連載 | #8 STAY HOMEを遊びつくす

「ニコニコネット超会議」統括Pに聞く “ゼロからつくり直した”ネット開催の裏側

「ニコニコネット超会議」統括Pに聞く “ゼロからつくり直した”ネット開催の裏側
「ニコニコネット超会議」統括Pに聞く “ゼロからつくり直した”ネット開催の裏側

「ニコニコネット超会議2020」インタビュー

POPなポイントを3行で

  • 「ニコニコネット超会議2020」とは何だったのか?
  • 統括プロデューサーはユーザーとの距離に手応え
  • niconicoならではのネットを使った感動とマネタイズ
ニコニコのすべて(だいたい)を地上に再現する」をコンセプトにした「ニコニコ超会議」。ネットをリアルで表現するイベントは、9回目を迎える今年、ネット上のみというイレギュラーな形で開催された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止の観点から、「AnimeJapan」や「コミックマーケット」など、さまざまなイベントが中止を発表する中、主催のドワンゴは、4月12日から19日までの8日間にわたって、「ニコニコネット超会議2020」の開催を決定。

直前に「超歌舞伎」や「VTuber Fes Japan」など一部企画の中止・延期・変更が発表されたものの、期間中のネット総来場者は1638万1426人を記録(※ニコニコ生放送、YouTube Live、Periscope、Twitchの合計)。

さらに2021年4月18日(日)から25日(日)には10年目という節目を迎える「ニコニコ超会議2021」の開催も決まった。今回は、超会議統括プロデューサー・横澤大輔さん(株式会社ドワンゴ 専務取締役CCO)のメールインタビューを通じて、タイトな期間で対応を迫られた「ニコニコネット超会議」を振り返る。

ユーザーとの距離が近づいた「ニコニコネット超会議」

「ニコニコネット超会議2020」

──まずは率直に「ニコニコネット超会議2020」を終えての所感をうかがいたいです。

横澤 今回のネット超会議は、niconicoのトップページを「ネット超会議会場」として、あらゆるコンテンツを集結させられるように、共通のニコニコタグやハッシュタグなどを提示し、ネットからユーザーさんが参加しやすい場所を用意しました。

タグを付けて写真を投稿すれば「ネット超会議会場」であるniconicoトップに掲載される形です。初日以降、コスプレ、痛車、カスタムキャストなどから多くのユーザーさんが集まってくれてありがたかったです。 横澤 ほかにも、公式生放送という共通の時間軸の中で非常に多くのユーザーさんが楽しんでくれたことや、公式以外でも、ユーザーさんがハッシュタグや動画の投稿企画を旗振りしてくれたおかげで、Twitterやニコニコ動画内で予想以上の数の企画が投稿され、楽しまれていました。

連日夜には、ユーザーさんも一緒に行う「ネット打ち上げ」をZoomで実施したんですが、これが非常に盛り上がりました。ネットならではの企画で、例年に比べてユーザーさんとの距離がより近づいたのではないでしょうか。 ──当初「超会議」と「闘会議」を合体した形で開催を予定していた「ニコニコ超会議 2020」ですが、リアルでの開催を中止して、ネット開催を決めた経緯について改めて教えていただけますか?

横澤 今年9回目を迎える「ニコニコ超会議」は、例年通り幕張メッセでの開催を予定していました。しかし、今般の新型コロナウイルス感染症の拡がりに伴い、政府のイベント自粛方針や、超会議に関わるすべてのお客様、関係者の安全を考慮した結果、今回の判断に至りました。

とはいえ、もともと超会議は“リアルとネットの融合”がコンセプト。そのリアルでの開催が中止になっただけで、リアルができないなら「ネットのイベントをつくろう!」と思い、「ニコニコネット超会議2020」と題した新しいネットイベントの開催を決定したんです。

また、単に“ネット開催”とするだけではなく、2日間の日程に新たに6日間を加えて4月12日から19日までの計8日間にわたって開催。最終的に、ネット来場者は総勢1638万1426人を記録しています。 ──中止を含めた可能性や話し合いは、いつ頃から進められていたのでしょうか?

