デビュー作での受賞は2009年に刊行された湊かなえさんの『告白』以来。デビューして5カ月という最速での快挙達成となった。
「2022年本屋大賞」順位
1位『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬/早川書房
2位『赤と青とエスキース』青山美智子/PHP研究所
3位『スモールワールズ』一穂ミチ/講談社
4位『正欲』朝井リョウ/新潮社
5位『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成/KADOKAWA
6位『夜が明ける』西加奈子/新潮社
7位『残月記』小田雅久仁/双葉社
8位『硝子の塔の殺人』知念実希人/実業之日本社
9位『黒牢城』米澤穂信/KADOKAWA
10位『星を掬う』町田そのこ/中央公論新社
逢坂冬馬のデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』
著者の逢坂冬馬さんは1985年生まれ、埼玉県所沢市出身。2021年に『同志少女よ、敵を撃て』でデビューし、「第11回アガサ・クリスティー賞」を受賞。「第166回直木賞」候補にも選出された。
舞台は第二次世界大戦の独ソ戦が激化する1942年。ソ連の狙撃手となった少女・セラフィマと同じ境遇で家族を喪った少女たちの行く末が展開される。
本作では、どこにでもいる少女だった主人公のセラフィマが、戦争に翻弄され復讐心に駆り立てられて銃を手に取り、殺し合いに身を投じていく様が克明に描き出されている。
逢坂冬馬の受賞スピーチ「私も絶望するのはやめます」
一方で、「私の心は、ロシアによるウクライナ侵略が始まった2月24日以降、深い絶望の淵にあります」と、ウクライナ侵攻についても言及。
「私はこの無意味な戦争で、ウクライナの市民、兵士、あるいはロシアの兵士がどれだけの数、亡くなっていくのだろうと考え、私自身が書いた小説の主人公・セラフィマがこの光景を見たならばどういう風に思うのだろうと考え、悲嘆にくれました」とコメント。
プロパガンダと深く結びついたロシア側の報道。一方で、欧米や日本側の、プーチン大統領や軍隊といったものをロシアの表象とする報道は対照的でありながら、「映そうとしているもの」と「映されないもの」は共通しているのではないか、そこに「ロシアを見つけるのは難しいように思われました」と、自身の胸中を語る。
しかし今日まで、様々な立場から表明されてきたロシア人の反戦表明を支持し、「私はロシアという言葉、ロシアという国名を聞くたびに、その人たちのことを考えたいと、そう思うようになりました」と宣言。
逢坂冬馬さんは「戦争というものは、始めるのが非常に簡単だと今回も立証されてしまいました」と続ける。
反対に、平和はすぐに構築できるものではなく、だからこそ「平和を望むのであれば、平和構築のためのプロセスに可能な限り参加し、それぞれ市民というレイヤーの中で、お互いに信頼を勝ち取っていかなければなりません」と表明。
最後に、「私の描いた主人公・セラフィマがこのロシアを見たならば、悲しみはしても、おそらく絶望はしないのだと思います。彼女はただ一人か、あるいは傍らにいる一人と町に出て、自分が必要とされていると思ったことをするのだと思います。なので私も、絶望するのはやめます。戦争に反対し、平和構築のための努力をします。それは、小説を書く上でも、それ以外の場面でも、変わりはありません」と締めくくった。
スピーチ後、会場は大きな拍手で包まれた。
『同志少女よ、敵を撃て』あらすじ
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
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書誌情報
逢坂冬馬『同志少女よ、 敵を撃て』
- 発売日
- 2021年11月17日
- ページ数
- 496ページ
- 定価
- 2090円(税込)
- イラスト
- 雪下まゆ
- 初版部数
- 30,000部
- 累計発行部数
- 371,000部(紙:20刷360,000部、 電子書籍:11,000DL)
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