樋口楓になるまでの物語を表現したワンマン
──今回のシングルと同時に、2月に行われたライブの映像作品『Kaede Higuchi Live 2021 “AIM” Blu-ray』も発売されます。2年ぶりのワンマンにして、久しぶりのお客さんを入れてのリアルライブだったと思いますが、振り返っていかがですか?樋口楓 今までのライブでは、同じにじさんじのメンバーだったりゲストさんがいて、一緒に歌うってパートがあったんですけど、今回は最初から最後まで完全に1人でした。映像を見返してみると、緊張というか、怖かったんだろうなっていうのは感じました。
今でこそ笑い話ですけど、Slack(※社内コミュニケーションツール)を見返したら、ライブ前にめちゃくちゃ不安な文章をスタッフさんに送ってるんですよ。「こんな状態じゃライブできません」とか(笑)。
──1人だけというのが大きかったんでしょうか?
樋口楓 それ以外に、初めての挑戦もたくさんあったので、成功させたいって思いより失敗しないか心配な気持ちが大きかったんだと思います。
ライブの直前配信に月ノ(美兎)さんにきてもらって、緊張をほぐすつもりだったんですけど逆にもっと緊張しちゃって。1人きりのライブはにじさんじとしても初めてだったから、私のライブが基準になると思うとより失敗できないと思ったんです。
その前と比べて、技術も演出もパワーアップしてるぶん私も頑張らないととか、いろんなことを考えすぎていたんでしょうね。 ──現地で拝見していましたが、プレッシャーを感じさせつつも、それを乗り越える強さがあったと思っています。
樋口楓 ライブ直後は怖くて見返したくなかったんですけど、今回のBlu-rayに収録するオーディオコメンタリーのために見なきゃいけなくて、やっと見れたのが3か月後くらい。
その間に、「にじフェス」(にじさんじ Anniversary Festival 2021)で他のライバーと一緒にライブもしたし、みんなが頑張ってる姿も見れたので、恐怖心はありながらもちゃんと反省点を振り返りながら見ることができました。
改善点もたくさんあったので、次回はもっとうまくできるようにって思ってます。
──ライブ本編は意味深な映像のオープニングからはじまり、22歳の樋口さんからの手紙パートを挟んで、ラストは現在に繋がるというストーリー仕立てになっていました。こうした演出も樋口さんのアイデアなのでしょうか?
樋口楓 そうですね。全部私が考えたんですけど、絵コンテは描けないので、いったん全部文章で書いてから、それをスタッフさんにコンテに起こしてもらって映像をつくっていきました。
22歳の樋口楓の視点ではじまって、彼女がもう一度夢を見ようと眠りについたところから1曲目へ繋がる。そこから一連の流れは「樋口楓が樋口楓になるまでの物語を描きたい」と思っていて、セトリもかなり細かく考えていきました。
エンディングは夢を見ていた17歳の樋口楓がいつも通りの日常に戻っていくシーンで終わることで、現在の樋口楓のすべてを詰め込むというのがライブ全体におけるテーマだったんです。 ──とてもストーリー性の高い展開でした。一方で、22歳の樋口さんの存在は、普段の活動を追っていないとわからないものでもあります。様々なファンが集まるライブでのハイコンテクストな展開はリスキーだったのではないかとも感じました。
樋口楓 でもここでやらなきゃもう機会はなかったし、22歳の樋口楓をここで一区切りつけて羽ばたかせてあげたかったので、あまり悩むことなく構成は決められました。
──有観客のライブではありましたが、観客は声を出せないなどの行動制限がありつつも、久しぶりとなったリアルライブ。ステージに立って改めて感じたリアルの醍醐味はありましたか?
樋口楓 VRライブや配信のライブのときも、コメントで見てる方々のレスポンスはわかるんです。でも、リアルだと声は出せなくても、ペンライトの振り方やそれに照らされて見える表情から、私の歌がどう受け止めてもらえてるのかがよりわかるんです。
リアルでライブを経験した人はみんな言うんですけど、本当にファンの存在を実感できるのはすごく嬉しいんですよ。一緒の空間にいるというか、同じ空気を吸っているから、その時間だけは本当に二次元と三次元の壁がないような感覚で、何回やっても慣れないしワクワクします。
ネガティブなだけではない“終わり”の先
──KAI-YOU.netでのインタビューは3回目ですので、少し前回(2020年12月)からの変化もうかがいたいと思います。当時、コロナ禍という状況にあってVTuberを含めた配信界隈全体が盛り上がっているというお話がありました。それから半年を経た現在のシーンをどのように捉えていますか?樋口楓 かなり前に岩永さん(※前ANYCOLOR社のCOO岩永太貴さん)が、「これからはゲーム実況をするストリーマーが伸びる」っておっしゃってたんですけど、その通りになっているなっていうのをまず感じています。
VTuberもどんどんゲーム実況するようになって、ストリーマーさんやプロゲーマーさんと一緒にコラボしたり、大会に出るなんてことも当たり前になってきました。
新たなジャンルが流行して、VTuberがそこに参加することで実況者さんや歌い手さんなど別の世界とも繋がっていく。特別なものというか、エリア外のように思われていたVTuberが、もっと身近な存在になれているというか、いい意味で当たり前の存在になれているなと感じます。
──樋口さんご自身も「CRカップ」などの『Apex Legends』の大会に出場されています。プロゲーマーをはじめ今までと違うコミュニティとつながることで、新たな発見はありましたか?
