「女だから」と言わないサルマの父
サウジアラビアにおける一夫多妻制は、イスラム教の教えもあって、すべての妻に平等に接することが絶対のルールです。例えば1人に宝石を贈るなら、全員に同価値のものを贈る必要があります。
それを成立させ、サルマと2人の妻が金銭的に不自由していない。なおかつ、過去にはアミーラの大学進学と留学の費用を出している。さらに、将来的には娘を海外へ留学させることも視野に入れられるサルマの父は、非常に裕福なのだと考えられます。
また、サルマに結婚を急がせず、彼女が就きたいと話す医者や弁護士の夢を応援しており、彼女の性別で将来の可能性を狭めていません。これは、女性の将来は結婚を前提とする同国では、珍しい考え方だと言えます。
サルマは生きていく上でいつかは結婚するのだと諦念を覚えつつあるのですが、別の選択肢を選び取ることが、もしかしたらできるかもしれない。実はそういう状況に立っていることが、それとなく示唆されているのです。
読み解くほどに、物語としての深みが増す名作
以上のように、フォーカスを変えると違った見え方が浮かび上がってくるのが「サッカーボールを蹴飛ばす日」でした。他の4編にもそうした工夫がなされています。
5ヶ国の少女たちが不条理を知り、現状への疑問を覚える、一種のスタートラインに立ったところで物語が完結しているため、一見、漫画としての“オチ”は弱いようにも見えます。
しかし、実はそうではないのです。作者の鋭い洞察があちこちで光っている。それを見つけることで読後感も変わっていく。そんな短編集が『女の子がいる場所は』です。
各国の女性差別の現状を知るきっかけとしても十二分に機能しつつ、深く読み込める余地もある名作になっています。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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