加賀美ハヤト「WITHIN」
にじさんじ在籍のライバーの中でもっともグロウルボイス&スクリームを活かしており、もっとも歪んだギターリフが似合うライバーといえば、加賀美ハヤトさんだろう。デビュー配信からわずか4日後、ショートバージョンで公開された「WITHIN」の時点でその実力は発揮されていた。さらに、フルバージョンでは、ボーカルを全編録り直し、ベースを生演奏で再度収録。それに伴いミックス・マスタリングもし直すというこだわりぶり。緑仙さんと同様、彼は音楽を表現するための労は一切惜しまない。シンガーとしてソロデビューなどの未来を鑑みれば、今後の彼には注目大だ。
相羽ういは「夢へ向かって前ならえ!」
「バーチャル世界に現れた新人アイドル」という紹介文、キラキラと輝くブルーの衣装と笑顔がチャームポイントな相羽ういはさん。常人からズレた価値観から生まれるトークでリスナーやコラボ相手を笑いと困惑に導き、3Dのボディを得てからは常人とは思えぬ運動能力を活かし踊ってみた動画を多数投稿。にじさんじの中でも彼女の型破りさは目を惹く。だが同期である黛灰さんとアルス・アルマルさんによって歌詞が綴られたこの曲「夢へ向かって前ならえ!」にあるように、不安を拭うためには勇気・知識・仲間、そして明るいマインドを歌う。彼女が伝えたいことはとてもシンプルなのだ。
ラトナ・プティ「ワンルーム・プラネット」
ラトナ・プティさんにとって初のオリジナルソング「ワンルーム・プラネット」が公開されたのは、YouTube上ではなく、『SPOTLIGHT vol.1』というVTuberのコンピレーションアルバムの中でのこと。キック・ベース・シンセバッキングによる間を活かして組み立てられたサウンドに、ASMR配信を得意とする彼女のナイーヴで柔らかな声が絡めば、ゆるやかなベッドルーム・ポップへと変幻する。
病気療養もあって不定期な活動ではあるものの、インドア派な彼女にとって、自室こそが宇宙そのもの。まさに彼女のテーマソングと言える一曲は、ボカロPのシャノンさんによる書き下ろしだ。
不破湊「ラストソング」
不破湊さんの「ラストソング」で作詞・作曲を務めたのはまふまふさん。この繋がりは『スマブラ』対決のコラボ配信がきっかけだが、まふまふさんが不破さんに伝えたのは「本気で歌ってくれ」ということ。普段の配信では脳死トークでユルいムードが先立つ不破さんも、まふまふさん印のロック×シンセサイザーが噛み合ったハードなサウンドに食らいつき、真っすぐ熱唱で答えてみせた。
自身の3D配信やライブイベントでは、「ホスト」という言葉に負けない盛り上げ隊長としてパフォーマンスする不破さん。彼の本気は音楽を通し、よりストレートに伝わってくるのかもしれない。
白雪巴「SHUT-OUT」
落ち着いた大人の女性らしい低めの声色で、歌配信でも艶のある声でファンを魅了、継続的に歌動画を配信してきた白雪巴さんの「SHUT-OUT」。EDM〜エレクトロをベースにしたサウンドはYAB STUDIO所属のdaikiさんの手によるもの。歪んだサウンドに負けない声そのものの強さ、強烈にボーカル・エフェクトが掛けられても残る艶っぽいトーン。彼女の天性を捉えた一曲と言える。
余談だが、前出の不破さんとは互いにイジリイジられの同期。初お披露目となった3D配信は視聴者数・スーパーチャット額は群を抜いて多く、今後の活躍に注目すべき人物だ。
メリッサ・キンレンカ「haze」
2020年2月1日にデビュー。「バーチャルクリエイターを目指している」と紹介文にあるように、歌動画・雑談・お料理配信にゲーム配信と様々な配信を届けてくれるメリッサ・キンレンカさん。「エバ」を筆頭にしたカバー動画における、どこかスモーキーなトーンと気怠そうな歌い口は活かしたボーカルは、にじさんじライバーの間にも衝撃を与えた。これまでに自身の作詞・作曲による楽曲も公開しており「haze」もその一曲。スローテンポ、ソフトタッチな電子音、穏やかなムードによって、メリッサさんのくすんだ歌声は喪失と感傷が混ざり合った情感となって彩られている。
