あなたの生み出した物は、花火に似ている。
季節は流れて夏へ。海辺を歩くわたしには強い日差しが照り付けている。「あなたの生み出した物は、花火に似ている。見る人全てに、ただ一方的に、感情を、意図を、熱意を押しつける。」
春の時よりテンポ良く綴られる描写が晴れ晴れとした夏の刹那性を感じさせると、どこからかひぐらしの鳴き声が聞こえてきた。夏の夕暮れを思い起こさせる中、始まったのは「あの夏が飽和する」だ。 小説にもなった少年と少女の物語がメロディアスな鍵盤の音に乗せられて加速すると、そのまま「人生はコメディ」へと続く。アコースティックギターの弾き語りスタイルへと移行したカンザキイオリさん、かき鳴らすギターの音色が削りだすように内心を晒す楽曲の世界観と絶妙にマッチする。
巻き起こるシンガロングがフロアのテンションをさらに引き上げると、「死ぬとき死ねばいい」に繋がり、魂の叫びを余すことなく表現しきってみせる。曲調をめまぐるしく変化させながらも、一つの川のように流れる物語がそれらを一つの作品にまとめ上げ、「あの夏が飽和するメドレー」を完成させた。 アコースティックギターの優しい旋律から「爆弾」へ。ショッキングなタイトルに反した穏やかな歌声にひぐらしの鳴き声や花火の音が重なり、手紙を記すように流れるタイポグラフィも見事にマッチして、夏の儚い美しさが表現されていく。
一転してステージがカラフルに彩られると、続いては花譜さんに提供した楽曲「花女」のカバーを披露。自らへの手紙という形で綴られる葛藤の歌は、音色こそ爽やかながらその一節一節が胸に突き刺さる鋭さを持ち、歌われてみればこれ以上なくセットリストに合致した一曲であることがわかる。
湧き上がる思いを包み隠さず曝け出すような歌唱は花譜さんとも似通っているが、作詞作曲した自らにしか込められない繊細なニュアンスをさらに織り交ぜて唯一無二のスタイルを築き上げ、シンガーとしての驚異的な表現力も見せつけた。大好きを言える それだけでいいの
これから何度傷つけあって 間違ってるなら教えてほしい
この花に誓う 大好きよ「花女」
「もっと歌え!」極上のバンドアンサンブル
そして季節は秋へ。舞い落ちる鮮紅の葉が、私を美しく彩る。時折涙ぐみ、息を詰まらせながら語られる言葉が物語の行く末に不安の影を感じさせたが、エレキギターへと持ち替えたカンザキイオリさんから連なるバンドアンサンブルが轟き、「君の神様になりたい」へ。猛る激情を表すかのようにレーザーも飛び交えば、クラップも煽ってオーディエンスのボルテージをさらなる高みへ導いていく。そうだね。奇跡なんてない。信じれば叶うなんてない。
愛があっても、お金があっても、失うものは失うし、過ぎゆく物は皆腐敗していく。
こんなに、苦しいのなら、あなたなんて居なければよかったのに。
あなたなんて愛さなければよかった。あなたなんて信じなければよかった。
そして熱気はリミットを越えて滾り、初期の名曲「アダルトチルドレン」へと繋がっていく。思うがままに歪むギターサウンドを鳴らしまくり、飛び散る血しぶきまで見えそうなほどに絶叫する姿は全身全霊で音楽へ挑む姿勢をありありと示すかのようで、自らつくりあげた独自の世界観をライブという表現方法で具現化させていく。 昂るままに「もっと歌え!」とオーディエンスも焚きつけて投下したのは、再び花譜さんのカバーで「過去を喰らう」だ。
卒業を発表した際にも花譜さんと共に歌った大事な一曲を、楽曲の勢いを一層増したロックアレンジで披露し、燃え盛る魂をさらにさらに燃え上がらせる。体の奥底へ響く極上のバンドサウンドでフロアの熱狂の最高値を更新すると、季節はいよいよ冬へと移り変わる。例えば僕らが街で出会って 夢のような話を紡げたら
あなたと僕は笑えるだろうか
画面の中であなたに会えたら 思い出すのは後悔ばかりだ
今でも愛しいよ あの頃に今も戻りたいよ「過去を喰らう」
この記事どう思う?
0件のコメント
コメントは削除されました
削除されました