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映画『泣きたい私は猫をかぶる』Netflix配信の裏側 ツインエンジン 山本幸治に聞くアニメの今

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  • ツインエンジン代表・山本幸治インタビュー
  • 『泣きたい私は猫をかぶる』Netflix配信の裏側
  • コロナ禍におけるアニメ業界の現状と未来
映画『泣きたい私は猫をかぶる』Netflix配信の裏側 ツインエンジン 山本幸治に聞くアニメの今

ツインエンジン代表・山本幸治さんインタビュー

ペンギン・ハイウェイ』(2018年)で第42回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞、これまで手がけていた中・短編のアニメから初の長編によって大きく飛躍した制作会社・スタジオコロリド

次なる長編として6月8日に公開予定だったアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』は、4月末に急転直下で6月18日(木)からNetflixでの独占配信が決まった。

数日前には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を考慮して、公開延期を発表。スピーディーな切り替えで、当初の公開日から少ないタイムラグで配信を実現した裏側には何があったのか?

山本幸治さん。取材はビデオ通話で実施

話を聞いたのは、企画を担当したアニメプロダクション・ツインエンジンの代表であり、初代編集長として10年間、フジテレビのアニメ枠・ノイタミナを率いてきた山本幸治さんだ。

スタジオコロリドやジェノスタジオなど複数のアニメスタジオを有するツインエンジンでは先日、新法人「EOTA」の設立を発表したばかり。配信サービスによって変わるアニメビジネス、それを見越した新法人の設立まで、今、山本さんに聞きたいことを詰め込んだ。

取材:新見直 文・編集:森田将輝

劇場公開から配信へ『泣き猫』のスピード感はなぜ実現した?

『泣きたい私は猫をかぶる』

──ツインエンジンとして企画を担当している映画『泣きたい私は猫をかぶる』が、Netflixでの配信に至った経緯を教えてください。

山本幸治(以下、山本) まず『泣きたい私は猫をかぶる』の製作委員会は、企画の立ち上げとして僕らツインエンジン、幹事会社のフジテレビ、配給の東宝の3社を中心に構成されています。

コロナの影響がまだ大きくなる前、3月上旬頃、当時はまだ4月や5月公開の映画が予定通り公開される想定だったため、6月公開の本作は延期しない方針でした。とはいえ、僕としては今後状況が悪化していく未来に備え、何かしらの手立てを考えなければいけないと思い動き始めました。

方策を考える中で、ツインエンジンが以前から配信に振り切った戦略を描いていたこともあり、配信会社へのアプローチを始めました。具体的な金額は言えませんが、Netflixから提示されたディールの内容も悪くなかったので、委員会にも納得してもらえたという流れです。 ──早い段階で動き出したことが1つのポイントだったということですね。

山本 うちの会社がベンチャー企業なので動きが早く、Netflixもスピーディーでした。おそらくこれ以上遅れてしまったら話すら噛み合わなかった。

ツインエンジンは企画を担当して、制作を担当しているスタジオコロリドの親会社でもあるということで、ハンドリングしやすいポジションにいた点もスピードという面では重要でした。

さらに言えば、僕がフジテレビ出身で幹事であるフジテレビの人たちと距離が近かったのも大きかったかもしれません。彼らとはよく喧嘩もするんですけど(笑)。 ──深くお聞きしたいところですが別の機会に。結果的に、ベンチャーのスピード感と関係企業間との連携によって実現できたと?

山本 そうですね。コロナ以降に公開延期を決めた作品も多いですが、新型コロナウイルスが長引けば実際に延期した先に公開できるか、現時点ではわからないじゃないですか。

映画において重要な「公開日」に不確定要素があるなら、スタッフの気持ちやそれまでしてきた宣伝を考えると、配信で出すことを優先したいと考えました。延期後の状況に対する読みみたいなところも肝でしたね。
本予告『泣きたい私は猫をかぶる』公式
──プロデューサーとして映画の感想や見どころを教えて下さい。

山本 個人的な感想では、主人公がちょっと変わった子なので、完成するまではみんなに愛されるか不安でした。でも僕自身、完成後に観るととても好きになっていたので、みんなにも好きになってもらいたいなと思います。

岡田麿里さんのちょっと変わった子を描くという部分と、監督の佐藤順一さんが娘を見るような視点からキャラを愛でて、もう1人の監督・柴山智隆さん及びスタジオコロリドがそれを絵にしているというバランス。

ジャンルで言うと大スペクタクルで世界が滅びるようなことはない、昔の邦画みたいな感じです。良いものになっていますので、ぜひ多くの人に観ていただければと思っています。

アニメビジネスの収益構造の変化が作品のクオリティに影響

──山本さんは先日開催した「TWINENGINE Conference 2020」で、今後の展開とともに、アニメビジネスの変遷にも触れられています。配信の普及に伴う、Blu-rayやDVDといった旧来のパッケージ販売以外の視聴収益の拡大を、好意的に捉えていました。

山本 ツインエンジンとして配信に重きを置いているという意味でも、パッケージ以外の収益拡大は好ましい状況です。

──カンファレンスでも2018年にアニメビジネスの市場規模が過去最大を記録したと言及していました。ビジネスモデルの変化が、作品のクオリティにも影響すると思いますか?