樋口楓 最初は、プロゲーマーさんやストリーマーさんはそれで生計を立ててるので、すごく怖い人たちなんじゃないかってめちゃくちゃ偏見があったんです(笑)。けど、みなさん優しくて、加えて流行に対するアンテナも敏感で、私も見習わないとなって思う部分もありました。
印象的だったのはフットワークの軽さです。たとえばVTuberの場合、配信しようと思ったら予告ツイートをして、枠をつくってサムネをつくって……と、いろいろ準備が必要なんですけど、ストリーマーさんは思い立ったらすぐ配信をスタートしてるなって。
ほかの人とコラボするときも、わざわざコラボと言わずに一緒にゲームするだけとか。そこはVTuberと大きく違うと思いました。私も1期生だけの頃は、気軽にただ雑談するだけのコラボ配信もあったんですけど、徐々にしっかり企画を立てなきゃと思うようになって。もっと以前のように軽いノリで配信していいのかもしれないって思いました。 ──2020年3月のインタビューで印象的だったのが、「物事に対して暗い終わりがよぎってしまう」という言葉でした。今回のシングルでは、その終わりの1つである死を扱っていたと思いますし、今のコロナ禍も、ネガティブなイメージを抱きやすい環境なのかなとも思いますが。
樋口楓 どうなんだろうなぁ……コロナ禍だから終わりってことはないと思いますし、今だからこそ出せる強みもあるのかなとは感じました。それはにじさんじが個人での配信を中心に活動しているからであって、常にスタッフさんを集めて動画を撮るタイプだったら、継続が難しくなった可能性もあるんだろうなとは思います。
去年は私自身『AIM』をつくってるときはそれで精一杯だったし、今もタイアップの評判はどうかなって考えるといっぱいいっぱい。そういう意味では、今は目の前に頑張れることがあるから、“終わり”について考えることは少なくなったかもしれません。
自分の考えがうまく伝えられず焦りがあったデビュー時と比べて、今はきちんと自分の考えをランティスさんに共有できています。あと単純に、やりたいことが山積みなので、ネガティブになってる場合じゃないっていうのもある気がします。
──それはかなりいい変化が起きているように感じますね。
樋口楓 確かにポジティブになってるかもしれないですけど、それでもいまだに「普通に就職しようかな」とか考えちゃうんですけどね! ──えぇ?!
樋口楓 (笑)。もちろん全然辞める気はないんですけど、「もしこの活動が終わってしまったら私は社会に出られるんだろうか?」と考えてしまうんです。
これまでの活動で自分の中に積み上がっているものは確かにあるけど、それが別のステージで活かせるかというとそうじゃないと思っていて、だったら就職して社会経験を積んでおかないとマズいんじゃないだろうかとか、ぐるぐる考えちゃって。
それでお母さんに相談したら「あんた、めちゃくちゃ恵まれた環境にいるんだからね」って言われたんです。確かにそうだなとは思うけど、だからこそ普通の17歳が経験していることができなくて、そっちに憧れを抱く気持ちがあるのかもしれません。
──今の“恵まれた環境”ではなかった樋口楓を想像して、その先にどういったことを考えるのでしょうか?
樋口楓 ずっと冒険心は忘れずにいたいけど、このままでいいのかなと思う瞬間はあって、それでも目の前のイベントや活動に精一杯頑張らないといけない。そうやって走り抜けた後に、私はこのバトンを誰に繋いでいくんだろうなって考えることが、ここ最近めちゃくちゃあるんです。
もちろんまだまだ引退する気なんてないんですけど、VTuberの引退って新たな門出を祝うというか、必ずしもネガティブな雰囲気だけじゃないところがありますよね。当然悲しむリスナーさんがいることも忘れちゃいけないですけど、ほかにやりたいことが見つかったなら、それは良いことなんじゃないかって思うんです。
別の道を選んだとしても、その先にも光はあるというか……そんな形がありえるなら、“終わり”も100%ネガティブなものじゃないんだなって考えられるようになりました。
だから今は、目の前のことを精一杯頑張ることが、樋口楓としてやるべきことなんだろうなと思ってます。
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— KAI-YOU (@KAI_YOU_ed) August 25, 2021
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(※8月31日23時59分〆切)
樋口楓、2ndシングル『Baddest』インタビューhttps://t.co/8N8KBBO6cy pic.twitter.com/LMkaQP1UVM
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