連載 | #5 漫画百景 いま読むべき漫画たち

この異世界転生漫画、傑作です 『ニセモノの錬金術師』レビュー

無双しない異世界転生 つくり込まれたチートスキルのルール

ここからは、なるべくネタバレを避けながら『ニセモノの錬金術師』の内容に触れていきます。

主人公は、2つのチートスキルを手に入れて異世界転生を果たした青年・パラケルスス。彼が必要に迫られて奴隷の少女・ノラと、四肢や眼球も欠損したボロボロのエルフを迎え入れるところから物語がはじまります。 パラケルススは転生者であることを隠しながら、できるだけ穏便に暮らそうとする心優しい青年です。しかし、異世界における異端である彼の存在は少しずつ知られるようになっていき、様々な騒動に巻き込まれていくことに……。

あらすじとしては他の異世界転生モノと大差ないのですが、他と一線を画すのがつくり込まれた“ルール”です。

例えば、最序盤に明かされる、主人公のパラケルススが持つスキル。

パラケルススが選んだスキルは、「天地万物のレシピ」と「セーブメーカー」というものです。

ざっくり説明すると、前者はつくりたいもののレシピを5つまでノートに書き出してその手順に従えば何でも完璧なものを生成でき、後者はいわゆるセーブポイントをつくることができる能力です。

天地万物のレシピを使えば、「幸運のポーション」というアイテムを制作する工程で、金貨を水槽の中に落として100回連続で表を出さなければいけないという、とんでもなく根気のいる作業も難なくクリアできます。

一方で、あまりに希少すぎるものをつくろうとするとそもそもレシピに必要なものが入手できず、そのレシピを実現しない限り、5つしかない欄の1つが埋まってしまいます。

他にも、全く同じモノが2つ揃って初めて最高の効果を発揮する「照応のベル」を制作する場合は、1つ目が完成した時点でレシピが失われてしまうというスキルのルール上、上質なものがつくれません。

これらは「天地万物のレシピ」の構造的欠陥であり、パラケルスス自身も不便は多いと話しています。

このように、確かに性能としてはチート級のスキルであっても、それぞれに固有のルールがあり、決して万能ではありません。使い所を誤れば役に立たず、宝の持ち腐れになってしまいます。 詳しくはぜひ作品を読んでみてもらいたいところですが、本作にはこうしたルールが逐一登場します。

それは作中の法であったり、魔法・呪術に関する制約であったり、多種多様。そのすべてが難解過ぎず、簡単過ぎず、論理的・合理的にできており、読み手にも納得できる形で提示されます。

曖昧な要素がないため、読んでいて納得感が強いというか、一度理解できるとすっと頭の中に定着するのです。

そして、そのつくり込まれたルールが生きてくるのが能力バトルの場面です。商業版だとまだ少し先の話になると思いますが、緻密に練られたルールとルールがぶつかるバトルは非常に見応えがあります。超楽しみです。

杉浦次郎「3巻くらいからワッと反応が良くなるんじゃないか」

単行本1巻に収録されている『ニセモノの錬金術師』の内容は、ここまで説明してきた世界観をつくり上げている段階に当たるので、漫画的にも映える活劇はそこまでありません。

しかし! 起承転結でいえば“起”の部分を丁寧に描いており、読めば読むほどじっくり面白さが伝わる内容になっています。

原作者の杉浦次郎さんは「単行本3巻くらいからワッと反応が良くなるんじゃないかなと思ってるけど、どうなんだろうな~」とXに投稿(外部リンク)していますが、まさにそのあたりから物語が動く“承”の部分が始まるはずです。

ラフ版を読んで後の展開を知っている身からすれば、すでにワクワクが止まりません。傑作であることはもう約束されたようなものなので、少しでも興味のある方は安心して読んでみてください。まず後悔はしませんよ。

KAI-YOU Premiumでも、現代を代表する物語の一つとして『ニセモノの錬金術』を論じています

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テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。

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