北小路ヒスイ「スピってる」
B級映画・プロレス・「勇者シリーズ」などのロボアニメが好きで、『Minecraft』を筆頭にゲームセンスも抜群、パソコンをはじめとする機械に強いなど非常に多趣味、サブカル〜アングラ系のカルチャーに詳しいなど、まさにサブカル女子の理想的な姿とも言える北小路ヒスイさん。そのセンスは楽曲「スピってる」にも現れており、アーバンギャルドの松永天馬さんを召喚し、オカルト〜霊的なテーマを落とし込んだ言葉とヒスイさんの艶っぽい声に導かれ、見事にスピった世界観が建立された。
ド葛本社「ヨツバフォエバ」
ドーラさん、葛葉さん、本間ひまわりさん、社築さんの4人によるコラボユニット・ド葛本社は、にじさんじ内でも最大級の注目を集めるユニットだろう。4人各々が忙しいこともあり、2020年中頃からなかなか顔をそろえることができなかったが、「にじFes2021」出演前日に突如として配信されたのが「ヨツバフォエバ」だ。sasakure.UKさんによる楽曲は、バラバラな出自を持つ4人ならではの苦労を綴りつつ、不器用な4人が再び手を繋ぎ合う結束の歌となった。ファンマークや自身の名前も織り込みながら、幸運な出会いに祝福と感謝を込めた一曲は痛切に響く。
さんばか「3倍!Sun Shine!カーニバル!」
戌亥とこさん、リゼ・ヘルエスタさん、アンジュ・カトリーナさん。同期組でコラボユニットを組むのはにじさんじでもよくあることが、その中でも飛びぬけた人気を誇るのが彼女ら3人のユニット・さんばかだ。アルバム『SMASH The PAINT!!』に収録された「3倍!Sun Shine!カーニバル!」。作曲の篠崎あやとさんと作詞の烏屋茶房さんといえば、TVアニメ『ダンベル何キロ持てる』で「お願いマッスル」をつくり上げたコンビ。名(謎)文句「アンジュそこ!戌亥ここ!リゼひよこ!」も加わり、ハイテンションで華やかに彩られたにじさんじで一番のパーティーソングとなった。
Rain Drops「オントロジー」
「オントロジー」は『カゲロウプロジェクト』の生み親であるじんさんの書き下ろし楽曲、というだけでその貴重さや重大さに震えていたRain Dropsのメンバー。ニコニコ動画発のオリジナルプロジェクトの中でも同作が与えたインパクトは絶大で、メンバーの童田明治さんは「じんさんは神」と崇めてしまうほど。じんさんが自画自賛したギターイントロから、6人によるボーカルリレーとサビで合わさる6人分の圧力は、未来へと歩めと力強く背中を押す。涙に喩えられる雨模様、その雲間に見える青空と未来、悔恨の念も背負いこんで生きようと歌い上げるのだ。
フルトイ「ゲッカビジン」
フミさん、ルイス・キャミーさん、白雪巴さんのコラボであるフルトイによる「ゲッカビジン」は、「リスナーへの恩返しをしよう」という想いからつくられた一曲だ。「こだわってつくろうと思ったら費用が足りず、3人でのボイス販売が想像以上に売れたことでオリジナル曲の制作まで至った」という経緯、発表段階で3人全員にとって初めてのオリジナル曲、気合と重圧は相当のはず。
生まれたのは、ジャジーなサウンドに「オトナな女性」の3人の歌声が柔らかく縺れ合う楽曲だ。遊郭の花魁をモチーフにしたMVと歌詞は、VTuberの熱狂と儚さを捉えたようでもある。
LazuLight「Diamond City Lights」
