映画『泣きたい私は猫をかぶる』Netflix配信の裏側 ツインエンジン 山本幸治に聞くアニメの今

アニメスタジオの淘汰と対する施策

ツインエンジン会社紹介
──ツインエンジンとしての展望は「TWINENGINE Conference 2020」でも発表されていましたが、その中で、近年、「アニメスタジオの淘汰が始まっている」というお話がありました。その要因の1つとして「働き方改革」が挙げられていましたが、長年叫ばれていた制作現場のブラックな環境に変化は起きていますか?

山本 働き方改革について言えば、対応できる会社とできない会社で分かれ、そこで淘汰が生まれていくと思います。

労基(労働基準監督署)のような外からの介入で強制的に変化を求められた。変化を迫られていたところに、今回の新型コロナウイルスがきた。

コロナによって「変わらなければいけない」という待ったなし感はいったん落ち着いてしまいましたが、今後も別の圧力として確実に現状からの変化は迫られると思います。

──カンファレンスではもう1つの理由として「人材不足」を挙げられていました。

山本 アニメーターや制作進行といった労働人口の減少で、コンテンツをつくり続けることが難しくなっているんじゃないかと。

「モノづくりをしたい」「エンターテインメントやクリエイティブに関わりたい(就職したい)」人が、ゲーム会社やIT系など、別の道を選んでしまったところで、働き方改革によって淘汰が進むと思っていました。

肌感ですが、実際現場には無理やりつくっているみたいな感覚もずっとあったと思うんです。

ツインエンジンが新たに設立した法人「EOTA」組織イメージ

──最近は本数の減少も取り沙汰されていました。そういった流れがある中で、ツインエンジンの新法人「EOTA」(Engine of the Animation)設立の狙いは何ですか?

山本 スタジオコロリドやジェノスタジオなど、今あるスタジオを束ねる器──大きな船をつくったイメージです。1つひとつの会社を合併するといろいろな個性が失われるので、ホールディング的な位置づけです。

EOTA」には2つの狙いがあって、1つは個々のスタジオが必死に制作するのではなく、グループとして生産性の強弱をつけられるようなシステムをつくることで、人材の流動性を高めることです。

単純にどこかのスタジオが困っていたら助けるということだけではなく、そもそも人材が流動的に動けるような案件の入れ方をする。
FILMONY × ENJOY MUSIC CLUB「なつのにわ」
山本 たとえばFILMONYというスタジオでは、新井陽次郎を中心とした小さなスタジオなので、グループの他のスタジオと一緒につくっていくことを想定しています。

これからコンテンツ制作が厳しくなることを見越して、スタジオ単位ではなくグループ全体で人材をやりくりする──みんなで1つの船に乗っているんだという共通認識を図りました。

──もう1つの狙いとは何でしょうか?

山本 もう1つが、各スタジオ間で似通った作品の乱立を避ける、つまりスタジオやクリエイターの個性が際立った作品を生み出せるようにするためです。

アニメ業界はフリーのクリエイターも多いとはいえ、同じ人(チーム)たちがまるっとそのまま別作品で同じような作業を担当することが多い。すると、どうしても「どこかで観たことがあるような作品」が出てきてしまいます。
『ペンギン・ハイウェイ』 スペシャルトレーラー
山本 個人作家を中心に、少数で個性的なショートフィルムをつくれるクリエイターがインターネットを中心にたくさんいるわけじゃないですか。スタジオコロリドの『ペンギン・ハイウェイ』も、もともとは監督の石田祐康くんの個人制作のワークフローを長編に合わせて拡張したところがあります。

僕らとしてはそういったモノづくりをしていきたい。そういった動きをEOTAという大きい器のグループとして応援できるようにしていきます。

──グループ企業を繋げることで、逆に個人の個性を際立たせたいということですか?

山本 そうですね。そういう意味では今後、グループ内のスタジオやクリエイターから、さまざまなショートアニメが生まれてくると思います。

さっきも言ったように、シリーズ物をつくると同じ制作工程を踏む都合上、似通った作品が出てくる。対してショートアニメは、個性的で作家性が際立った存在感のある作品が生まれやすい。
石田祐康監督の自主制作アニメ「フミコの告白」
山本 「この作品にはこの絵じゃないとダメだよね」という、唯一無二な作風を持つ作品が出ていく仕組みづくりをしていきます。少人数による個性的なショートアニメをつくって、テレビシリーズとか映画化するとなった場合は、母体のEOTAとして制作するというグループ構造が理想です。

グループを繋げて生産力を集中させること、個人単位の小さなクリエイティブユニットの個性を際立たせる──EOTAの大きな狙いはこの2つです。

実験的なショートフィルムの制作

数々の短編アニメ作品を手がけてきた塚原重義監督初の長編アニメーション企画『クラユカバ』

──発表の中で短編アニメを打ち出されているのが不思議だったんですが、今の話を聞いてすごく腑に落ちました。短編アニメへの注力は、マーケティング的にもニーズが高まっていることを視野に入れた取り組みなのでしょうか?

山本 短編アニメをビジネス化できるとは思っていません。長編映画とかシリーズを海外に出そうと思うと、脚本や絵コンテといったプリプロダクション業務をスタジオ内できちんとやっておく必要があるんですよね。

大きな作品のパイロット、マーケットテストとしてショートアニメをやっていきます。なのでショートアニメは、実験的に開発費でつくっているような意識です。

新たなショートアニメ企画となる青春コメディ『ボクらのロケットはキミと青春成層圏をこえていく』

──パイロットフィルム的なことで、フットワーク軽く実験的なことができるということですか?

山本 そうですね。もう1つはSNSに特化するということです。パイロットフィルムといえば、ピクサーのように新作の後ろに紐づけて発表するスタイルが理想と考えています。

ただあれは、ピクサーという世界中のみんなが観る作品だからこそ意味があったと思います。日本という極東のローカルプロダクションがつくる、興行収入が数億円の作品で同じことをやってもインパクトがありません。

一方SNSなら、魅力的なパイロットフィルムをつくれば世界に広がる可能性がある。マネタイズはできないけどそういったセールスは見越してやっていこうと思っています。

新型コロナウイルスによる変化

──現在、新型コロナウイルスで多くの作品制作が止まっている中で、今後コンテンツメーカーはどのように作品をつくっていくのか。構想や考えはありますか?

山本 一気にやり方を変えるということはないと思います。分業の進んでいるアニメ業界として良くも悪くもあるという部分で、前述のように限られたメインスタッフを貸し借りしているのが現状です。

今はそのやり方にみんな合わせていますが、本来は不要なワークフローあるはず。フリーランスの集合によって、みんなが乗っかっていたワークフローとは異なるつくり方にアクセルを踏んでいくと思います。
スタジオコロリドのデジタル作画体制
たとえば石田くんを筆頭に、スタジオコロリドのワークフローは特殊なんです。彼らは今デジタル作画の先頭を行っていて、従来の人を介した紙の受け渡しもないのでリモートでも生産性は落ちにくい

これまでは効率を上げるために従来のワークフローに当てはめていたけど、新型コロナでその前提が崩れてしまった。アフレコはみんな集合してやる、みたいな部分を、1つひとつ独自の新しい方法に変えていく。そういった新たな手法をつくりやすい土壌はあります。

岐路に立つアニメ業界

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