バーチャルライバーグループ・にじさんじのオリジナルメンバーとしてデビューし、精力的に活動しながらアニソン界の大御所レーベル・Lantis(ランティス)から楽曲をリリース。2021年2月にはワンマンライブ「Kaede Higuchi Live 2021 “AIM”」も成功させ、メジャーという苛烈なシーンで勢いを増す樋口楓さん。
満を持して8月25日に発売された2ndシングル『Baddest』は、7月より放送中のTVアニメ『100万の命の上に俺は立っている』(通称・俺100)第2シーズンのオープニングテーマ。待望の初アニメタイアップとして新たなファン層へも広がりをみせている。
シングルに収録されているのは、それぞれ大きく聞き味の異なる3曲。タイアップする作品になぞらえて「善悪」や「生死」といったハードなテーマを描くことに挑戦している。
激動のVTuberシーンに身を置き、その最前線で闘い続ける彼女が見てきたVTuberにとっての生と死とは? 今回のシングルをつくりだす上で避けては通れないテーマに相対したとき、彼女に起きた変化の正体とそれを経て辿り着いた新たな境地について語ってもらった。 取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多
樋口楓 確かに善悪とか生死、ポジティブとネガティブみたいな要素がテーマになっているんですけど、私はもともとネガティブな考えが強めで、でもそういう側面は隠しながら活動するべきだと思っているんですよね。
自分の全部をさらけ出して活動できる人はなかなかいないと思うし、他人に見せられない弱い姿は誰しもあって当然だとも思うんですけど、自分だからこそわかる自分のダメな部分に向き合い過ぎて悩んでしまう人もいる。
そういうポジティブとネガティブの対比みたいなものをより意識しながら歌っているんですけど、レコーディング当初は力み過ぎてしまって、プロデューサーの光増ハジメさんに「今まで通りでいいんだよ」って言われちゃいました(笑)。
──ではレコーディングもかなり苦労されたのでしょうか?
樋口楓 根っこがネガティブなのもそうなんですけど、さらに今回の曲がタイアップっていうのがプレッシャーになっていたのもあります。
作品の主題歌として多くの人の耳に入るけど、89秒間の尺で「これはすごい!」と思ってもらうにはどう歌えばいいんだろうって考えて、カチカチになっちゃってたんですよね。
──ランティスからデビューした時点で、将来的にアニソンタイアップも当然あるものだろうと考えていました。
樋口楓 もちろんランティスさんはアニソンの大御所レーベルです。ただ私がランティスさんからデビューしたいと思ったのは、作品の世界とライブをリンクさせる制作力に惹かれたからです。
アニソンタイアップは、いつかは担当できたらいいなくらいの考えだったので、2ndシングルでもう?!っていう驚きの気持ちも大きいですね。アニメ『100万の命の上に俺は立っている』PV
──表題曲の「Baddest」はアニメのオープニングらしい爽快感がありながらも、今までの楽曲以上に重厚なロックサウンドが特徴的で、シャウトも交えられていました。
樋口楓 当初は歌う予定ではなかったというか、レコーディング中はずっとシャウトの部分にサンプリングした音源が入っていたんですよ。でも、一通りレコーディングが終わってみんなでねぎらいの拍手をしていたときに、「まだ体力残ってるならシャウトやってみようか!」って流れになって。
もちろん今までやったことなかったし、改めてやるのもなんだか恥ずかしくて、大丈夫かなと思いながらレコーディングしたんですが、完成した音源聞いたらしっかり馴染んでいたので、やってよかったと思いました(笑)。
──違和感なくマッチしていましたし、迫力も満点でした。
樋口楓 配信でもよく叫んでますけど、歌でのシャウトってやっぱり全然別物で、もう喉がちぎれるんじゃないかってくらい。でも日々の配信で耐性がついてたのか、意外とすんなりレコーディングできて、スタッフさんも「できるならこれからもやっていこうよ!」ってノリノリだったんですけど、もう3年くらいはいいかなと思ってます(笑)。
樋口楓 私はもともと楽器の中でベースが好きなので、ベースメインの曲がつくりたいなとも思っていたんです。
加えて、この前のライブを振り返ってみると、ギターソロとかキーボードソロとかドラムのキメはあったのに、ベースの見せ場がつくれなかったんですよね。それで改めてスラップが入っていて、大人っぽいベースがメインの曲をつくりたいって提案したんです。
もともとインストの曲ばかり聞いてたので、ベースの音がもっと印象的に聞こえる曲をやりたいなと。そういうバンドサウンドの楽しみ方もみなさんに伝わったらいいですね。
──加えて早口での歌唱もポイントになっていますね。
樋口楓 今回は『俺100』という作品のカップリングでもあるので、作品とのリンクも考えた結果、早口で歌うという要素も盛り込むことになったんです。
アニメの主人公たちが中学生なので、中学生の頃の私がどんな曲を聴いていたかなと考えたときに、早口のボカロ曲とか激しめの曲がなぜか刺さってたことを思い出して。難しい漢字とか強い言葉っていう中学生男子が好きそうな要素も混ぜて、あの頃の私に響く曲をつくれたらいいなと思いました。 ──妙な懐かしさを感じる理由がわかりました(笑)。となるとこの曲は構想の段階から樋口さんのアイデアがかなり取り入れられているんでしょうか?
