代表曲「命に嫌われている。」の大ヒットに加え、バーチャルシンガー・花譜さんのコンポーザーとしても知られ、もはや並ぶもののない覇道を行くカンザキイオリさんだったが、2023年3月に行われた花譜さんのライブにて、所属していたクリエイティブレーベル・KAMITSUBAKI STUDIOからの卒業を発表。 「自分のプロデュースを、自分自身で行ってみたい」という新たな挑戦に向けた前向きな理由ではあったが、その衝撃は大きく、今後の動向についても注目が寄せられていた。
そしてKAMITSUBAKI STUDIO所属アーティストとして最後の節目に開催されたのが、今回の2ndワンマンライブである。その記念すべき公演に掲げられたタイトルは「別れなど、少年少女に恐れなし」。タイトルからも感じる覚悟の強さは、ライブの中でいかに表現されたのか。
一切のMCなく一心不乱に駆け抜けた伝説の夜をレポートする。
取材・文:オグマフミヤ 編集:新見直 撮影:小林弘輔
目次
四季を巡る物語と共に
「あっ。」開演の瞬間を待ち望んでいた会場に響き渡ったその声によって、一気に空間が静まり返る。
「強く優しい風が吹いて、私の栞が飛んでいった。」
カンザキイオリさん本人による声で届けられたのは、歌ではなく朗読だった。ステージを覆う紗幕の半分には、語りと共に小説の文章が流れていき、もう半分には挿絵のようなビジュアルが映し出されている。 「あなたが死んだのはその次の日のこと」
描かれているのは、満開の桜と浴衣を纏った骸骨の立ち姿。春の暖かさと拭いきれない不気味さが心地よい違和感を胸に植え付けながら、この世を去ってしまったあなたを想う私の独白のような物語は進んでいく。
淡々とした語りは次第に熱を帯び、その静かな迫力に気付けば誰もが釘付けになっている。もしも私に願いが一つ叶うなら。願うなら、あなたと共に春になりたい。
願うなら、あなたと共に風になりたい。願うなら、あなたと共に桜になりたい。
願うなら、あなたと共に花びらになりたい。願ってもしょうがない。
鍵盤の優しくも悲しい音色と共に紡がれた言葉から、そのまま1曲目「願い歌」へと繋いでいく。震えて消え入りそうな歌声は、歌詞に込められた不安や惑いをそのまま映しているかのようで、微かな音圧に反した確かな重みを伴って胸に響く。人生は続く。ならば、今日この一日を、歩くことから始めよう。
救いなどもういらない。安寧などもういらない。
今この場で死んでしまってもいい。それでも私は生きている。
いつまで経っても、あなたの居ない日々を、毟り歩いている。
ピアノの弾き語りから始まった演奏に、次第にバンドメンバーも合流し始め、アンサンブルが構築されていくと共に歌声も熱を帯び、最後には大合唱も巻き起こして、伝説の夜は幕を開けた。
「命に嫌われている。」絶唱
1曲目から早くもクライマックスの様相だが、次なる曲のイントロが響くと本当の意味でまだまだ序の口であったことを思い知らされる。一音目からそれとわかるピアノの旋律から始まったのは「命に嫌われている。」だ。KAMITSUBAKI STUDIOのアーティストたちのみならず、多くのシンガーにもカバーされ、カンザキイオリさんの代名詞とも言える大アンセムを序盤に投下する大胆な構成にフロアも大熱狂。ライブハウスのスケール感に合ったストレートなロックアレンジが施されており、文字通り魂を吐き出すかの如き絶唱と合わさってオーディエンスの感情を震わせた。
昂りのまま腕を振り上げる人、涙を抑えきれず顔を覆う人、ただ立ち尽くす人、フロアに見えた千差万別の表情が、この曲がどれだけの人の人生に欠かせないものであるかを物語る。命に嫌われている。結局いつかは死んでいく。
君だって僕だっていつかは枯れ葉のように朽ちてく。
それでも僕らは必死に生きて 命を必死に抱えて生きて
殺して あがいて 笑って 抱えて
生きて、生きて、生きて、生きて、生きろ。「命に嫌われている。」
様々な思いの込められた拍手と歓声が会場を揺らすと、「結局死ぬってなんなんだ」へと続く。優しく染み渡るような歌声に合わせ、手書きのようなタイポグラフィが浮かび上がって、救いを求めて問いのナイフを突き立てる楽曲の雰囲気を多角的に表現した。
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