2021年5月からスタートしたNIJISANJI EN。その中で一番手にデビューしたグループがLazuLightだ。メンバーのエリーラ ペンドラ(Elira Pendora)さん、ぽむ れいんぱふ(Pomu Rainpuff)さん、フィナーナ 竜宮(Finana Ryugu)さんの3人全員が日本のアニメカルチャーへの強い愛好があり、この曲もド直球なアニソンサウンドに。J-POPの英訳カバーの制作や、米津玄師さんやSEKAI NO OWARIらの英語詞をサポートしてきたネルソン・バビンコイさんが全編英語での歌詞を担当。J-POP由来のメロディラインにマッチする英語詞とボーカル、その新鮮さ・違和感の無さには驚かされる。
OBSYDIA「Black Out」
NIJISANJI ENからのデビュー第2弾となったロゼミ ラブロック(Rosemi Lovelock)さん、セレン 龍月(Selen Tatsuki)さん、ペトラ グリン(Petra Gurin)さんによるグループ・OBSYDIA。制作に携わったのは、Teddy LoidさんとGigaさんの2人。最近ではAdoさんの「踊」などで共に制作することが多く、いま日本で「野蛮なポップス」をつくらせたら右に出る者がいないタッグとも言えるだろうか。「Black Out」はEDM・トラップなどベースミュージックを吸収したハードなエレクトロサウンドではあるが、ペトラ グリンさんとロゼミ ラブロックさんのソフトかつ薄い歌声も活きていて、必要以上に重々しい感触がない。
クラブサウンドを基調にしたポップスとしてのサウンドメイクとバランス、ボーカルのエディットに至るまで、Teddy LoidさんとGigaさんのセンスが存分に詰まっている。
NIJISANJI ID(ZEA Cornelia、Nara Haramaung)「Conquer The Night」
2019年9月にデビューしたNIJISANJI IDが4月中旬に発表した音楽プロジェクト「Virtual on Voyage」からのチョイス。NIJISANJI IDの1周年記念ソング「into reality」で作詞・作曲・編曲を務め、ボーカロイドプロデューサーユニットとしても活躍するREDSHiFTが制作に携わった「Conquer The Night」。歌詞のほとんどがインドネシア語なのだが、メロディやサウンドに至るまで「これは初音ミクやMOGRA出身のトラックメイカーがつくるエレクトロポップの音!」とすぐに楽しめるはず。生まれも育ちも言語も飛び越え、音楽はここまで伝わるのだ。
にじさんじ(月ノ美兎、静凛、樋口楓、える、剣持刀也、森中花咲、シスター・クレア、緑仙、ドーラ、本間ひまわり、鷹宮リオン、ジョー・力一)「VIRTUAL to Live」
発表されて以降、VTuberシーンの未来への希望や予見性を備えた名曲として知られる一曲であるが、当時以上の興隆の真っ只中でこの曲はどう響くだろうか。著しい毀誉褒貶は嵐そのものであり、多忙とプレッシャーによって体は蝕まれ、多くのVTuberたちが別れを告げた。「VIRTUAL to Live」は、それぞれが選んだ選択を後悔せず、幸せを掴むために歩みを止めることなく、必死に生きようともがくそれぞれのリアリティがコアとなっている。それは血と汗と涙が混ざり合った「叫び」に他ならない。今こそ耳を傾けるべきだ。
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日夜生み出される現象や事象を“ポップなまとめ記事”として紹介する人気連載。 いま注目を集めるジャンル、気になったときにチェックしたいトレンド──。 KAI-YOUでは「POP」を軸に、さまざまな対象をまとめて紹介していきます。
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