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藤本タツキ『ルックバック』表現を変更へ 「通り魔」の描き方で議論が紛糾

藤本タツキ『ルックバック』表現を変更へ 「通り魔」の描き方で議論が紛糾

藤本タツキ『ルックバック』/画像は『少年ジャンプ+』から

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  • 藤本タツキ『ルックバック』作中表現を変更
  • "通り魔"のステレオタイプな演出へ配慮か
  • 「偏見や差別の助長につながることは避けたい」
‎『チェンソーマン』『ファイアパンチ』などで知られる藤本タツキさんの読み切り漫画『ルックバック』の作中表現が、一部修正された。

本作が無料公開されている『少年ジャンプ+』編集部は、修正の理由について以下のように説明している。

『ルックバック』作品内に不適切な表現があるとの指摘を読者の方からいただきました。熟慮の結果、作中の描写が偏見や差別の助長につながることは避けたいと考え、一部修正しました。『少年ジャンプ+』編集部

少女2人の魂の交流を描いた名作『ルックバック』

『ルックバック』は、漫画家を目指す少女2人の魂の交流を描いた作品。小学4年生の藤野と不登校の同級生・京本の不思議な縁から物語ははじまる。

ファイアパンチ』『チェンソーマン』などを作品を生み出した藤本タツキさんが描く本作は、公開直後からSNSを中心に話題となり、配信から2日で400万PVを突破。

全143ページの膨大なページ数や扱うテーマの斬新さなどから、多くのクリエイターからも称賛のコメントが相次いでいた。

精神障害者へのスティグマになるのではないか、という批判

今回修正の対象となったのは、作品の後半に登場する「通り魔」の人物造形を中心とする描写。

この描写については、「通り魔」が誇張された精神障害者の描かれ方であること、あるいは実際に起きた京都アニメーション放火殺人事件を彷彿させ、また事件関係者らへの配慮が欠けているとして、一部読者から指摘や批判が起こっていたことも事実である。

例えば精神科医・斎藤環さんは、本作を"類まれな傑作"と評した上で、精神科医という立場から精神障害を患った犯罪者をステレオタイプに描くことで発生する、社会的なスティグマ(負の烙印)を押されることの危険性を自身のnoteやTwitterで指摘している。

何がステレオタイプかについて、はっきりした定義があるわけではない。印象論と言われればそうかもしれないし、精神科医という職業柄、この種の表象に過敏になっているのかもしれない。それでも通り魔的に無差別大量殺人を犯したと報じられた人物が、「独語のように幻聴を示唆する言葉」を呟き、「自分の作品を盗まれたという被害妄想らしき言葉」を口にしていれば、このひとは「意思疎通が不可能な狂人」であろうと推測してしまうのは、かなり自然な反応ではないだろうか。他の人物造形が繊細かつ入念になされているだけに、なぜここだけ、ひどく凡庸な狂気のイメージが置かれたのか、それが不可解だったのだ。ステレオタイプ、というのはそういう意味のつもりだった。 「『意思疎通できない殺人鬼』はどこにいるのか?」より

斎藤環さんは、ドラマ『相棒 Season17』(テレビ朝日系)の「シャブ山シャブ子17歳」登場回が、現在欠番になっていることなどを例に挙げて、その危険性を説明。この回で放送された覚せい剤依存症患者のステレオタイプな演出が、本来の患者の実態とは異なり、消費者に誤った幻想を与えてしてしまう、と説いた。

漫画や映画を制作し消費する人々が漠然と信じている「意思疎通不可能な殺人鬼」なるものは、ほぼ実在しないと言って良い。にもかかわらず、あのような表象が「迫真」「鬼気迫る」などと評価され流通していく過程の中で、見てきたような私たちの幻想(ステレオタイプ)は強化され、偽の記憶が定着していくのである。「『意思疎通できない殺人鬼』はどこにいるのか?」より

今回の『ルックバック』における作中表現の一部修正も、少なからず「通り魔」の描写について配慮した修正だったものと思われる(事実、該当ページは台詞が変更されている)。

一方で、今回の修正をきっかけに「一部の批判的な読者からの意見で表現に変更を加えないでほしい」という意見もまた多く噴出している。

今後も漫画表現の在り方への議論は続いていきそうだ。

藤本タツキという才能

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