連載 | #50 漫画百景 いま読むべき漫画たち

コスプレ×スポ根!? 漫画『2.5次元の誘惑』は「ジャンプ」の熱き王道を往く

コスプレをテーマに描く、王道の少年漫画的物語

『2.5次元の誘惑』は、“開放の物語”です。主要登場人物の大半が何かしらの悩みを抱えていて、全編を通してそれらを乗り越えていくエピソードが描かれます。

例えばプロのコスプレイヤーとして、TV番組でも引っ張りだこの753♡(読み:なごみ)。彼女は衆目を集める人気タレントであるが故のプレッシャーを受けて、大好きだったはずのコスプレが楽しめなくなっていました。

そんな彼女が、ただただコスプレを楽しむリリサと出会い、純粋にコスプレが楽しくて仕方がなかったかつての自分を思い出し、プレッシャーから開放されていきます。

『2.5次元の誘惑』4巻の書影。全くの別人に見えますがどちらも753♡。左がコスプレをした姿で、右が普段の姿。作者の描き分けがすごい!/画像はAmazonから

4巻をほぼ丸ごと費やした「753♡」編以降、悩める人々の前にリリサが天使のように舞い降りて(リリサがコスプレするリリエルは天使)、コスプレを通して抱えている悩みから開放していくストーリーラインが完成しました。

言葉が上手く発せなくなるほど極端な人見知りのコスプレイヤー・ノノア(乃愛)や、母と離婚し去った父と喧嘩別れしたことを後悔している少女・喜咲アリアなど、多くのキャラクターがリリサと出会い変わっていきます。

『2.5次元の誘惑』7巻の書影。左上から時計回りに、コスプレをしたアリア、ノノア、美花莉、リリサ/画像はAmazonから

各編でメインとなるキャラクターに合わせて、「コスプレと人生」「家族と本当の自分」など、主題となるテーマが設定されていること。

加えて、コスプレイヤーをぐるりと囲むカメラマンを奪い合うバトル要素などもあり、わかりやすく熱い展開が多い本作。味付けは王道の少年漫画的です。

コスプレで王道の少年漫画とはこれ如何に?

……と思われるかもしれませんが、まごうことなき『ジャンプ』の系譜を継ぐ熱い漫画。「少年ジャンプ+」の現連載陣のなかでも、最も熱血、スポ根というワードが似合います。

幼少期の別れで心に大きな傷を負っていた主人公・奥村正宗の開放

リリサを支える好青年として初期から描写されていた主人公の奥村も、実は大きな悩みを持ったキャラクターでした。

母親の蒸発や失恋など、幼少期に負ったトラウマが心の奥深くに根ざしており、一種の女性不信から、3次元女子に魅力を感じることができなくなっていたのです

超絶美少女のリリサや美花莉に囲まれても鉄仮面を貫けていた理由が、極度の鈍感であるとかいうラブコメ主人公のお約束ではなく、シリアスな理由から来るものだったのは驚きでした。

そんな奥村でしたが、リリサとの出会いをきっかけに変わりはじめ、初恋の相手で自分を振った先輩・安部まりなとの対話を経て、少しずつ成長していきます。

『2.5次元の誘惑』14巻の書影。奥村とまりな。遠回りをして、ようやく真の意味でわかり合えた2人の姿は涙腺にきます/画像はAmazonから

また、被写体の魅力を引き出すカメラマンとして、レンズの向こうにいるリリサたち3次元女子に関心を持たなければならないという必然的な要請も、彼の意識を変えていきます。

その結果、8月3日に公開されたばかりの最新話(169話)にして、ついに奥村正宗が3次元女子に恋ができる状態になったことが明示されました。連載5年目にして吹っ切れた主人公の存在が、ここまでじわじわ進んできた恋物語を加速させそうです。

と同時に、リリサの“誰かの幸せのためにコスプレ(衣装)をつくる”という夢に深く関わりそうな新キャラクターで、世界一のコスプレイヤーになるため邁進する風雲児・狐帝ルルナが登場しています(164話で初登場)。

『2.5次元の誘惑』18巻の書影。奥村とリリサ。18巻は作中でも随一にシリアスな展開が多かった/画像はAmazonから

本作の中心である奥村とリリサに転機が訪れたこの頃、ラストに向けて着々と動き出したことを予感しているのは、筆者だけではないはず。

リリサ、美花莉、アリア、まりなから明確な好意を向けられている奥村が、どのような決断を下すのか。そして、リリサの夢はどのように結実するのか。今後が非常に楽しみです!

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