九州探訪。今回は、昨年末のデビューからまたたく間にスターダムへと上り詰めた16歳のラップアーティスト、さなりさんを迎え、北九州市で感じたものを楽曲とMVに落とし込んでもらった。 北九州市のことを本当に全然知らなくて、北九州“県”があるのかと思ってました」。

屈託なく笑いながらそう話すさなりさんは、北九州市を知らないがゆえに、“修羅の国”などと揶揄されていることも、その理由も知らなかったという。

「まあ俺の地元にも、北九州市が持たれてるような(物騒な)イメージに似たようなやつもいるし。北九州市が仮にそうだったとしても、そこまで気にならないですね。それこそ回ってみて物騒な印象なんて全然受けなかったですし」。

ふと、彼の地元のことが気になった。まだデビューから間もないため、彼のバックグラウンドはあまり明らかになっていない。

地元ってどんなところ?」少し突っ込んで聞いてみると、彼は伏し目がちに笑った。「なにも面白い話じゃないですよ?」と、これまで公には語ってこなかった過去について話してくれたのだが、そこには彼が若干15歳で地元を飛び出した理由があった 北九州市を巡る2日間で筆者が抱いたさなりさんへの印象は、「あまりに自然体」。これに尽きる。

若さなのか、もともとの性格か、彼の奔放で飄々とした態度は、見ていて気持ちがいいぐらい真っ直ぐだった。

そしてそんな彼の姿は、北九州市、ひいては日本全国の「地方」が地域の姿をいかに知ってもらうかに尽力するなかで、一つの指針になるのではないかと思わされるものだった。

取材・文:本田悠喜 編集:和田拓也 撮影:黒羽政士 楽曲制作:さなり MV制作:Hyori 協力:北九州市、スターフライヤー

「10年ぶりの旅行」 北九州市のグルメを堪能

取材前日まで降り続いた雨の残り香が漂う中、北九州市の小倉に降り立ったさなりさん。福岡にはライブで一度来たことがあるだけだそうで、北九州市へは初上陸だ。

「最後に家族でハワイに行って以来、たぶん10年ぶりぐらいの旅行ですね」

昨年のデビュー以来、ライブで各地を回ることも増えているというさなりさんだが、時間に余裕を持って街を歩くのは今回が初めて。10年ぶりの旅行気分を味わってもらいながら、小倉のグルメを堪能してもらった。 まずは、小倉駅から歩いてすぐのところにある魚町へ。北九州市でも最大の繁華街で、アーケード商店街発祥の地でもあるこの魚町の入り口には、1950年創業の老舗パン屋「シロヤベーカリー」がある。

カレーパン、サンドイッチといった定番から、ふわふわの生地に軽い口触りのクリームを挟んだオムレットなど、多様なメニューが並ぶ。ほとんどのメニューが100円以下と、リーズナブルな価格が財布に優しい地元の人気店だ。

さなりさんが「北九州市のおすすめ」をSNSで呼びかけた際に、ファンから多く挙げられた北九州市グルメだ。さなりさんは店の定番である、練乳がたっぷり入った「サニーパン」を頬張り、あっという間に食べきってしまう。どうやら甘いものが大好きで、流行りのタピオカ入りミルクティーにも目がないという。 次に訪れたのは「旦過市場」(たんがいちば)。

川面に柱が立った水上マーケットで、市場の中には日本初の24時間営業スーパー「丸和」(現在は「ゆめマート」に改名)のほか、鮮魚、精肉、青果、惣菜などを扱う商店が200軒以上ひしめき合っており、北九州市の台所と称される。 来年で創業100周年を迎える「小倉かまぼこ」の名物「カナッペ」や、老舗フルーツ屋「もりしたフルーツ」のフルーツジュース鰯と鯖のぬか味噌炊きを堪能する。

「コショウがすごくいい感じですね!」とさなりさん。カナッペはにんじん、たまねぎ、イトヨリダイのすり身を使った練り物を薄いパンで包んで揚げた逸品。こしょうのスパイス感が絶妙だ

様々な果物をふんだんに使ったジュースやパフェなどがメニューに並び、使い込まれた手動式ジューサーで絞られるジュースは、多くの世代に愛されている。さなりさんのチョイスは「フルーツスムージー」

気のいい店主に呼び止められ勧められた北九州市名物「ぬかみそ炊き」を実食。「美味しいすねえ。うん、美味しい!」と止まらない様子

また、さなりさんのファンからもっとも多く挙がったおすすめのグルメが、「門司港」の焼きカレー。焼きカレーも、この門司港が発祥とされている。さなりさんはこちらも一瞬で完食。若さって素晴らしい。