横澤 今回の件が連日メディアで報道される中、2月から発信されていた政府からの民間イベントに関する方針や再検討、自粛などの要請を常に注視し、議論を重ねていました。リアルが中止のプランと、「ネット超会議」開催の2通りを想定していたのは2月の中旬あたりからです。

──2月下旬には、3月に開催予定だった「AnimeJapan」の中止が発表されました。そうした他のイベントの動向なども注視していたのでしょうか?

横澤 もちろんです。軒並み国内のイベントが中止を発表していたので、それらの動向は注視していました。その中で、比較的近いマーケットということもあり、「AnimeJapan」の動向は1つの指標でしたね。

ネット開催を0(ゼロ)からつくり直し、組み立てた

──ネットならではの開催として注目を集めた一方で、開催直前となった4月8日には一部企画の中止・延期・変更を発表しています。「緊急事態宣言」から時間がない中での判断だっ たと思いますが、事前にある程度は想定していたのでしょうか?

横澤 超会議に関わるすべてのお客様、関係者の安全を考慮したうえで、企画を規模感に応じて段階的に分け、情勢により判断する軸を設け、独自で検討を重ねていました。

──ネットであっても一部の企画に影響が生じてしまう。中止・延期・変更の決断にあたって、どのような話し合いや経緯があったんでしょうか?

横澤 まずは中核メンバーで、「こういう形でしかできないものをつくろう」という思いを持ち、議論しました。

さらに「ニコニコ超会議」「闘会議」は、さまざまな協賛・出展各社や協力会社、クリエイターの皆様の力をお借りして成立しています。ネット開催への変更に伴い、関係各所で「ネット開催という制約の中、どのように企画を展開したら楽しんでもらえるか?」という協議を急ピッチで進めました。 横澤 また並行して、何より多くのニコニコユーザーの皆様へ向けても、形は変われどネット上でこれまでと変わらず、むしろよりパワーアップした期間・コンテンツや、一緒に盛り上がれる“遊び場”を提供できるように、「ネット開催企画」を0(ゼロ)からつくり直し、組み立てていきました

結果的に、例年以上にブース担当者の想いが十二分に詰まったものになったと思います。幕張メッセではなく、それぞれの自宅など遠隔地でもユーザーさんが楽しめるもの──それらを非常にタイトな時間の中でつくり上げられたんじゃないかと。

──延期となった「VTuber Fes Japan」「VOCALOID Fes supported by 東武トップツアー ズ」「超ZUNビール」の現時点での開催の見通しについて教えてください。

横澤 現在は関係者間で協議中です。思いを込めてつくった作品ですので、またご覧になっていただける状況になったら、そういった機会をつくっていければと思っています。

niconicoにしかできないネットを使った“感動とマネタイズ”

──イベントに対する新型コロナウイルスの影響を振り返っていただきつつ、今回のリアルからネットへ、ネット開催から一部企画の中止や延期という流れの中で感じたことはありますか?

横澤 「ニコニコ超会議」は、“ニコニコのすべて(だいたい)を地上に再現する”というコンセプトで開催しています。避けられない影響によって、企画の変更や中止を余儀なくされたのは非常に残念で悔しい思いでした。しかし、それならと一度原点に立ち返り「すべて壊して0から」つくり直したんです。

自動と手動と運用を分け、ユーザーさんの反応をみながら、リアルタイムに編成していくことを大切にしました。イベントを通じて、プラットフォームは生き物で、“人と人とがつくり上げていく”ということを改めて実感しています。 横澤 たとえば、ただ生放送を実施するだけでなく、動画投稿を募ってみんなで1つのものをつくり上げる企画を実施しました。

また、火曜に盛り上がった話題を木曜のイベントの中に組み込むなど、ネットで起きている事象をキャッチしたフレキシブルな対応にも力を入れています。リアルからネットという開催形式の観点だけでなく、ユーザーさんとの双方向性をいつも以上に意識したつもりです。

改めてネットというフィールドは得意分野だなと。だからこそ「niconicoにしかできないniconicoならではの企画」という点では、制約の中でこそ、できることが多くあったようにも思います。 ──完全な形でのネット開催ではないものの、現在の状況下でネットならではの強みを発揮できたのではないでしょうか。外出がままならない状況下で今後、niconicoおよびドワンゴとして、どのようなサービスを提供していくべきと考えますか?

