都会も田舎もひとは変わらない。ぼくりりと市職員が語る「地方と東京」
北九州市を巡る2日間も、あっという間に終わりを迎えてしまった。最後に、本企画を行うにあたり協力してくださった、北九州市職員の石川さん、森井さん、そしてぼくりりさんに、九州のうまい肉をつつきながら本音で語ってもらった。北九州市のこと、地方と東京のこと。情報のこと。 ──ぼくりりさんの、この旅一番のハイライトはなんでしたか?ぼくりり「食でいえば、角打ちからの「万龍」のとんこつラーメン。スポットでいうと鍾乳洞です! 本当に最高でした」
──もともと北九州市にはどんなイメージを持っていましたか?
ぼくりり「イメージといっていいかわからないですが、やっぱり入ってくる情報は、ネットでよくある「修羅の国」でしたよね」
石川「北九州市って、受動的に情報を受けてるだけだと、どうしても「修羅の国」で止まってしまうんです。しかし能動的に知ろうとすると、多様で他にはない魅力が詰まっている。今回実際に北九州市を回ってみて、ぼくりりさんが思う北九州市を一言で表すとどんなものでしたか?」
ぼくりり「一言で表すと…一言でくくるのが難しい街だなと思いました。
様々な歴史的背景と、活気のある古い商店街があって、食べ切れないくらいの美味しいご飯、漫画や文学、それに千仏鍾乳洞のような自然とアクティビティも楽しめる。そして温かい人たち。
今回本当に濃密で様々な経験をできて、一つの街にこんなに様々な要素があるんだって驚いたんです。観光スポットって、とりあえず行って写真撮って30分くらいで帰ることも多いじゃないですか。でも今回はひとつひとつが濃くて、千仏鍾乳洞ではしゃいだのが遠い昔のことのように感じます」 ──ツアーで福岡、北九州市に来たときは、それぞれどういう印象を持ちましたか?
ぼくりり「去年のNUMBER SHOTというフェスや、今年もツアーで福岡に行ったんですが、音楽を好きな人がすごく多いイメージが福岡にはあります。場所によって反応が違うんですけど、それが自分の中でおもしろいんです。
僕のライブって普段はあまりライブにいったりすることのない方、僕のライブで初めてライブ会場に足を運んでくれるような方が多くて、それがすごく嬉しいんですけど、福岡はライブのノリ方であったり、普段から沢山音楽を聴いてるんだろうなということを感じることができる場所。また違った嬉しさがあってすごく好きなんです」
──北九州市は、ここ10年でどんどん変化を遂げたにも関わらず、いまだに荒れたイメージが根強く残っています。イメージと実態との乖離という点について、ぼくりりさんは思うところはありますか?
ぼくりり「僕はSNSで発信するときやメディアに露出する際、自分を支持してくれている層ごとに自分の見え方を変えている部分があります。だから、一定層のファンが自分に期待しているイメージと、僕が僕に対して思う実態との間には少なからずギャップが生まれるし、それを意識的に生んでいるところもあるんです。ただ、北九州市がイメージと実態のギャップに悩まされているというのは逆にネガティブな側面だし、市としてはどう対処しているんだろうと、プロモーター的な視点から興味があります」
石川「こういう風に東京からPRで来ていただく、ということもひとつではあるんですが、情報の受け手の多様化というのが顕著にあって、そこにどう向き合うかというのは、組織としてもまだうまく定められていないというのが実情ではあるんです。
広くあまねく届けて行きたいというのも、それはそれでいいんですが、今、そういったメディアもなかなかないなと感じていて。テレビも一度流れてしまったらそれで終わりですし、CMを何回も流すということも、地方の予算ではなかなかできない。
それに、我々の思いとしてはやはり若い世代に刺さるようにしていきたい。
若い世代は固定観念なく、情報がすっと受け止められるので、今回ぼくりりさんが平尾台を楽しんでいる様を記事を通して見て、楽しそうだなと思ってもらえれば成功だと思っています。そういうことを継続的にやって積み上げて行くしかないのかなと」
石川「今回の企画のオファーがあったとき、ぼくりりさんはどう思ったんですか?」
ぼくりり「本当に素直な話をすると、これだけ楽しめる仕事なんて最高だなと思いました(笑)。でも実際に僕が楽しむことが、一番みなさんのためになるし、企画としてうまくいくんだろうなと思いました。なので、そこに変な打算とかなく、「どれくらい楽しませてくれるんだろう!」とワクワクしてました(笑)」
──結果どうでした?
