バーチャルライバーグループ・にじさんじのメンバーとして日々の配信活動も活発で、様々なライブにも参加しながら表現者としての幅を広げている。
そんな樋口楓さんにとって初のミニアルバム『i^x=K(いこーるわたし)』が5月25日にリリース。メジャーデビュー以降タッグを組んでいる光増ハジメさんが音楽プロデューサーを務め、在日ファンクやシンガーソングライター・佐伯youthK(佐伯ユウスケ)さんといったバラエティ豊かなクリエイター陣が参加。
今回はミニアルバムを彩る多彩なクリエイター陣から、「怠ッセイ!怠ッセイ!(だっせいだっせい)」の作詞・作曲・編曲を務めたYASUHIRO(康寛)さんをゲストに、樋口楓さんとの対談をお届け。ライブ映え必至のハイテンションナンバーに込められた思いや、トラックメイカーを驚嘆させた樋口楓さんの強いこだわりが明らかになっていった。
取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多
目次
今までの樋口楓になかった楽曲
──早速ですがミニアルバム『i^x=K』の収録曲「怠ッセイ!怠ッセイ!」は、ストレートなギターサウンドが印象的なバンドアンサンブルでした。現代社会への怒りが込められたような歌詞も面白かったです。樋口楓 私自身、世の中への不平不満みたいなものに怒るというよりは、自分の行動に対して何か悪かったかなって思ってしまうマイナス思考型のタイプなんですけど、思い返してみると小さい頃はそんなことなかったんですよね。
だんだんと大人に抑圧されて今のようになっていったんですけど、小学生とかの頃は「ふざけんな!」とか言って怒りを発散していたし、そういうのも悪くはなかったんじゃないかと思ったので、そんなガキンチョの頃の樋口楓を思い出す感じで歌いました。
──MVのコメントやツイートでも「でろーんらしくてかっこいい」といったファンからの反応が見られましたが、楽曲のイメージはどのようにつくり上げていったのでしょうか?
YASUHIRO(康寛) 樋口さんらしいとファンの方々に思っていただけたのは、ものすごくありがたいです! ですが制作の段階では、樋口さんに寄せようという意識ではありませんでした。
「女子高生が抱えるようなバチバチとした思いを広げていってほしい」というオーダーがあったので、まずそこに自分の過去も重ねてイメージしていったんです。
一般的な社会人でもそうですけど、特に学生など若い世代にとっては、まだまだ人との距離の測り方が難しいと思っていて。少しでも判断を誤ってしまうと、それがずっと修正できないほどの影響を及ぼすことがありますよね。
だから、時には自分のこだわりを歪めないといけないこともあるかもしれないんですけど、そうした息苦しい環境で頑張っている人たちに向けて、それぞれの軸や信念を曲げないで頑張ってほしいというメッセージを込めました。 ──実際に完成した曲を聴いてみていかがですか?
YASUHIRO(康寛) イメージ通りバチバチに歌ってもらえたので、普段から戦うタイプの方なのかと思っていたんですけど、結構消極的なんですか?
樋口楓 根っこの部分では消極的ですね。怒られるのは嫌なので(笑)。
YASUHIRO(康寛) 歌にはまったくそうしたニュアンスを感じないので意外です。でも曲をつくらせていただくにあたって、過去の曲も聴かせていただいたんですけど、意外と「怠ッセイ!怠ッセイ!」のようなモノ申す系の楽曲ってなかったですよね。どちらかというと樋口さんの伝えたいメッセージを描くような曲が多いというか。
樋口楓 そうなんですよ! ファンへ寄り添うことや、前を向こうみたいなプラス思考の曲がほとんどでした。
YASUHIRO(康寛) だからこそ「怠ッセイ!怠ッセイ!」は激しめの展開や主張が強めの歌詞で、普段の配信でみんなが見ている樋口さんのイメージに近い曲になったのかなと思うんですが、ファンの皆さんからの反応がいいと聞くと良かったなと思います。
樋口楓 「ずっとこういうのを待ってた」という人も結構いたので、意外といつもの樋口楓みたいな強めの気性を、そのまま歌に出してもいいんだなって気づけましたね。
ライブ映えしそうな「怠ッセイ!怠ッセイ!」
樋口楓 そんな明確に意識が違うわけじゃないんですけど、やっぱり樋口楓のファーストインプレッションはキツめというかオラオラ系だと思うので。それをそのまま歌に込めると怖くなってしまうかなと思って、今までだったら手を出しにくかったところはあります。