樋口楓 「Baddest」は初めてのタイアップなので、あまり口を出しすぎて樋口楓に寄りすぎてもよくないし、逆に作品に寄せすぎたら私が歌う意味がなくなってしまうという難しさを感じていました。
なので、ちょうどいいところを光増さんと作詞のRUCCAさんに調整してもらおうと思ってほとんどお任せしていました。ここの音色を変えたいとか、Bメロ長過ぎちゃうか? とか、どうしても気になるところはお伝えました。
でも「Sting or stung」と「ikiteku.」はそれ以上に細かく意見を取り入れてもらいました。強い言葉や難しい漢字を使いたい……とは言ったものの「Sting or stung」の歌詞の第一稿をもらったときに、スタッフさんと辞典で調べながら読んだにもかかわらず、全然意味が理解できなかったんですよ(笑)。
あくまで私基準ですけど、中学生に響くようにできていないなと思って、かっこよさはキープしたままもう少しわかりやすい日本語にしてほしいっていうオーダーを出して、歌詞についてはかなり細かく調整しましたね。
樋口楓 確かにこの曲をバーチャルな存在の私が歌うことで、そういうテーマにも繋がるとは感じていました。ただそれありきでつくったわけではなく、最初はバラードをつくらないかって提案していただいたのがきっかけでした。
私がよく歌うロックは楽しさや怒りなどの感情をぶつける音楽ですけど、バラードは自分の弱いところとか、素直な感謝を乗せたりするのでなんだか恥ずかしくて、あまり挑戦してこなかったんですよね。
でも、それを歌うことが成長に繋がるだろうし、今は苦手でも何年か後に聴いたときに良かったって思えればいいかなと考えて挑戦することにしました。 樋口楓 この曲はロックっぽい要素もあるんですけど、私としてはサラサラ流れる水のようなイメージで、体の中に染み渡るようなサウンドになってると思います。
作詞は安藤紗々さんにお願いしたんですが、今までの私の曲だとあまりなかった女性目線での詩を魅力的に書いてくれたので、より優しい聴き心地になっているんじゃないでしょうか。
私はあまり女性っぽいことをしないというか、配信とか普段の活動からいかついイメージを持たれてると思うんですけど(笑)。それでも考え方とかに女性っぽい部分もあって、今までは活動の中ではあまり表現できていなかったんです。それをなんとかすくい上げて、歌の中で表現したいと思っていたんですが、バッチリなものをつくってもらえました! ──感情をぶつけるのと内面を曝け出すのは、同じ歌唱でも感覚的には大きく異なるものなのでしょうか?
樋口楓 違いますね、バラードってライブでもめちゃくちゃ緊張するんですよ。「次バラードだ」って思うと身構えちゃうし、お客さんも改まって聞く姿勢になるじゃないですか。だからより歌に集中しないといけない、失敗しちゃいけないと考えちゃって、よりプレッシャーになってるのかなとは思います。
──アルバム『AIM』に収録されていた「mìmì」に続いて2曲目のバラードですが、経験を積んでもまだ難しく感じる部分があるのでしょうか?
