「頭蓋骨に穴を開ける手術をうけて、生きるか死ぬかっていう経験をしたんですね。結局生き延びたわけだけど、俺はもう『人生の途中』じゃなくて終わりにさしかかってるんだと。
だから、ボンヤリと『仕事で成功したい』とか言ってる場合じゃなくて、自分の集大成をつくらねばって思って、このアニメをつくり始めたんですよね。全部一人で」 2022年夏クールのアニメとしてTOKYO MXにて放送開始となったTVアニメ『5億年ボタン【公式】〜 菅原そうたのショートショート〜』(以下『5億年ボタン』)。
本作は、5歳児のトニオ(CV:野沢雅子)とその姉であるジャイ美(CV:三森すずこ)、スネ子(CV:大空直美)、そして謎の女性キャラ・井上博士(CV:高野麻里佳)を中心に、ゆる〜い(?)日常と哲学的な思考実験を混ぜ合わせたようなシュールなエピソード、声優陣によるアドリブコーナー、また今やネットミームとなった「5億年ボタン」を取り上げたコンテンツを紹介するパートを詰め合わせたカオスなアニメだ。TVアニメ「5億年ボタン~菅原そうたのショートショート~」Trailer CM
原作は、のちにロックバンド・B-DASHのアートワークでも知られるようになるマルチクリエイター・菅原そうた氏が1999年から週刊誌『SPA!』(扶桑社)で連載していた漫画『みんなのトニオちゃん』の単行本に収録されたエピソード。
そのボタンを押した者は何もない空間で5億年過ごさなければならないが、5億年経過した時点でその空間での記憶は消去され、100万円を手にすることができるという「5億年ボタン」をめぐるお話だ。
このアイディアはネットを中心に「自分だったら押すか押さないか」という議論を巻き起こして話題となり、ネットロア的に語り継がれている。 そんな「5億年ボタン」が20年以上たった今、原作者の手によって満を持してアニメ化されたわけだが、いざアニメクレジットを見てみると……「原作/監督/企画/シリーズ構成/構成/脚本/キャラクター原案/キャラクターデザイン/作画監督/音響監督/音響演出/コンテ/Vコンテ/編集/色彩設定/美術監督/プロダクションデザイン/ロゴデザイン/撮影エフェクト/VFX/モデリング/モーション 菅原そうた」と、すでに正気の沙汰ではない。
さらに、アニメーション制作・製作・著作も「STUDIO SOTA」という、菅原そうた氏とパートナーによる(ほぼ)個人のアニメ制作会社でもある。
一念発起した菅原そうた氏が、(ほぼ)個人でTOKYO MXの広告スポンサーとなって、それが実際に毎週木曜24時30分から放送されているというのだから、およそ前代未聞のテレビアニメシリーズだ。
そんなツッコミどころ満載のTVアニメ『5億年ボタン』について、本作のオープニング映像監督を共同で務め、菅原氏とは長年の友人でもある映像作家・大月壮氏にも同席してもらって話を聞いた。
菅原「高校生の時は美術部でも下から数えたほうが早いくらい絵が下手で、美大に行きたかったんですけど全落ちしました(苦笑)。それでお先真っ暗の状態だったんだけど、18歳でMacと出会って、当時3DCGの『Strata 3D Pro』っていうソフトで丸い球体のCGキャラクターをつくってみんなに見せたら『上手いじゃん』って褒めてもらえたんですよ。
ただ、CGイラスト単体だと商売になりにくいから『やっぱり漫画だ!』って思い、自分で考えた哲学ネタやギャグネタを膨らませたCG漫画をつくりはじめました。
そこからPhotoshopを覚えて、3DCGで30ページの『5億年ボタン』と、合コンでキャラが全員死ぬ漫画を『SPA!』に持ち込みました。編集者から『連載したい』と言ってもらえて、いきなり漫画家デビューできたんです」
時は1998年、菅原氏19歳。『5億年ボタン』が実は処女作でもあったというから驚きだ(「5億年ボタン」は長編エピソードのため、週刊誌連載時には掲載されず、単行本での収録となった)。 実はそれに先立ち、『週刊少年ジャンプ』(集英社)編集部にも漫画を持ち込んでいた。内容は評価されるもフルカラー作品だったため掲載はされず、代わりに同誌のゲーム紹介コーナーのCGの仕事をもらうなどして生計を立てることに。
そして『SPA!』での連載終了後、5億年ボタンのネタで再び『BUTTON』というタイトルの漫画を『少年ジャンプ GAG Special 2002』に31Pで掲載してもらうも、連載には至らなかった。
しかし、当時CGクリエイターは希少で、CGの仕事だけでも十分食べていくことができた。
