連載 | #16 KAI-YOU COMIC REVIEW

『喧嘩独学』レビュー いじめられっ子が成り上がる方法は…YouTubeの喧嘩配信!?

『喧嘩独学』レビュー いじめられっ子が成り上がる方法は…YouTubeの喧嘩配信!?
『喧嘩独学』レビュー いじめられっ子が成り上がる方法は…YouTubeの喧嘩配信!?

『喧嘩独学』/画像はLINEマンガ公式Twitterより

陰キャがこの子とデート!? だがクラスメイトに絡まれ敗北…」という漫画の広告を見たことがあるだろうか?

一時期WebサイトやYouTubeでよく流れていたので、見たことがある人や、場合によっては鬱陶しく感じていた人もいるだろう。

では、実際に読んでみた人は…? 今回は、よく見かけるけど、実はよく知らない…という人も多いであろう作品『喧嘩独学』を紹介する。

総PV8億以上、漫画賞でも評価される『喧嘩独学』

『喧嘩独学』は、電子コミックサービス「LINEマンガ」にて連載されているオリジナルwebtoon作品。

T.Junさんが原作、金正賢さんが作画をそれぞれ担当。貧乏で力も弱いいじめられっ子の主人公が、動画配信サイト「ニューチューブ」で自身が喧嘩する様を配信し、成り上がっていくという物語が描かれている。

webtoonは、スマホでの表示に特化し、縦にスクロールして読み進めていく韓国発祥の新たな漫画形式のこと。日本で一般的な漫画形式とは異なり、雑誌のようなページの区切り方がされておらず、動画を見ているような読み心地が特徴的だ。

「LINEマンガ」における国内での総PV数は、記事執筆時点で2億2000万以上で、世界的には8億以上のPVを獲得(2022年3月時点)。

第25回⽂化庁メディア芸術祭・マンガ部門」でも審査委員会推薦作品に選出されるなど、広告のイメージとは離れているかもしれないが、しっかりと高い評価を得ている作品だ。

『第25回⽂化庁メディア芸術祭・マンガ部門』でも審査委員会推薦作品に選出される『喧嘩独学』

王道の「成り上がり物語」×現代的な「YouTube」という組み合わせ

本作は、『疾風伝説 特攻の拓』『ホーリーランド』『史上最強の弟子 ケンイチ』などのような、いじめられっ子が反旗を翻し、不良たちと戦っていく物語。

その過程で、お調子者の悪友や、拳を交わしたライバルたちと友情を築いていく。そう、みんなが大好きなタイプの作品だ

本作がこれまでのそういった作品たちと異なっている点といえば、YouTubeをモチーフとしている点だろう。

主人公の喧嘩は生配信され、視聴者たちがリアルタイムで反応する/画像は動画「【LINEマンガ公式】喧嘩独学」より

例えば、主人公を疎ましく思った別の「ニューチューバー」が虚偽の著作権侵害申請を行い収益をはく奪しようとしてきたり、過去の犯罪歴がキャラクターとして定着することで罪を償っていないにもかかわらず人気を得ているというキャラクターがいたりと、実際のYouTubeにも通じる生々しい描写が数多く登場する。

そのほか、主人公がYouTubeの謎の動画から習得していく技が、実際に総合格闘技で流行している技だったりと、細かなディテールへのこだわりが見て取れる。

また、登場するキャラクターたちは実在のブランドの服に身を包んでおり、ビジュアルとしてもインスタグラマー風の美男美女がそろっており、デザインの面でも今っぽい! と思わせてくれる。

『喧嘩独学』のヒロインたち/画像は動画「【LINEマンガ公式】喧嘩独学 PV (CV:小野友樹)」より

金も、力も持っていない主人公…彼がいじめより苦しんでいるのは?

主人公が不良に戦いを挑む動機の一つは、上記したように、いじめへの抵抗だ。しかし、そのこと自体よりも強く理不尽を感じているポイントとなっているのが、貧富の差だ。

病気の母親の治療費を稼ぐためにバイトを掛け持ちし、やっと日に5千円を稼いでいる主人公。

それに対して、「ニューチューブ」で莫大な登録者数を誇るクラスメイトは、昼休みに軽くライブ配信をしただけで、投げ銭で数万円を稼いでいく。

主人公を無理に動画に出演させ、見世物にすることでお金を稼ぐクラスメイト/画像は動画「【LINEマンガ公式】喧嘩独学 PV (CV:小野友樹)」より

そんないじめっ子たちへの反抗と成り上がりは、そのまま理不尽な経済格差を持つ社会への反抗にもなっている。

体格的にも、金銭的にも、社会的にも持たざる者である主人公が不良たちに一発かます様は、2重にスカッとさせてくれるだろう。

本作は現在、社会に絶大な影響力を持ち、政治家すら味方につけた強敵との決戦に差し掛かっている。

「成り上がり」という名作が多く生まれてきた王道の物語であり、それでいて「YouTube」という現代的なテーマを持っている本作。

改めて今、『喧嘩独学』を読んでみてはいかがだろうか。

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