星宮とと, 藤沢ハルカ, TEMPLIME「two notes」
個人的に2021年のキラーチューンとして印象深い、星宮ととさんと音楽ユニット・TEMPLIMEのアルバム『TIMESURF』収録曲「two notes」。多彩な音とギターサウンドを組み合わせ、メロディはポップに仕上げられた本楽曲は、星宮ととさんの聞き取りやすい歌声と終始キャッチーなメロディが耳から離れない。ポップにパッケージされてはいるものの、メロディの部分でしっかりダンスミュージックらしさも表現されている。ダンスミュージックからポップス、さらにはバンドサウンドと、日を増すごとに進化し続けるTEMPLIMEのトラックに、星宮ととさんはしっかりと自分の色を落とし込んでいく。その時その時で自分たちがやりたい音楽を全うしているのが、新譜を聞くたびに強く感じられる。
浮遊信号「あなたのおかげで」
MonsterZ MATE(MZM)のコント番組「MZMのみなさんのおかげです。年越しスペシャル2020 〜今年は大変だったね〜」に書き下ろされた音楽ユニット・浮遊信号の楽曲「あなたのおかげで」。MZMを含めいろんな人への感謝の気持ちが込められた楽曲だ。浮遊信号のバックボーンがあってこその曲ではあるが、聴いているだけでアーティスト側の感謝の気持ちが伝わってくる。ピアノの前奏からポップなバンドサウンドが展開され、esora umaさんの軽快なメロディがとにかく気持ちいい。サビのユニゾンも楽曲の疾走感とあいまって壮大さを演出している。「成長に伴い様々な苦悩を抱いて前進してきたんだな」というのが歌詞から伝わり、メッセージ性をより際立たせてくれるポップなメロディとの組み合わせが最高だ。
オシャレになりたい!ピーナッツくん「幽体離脱 feat.チャンチョ & ぽんぽこ」
オシャレになりたい!ピーナッツくんの1stアルバム『False Memory Syndrome』の収録曲「幽体離脱」。ボリュームあるアルバムの中でも少し毛色の違うエモーショナルな楽曲だ。フックのキャッチーさも魅力的だが、幽体離脱というワードもあいまって少し不思議な世界観が特徴的。聴きやすさはもちろんのこと、フックのユニゾンは一度聴いたら頭から離れなくなる。個人的には、甲賀流忍者!ぽんぽこさんの声が、楽曲にいいアクセントを加えていると感じる。ヒップホップというジャンルをベースに様々なトラックを歌いこなすピーナッツくん。個人勢でありながら動画投稿をしつつコンスタントに楽曲もリリースしている。精力的な活動の中で、トレンドをしっかり組み込んだ楽曲や「幽体離脱」のように少し懐かしさを感じさせるような楽曲まで、アーティストとしての多彩さは他の追随を許さない。
TEMPLIME, 星宮とと「HIKO」
新曲がリリースされるたびに、新たな一面を見せてくれる星宮ととさん。「HIKO」でも自身のアーティスト像をしっかりと保ちながら、音楽性を更新するかのように色褪せない楽曲を披露している。ダンスミュージックの印象が強い彼女だが、とにかくバンドサウンドとの相性が良すぎるのだ。「HIKO」は、星宮ととさんの透き通る歌声が、力あるバンドサウンドとマッチしている。サビの盛り上がりにおいては、透き通るような歌声からは想像できない凄まじさだ。
氷雨悠冰 & 座頭景「Four centimeter cigarette」
歌やラップを器用にこなす氷雨悠冰さんと、独特の世界観でスキルフルなラップをする座頭景さんの共作。哀愁あるトラックに2人の落ち着きあるフローとリリカルさが特徴的な1曲だ。個人勢を中心に盛り上がりを見せるヒップホップ。自由度の高いコラボレーションで新たな親和性を見せてくれているが、企業勢ではここまでラフにコラボを実現させることはできないだろう。
