テレビアニメ全12話を一人で……秘訣はアセットにあり
菅原「アニメ本編は自分で一通り出来たんですけど、やはりオープニングとエンディングを自分で歌うわけにはいかなかったので、THINKRさんに相談してKAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティスト・幸祜さんと理芽さんの素晴らしい楽曲を使わせていただくことになりました。そして、音楽は自分じゃないから、もうオープニングとエンディングは別物として『めちゃくちゃ格好良い映像をつくれる人にお願いしたい』と思い、オープニングを壮くん、エンディングはビームマンPさんにお願いすることにしたんです」 それでも、本編尺約20分のテレビアニメ全12話をほぼ1人で作成するのは、0→1では不可能に近い。そこで『5億年ボタン』では、数多くのアセット(作品内で使える素材。「資産」の意)が用いられている。
メインキャラクターであるジャイ美やスネ子らの3Dモデルやテクスチャーも商業利用可能なVRoidという、ピクシブが開発する3Dアバターサービス上のモデルを購入した上で活用し、背景素材などの多くはアセットだ。
菅原「今回はめちゃくちゃアセットやVRoidショップさんに助けられましたね!」
大月「ははは(笑)。まあ、アセットや素材集をガンガン利用して作業コストを抑えながら1人で作品全部をつくり上げていくってスタイルは、知り合った時から一貫してる。
昨今のCG業界的にもUnreal Engineとかはアセットを利用することが前提になってきてるし、そういう意味では時代にフィットしてきたのかも。そうたの中でやりたいことっていうのは、画とかじゃなくて脚本とか世界観なんだろうね」 菅原「僕はCGが下手だけど面白いものを『アイデアと発想』でつくる作家だ、と自分では思っていて、自分がこだわりたいところはカメラワークや間や見せ方だし、やりたいのはVコンテ(ビデオコンテ)。
例えば1週間と制作の時間が限られている場合、背景は固定アングルの静止画でイラスト1枚、みたいな表現で終わらせてしまうことも多い。でも、現代の技術やCG機能で出来ること、出来ないことを加味しながら、3DCGアセットを駆使して一ヶ月かけて背景をつくっていくと、ギリギリのコスパでちゃんと3Dモデルで動くCGやアニメ表現として、自分の脳内イメージに近づけられる。
だから1話に一ヶ月以上もの時間をかけて、今の形になっているんだよね」 アセットをフル活用して作品をつくるこうしたスタイルはテレビアニメでは類を見ないが、一方で近年のインディーズゲームを彷彿とさせるだろう。2019年にネットを騒がせたゲーム『ファイナルソード』や、『オーバーダンジョン』や『クラフトピア』といったアセットをフル活用しさまざまなゲームシステムを組み合わせて魅力的なゲームを世に送り出している株式会社ポケットペアの作品などが代表例として挙げられる。
実際に、菅原氏も数年前にUnityを使ったVRゲームを自主制作しており、「UnityとUnreal Engineを覚えてからアニメに帰ってきた」と話す。また、アニメ『5億年ボタン』のアセットもゲーム制作時にUnityとUnrealそれぞれで数百万円以上を投資して購入したモノを使っており、本作用に購入した素材はほとんどないのだという。
菅原「アニメ『5億年ボタン』に登場するラップパートも、2007年に音楽制作ソフト『GarageBand』にハマって、当時つくったラップと映像をほぼそのまま流用しています。変えたのは、映像の中に登場する人物の3Dモデルをアップデートしたくらい。
音楽もそうですけどやっぱり1stアルバムの良さというのがあって、1stアルバムにはそのアーティストのすべてが詰まってるんですよ。僕はBACK DROP BOMBが好きなので、僕の『MICROMAXIMUM』(BACK DROP BOMBの1stアルバム)みたいなもの(笑)。このラップを今やれと言われてもできませんね」
こうして出来上がった菅原そうた(ほぼ)100%のアニメ『5億年ボタン』。一方で、野沢雅子氏や銀河万丈氏、三森すずこ氏といった超豪華声優陣も目を引く。この起用も、菅原氏のこれまで築いてきた仕事が実を結んでいる。 菅原「野沢雅子さんがNiziUのダンスをするCG映像をつくる仕事があって、その撮影のタイミングで野沢さんに『アニメつくってるんですけど、出てくれませんか?』と聞いたら『いいわよ』って言ってくれたんです。超優しいですよね(笑)。三森さんとは『gdgd妖精s』と『でびどる!』でご一緒させていただきましたし、ほかのキャストの方も、全員主役と言えるような方々に集まっていただけました。みんなのやさしさに協力してもらって出来上がってるアニメなんだと思います」
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