ぼくりり「ただただ最高で、楽しかった。それが記事を通してうまく伝わればいいです。ないものをあるように伝えるのはすごく難しいですけど、北九州には実際に魅力が存在するので」 ──成人式も毎年荒れていると報道されていますが、このニュースについてどう思いましたか?アサヒ屋酒店のお父さんたちに聞いたのは、やはりイベントごとだから盛り上がるだけで、普段はすごいまじめだと仰っていました。
ぼくりり「僕はテレビのニュースをみないので、そこまで偏った印象は持ってなかったんですけど、単純に、一度定着してしまったものを剥がすのは難しいということですよね。
この間読んだ記事で、台湾地震を受けての赤十字の募金は彼らが私腹を肥やすために使われているというデマが、Twitterから広がって何万とリツイートされた。最終的に投稿者はそれを誤った情報だとしてツイートを削除、謝罪したんですけど、謝罪のツイートは数百リツイートしかされなかった。
どうしてもセンセーショナルで、おもしろい方向に物語として消費しがちで、「修羅の国」もそうですよね。受け手からすると、「手榴弾がめちゃくちゃ落ちてる」とかの方が過激でおもしろいじゃないですか」
石川「まさにそうですね。私も身をもって体験してるんですが、悪いニュースって広がるスピードや規模が本当に速いし大きいんです」
森井「僕ら自身も、それを自虐的にネタにしたり、受け入れる気質があるのが強みかなと思います。そういったことを利用して笑いにできる市民性はある」 石川「そうだね。ただ、それも裏を返すと誇りを持てていないということでもある。おらが街にどれだけ誇りをもって住んでいるかということに、私たちの業界では「Civic Pride(シビックプライド)」という言葉を使うんですが、北九州市民はいい意味でも悪い意味でもそこが福岡市に比べて低い側面もあるかもしれません。
すぐ隣に福岡市・博多という物流的にも経済的にも潤った、世界で住みやすい街ベスト5に入るような大都市があって、かつては肩を並べていたのが、気がつけば完全に負けている。1位になかなか勝てない、業界2位の悲哀のようなものがあります。
テレビや色んな方が「福岡っていいよね!」といってくれるけど、そこに北九州市は入っていないんです。だから、政令指定都市で住みやすい街ランキングで1位に選ばれたことは、市民としては驚きだった。これまで良く言ってもらえることに慣れてなかったので(笑)。地元は愛しているんですけど、どう誇っていいのかわからない人たちにとって、外から「いい街だ」といってもらえる環境は誇りになりますし、ありがたいなと思います。
決して勝ち負けではないんですけど、住む場所っていくつも選べないですから」 ──実際に案内してくれた市の職員さんや地元の方がたと接して、東京や横浜と違いは感じましたか?
ぼくりり「僕は街で普段生活していて、人の気質ってあまり認識しないんです。この土地は冷たい人が多いとか、人情があるとか、地方ごとに住人の気質が違うみたいな話って実際はないと思うんです。
では何がそう感じさせてしまうのかというと、暮らしの中でのコミュニケーションの総量のような気がするんです。東京や横浜で暮らしてると、知り合いじゃない人と必要以上に会話をしない。だからこそ、各地域の全体的な気質がどうこうというよりも、角打ちのような知らない人の気質がわかる環境があるということが、とてもおもしろいです」
石川「たしかに、僕らも普通の居酒屋にいったら隣の人と話すことは少ないですけど、アサヒ屋酒店のような場所にいくとあの空間に「もっていかれる」というか、繋がらざるを得ないですもんね。空気に飲まれてこちらから絡んだり(笑)」 森井「自分を出せば、受け入れてくれるというか」
──たしかにそうですね。コミュニケーションを良い意味で主体的に取らざるを得ない、自分を出せる仕組みや導線、環境づくりさえあれば、人間や情報は繋がる。だから東京や地方の人の性質がどうこうという問題でもないのかもしれません。
地方とは逆に東京の人は冷たい、人情がないとよく言われますが、話してみるとそんなことはないですもんね。実際に東京の人は多くが地方出身者なわけで、コミュニケーションが発生して円滑に流れる環境が地方と比べて少ないだけなのかもしれません。 森井「私もぼくりりさんに実際にお会いして思ったのが、もっとシニカルでストイックな方かと思ってたんですが、とても気さくで、いい意味で力が抜けていて意外でした」