『5億年ボタン』の主人公であるトニオは、30代半ば以上の読者にとってはB-DASHのジャケットのキャラクターとして認知している人も多いだろう。トニオは、当時のメロコア・エモコア系バンドを紹介するテレビ番組『HANGOUT』(2002年/テレビ東京)のオープニング映像やオリジナルCGアニメ『みんなのトニオちゃん』(MUSIC ON! TV)にも登場するなど、菅原氏を代表するキャラクターとなった(アニメ『5億年ボタン』の第1話でも、B-DASHについて触れられている)。B-DASH - 目覚めよニッポン! PV
2000年以降、菅原氏は音楽との関わりから、VJ文化に傾倒していく。またこの頃に漫画家・タナカカツキ氏を介して、大月氏ら映像クリエイターとの交流を深めていった。
大月「当時、カツキさんから『変なヤツがいるんだよね』って、そうたを紹介された。『5GBくらいの映像がメールで送られてきて、頑張って見たらしょーもなくてボロクソ言ったんだけど、しつこく何度も送ってくる』って。カツキさん、メールが来るたびにパソコンが使えなくなるって怒ってた(笑)。そんな感じで知り合ってから20年は経つんだけど、今回そうたの集大成的な、とても大切な作品のOP映像に声をかけてもらえたのをすごく光栄に思ってる」
菅原「タナカカツキさんのところで最初に出会った壮くんとは、映像をつくり始めたころからの親友で。その後もずっと一緒に遊びながらクリエイティブ道を走ってる感覚があります。今回のアニメ『5億年ボタン』OPを頼めたのも運命的なものを感じてて、僕としてもめっちゃ嬉しいです!
タナカカツキさんもよくしてくださって、遊びでつくった不条理映像を送ると、カツキさんがアフレコして動画を返してくれる、という遊びを仕事とはまったく関係なく繰り返したりしてて(笑)。
それで大量に出来た映像を他のバカCG映像とあわせて、『あかるい世界』というギャグCG作品としてポニーキャニオンから出してもらったこともあります。その後の『gdgd妖精s』のアフレコは、この経験から発想したんです。ちゃんとした脚本よりも不条理なものを投げてアドリブでアフレコするほうが、大喜利のライブ感があっておもしろかったりするな、と」
その後、深夜アニメ『ネットミラクルショッピング』(2008年/毎日放送)や『gdgd妖精s』(2011年/TOKYO MX)など、いずれもカルト的な人気を博すテレビアニメを手がけることとなった菅原氏。『ネットミラクルショッピング』は大月氏の知人であるビクターの柴田プロデューサーと知り合ったことから実現した企画だったという。
菅原「『ネットミラクルショッピング』が終わった直後くらいに、モーションキャプチャーがほしくなったんです。なのでヤフオクで検索したら、『ファイナルファンタジー』で使ってるような2000万円くらいのモーションキャプチャー一式が『壊れてます。使えるかどうかわかりません』という状態で50万円で売りに出ていて、それをダメ元で買いました。そこから機材の開発会社を調べて交渉して10万円で修理してもらったら、奇跡的に使えるようになったんです」
当時の先進技術であったモーションキャプチャーを使って、アドリブ大喜利アニメをつくっていた菅原氏。トニオちゃんきっかけで連絡をくれたGEOの福原和晃プロデューサーにその作品を見せたところ面白がってもらい、それがSMP(ストロベリー・ミーツ ピクチュアズ)の別所敬司プロデューサーのもとでの『gdgd妖精s』へとつながっていく。
ただ、当時のモーションキャプチャーはテレビアニメ本編で利用できるほどの精度やクオリティを担保できなかったため、『gdgd妖精s』は最終的にMikuMikuDanceなどを取り入れた手付け3DCGアニメとなった。gdgd妖精s(ぐだぐだふぇありーず)
菅原「結局、モーションキャプチャーを買った1~2年後にはKinectが格安で出て、MMD文化でも同じようなことを始めた方々が大勢いました。
このスタイルは方法論さえわかればできちゃうので、数年後にはVTuber(バーチャルYouTuber)も出てきて、今や誰でも手軽にモーションキャプチャーをつかってライブ配信できる時代になりましたね」
時代を先取りすぎた菅原氏はその後も、『gdgd妖精s』2期や劇場版、『Hi sCoool! セハガール』や『なりヒロwww』、『gdメン』、『でびどる!』など、数多くのテレビアニメを手がけるのだった。