門司港の人気店「王様のたまご」。天気の良い日にテラス席で食べる食事は格別だ

歴史刻まれる都市と自然が融合する、北九州市のスポット巡り

28年ぶりに改修された小倉城内部へ

北九州市を象徴するスポットが「小倉城」だ。陸海両方の交通の要として、古くから重要な地であり続けた小倉を治めるために築かれたこの城は、小倉の歴史を語る生き証人でもある。小倉市街にいまも残る魚町、鳥町、紺屋町などの町名にも、城下町であった小倉の歴史が刻まれている。

また、今年のはじめに国の重要無形民俗文化財に指定された「小倉祇園太鼓祭」も、この小倉城を起点に生まれている。 そんな歴史のある城はこれまでに2度の再建を経ており、この3月に内部の全面改装を終えてリニューアルしたばかり。城の内部にはその歴史を記した資料が多数置かれているのだが、史実の中にある雰囲気を味わうさなりさん。 小倉城を訪れたさなりをもっと見る

小倉のオアシスで動物と戯れる

活気に溢れた小倉の中心地から少し離れれば、多くの自然に触れることができる。北九州市について、多くの人が「いい意味でごった煮」というように、都市と自然のバランスがとれたていることも北九州市の特徴だ。

さなりさんと向かったのは、多くの動植物が飼育されている「到津の森公園」(いとうづのもりこうえん)。4歳から小学生までは100円と格安で入園できることもあり、家族連れが多く子どもたちの姿が目立つ。 そんな子どもたちに混じって、動物園を散策するさなりさん。「あ、ここエサあげられるんや!」とニホンザルやヤギなどと戯れる。

「動物園に来たのは久々ですね。好きな動物は犬だから、犬いますかね?動物園に犬はいないか」

動物と戯れるさなりをもっと見る

「新日本三大夜景」をバックにバーベキュー

北九州市でもっとも人気のスポットのひとつといえば、「皿倉山」(さらくらやま)だ。標高622メートルの皿倉山は、関門海峡などに接して東西北に大きく広がる北九州を代表する山。「新日本三大夜景」のひとつにも選ばれた、日本でも随一の夜景スポットでもある。 ケーブルカーととスロープカーを乗り継いで山頂まで登れば、そこには圧巻、視野角度200度の大パノラマが広がる。 小倉駅周辺から工業地帯、北九州空港までを一望できる皿倉山は、山・海の自然と人口100万の都市が融合する北九州市を代表する観光スポットだ。さなりさんも、「これはやばいっすね!ちょっと写真撮っていいですか? すげえ!」と興奮の様子。 さらに、夏はこの絶景をバックに、バーベキューをすることもできる。こんな贅沢な夕食もないだろう。

「皿倉山頂で乾杯!星空ビアガーデン」は2019年7月12日(金)~9月1日(日)の期間限定で開催(要前日12時までの予約)/取材協力:皿倉登山鉄道

皿倉山で絶景に囲まれるさなりをもっと見る
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プロフィール

本田悠喜 // Yuuki Honda

本田悠喜 // Yuuki Honda

Editor / Writer

1993年生。福岡県出身。大学でメディア学を専攻。卒業後、自転車での日本一周に出発。同時にライターとしてのキャリアをスタート。道中複数の媒体に寄稿しながら約5000kmを走破。以降『NEUT Magazine』などさまざまな媒体で執筆・編集を行う。好きなサッカーチームはリバプールFC。YNWA.

黒羽政士 // Masashi Kuroha

黒羽政士 // Masashi Kuroha

Photographer

1988年生まれ。写真家・鈴木心のアシスタントを経て、2018年に独立。
趣味は同人誌制作。週刊少年ジャンプを毎週買っています。

和田拓也 // Wada Takuya

和田拓也 // Wada Takuya

Editor / Writer

1986年生まれ。Web媒体を中心に執筆・編集を行っている。ストリートやカウンターカルチャーが好きです。

Hyori

Hyori

Photographer / Videographer

様々なジャンルで活動する16歳のアーティスト。
写真では、TGCやDNCE、Celine Farachなどを撮影。映像では”さなり”の「Mayday」のMVを監督。
ペイントの活動では、LAと東京を本拠地とするスケボーブランド” ERASED”とコラボ。
7月には主催音楽イベント”NEVER LEVEN”を開催。

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