石川「若者らしいというか。それでいて、目に力がある瞬間がやはりある」
ぼくりり「僕は行ったことのない土地、あったことのない人に対して、何らかのイメージをあまり持たないようにしているんです。いかに先入観を持たないか、勝手に決めつけないようにしてる。だって、自分がされたらいやじゃないですか。
今回、北九州市と他の都市の印象がどう違うかというより、実際に鍾乳洞や角打ちなどに行ってはじめて、“印象”を持つことができた。そして、北九州市という街に単純に愛着が湧きました。誰かが北九州市の話をしていたら「おっ」と反応してしまうと思う」
石川「では今日からレペゼン北九州市でお願いします。市役所公認で(笑)」
ぼくりり「サブリミナル効果みたいに、ライブとかでモスキート音みたいな聞こえない音で「北九州」っていれていこうかな(笑)。そして、僕は手榴弾推しは結構アリだと思いますよ!(笑)」
土地と情報、人と人の距離。故郷を思う
誰もが心に、故郷というものを持っている。しかし故郷は物理的な土地の出自だけでなく、音、匂い、会話、人がその土地で抱いた印象であり、愛着であり、記憶が生むものなのだと思う。そしてその記憶は簡単に頭の奥深くに埋もれてしまう。あまりにも身近だから。日々の生活が忙しいから。確実に存在する記憶や事実には多くの可能性があるはずなのだけれど、残念ながらインターネットやテクノロジーは、まだ僕らの五感を満たし、すべてを伝えてくれるわけではない。むしろ、アルゴリズムに編集された情報は、僕らが世界を知ることができる可能性を、世界を受け取る感性を、希釈し制限してしまう側面もある。
今回、角打ちで地元の呑んべえたちに酒を注がれたとき、職員のみなさんやなぜかアーティスト本人に肉を焼いてよそってもらったとき、鍾乳洞の冷んやりとした空気を肌に感じたときや、深夜にラーメン屋の主人に唐揚げをサービスしてもらったとき。楽曲を通してしか知らなかったアーティストや、ネットを通してしか知らなかった北九州市の人たちと旅を共にすることで、人と地域の情報にアクセスすることができたのだ。
すべての情報を知ることも、思い起こすこともできないのは、ネットも直接足を運ぶことも変わらない。しかし、知らない土地、北九州市の一部になることができた気がして、言いようのない浪漫を感じた。
それと同時に、何もないところだと頭の片隅に追いやっていた故郷を思い出し、近くばあちゃんの顔でも見に行こうかなと、カレンダーに「帰省」と予定を書き込んだ。
心残りは、朝から「小倉肉うどん/手打ちうどん 山ちゃん」を食べにいく予定が、起きること叶わず行けなかったこと。歯噛みしながらホテルをあとにしました。次回、必ずリベンジしたいです。振り返ってみると、ぼくの中に、北九州に対してある種の『愛着』のようなものが生まれていることに気付きました。これは特定のアーティストのファンになるような感覚で、誰かがその話をしているだけで、あるいはテレビに登場しただけでなんだか嬉しくなるし、それを人に伝えたくなります。そういう「北九州のファン」がたくさん増えたらいいなあと思いました。ぜひ遊びに行ってみてくださいぼくりりさん、2日間を後日振り返って
北九州のことを、もっと知る
この記事どう思う?
和田拓也
Editor / Writer
1986年生まれ。サッカーメディア「DEAR Magazine」を運営する傍ら、「HEAPS Magazine」などWeb媒体を中心に執筆・編集を行っている。ストリートやカウンターカルチャーが好きです。
Twitter: @theurbanair
Instagram: @tkywdnyc
SIte: http://dearfootball.net
山口雄太郎
Photographer
1987年長野県生まれ。
神田外語大学外国語学部国際コミュニケーション学科卒業。2010年ナショナルジオグラフィック国際写真コンテスト風景部門優秀賞、2015年上野彦馬賞入選、2014年・2017年清里フォトアートミュージアムヤングポートフォリオ作品収蔵。
http://www.yutaro-yamaguchi.com/
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1829)
いかんばい