連載 | #45 ポップなまとめ記事をつくってみた

にじさんじ30曲レビュー 月ノ美兎、葛葉、樋口楓に海外勢も

にじさんじ30曲レビュー 月ノ美兎、葛葉、樋口楓に海外勢も
にじさんじ30曲レビュー 月ノ美兎、葛葉、樋口楓に海外勢も

画像はにじさんじ「Virtual to LIVE」MVより

POPなポイントを3行で

  • にじさんじオリジナル楽曲まとめ
  • 月ノ美兎、樋口楓、葛葉、緑仙ら
  • YouTube・サブスク・アルバム等から約30曲
月ノ美兎さんや樋口楓さん、葛葉さんら、バーチャルライバーグループ・にじさんじには多くタレントたちが所属している。唯一無二の個性を持ったメンバーは、バーチャルYouTuber(VTuber)シーンでも常に注目を集めている。

ネットシーンで活動を続ける中でファンから期待されるものの一つに、「音楽」が挙げられる。それぞれのバックボーンや特徴を活かした楽曲や、メンバーが考えるメッセージを詰め込んだ楽曲たち。多岐にわたる活動の中で、名刺代わりとなって自身を伝える役割を果してくれる。

今回は、にじさんじ所属タレントが発表してきた数十曲以上のオリジナル楽曲の中から30曲をピックアップ。既発曲をカバー歌唱した「歌ってみた」楽曲はチョイスしていないが、魅力的なタレントたちを語る上で外せない楽曲を紹介していく。

文:草野虹
※数字に順位やランキングなどの意図はありません。デビュー順を参考。随時更新予定。

目次

月ノ美兎「それゆけ!学級委員長」

VTuberをキャラクターとして捉えたとき、どうしても彼ら・彼女らの音楽は「キャラの個性を活かした自己紹介」な側面が求められがちになる。この点に意識的でなければ、魅力が零れ落ちてしまい大きな支持を得づらくなる。

その点、委員長・VTuberシーン・アイドルというバラバラな3つの要素を月ノ美兎さんの歴史で強引にひと繋ぎにした「それゆけ!学級委員長」は、まさに自己紹介としての役割を果たしている。そして、名盤『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』へとバトンを渡すことになった。

樋口楓「MapleDancer」

「樋口楓さんと言えばロック」というイメージを植え付けた決定的一曲「MapleDancer」。カッティングとスライド奏法による色気あるギター&ベースリフ、トランペットを模したリードに導かれ、VTuberという二次元と三次元の間に立つ存在や、樋口楓さんという身体性などにフィーチャーした歌詞が心に刺さっていく。

この曲において「ロック」がもたらしたのは「躍動性」にほかならない。その後のライブでも何度となく起用され、喜怒哀楽を隠すことなく爆発させる樋口楓さんの個性をうまく接続した一曲として広まっていった。

鈴鹿詩子「U・S」

鈴鹿詩子さんが2021年2月にリリースした「U・S」。ブイブイと鳴るシンセベースに乗せられ、ディスコ&ダンスなサウンドで思わずノってしまいそうになる。「ポンコツ腐女子でダメ人間」「BL性癖毎秒公開 動画の収益化 いつも剥がされてます」など自己全否定する弱音を吐きながら、それでもなお夢を叶えようと手を伸ばす。

彼女を通じて「U・S」読み解いたとき、アッパーなサウンドでIQをゼロにして踊れる楽曲というだけではなく、コンプレックスを糧にしてタフに生き抜こうとするブルースとして心に刻まれるはずだ。

森中花咲「此処に咲いて」

森中花咲さんの1stアルバム『下剋上』のラストを飾る一曲「此処に咲いて」。オレンジ色の花びら、花冠の形、曲中で何度となく登場する「小さい花」はフランス語で「petit fleurs」。どうしたって曲中の「君」は、御伽話のシンデレラのように可憐で、少しだけ騒がしかったあの人のことだろう。

カバーソング「ロックな君とはお別れだ」では怒りに似たさよならを告げたが、この曲では未来を見据えて優しくさよならを告げた。ウィスパー気味で優しいタッチの歌声が持ち味の森中さんによるメッセージソング。彼女は此処に立ち、此処で咲こうと宣言した。