山本 良い影響が大きいと思いますよ。僕がフジテレビ時代にノイタミナを担当していたときは、ビデオメーカーが主幹事の、ビデオを売るためのものとは違うアニメ──いわゆるオタク向けアニメとは違う作品──をラインナップしたいとしていた。

しかし、当時のマネタイズの方法はビデオグラム(Blu-rayやDVDの販売)が中心、ビデオグラムとして売れる作品はいわゆる萌えアニメが主流。そうすると、ノイタミナという企画自体、収益構造に弱さを抱えながら継続できるのかという話になります。
「四畳半神話大系」
山本 深夜アニメのファンの中でビデオを買う層がおよそ20万人いたとして、そのほとんどが萌えアニメファンという客層で、そこに向けた作品をつくると、どうしても作品性が似通ってしまう。

ノイタミナ時代は、アニメファンの中でもより狭い層に対してマネタイズを考えつつ、作品的なチャレンジをしていたのでとても苦労しました。たとえば『四畳半神話大系』は評価の高い作品の1つですが、ビデオグラムが好調だったかというとそうではありませんでした。

──作品の評価がマネタイズに直結しない。それがNetflixやAmazonといった配信ビジネスの影響で変わりつつあるということですか?

山本 国内だけでなく海外でも配信によるマネタイズが確立されたことで、ビデオグラムとは違う客層が開拓され、いろいろなタイプの企画が成立するようになっています。
TVアニメ「どろろ」PV
山本 過去になかった作品の例としては、『ポプテピピック』や北米で大ヒットした『メガロボクス』、YouTube Premiumで虚淵玄さんが原案・シリーズ構成を手がけた『OBSOLETE』、僕らの作品では中国でよく観られている『どろろ』などが挙げられます。

ビデオグラムを一方では意識しつつ、そこを無視しない範囲で企画できる作品の幅・自由度が広がっているのを実感しますね。

Netflixは救世主? 配信プラットフォームの恩恵と弊害

──マネタイズの多様化が作品性の豊富さを担保している。一方で、視聴者的にはプラットフォームの乱立は金銭的負担になる。サービス側としては他社との差別化も必要になると思います。

山本 現状はプラットフォームごとの差別化が成熟していないので、各プラットフォームが欲しがるものが一緒になることもあると思います。

その中でも、Netflixが先んじて独自路線を進めているので、各社の独自性はどんどん強まっていくと思います。僕らも違いを意識しているし、プラットフォーム側にもその意識はあると思いますね。

配信黎明期の日本のプラットフォームは、短期的な数字を取ろうとコアで能動的なビデオマーケットユーザーを取り合ってきました。でも配信事業者の競争によって限界点が開かれ、各プラットフォームが独自の市場をつくっていくことになると思います。

──スタジオやクリエイターとの提携をはじめ、Netflixの独自路線は目立っています。「日本アニメ市場の救世主」という論調もありますが、コンテンツプロダクションの立場としてはどう思われますか?

山本 僕自身は「Netflixは救世主」とまでは思っていません。なぜならNetflixは基本的に独占配信を希望しているからです。

ツインエンジンはベンチャー企業なので、どうしても1話あたりの金額で売り先を決めることが多いです。そういう意味で、独占で悪くない金額を提示してくれるNetflixはありがたいです。

一方で、『鬼滅の刃』のように、1社の独占の権利料の高さではなく、複数のプラットフォームで同時展開されることでブームをつくり、大きな利益をもたらす作品のパターンが理想と考えています。
TVアニメ「鬼滅の刃」PV
──作品の広がりという意味では、独占ではないほうが成功する可能性もあると?

山本 根本的にコンテンツの理想はいかに人に観られるかだと思います。

誤解しないでほしいのが、Netflixのような存在によって新たにスタジオが立てやすくなったり、収益構造が安定したりするといった面では、彼らをすごくポジティブに捉えています。

ただ、独占される作品が増えたときに、ブームになりうるポテンシャルを持ったコンテンツが大成しないかもしれない。そういった弊害が出てくる可能性がある。

もちろん、配信事業社として独占したくなるのは当然なんですが、コンテンツに自信があって資金力があるのであれば、できる限り独占のディールは結ばないほうが良いのかな、とも思います。

──たしかに。これは個人的な実感として、独占作品はSNSで同時に盛り上がりにくいので、宣伝の面でも難しかったり、ユーザーが分断されたりしている気がします。

山本 マーケットは拡大していますが、最初からクラスタ分けされたお客さんにしか届かない、みたいなことになりつつありますよね。

かつて、テレビの地上波放送時に起こった「みんなが同じものを見ている」という現象は、コンテンツホルダー側が『鬼滅の刃』のように意識しないと起きづらくなっていると思います。

──Netflixについてもう1つお聞きしたいのですが、日本のアニメファンからはNetflixオリジナル作品が、必ずしも高評価されているわけではないように思えますが、理由は何だと思いますか?

山本 過去に日本でヒットしている深夜アニメは、海外ではクランチロールで観られていることが多かったんです。クランチロールの視聴者には、「アニメは吹き替えじゃなくて字幕で見る」というような、日本人と近いオタクマインドを持ったアニメファンがたくさんいます。

Netflixでは、そういったマインドではないカジュアルな視聴者層を開拓してくれている。従来のコアなアニメファンとカジュアルな新たなファン、双方が夢中になれる作品がまだ生まれていないために、視聴者間にも分断が生じているんだと思います

とはいえ、両者の溝は徐々に埋まりつつある。僕が勝手に予測している未来では、ちょっと時代が進むことで視聴者がより開拓され、これまではコアなファンにしか観られなかった文脈性の高い作品であっても、世界でヒットするタイトルが出てくるだろうという期待はあります。

──複雑な背景を理解しないと楽しめないような作品でも、今後は楽しめる層が増えてくると?

山本 そうです。ただ、Netflixの力が強くなりすぎると、スタジオやクリエイターの発信力の低下や工場化が懸念されるところです。

宣伝っぽくなってしまいますが、ツインエンジンではそれを見越して手を打っていて、オリジナルの企画を立てて自分たちで発信していくことが重要ではないかと考えているんです。

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