ぶっ飛び哲学アニメを個人制作でテレビ放映? 菅原そうたが語る『5億年ボタン』

奇才の人生が高濃度に詰まった異色のアニメ『5億年ボタン』裏話

『5億年ボタン【公式】〜 菅原そうたのショートショート〜』#2より場面写真

さらに驚くべきは、本作がTOKYO MXで流れるということだ。菅原氏は、全12話をつくり終えたタイミングで本作をどう世に出したらいいかわからず、『でびどる!』(TOKYO MX)のまさたかPに相談した。

TOKYO MXのアニメビジネス部の方を紹介してもらい、個人名義での放送は叶わないと言われたため、2021年11月に「STUDIO SOTA」を設立。菅原氏のこれまでの実績もあり、無事テレビ放送が決定した。

また、TOKYO MX側の尽力もあって数多くの配信会社と配信契約を結び、なんと28もの動画サービスでの配信も実現。

こうして実質、個人アニメーションのテレビアニメシリーズ放送という前代未聞の作品、『5億年ボタン』の座組が整った。製作・著作は自身の事務所である「STUDIO SOTA」が担当することとなった。

菅原「例えば漫画家は、単行本印税で10%くらいもらえますよね。アニメ監督も、死ぬ気で頑張ってる。でも、DVDとかBlu-rayの印税は1%くらいしかもらえない。自分で歯を食いしばりながらほぼすべてをやれば、1作品でアニメ100本分儲かっちゃうんだと思ったんですよね。

ただ、実際には原価製造費などで、パッケージ売上も30%程度しか入ってこなかったりと、そんなに単純な計算じゃないことがわかりました(苦笑)」

作品の内容や参加クリエイター、また放送の枠組みなど、テレビアニメ『5億年ボタン』は、まさに"菅原そうた"という人物がこれまでの人生で得たクリエイティビティや人とのつながりといったアセット(資産)によって出来上がった、奇跡のような作品でもある

菅原「ありがたいことに、『5億年ボタン』というアイディアはネットで長く愛されてきて、これまでも多くの人が取り上げてくれました。もともとネットで盛り上がっているコンテンツに、『あれをつくったのは自分です!』と前に出ていくのはどうかな? と思っていた部分もあったんです。実際に、東方Project初音ミクもみんなに開くことで愛されてきていますし。

それでも自分の人生の集大成をつくるとなった時に、やっぱり『5億年ボタン』をやりたいと思った。だから、自分の手でアニメにすることにしたんです」

ここまで読んでくれた方には伝わったと思うが、菅原そうたという1人のクリエイターの執念が実を結んだのが、このアニメ『5億年ボタン』という作品だ。その経緯を含め、非常にDIY的で、クリエイターにとってはもしかしたら新時代のアニメ製作方式のひとつのモデルケースとなりえるかもしれない。ただ、現時点で収益としては赤字だという。

それでも実現させる執念は、「そうたの自己の妄想を具現化したいっていう欲求の強さ、すごいよ本当に」と、長年の付き合いとなる大月氏も唸らせる。

大月「特に、第4話にとても感動して。3話までは哲学や思想のことを勉強っぽい感じで頭で理解するって感じだったんだけど、4話ではそれが感覚的に体感できるようになっててめちゃくちゃ気持ち良かった。それこそサウナの後のととのった時みたいに、観た後に外に出ると街の風景が活き活きと感じられるような、そんな感じになった。本当に、笑って学んでブッ飛んで気付かされる、超良い作品だと思う

第4話には、世界的な名曲と共にアシッドムービーさながらの強烈なシーンがある。テレビからバキバキのトリップ映像が流れてくるという痛快さも、本作ならではの魅力だろう。

『5億年ボタン【公式】〜 菅原そうたのショートショート〜』#4より場面写真

大月「今回の作品である意味そうたは自分の我を出し切ったけど、ほかにも面白そうなクリエイターに『自分だったら5億年ボタンをどう表現するか?』ってのをやってみてもらいたい。あなたの"わが世界観"(哲学者シュレーディンガーの著作名)はなんですか?って」

菅原「この作品でもう自分は全部出し切って、タイトルにも自分の名前を入れて、クリエイターとしての自己紹介も終わったから、もはや無私の境地だね(笑)。『5億年ボタン』の権利も、初音ミクのpiaproみたいに『全然安心して今まで通り使って良いよ』と解放していこうと思ってます。

次はみんなでアニメ『5億年ボタン』のショートショートをやりたい。いろんなクリエイターの『5億年ボタン』を、テレビアニメで見たいです」 1人の奇才クリエイターの人生が高濃度に詰まった異色のテレビアニメ『5億年ボタン 菅原そうたのショートショート』。ここには、きっと何人かの人生を変えてしまうほどの力があるはずだ。興味を持った人は、ぜひその宇宙……もといエネルギーを自身の目で確かめてみてほしい。
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