インターネット上の誹謗中傷対策を強化すべく、大手YouTuber事務所のUUUMと、VTuberプロダクションを運営するANYCOLOR社とカバー社が連携を強化する。
UUUMが代表理事をつとめるクリエイターエコノミー協会は5月22日、前述した3社による「誹謗中傷対策検討分科会」の設置を発表した。
分科会では、誹謗中傷への損害賠償請求や警察との具体的な取り組みといった情報を発信。ドワンゴやホリプロなどの賛同企業12社に加え、総務省、警視庁刑事部などの後援を受けながら、メディアを通じて広く継続的に公表する。
誹謗中傷の加害者に対して厳しい結果を提示することで、抑止力を強化する狙いだ。
「誹謗中傷した加害者の結末が、いかに割に合わないものか」
クリエイターエコノミー協会は、クリエイターが活動しやすい社会環境をつくり、安全な活動を促進することを目的に2021年8月に設立された。
同協会は2023年6月、UUUM、ANYCOLOR社、カバー社、Google日本法人、noteらが参画する「誹謗中傷対策検討会」を設置。YouTubeの啓発キャンペーンへの協力や、誹謗中傷対策フォーラムの実施などの活動を展開してきた。
新たに「誹謗中傷対策検討分科会」を設置した背景には、こうした1年間の活動に対して、不十分と考えたことがきっかけだ。
5月22日に開催された分科会のメディア向け説明会では、協会の代表理事をつとめるUUUMの代表取締役社長・梅景匡之さんが登壇。
前述した検討会の活動を評価しつつも、「明確な悪意を持った誹謗中傷に対しては、啓発キャンペーンだけでは不十分」と説明した。
「悪意で誹謗中傷した加害者を待っている結末が、いかに割に合わないものか」──関係企業がノウハウやベストプラクティスを共有・協力しながら、法的措置を含めた断固たる対応を実施し、その取り組みを世の中へと発信していく。
UUUM、ANYCOLOR社、カバー社による分科会の設置は、対外的な発進時の足並みを揃え、これまで以上に多くの人へ誹謗中傷のリスクを知らしめるための、下地づくりと言えそうだ。
生成AIやアテンション・エコノミーも新たなリスクに
説明会には、「誹謗中傷対策検討会」のメンバーであり、誹謗中傷問題の有識者として国際大学GLOCOMの准教授・山口真一さんも登壇。
GLOCOMによる調査結果(外部リンク)や実際に発生した事件などを参照しながら、誹謗中傷の危険性を指摘。
さらに、ジャーナリストへの誹謗中傷の影響を紹介した上で、「インターネット上で活動するクリエイターの表現が萎縮する可能性がある」と説明した。
加えて、生成AIによる真偽不明な情報の氾濫や、情報の質よりも人々の関心・注目を集めた方が経済的価値を持つという概念「アテンション・エコノミー」の浸透を、近年の問題点として提示。
誹謗中傷にもつながるこうした問題点を踏まえて、クリエイターへのサポート体制づくりはもちろん、「誹謗中傷で訴えられ、人生がめちゃくちゃになる」といったことを、生活者へ啓発・教育していく必要性を訴えた。
「ほとんどの人が『反省している』『二度としない』と話す」
メディア向け説明会当日は、分科会を構成するUUUM、ANYCOLOR社、カバー社も、それぞれこれまでの誹謗中傷対策や直近で法的措置を講じた事例などを報告した。
UUUM・アライアンスユニット統括をつとめる竹川洋志さんは、「自社で誹謗中傷対策チームを組織した2020年以降、誹謗中傷に該当する投稿の削除率は上がっている」と紹介。
一般からの通報窓口も設置している中で、「ここ数年でファンや一般人からの通報のレベルが高まっている」とリテラシーの向上に触れ、そのおかげで法的措置の事例も積み上がってきたと振り返った。
バーチャルライバーグループ・にじさんじを運営するANYCOLOR社からは、ライバーマネジメント部 執行役員の麓貴隆さんが登壇。
「現在はVTuberに対する誹謗中傷も、民事責任・刑事責任のいずれの責任を負うケースも増えてきた」と、近年の変化に言及した。
一方で、「(加害者は)ほとんどの人が『反省している』『二度としない』と話す。でも、誹謗中傷された人が負った心の傷が治ることはない」として、行為の深刻さを示した。
VTuberグループ・ホロライブなどを運営するカバー社の執行役員 管理本部長・加藤卓さんは、2022年は146件、2023年は116件の誹謗中傷に対応したと報告。
その上で、「誹謗中傷は、加害者本人だけでなく、その家族や周囲の人にも迷惑をかけてしまうと強く感じる。法的措置を行なった際に、安易な投稿を後悔している加害者が散見される」とコメント。
3社ともタレントが負う傷の深さに加え、加害者側の人間関係への影響や金銭的負担の大きさに触れ、誹謗中傷という行為に警鐘を鳴らした。
誹謗中傷には断固たる措置、さらなる法整備への働きかけも
誹謗中傷を巡る問題は、近年常態化の一途を辿っている。特にXやYouTubeなどのSNS、インターネット上で活動するタレントの事務所を中心に、対策チームの設置が相次いでいる。
国も対応策を講じており、2022年7月には、インターネットやSNS上での誹謗中傷対策として、侮辱罪を厳罰化する改正刑法が施行された。
直近では2024年5月、改正プロバイダ責任制限法が参院本会議で可決・成立。名称も通称「情報流通プラットフォーム対処法」(法律名:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)へと改められる。
これはLINEヤフー、Google、Meta、Xなどの大規模プラットフォーム事業者に対し、誹謗中傷の投稿削除といった対応の迅速化や運用状況の透明化を義務付けるものだ。
UUUM・竹川洋志さんは、前述した2つの法改正を評価しつつも、「ゴールではない」と強調。「現状はプラットフォーム側の対応にも差があるため、その底上げに向けて、さらなる法整備も働きかけていきたい」と意気込んだ。
「誹謗中傷対策検討会」の設置からおよそ1年。活動を通じて、手応えと共に感じた課題に対して、「悪意のある誹謗中傷には断固たる措置を」というキャッチコピーのもと新たに発足した「誹謗中傷対策検討分科会」。
「〇〇への誹謗中傷した人物に100万円の損害賠償を請求」──こうした法的措置の情報をこれまで以上に広く発信しすることで、加害者を、そして被害者を減らそうという試み。
関係企業間による、これまで以上に踏み込んだ協力体制がポイントになりそうだ。
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概要
「悪意のある誹謗中傷には断固たる措置を」共同発表
- 主催
- 一般社団法人クリエイターエコノミー協会 / 誹謗中傷対策検討会 / 誹謗中傷対策検討分科会
- 賛同
- C Channel株式会社、株式会社ClaN Entertainment、株式会社ドズル、株式会社ドワンゴ、株式会社ホリプロ、株式会社IRIAM、一般社団法人日本ネットクリエイター協会(JNCA)、株式会社Natee、株式会社スターミュージック・エンタテインメント、studio15株式会社、株式会社STPR、株式会社VOISING
- 後援
- 総務省、警視庁刑事部、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)、弁護士法人Authense法律事務所、弁護士法人GVA法律事務所
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