そして今の個人勢のすごいところは、誰とコラボしてもトラックの雰囲気に合わせてそつなく対応できるスキルの高さだろう。昔よりも切磋琢磨できる仲間が増えていき、お互いが認め合う関係性ができあがってきたと、外から見てもわかってしまう。これからも音楽を主体とした個人勢の活躍に期待したい。
てれかす「インバイト来たからまたね」
VRC(VRChat)を拠点に活動するてれかすさん。これまで「ふんわりディスコード」「バーチャル六畳半」「ポピ横の狂人」といったポップスやロックサウンドを組み合わせた耳障りのいい楽曲を発表している。特徴的なのはVRCの利点を活かしたMV。MVでモデリングされたエレキギターを弾いたり3DCGの街中で撮影したりと工夫が凝らされている。
「インバイト来たからまたね」は、少し落ち着いた雰囲気からサビでガラッと盛り上がるポップな仕上がりになっている。見た目に限らず、愛くるしい歌声も楽曲自体の雰囲気に合っており、目でも耳でも楽しめる。
おはよう真夜中「midnight beat」
瀬戸乃ととさん、HACHIさんなど多くの実力派シンガーを輩出してきたバーチャルライブ配信アプリ・REALITY出身のVSinger・おはよう真夜中さん。2022年にリリースした「midnight beat」は、懐かしさ漂うシティポップを優雅に歌い上げている。しっとりした雰囲気と明るさが絶妙にマッチしており、おはよう真夜中さんの聴き取りやすく優しい歌声が楽曲をさらに彩っている。
アザミ「涙のある街(鹿あるく Remix)」
ポップでキャッチーなバンドサウンドの楽曲を数多くリリースしてきたアザミさんとトラックメイカー・鹿あるくさんの組み合わせは、今やシーンには必要不可欠と言っていいほど親和性が高い。淡いギターが王道らしさを演出する疾走感あるロックナンバー「涙ある街」を、EP『スピンオフB』で鹿あるくさんが表情をガラッと変えたポップサウンドに変貌させた。ダンスナンバー色も強くなった本楽曲は、水音のワンショットサンプルなど細かい演出が散りばめられている。本格的に違うアレンジとしてつくり上げたというよりは、遊び心による変身と言ったほうがしっくりくる。アザミさんの力強いボーカルは活かされたまま、お互いの長所を上手く演出するRemixとして、もっと評価されてほしい1曲だ。
88.nia「咲けよスターチス」
VTuber/VSinger・88.niaさんのオリジナル楽曲「咲けよチータス」。この楽曲を評価する上でとにかく注目すべきは88.niaさんの歌声だろう。一度聴くと忘れられないような透き通った歌声と、バラードナンバーの相性は抜群。冒頭の語りかけるような歌い方も、楽曲の雰囲気に没入できる大きな要因となっている。そこから徐々に盛り上がっていく構成も聴いていてワクワク感が込み上げてくる。まだオリジナル楽曲は少ないが、普段からゲーム配信などマルチな活動を行う88.niaさん。このままバラード曲を主体に歌い上げていくのか、さらには違った雰囲気の楽曲を見せてくれるのか。歌配信を聴いている感じでは、あらゆるジャンルの曲を自分流に歌い上げているのがわかる。これからの活躍に期待したい。
memex「Interference feat. kiila」
独自のサウンドで、シーンの中でも異色の音楽ユニットとして、他では真似できない世界観を見せてきたバンド・memex。ロックバンド・vivid undressのkiilaさんをゲストボーカルとして迎え入れた楽曲が「Interference feat. kiila」だ。ピアノロックのサウンドに、アランさんとkiilaさんの歌声が混じり合う。この楽曲の良さは、呼応するかのように異なる歌声がユニゾンするところだろう。力強く伸びていく2人の歌声の威力は凄まじい。ハイセンスなサウンドで、これまで数多くの楽曲を送り出してきたmemex。デジタルロックの色が強いものもあれば、今風のオルタナティブロックをキャッチーに仕上げることもできる。サウンドとアランさんの素直な歌声のギャップがこのユニットの特徴であり、ゲストボーカルを迎えることでさらなる世界観を演出できる。そのポテンシャルは非常に高い。