樋口楓 まだまだ難しいですね。感情を込めるという行為は一緒でも、感覚的にはやっぱり違うんです。
勢いで乗り切れないぶん、メッセージを伝えることと正確に音を出すことを同時にやらなくちゃいけなくて、普段とは違う集中の仕方をしようとしてるのかもしれない。だからバラードめちゃくちゃ上手に歌う人は尊敬しちゃいます。
今回歌ったことで、もう3年くらいはえぇんちゃう? とも思っちゃうんですけど、毎回良い曲ができるから結局歌いたくなるんですよね。
満を持して8月25日に発売された2ndシングル『Baddest』は、7月より放送中のTVアニメ『100万の命の上に俺は立っている』(通称・俺100)第2シーズンのオープニングテーマ。待望の初アニメタイアップとして新たなファン層へも広がりをみせている。
シングルに収録されているのは、それぞれ大きく聞き味の異なる3曲。タイアップする作品になぞらえて「善悪」や「生死」といったハードなテーマを描くことに挑戦している。
激動のVTuberシーンに身を置き、その最前線で闘い続ける彼女が見てきたVTuberにとっての生と死とは? 今回のシングルをつくりだす上で避けては通れないテーマに相対したとき、彼女に起きた変化の正体とそれを経て辿り着いた新たな境地について語ってもらった。 取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多
目次
樋口楓、絶唱のニューシングル「Baddest」
──今回のシングルは、全体を通して善悪や生死といった重めのテーマを扱うという、今までにない挑戦をされていますね。樋口楓 確かに善悪とか生死、ポジティブとネガティブみたいな要素がテーマになっているんですけど、私はもともとネガティブな考えが強めで、でもそういう側面は隠しながら活動するべきだと思っているんですよね。
自分の全部をさらけ出して活動できる人はなかなかいないと思うし、他人に見せられない弱い姿は誰しもあって当然だとも思うんですけど、自分だからこそわかる自分のダメな部分に向き合い過ぎて悩んでしまう人もいる。
そういうポジティブとネガティブの対比みたいなものをより意識しながら歌っているんですけど、レコーディング当初は力み過ぎてしまって、プロデューサーの光増ハジメさんに「今まで通りでいいんだよ」って言われちゃいました(笑)。
──ではレコーディングもかなり苦労されたのでしょうか?
樋口楓 根っこがネガティブなのもそうなんですけど、さらに今回の曲がタイアップっていうのがプレッシャーになっていたのもあります。
作品の主題歌として多くの人の耳に入るけど、89秒間の尺で「これはすごい!」と思ってもらうにはどう歌えばいいんだろうって考えて、カチカチになっちゃってたんですよね。
──ランティスからデビューした時点で、将来的にアニソンタイアップも当然あるものだろうと考えていました。
樋口楓 もちろんランティスさんはアニソンの大御所レーベルです。ただ私がランティスさんからデビューしたいと思ったのは、作品の世界とライブをリンクさせる制作力に惹かれたからです。
アニソンタイアップは、いつかは担当できたらいいなくらいの考えだったので、2ndシングルでもう?!っていう驚きの気持ちも大きいですね。
樋口楓 当初は歌う予定ではなかったというか、レコーディング中はずっとシャウトの部分にサンプリングした音源が入っていたんですよ。でも、一通りレコーディングが終わってみんなでねぎらいの拍手をしていたときに、「まだ体力残ってるならシャウトやってみようか!」って流れになって。
もちろん今までやったことなかったし、改めてやるのもなんだか恥ずかしくて、大丈夫かなと思いながらレコーディングしたんですが、完成した音源聞いたらしっかり馴染んでいたので、やってよかったと思いました(笑)。
──違和感なくマッチしていましたし、迫力も満点でした。
樋口楓 配信でもよく叫んでますけど、歌でのシャウトってやっぱり全然別物で、もう喉がちぎれるんじゃないかってくらい。でも日々の配信で耐性がついてたのか、意外とすんなりレコーディングできて、スタッフさんも「できるならこれからもやっていこうよ!」ってノリノリだったんですけど、もう3年くらいはいいかなと思ってます(笑)。
樋口楓と『俺100』──どっちに寄りすぎてもよくない
──2曲目の「Sting or stung」はスラップベースが印象的で軽快な曲ですが、どのようにできあがっていったのでしょう?樋口楓 私はもともと楽器の中でベースが好きなので、ベースメインの曲がつくりたいなとも思っていたんです。
加えて、この前のライブを振り返ってみると、ギターソロとかキーボードソロとかドラムのキメはあったのに、ベースの見せ場がつくれなかったんですよね。それで改めてスラップが入っていて、大人っぽいベースがメインの曲をつくりたいって提案したんです。
もともとインストの曲ばかり聞いてたので、ベースの音がもっと印象的に聞こえる曲をやりたいなと。そういうバンドサウンドの楽しみ方もみなさんに伝わったらいいですね。
──加えて早口での歌唱もポイントになっていますね。
樋口楓 今回は『俺100』という作品のカップリングでもあるので、作品とのリンクも考えた結果、早口で歌うという要素も盛り込むことになったんです。
アニメの主人公たちが中学生なので、中学生の頃の私がどんな曲を聴いていたかなと考えたときに、早口のボカロ曲とか激しめの曲がなぜか刺さってたことを思い出して。難しい漢字とか強い言葉っていう中学生男子が好きそうな要素も混ぜて、あの頃の私に響く曲をつくれたらいいなと思いました。 ──妙な懐かしさを感じる理由がわかりました(笑)。となるとこの曲は構想の段階から樋口さんのアイデアがかなり取り入れられているんでしょうか?
