堂村璃羽 feat.韻マン「SHARP SHIP」
新たな音楽シーンの爆心地となったTikTokは、当然ヒップホップにも多大な影響を与えています。最新の楽曲はもちろん、数年前にリリースされた楽曲がTikTokのネタ元となって若年層に再発掘されることも当たり前となりました。堂村璃羽さんと、韻マンさんもまさにTikTokによって、さらにプロップスを上げたラッパーの2人だといえます。その2人がタッグを組んだ楽曲は、極めてシリアスに現在進行形の葛藤と未来への希望を歌います。新世代の共鳴を感じさせる楽曲。
百足&韻マン「1人じゃない」
「00世代最強」の称号を持ちながら、まだあどけなさの消えない百足さん、ひたすら韻が好きな好青年の韻マンさん。きっとこの年齢の、今この瞬間の二人からしか出てこない、あえて言えば青臭いテーマ。ビートも映像も。でもそれでいいだろ? きっとヒップホップらしくない、けど、それがいいだろ?
バトルが音楽に繋がって、関係がリリックに深みを与える。それって最強では?
(sic)boy(Prod.KM)「social phobia」
2020年、楽曲「Heaven's Drive feat.vividboooy」で一気にシーンのトップに躍り出た(sic)boyさん。ヒップホップのラッパーでありながら、敬愛するアーティストにL'Arc-en-CielのHydeさんを挙げ、そのサウンドもギターのフレーズを前面に押し出した日本におけるEmo Rapの旗手。本楽曲もプロデュースはビートメイカーのKMさん。MVでも(sic)boyさんはギターをプレイし、他のラッパーとは一線を画すスタイルであることがすぐにうかがえます。圧倒的個性。
(sic)boy「Creepy Nightmare feat.lil aaron」
2021年にアルバム『vantias』をリリースした(sic)boyさん。L'Arc〜en〜Cielのhydeを敬愛しているというその出自やサウンドからすでにヒップホップシーンにおける異色の存在として注目を集めていたが、アルバムでも全編ギターサウンドを全開に取り入れ、日本におけるEmo rapの金字塔を打ち立てた。客演に迎えたlil aaronさんも、Emo rapという言葉がまだ知られてない時期から自分を貫いてきたラッパー。(sic)boyさんとの共作は納得でしかない
プロデューサー・KMさんの手腕もさることながら、(sic)boyの柔軟な音楽性があるからこそ成立している音楽。すごい。
GOMESS & Yackle「Lost Planet (feat. KERENMI)」
ラッパーのGOMESSさんとビートメイカーのYackleさん。プロデューサーには蔦谷好位置さん。宇宙的なビートには時折ノイズのような音が混じっていて、その綻びが不穏さを呼び込んで、強いオートチューンのかかったGOMESSのリリックが絡みついてその銀河と共鳴する。苦しみを際立たせているようにも聴こえるし、まるで鎮魂のようにも響いている。
歌なんてものはただ上手くたってしょうがなくて、届けたい何かを持たない人間がどれだけ技巧を凝らしたって人の心を震わせることなんてできやしない。これからもGOMESSさんにしか鳴らせない歌を届けてほしい。
dodo & tofubeats「nirvana」
2019年から2020年にかけて大きな躍進を見せたdodoさんと、近年はヒップホップシーンにおいても重要なプロデューサー/アーティストとなったtofubeatsさんの共作。「別れ」や「喪失」という普遍的かつ身近なテーマを2人ならではの繊細な表現で見せつける。特に、tofubeatsさんの「10年前に作った物もいまだに越えられてもないし」という突然の吐露には長年彼の活動を追ってる身からすると食らうしかない。
これまで自主制作+1カメの手作り感満載のMVをアップし続けていたdodoさんだが、ちゃんとした映像でその姿を見れる貴重なMVとなった。
宇多田ヒカル「君に夢中」
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に華を添えた「One Last Kiss」に続き、楽曲プロデューサーとしてA.G.Cookさんが参加。重低音の効いた、地に足がつきながら浮遊感もあるそれのループに、宇多田ヒカルさんの時に滑らかに時にスタッカート強めにリリックを乗せるフロウは完全にヒップホップのそれ。uの音で重ねた怒涛の脚韻が心地良い。
でも何より注目すべきは、この曲というか宇多田ヒカルはそれをジャンル的な音楽に留めずポップスとして鳴らせる歌唱の凄みだろう。これが日本のドラマの主題歌ってまじか。
LibeRty Doggs「Good Bye」
2021上半期の名曲を集めたプレイリスト
多様な需要にフォーカスした楽曲が印象的な2021年
2021年は「コロナ禍」や「ニューノーマル」などの単語も聞き飽き、アーティストもリスナーも粛々と自分のやること・できることを最大限にやっていたように感じます。緊急事態宣言も明け、まだ新たな動きも間もなく目立ってくるでしょう。変わらないスタイルを貫くストリート感を押し出した楽曲や、TikTokでのバイラルが起点となっている楽曲、ネットの文脈を持ち新たな領域を拡大する楽曲、かつてのなんでもない日常を思い起こさせる楽曲など、細分化された需要にきっちりと焦点を当てた楽曲・アーティストが印象に残りました。
見逃せないのが「ODDTAXI」や「Presence」シリーズのような、ドラマやアニメとタイアップした楽曲です。両楽曲とも、曲自体が作品の盛り上がりにかなり貢献をしており、フリースタイルブームから来た世間でのヒップホップの認知の向上がここに来て結実を見せたのではないでしょうか。
今に続くムーブメントに至る潮流として、「ULTIMATE MC BATTLE」や「戦極 MC BATTLE」といったMCバトルの大会や、2012年からBSスカパー!のバラエティ番組「BAZOOKA!!!」の企画として始まった「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」があります。
そうした盛り上がりを背景にした今年、2021年。決して世間的な話題作だったわけではないものの、ここまで注目を集めた話題のドラマに、テレビ的にわかりやすい面子というわけではない今最もパワフルなラッパーたちが大々的に関わったという事実は、大袈裟に言えば、日本のヒップホップ文化の躍進を告げる出来事でした。
2018年〜2024年のヒップホップの名曲はこちら
ヒップホップを取り巻く状況
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日夜生み出される現象や事象を“ポップなまとめ記事”として紹介する人気連載。 いま注目を集めるジャンル、気になったときにチェックしたいトレンド──。 KAI-YOUでは「POP」を軸に、さまざまな対象をまとめて紹介していきます。
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