笹木咲「煽動海獣ダイパンダ」

2020年3月にリリースされたアルバム『SMASH The PAINT!!』に収録された笹木咲さんのソロ楽曲「煽動海獣ダイパンダ」。彼女は一度にじさんじを辞め、復帰を果たした際にはカンザキイオリさんの「命に嫌われている。」の替え歌「笹木は嫌われている。」で鮮烈なるカムバックを果たした。

力の抜けたダラっとしたボーカルでゲーム愛を歌った同曲は、にじさんじ公式番組やライブにも起用され、「ゲームをやりたい/楽しみたい」というゲーマーとしての彼女を表現している。復帰理由を思い出せばその熱量は言うまでもなく、ゆるっとした関西弁トークのキュートさも表現した、彼女を象徴する一曲だ。

葛葉「コントレイル」

デビューから3年、男性VTuberとして、またにじさんじ所属のバーチャルライバーとして初の快挙となるYouTubeチャンネル登録者数100万人を達成した葛葉さん。

以前から自身のボーカルについては「下手だ」と否定してきたが、彼が溝口貴紀さんとともに作詞した「コントレイル」、これまでの道程を省みつつ、感傷を漂わせながら、支えてくれたファンに向けた感謝を告げた一曲に仕上がった。

配信日となった2021年9月28日、日付をもじった葛葉の日と曲名「コントレイル」ともにTwitterトレンドに座し、強い痕跡を残すことになった。

シスター・クレア「DOGMA」

当初、非公式ソングとして公開された「DOGMA」。数か月後にはシスター・クレアさん本人が歌唱し2019年10月に公式化。時を超えて2021年、歌い手の0によるカバーがTikTokでバズり、再度脚光を浴びるとは誰が想像したか。

歪んだベース&重たいキックサウンド、三連符を多用した符割に銃声音。聖職者たるクレアさんとは正反対の暴力性に溢れたリリックを、か細くもしっかりとした声でフロウしていく。

まるで罪人に死を与える執行者のようで、二次創作としてもピカイチ。のちに電音部で活躍することになるクレアさんの可能性の片鱗を、この楽曲から感じ取ることができる。

緑仙「藍ヨリ青ク」

モラトリアムや葛藤を描いた1stEP『It'sLie(イツライ)』を発表後、2021年8月下旬に催されたARライブで初披露・配信された「藍ヨリ青ク」。ブレスの位置もわからないほどに詰めに詰められた言葉とメロディラインは、マイナーキー由来の憂いと共にドン詰まり感を強める。

息苦しさや呼吸ができないという感覚は、冒頭で水の中に溺れる緑仙さんの絵からも、「気まぐれな常識に引き裂かれている」という歌詞からも象徴的だ。いくつもの息苦しさや救いを描く緑仙さん、そのオリジナリティは他を寄せ付けない。

竜胆尊「常夜鬼譚」

デビュー3周年を迎えた竜胆尊さんにとって、ファン待望の初めてのオリジナル曲となったのが「常夜鬼譚」。制作自体は2019年にはじまっていたが、様々な理由が重なり2021年に公開がズレこんだという。

竜胆尊さんといえば艶っぽいトーンの声色。それを活かすような曲調になるかと思えば、生ドラムとワルツ風なリズムが生み出すラウドさが前面に出たのがこの曲だ。平坦ではないリズムとグルーヴに、自身の生い立ちから今この刹那を想う気持ちまでを綿々と記した言葉を、歌としてストーリーテリングしていく。これぞ鬼の技だ。

町田ちま「6月のプレリュード」

町田ちまさんは、VTuberという枠を壊すような美声とビブラートを持ち味にした「ボーカリスト」であり、にじさんじ元Seeds組に類するぶっとんだお笑いセンスを持つ「やべーやつ」である。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第2期エンディングテーマである「フリージア」をネタにした動画・配信は、もはや彼女の持ちネタとも言えよう。

ちんまい体格と丸い声色なのに、下ネタアリのトークも厭わないギャップもぶっ飛ぶが、「フリージア」で作曲を務めた岩見直明さんが彼女の初オリジナル曲を作曲するというのもまたぶっ飛んでいる。自身のボーカルを遺憾なく発揮できるオリジナルのバラッドを手に入れた彼女は、こちらが願うまでもなく、とどまることを知らずに歩んでいく。