でも今回の曲は、パワフルですけど曲調がコロコロ変わって面白いし、その中に怒りや心の叫びも出すことができたので、ファンのみんなも喜んでくれたし、新しい挑戦ができたと思います。
──確かに多彩な展開は大きな魅力のひとつで、そこに言及するコメントも多かったですね。
YASUHIRO(康寛) バンドサウンドをつくる上でどうしてもライブで映えるかを意識してしまうんですが、展開の多彩さはライブ映えを軸に考えていきました。
VTuberさんのライブは一般的なライブやコンサートとは異なる独特さがありつつ、それらに引けをとらない一体感や熱気がありますよね。
そこで披露されたときに、しっかりと楽しい楽曲じゃないとダメだよなと思いましたし、リアルライブでもバーチャルライブでもみんなで共有したときに楽しんでもらえるような要素を詰め込みました。
樋口楓 「怠ッセイ!怠ッセイ!」とか超わかりやすく盛り上がるフレーズがありますし、ファンの人だけじゃなくて初見の人にも楽しんでもらえると思います。アニクラとかでかけてもらっても盛り上がる楽曲になったんじゃないでしょうか。
ライブでみんなで声が出せたら最高ですけど、バーチャルライブとかでもコメントで弾幕が流れたりするのかなと思うと楽しみです。
YASUHIRO(康寛) VTuberを知らない人にも楽しんでもらえるような楽曲というのは、オーダーの段階でもいただいていた要素でした。なのでバズる要素というか、初めて聴いても頭に残るような楽曲にしたかったので、パッと聴いて覚えられるようなフレーズは意識しました。
『i^x=K』は全曲B面なアルバム?
──具体的に最初の段階ではどのようなオーダーがあったんですか?YASUHIRO(康寛) 最初に言ったような女子高生の主張というか、荒々しい思いを大きなテーマとしていただいたんですが、基本的には自由でした。
それでまずワンコーラスデモを共有したんです。案件によっては修正をお願いされることもあるんですけど、今回は歌詞まで含めてほとんど直しがなかったので、そこからさらに楽しいことを詰め込みながら進めていきました。
樋口楓 毎回楽曲のテーマは私が案を出して、それを実現してくれるようなクリエイターさんを探す形で進めています。今回の『i^x=K』では、私が今まで聴いてきたジャンルを踏まえて、音楽を楽しみつくすためにいろんな方向性の曲をつくりたいと話していました。
その中で、「怠ッセイ!怠ッセイ!」に関しては、キャッチーで耳に残りやすく、みんなに面白いと思ってもらえるような曲にしたいと思いました。歌詞のラフの時点で「怠ッセイ!怠ッセイ!」のところは絶対盛り上がるだろうなと思いましたし、スッと入ってくるような内容だったので、もうこのままでいいんじゃないですかと(笑)。
サウンドも目まぐるしいし、歌詞も面白くて、こういう楽曲は元々好きでした。いろんな表情を見せられると思いましたし、本当に理想の楽曲が一発目に来たので、もうこれしかないと感じたのを覚えています。
YASUHIRO(康寛) めちゃくちゃありがたいです。『i^x=K』はロックサウンドもありつつ、かなり攻めてる楽曲が多いなと思ったんですが、そうした楽曲の方向性もガッツリ樋口さんの意見を軸につくってるんですね。
そう考えると今までの曲、たとえば「アンサーソング」とかも真っ直ぐな曲かと思ったらAメロで裏拍が入っててスカっぽかったりもしましたし、ああいう曲調の工夫は誰が決めてるんだろうと。
プロデューサーの光増さんは、もっとアニソンっぽい楽曲が得意なんだろうなとは思うんです。だから、無理言って私の好きな感じの曲をつくってもらっているかもしれません(笑)。
YASUHIRO(康寛) 普通はA面っぽい楽曲をつくるというか、みんなが求めてる感じのポップな楽曲をメインに据える形もありだと思うんですけど、アルバム全体として、今回は良い意味でどれもB面っぽいんですよね。一般的には知られてないけど、ファンからめちゃくちゃ愛されてるような曲が詰め込まれてるというか。
樋口楓 それは結構正しい表現かもしれないです(笑)。
YASUHIRO(康寛) 挑戦的でもありますし、樋口さんのファンは喜んでくれますよね。加えてマニアックな音楽ファンも関心するような内容になってるんじゃないでしょうか。
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