江戸レナ「UKIYOE」
YACAさんがコンポーザーとして携わったVSinger・江戸レナさんの「UKIYOE」。YACA節満載の軽快で癖になるリズムと、江戸レナさんの圧倒的な歌唱力とエッジの効いたフローが組み合わさったキラーチューンだ。これまで様々な楽曲を発表、数多くのアーティストとコラボレーションしてきた江戸レナさんだが、ソロ楽曲だろうとコラボだろうと、自身の持つ世界観やポテンシャルを遺憾無く発揮してきた。江戸の姫という現代とはかけ離れた背景を持ちつつ、近代の音楽性を取り込んできた彼女の音楽は誰も真似することはできないだろう。
YASAI SHOP「throbbing feat.XRE」
キャッチーなメロディと優しい歌声、そして淡いダンスミュージックが見事に融合したYASAI SHOPさんの「throbbing feat.XRE」。XREさんのボーカルがこれでもかという具合にトラックに寄り添っている印象を受ける。感情的になったり、無機質な感じに囁いたりと、様々な表情を見せてくれる。トラックメイカーとして精力的に活動するYASAI SHOPさんだが、KAWAII MUSICをメインに手がけていることもあり、VTuberとの相性はかなりいい。これから様々なアーティストとの組み合わせを見たい注目のトラックメーカーだ。
八月二雪 feat. マッチ「ナキエト」
VTuberの音楽シーンが活性化した2018年から活動する電脳音楽ユニット・八月二雪。対するは、バンドサウンドが印象的な小宵さんや浮遊信号のコンポーザーを担当するなど、多方面で活躍するマッチさん。夢のタッグが叶った1曲「ナキエト」。マッチさんの軽快なギターサウンドにjohn=hiveさんのキャッチーなメロディ、そしてQキキさんの可憐なボーカルの融合が楽曲を彩る。
活動の方向性は違えど音楽性は同じなど、コラボすることで見事に親和性を生み出す現象が見られるのは、VTuberの音楽シーンの特徴でもある。このように以前なら相まみえなかったアーティスト同士のコラボは革新的であり、2022年以降も盛んに発生してほしい。
キヌ「kinu 2nd live "クロスプラットフォームの旅人" at #memeと森と蚕 in VRChat」
2019年、メタバースプラットフォーム・cluster内で開催されたクロスプラットフォームVRライブツアー「memeと森と蚕」から抜粋されたパフォーマンス。ライブエンタメというよりは、「バーチャルYouTuber」の存在意義を音楽とともに落とし込んだと表現した方がしっくりくるだろう。メタ的とも言える言葉の羅列が怒涛のように浮かび上がり、かなり衝撃的な内容になっている。
バーチャル空間で行われたライブということもあり、キヌさんはなおさらバーチャルな存在に対するダイレクトな表現を意識したのではないだろうか。最近あまり見られなくなったが、こういったパフォーマンスアートがもっと増えてもおかしくはない。
ISA「Beetle Found a Mate」
シーンに突如現れたバーチャルシンガーソングライターのISAさん。海外の音楽をメインにカバー楽曲を投稿している。「Beetle Found a Mate」も、UKロックを体現したようなハイクオリティなサウンドと、耳に残る跳ねるようなボーカルが、リズミカルなメロディと重なってかなり中毒性が高い。MV自体もかなりポップに仕上がっており、見ているだけで楽しい。
オリジナル楽曲は少ないものの注目に値する存在だ。バンドサウンドが徐々に浸透してきたカルチャーの中で、異色のサウンドを展開している彼女の動向から目が離せない。
必読!KAI-YOUのVTuber楽曲レビュー
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