だから、ボンヤリと『仕事で成功したい』とか言ってる場合じゃなくて、自分の集大成をつくらねばって思って、このアニメをつくり始めたんですよね。全部一人で」 2022年夏クールのアニメとしてTOKYO MXにて放送開始となったTVアニメ『5億年ボタン【公式】〜 菅原そうたのショートショート〜』(以下『5億年ボタン』)。
本作は、5歳児のトニオ(CV:野沢雅子)とその姉であるジャイ美(CV:三森すずこ)、スネ子(CV:大空直美)、そして謎の女性キャラ・井上博士(CV:高野麻里佳)を中心に、ゆる〜い(?)日常と哲学的な思考実験を混ぜ合わせたようなシュールなエピソード、声優陣によるアドリブコーナー、また今やネットミームとなった「5億年ボタン」を取り上げたコンテンツを紹介するパートを詰め合わせたカオスなアニメだ。
そのボタンを押した者は何もない空間で5億年過ごさなければならないが、5億年経過した時点でその空間での記憶は消去され、100万円を手にすることができるという「5億年ボタン」をめぐるお話だ。
このアイディアはネットを中心に「自分だったら押すか押さないか」という議論を巻き起こして話題となり、ネットロア的に語り継がれている。 そんな「5億年ボタン」が20年以上たった今、原作者の手によって満を持してアニメ化されたわけだが、いざアニメクレジットを見てみると……「原作/監督/企画/シリーズ構成/構成/脚本/キャラクター原案/キャラクターデザイン/作画監督/音響監督/音響演出/コンテ/Vコンテ/編集/色彩設定/美術監督/プロダクションデザイン/ロゴデザイン/撮影エフェクト/VFX/モデリング/モーション 菅原そうた」と、すでに正気の沙汰ではない。
さらに、アニメーション制作・製作・著作も「STUDIO SOTA」という、菅原そうた氏とパートナーによる(ほぼ)個人のアニメ制作会社でもある。
一念発起した菅原そうた氏が、(ほぼ)個人でTOKYO MXの広告スポンサーとなって、それが実際に毎週木曜24時30分から放送されているというのだから、およそ前代未聞のテレビアニメシリーズだ。
そんなツッコミどころ満載のTVアニメ『5億年ボタン』について、本作のオープニング映像監督を共同で務め、菅原氏とは長年の友人でもある映像作家・大月壮氏にも同席してもらって話を聞いた。
目次
処女作にして最新作『5億年ボタン』 漫画持ち込みから始まった菅原そうたのキャリア
菅原氏が「自身の集大成」と呼ぶTVアニメ『5億年ボタン』を知るために、まずは菅原氏のバイオグラフィーを追っていこう。先述の通り、本作は『SPA!』に連載されていた漫画『みんなのトニオちゃん』に端を発している。菅原「高校生の時は美術部でも下から数えたほうが早いくらい絵が下手で、美大に行きたかったんですけど全落ちしました(苦笑)。それでお先真っ暗の状態だったんだけど、18歳でMacと出会って、当時3DCGの『Strata 3D Pro』っていうソフトで丸い球体のCGキャラクターをつくってみんなに見せたら『上手いじゃん』って褒めてもらえたんですよ。
ただ、CGイラスト単体だと商売になりにくいから『やっぱり漫画だ!』って思い、自分で考えた哲学ネタやギャグネタを膨らませたCG漫画をつくりはじめました。
そこからPhotoshopを覚えて、3DCGで30ページの『5億年ボタン』と、合コンでキャラが全員死ぬ漫画を『SPA!』に持ち込みました。編集者から『連載したい』と言ってもらえて、いきなり漫画家デビューできたんです」
時は1998年、菅原氏19歳。『5億年ボタン』が実は処女作でもあったというから驚きだ(「5億年ボタン」は長編エピソードのため、週刊誌連載時には掲載されず、単行本での収録となった)。 実はそれに先立ち、『週刊少年ジャンプ』(集英社)編集部にも漫画を持ち込んでいた。内容は評価されるもフルカラー作品だったため掲載はされず、代わりに同誌のゲーム紹介コーナーのCGの仕事をもらうなどして生計を立てることに。
そして『SPA!』での連載終了後、5億年ボタンのネタで再び『BUTTON』というタイトルの漫画を『少年ジャンプ GAG Special 2002』に31Pで掲載してもらうも、連載には至らなかった。
しかし、当時CGクリエイターは希少で、CGの仕事だけでも十分食べていくことができた。
B-DASHでもお馴染みの「トニオちゃん」は広がっていく