樋口楓 「Baddest」は初めてのタイアップなので、あまり口を出しすぎて樋口楓に寄りすぎてもよくないし、逆に作品に寄せすぎたら私が歌う意味がなくなってしまうという難しさを感じていました。
なので、ちょうどいいところを光増さんと作詞のRUCCAさんに調整してもらおうと思ってほとんどお任せしていました。ここの音色を変えたいとか、Bメロ長過ぎちゃうか? とか、どうしても気になるところはお伝えました。
でも「Sting or stung」と「ikiteku.」はそれ以上に細かく意見を取り入れてもらいました。強い言葉や難しい漢字を使いたい……とは言ったものの「Sting or stung」の歌詞の第一稿をもらったときに、スタッフさんと辞典で調べながら読んだにもかかわらず、全然意味が理解できなかったんですよ(笑)。
あくまで私基準ですけど、中学生に響くようにできていないなと思って、かっこよさはキープしたままもう少しわかりやすい日本語にしてほしいっていうオーダーを出して、歌詞についてはかなり細かく調整しましたね。
生粋のロックシンガー・樋口楓として挑むバラード
──3曲目の「ikiteku.」はタイトルにも表れている通り、生身の「生」のようなものがテーマになっていて、樋口さんの音楽活動におけるテーマである「二次元と三次元の壁を壊す」にも通じると思いました。樋口楓 確かにこの曲をバーチャルな存在の私が歌うことで、そういうテーマにも繋がるとは感じていました。ただそれありきでつくったわけではなく、最初はバラードをつくらないかって提案していただいたのがきっかけでした。
私がよく歌うロックは楽しさや怒りなどの感情をぶつける音楽ですけど、バラードは自分の弱いところとか、素直な感謝を乗せたりするのでなんだか恥ずかしくて、あまり挑戦してこなかったんですよね。
でも、それを歌うことが成長に繋がるだろうし、今は苦手でも何年か後に聴いたときに良かったって思えればいいかなと考えて挑戦することにしました。 樋口楓 この曲はロックっぽい要素もあるんですけど、私としてはサラサラ流れる水のようなイメージで、体の中に染み渡るようなサウンドになってると思います。
作詞は安藤紗々さんにお願いしたんですが、今までの私の曲だとあまりなかった女性目線での詩を魅力的に書いてくれたので、より優しい聴き心地になっているんじゃないでしょうか。
私はあまり女性っぽいことをしないというか、配信とか普段の活動からいかついイメージを持たれてると思うんですけど(笑)。それでも考え方とかに女性っぽい部分もあって、今までは活動の中ではあまり表現できていなかったんです。それをなんとかすくい上げて、歌の中で表現したいと思っていたんですが、バッチリなものをつくってもらえました! ──感情をぶつけるのと内面を曝け出すのは、同じ歌唱でも感覚的には大きく異なるものなのでしょうか?
樋口楓 違いますね、バラードってライブでもめちゃくちゃ緊張するんですよ。「次バラードだ」って思うと身構えちゃうし、お客さんも改まって聞く姿勢になるじゃないですか。だからより歌に集中しないといけない、失敗しちゃいけないと考えちゃって、よりプレッシャーになってるのかなとは思います。
──アルバム『AIM』に収録されていた「mìmì」に続いて2曲目のバラードですが、経験を積んでもまだ難しく感じる部分があるのでしょうか?
樋口楓 まだまだ難しいですね。感情を込めるという行為は一緒でも、感覚的にはやっぱり違うんです。
勢いで乗り切れないぶん、メッセージを伝えることと正確に音を出すことを同時にやらなくちゃいけなくて、普段とは違う集中の仕方をしようとしてるのかもしれない。だからバラードめちゃくちゃ上手に歌う人は尊敬しちゃいます。
今回歌ったことで、もう3年くらいはえぇんちゃう? とも思っちゃうんですけど、毎回良い曲ができるから結局歌いたくなるんですよね。
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