夢追翔「弱きに寄り添う」

バーチャルシンガーソングライター・夢追翔さんが2021年6月29日にリリースした1st prelude EP『絵空事への入り口』。全6曲すべてを作詞・作曲したEPで綴られるのは、弱い自分との対話であり、そんな自身を認めようとする勇気にまつわるストーリーだ。

楽曲「弱気に寄り添う」は、まさにそのメッセージを真っすぐに伝える。動画も自身の手で制作し、3DCGのボディでいくつものシーンを演じた彼、「バーチャルの垣根を超えた一人のアーティストとして大勢の人に認められる」という自身の夢を追いかけていく。

戌亥とこ「地獄屋八丁荒らし」

バリバリの関西弁、あんスタ大好き、にじさんじ随一の歌唱力をもつボーカリスト・戌亥とこさんの「地獄屋八丁荒らし」。自身の1stライブに先駆けて発表された初オリジナル楽曲は、ニコニコ動画からブレイクしたmajicoさんが作詞・作曲を務め、ジャズらしいムードをもった一曲に。

「寄席ですばらしい人気のある芸人」という八丁荒らしとバーチャルタレントの意味合いを繋げつつ、地獄という物騒なイメージをも捉えた音楽に仕上がっている。生バンドでの演奏がその一助になっているのは言うまでもなく、戌亥さんのスモーキーな声色もバッチリと映える。

リゼ・ヘルエスタ「ハッピーエンドをはじめから」

戌亥とこさんにmajicoさんが参加したように、リゼ・ヘルエスタさんにはボカロPで名を馳せたTOKOTOKO(西沢さんP)さんが作詞・作曲で参加。意識したかどうかは不明だが、こういうところで趣味が合うのも仲の良さを感じさせてくれる。

曲調は両者で全く異なり、「ハッピーエンドをはじめから」はギターのカッティングとドラミングが引っ張っていく明るいポップス。線は細いながらも透明感あるリゼさんの歌声は「世界は救えないけど 僕は勇者になって退屈な君を救いに行くのさ」なんて歌ってみせる。リゼ・ヘルエスタという繊細さと逞しさを持ち合わせた人柄を表現した一曲だ。

三枝明那「はんぶんこ」

にじさんじの中でも「自分は陰キャなんだ」と自虐するライバーは多いが、一時期の三枝明那さんは自虐という域を超えて自分を追いつめる節があったように見受けられたように思う。先のことが見えないVTuberシーンにあって、デビューから2年かけて彼はようやく自分のポジションを掴もうとしている。

三枝明那さんが窓に映る“君”と自分について歌った「はんぶんこ」は、「願いも希望も罪も欲も 全部纏めて僕だろ」と業(カルマ)や宿命を歌い上げ、己自身との対話を試みる勇敢な姿を描いた。

いヴどっとさんによる作詞・作曲と三枝明那さんの柔らかな歌声は、ファンに勇気を与えるメッセージとなり、自分自身の決意を表明するかのように響く。

レヴィ・エリファ「ハーフ・エルアール」

2021年7月に念願の3D化を果たし、8月下旬のAR LIVEに早速参加するとハスキーかつパワフルな歌声を活かしたパフォーマンスを見せてくれたレヴィ・リファさん。

デビュー当時から歌関係の配信や動画が非常に多く、彼女が感情の起伏をうまく抑揚としてコントロールでき、しかもオリジナルとは異なる質感として歌えるほどに自身のスタイルを確立しているのが伝わってくる。

この曲「ハーフ・エルアール」でもハスキー&力強い歌声を活かし、弱気な心の尻を叩き、前へと進めと歌い上げる。バンドサウンドにも負けないパワフルさは、今後様々な形で聴く機会が増えることだろう。

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日夜生み出される現象や事象を“ポップなまとめ記事”として紹介する人気連載。 いま注目を集めるジャンル、気になったときにチェックしたいトレンド──。 KAI-YOUでは「POP」を軸に、さまざまな対象をまとめて紹介していきます。

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