また、菅原氏は高校時代、横浜で行われていた音楽フェスティバル「YOKOHAMA HIGH SCHOOL Hot Wave festival」(通称:HOT WAVE)にバンド「HAGUKI」として出演。その後、実兄であるGONGON氏もバンドに加入し、「HAGUKI-DASH」→「B-DASH」と改名した(菅原氏はバンドでは主にトニオちゃんをモチーフにしたVJ、MV、CDジャケット、グッズ関連のデザインなどを担当することに)。『5億年ボタン』の主人公であるトニオは、30代半ば以上の読者にとってはB-DASHのジャケットのキャラクターとして認知している人も多いだろう。トニオは、当時のメロコア・エモコア系バンドを紹介するテレビ番組『HANGOUT』(2002年/テレビ東京)のオープニング映像やオリジナルCGアニメ『みんなのトニオちゃん』(MUSIC ON! TV)にも登場するなど、菅原氏を代表するキャラクターとなった(アニメ『5億年ボタン』の第1話でも、B-DASHについて触れられている)。
大月「当時、カツキさんから『変なヤツがいるんだよね』って、そうたを紹介された。『5GBくらいの映像がメールで送られてきて、頑張って見たらしょーもなくてボロクソ言ったんだけど、しつこく何度も送ってくる』って。カツキさん、メールが来るたびにパソコンが使えなくなるって怒ってた(笑)。そんな感じで知り合ってから20年は経つんだけど、今回そうたの集大成的な、とても大切な作品のOP映像に声をかけてもらえたのをすごく光栄に思ってる」
菅原「タナカカツキさんのところで最初に出会った壮くんとは、映像をつくり始めたころからの親友で。その後もずっと一緒に遊びながらクリエイティブ道を走ってる感覚があります。今回のアニメ『5億年ボタン』OPを頼めたのも運命的なものを感じてて、僕としてもめっちゃ嬉しいです!
タナカカツキさんもよくしてくださって、遊びでつくった不条理映像を送ると、カツキさんがアフレコして動画を返してくれる、という遊びを仕事とはまったく関係なく繰り返したりしてて(笑)。
それで大量に出来た映像を他のバカCG映像とあわせて、『あかるい世界』というギャグCG作品としてポニーキャニオンから出してもらったこともあります。その後の『gdgd妖精s』のアフレコは、この経験から発想したんです。ちゃんとした脚本よりも不条理なものを投げてアドリブでアフレコするほうが、大喜利のライブ感があっておもしろかったりするな、と」
その後、深夜アニメ『ネットミラクルショッピング』(2008年/毎日放送)や『gdgd妖精s』(2011年/TOKYO MX)など、いずれもカルト的な人気を博すテレビアニメを手がけることとなった菅原氏。『ネットミラクルショッピング』は大月氏の知人であるビクターの柴田プロデューサーと知り合ったことから実現した企画だったという。
菅原「『ネットミラクルショッピング』が終わった直後くらいに、モーションキャプチャーがほしくなったんです。なのでヤフオクで検索したら、『ファイナルファンタジー』で使ってるような2000万円くらいのモーションキャプチャー一式が『壊れてます。使えるかどうかわかりません』という状態で50万円で売りに出ていて、それをダメ元で買いました。そこから機材の開発会社を調べて交渉して10万円で修理してもらったら、奇跡的に使えるようになったんです」
当時の先進技術であったモーションキャプチャーを使って、アドリブ大喜利アニメをつくっていた菅原氏。トニオちゃんきっかけで連絡をくれたGEOの福原和晃プロデューサーにその作品を見せたところ面白がってもらい、それがSMP(ストロベリー・ミーツ ピクチュアズ)の別所敬司プロデューサーのもとでの『gdgd妖精s』へとつながっていく。
ただ、当時のモーションキャプチャーはテレビアニメ本編で利用できるほどの精度やクオリティを担保できなかったため、『gdgd妖精s』は最終的にMikuMikuDanceなどを取り入れた手付け3DCGアニメとなった。
このスタイルは方法論さえわかればできちゃうので、数年後にはVTuber(バーチャルYouTuber)も出てきて、今や誰でも手軽にモーションキャプチャーをつかってライブ配信できる時代になりましたね」
時代を先取りすぎた菅原氏はその後も、『gdgd妖精s』2期や劇場版、『Hi sCoool! セハガール』や『なりヒロwww』、『gdメン』、『でびどる!』など、数多くのテレビアニメを手がけるのだった。
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