横澤 公演・イベントの生配信などは、niconicoはプラットフォーマーとしてこれまでもずっと提供してきたサービスであり、今回のコロナ渦の中で実施している「無観客公演」をはじめとするソリューションは、それらの延長線上にあるものです。

想いを込めてつくったものが中止や延期となってしまうことは、弊社メンバーが一番その辛さをわかっているからこそ、エンタメ事業者の方々の力になりたいと思っています。

ただ、これからこの状況が長引けば、エンタメ企業全般がライブやイベントという見せ方を変えて、ビジネスをせざるを得ない状況になるのではないでしょうか。 横澤 すべてが「本意ではないが無料で配信」ということではなく、ドワンゴはそのようなライブやイベントに対して、ネットを使った“感動とマネタイズ”が両立した、新しいネットエンターテインメントビジネスのソリューションを提供をしていきたいと思います。

その取り組みによって、事業者の方々はもちろん、その先にいるユーザーさんの力になりたいですね。

コミケとの共同企画「エアコミケ準備室」とは?

──「コミックマーケット」との取り組みについてもお聞きします。コミケ中止に対して、ドワンゴ社内のスタッフでもさまざまな思いがあったのでしょうか?

横澤 「コミックマーケット98」(C98)の開催中止が発表されたときから、niconicoとして何か支援することができないか考えていました。

コミックマーケット準備会の運営スタッフとも親交があったので、結果、支援策として、準備会との共同企画「エアコミケ準備室」を実施するに至っています。 ──先日のニコ生でも説明されていましたが、改めて「エアコミケ準備室」としての活動を教えてください。「エアコミケ」の開催期間中にもniconicoとして情報発信を行うのでしょうか?

横澤 「ニコニコネット超会議2020」の“会場”であるniconico総合トップページに「エアコミケ準備室」を開設し、準備会公認の情報窓口として、コミックマーケットにまつわる各情報を発信しました。

今回のネット超会議の期間中は、「C98」中止の経緯やエアコミケの内容に関して準備会の共同代表自らが出演する番組を放送。ほかにも「エアコミケ」に向けての同人作家等の各種クリエイターの活動紹介、同人流通に関わる企業の取り組みの紹介などの公式情報を発信しています。 横澤 さらに「C98」の開催予定日だった5月2日(土)から5日(火)の期間中は、niconico内に「エアコミケ ニコニコ会場」を設置。リアルタイム更新の「エアコミケ」ニュースを発信するほか、当日のニコニコ生放送番組やコミケWebカタログを経由して、同人委託ショップへの誘導を強化します。

──最後に、次回開催への展望を教えてください。

横澤 2021年4月18日(日)から4月25日(日)にはniconicoと幕張メッセで、「ニコニコ超会議2021」を開催することが決定しました。今回のネット超会議開催の経験を活かし、「ネット会場」をniconico、「リアル会場」を幕張メッセとして開催します。ぜひご期待ください。

改めて注目されるインターネットの可能性

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STAY HOMEを遊びつくす

新型コロナウイルスによる感染症が世界中で広がっている。 各国政府によって様々な方針や対策が掲げられているが、そのおおよそはとにかく「STAY HOME」──そう、外出自粛だ。 社会がその対応に追われ、混乱し、経済活動もままならない中、僕らのかつての「遊び」も急速に失われていっている。 居酒屋で飲んだり、音楽フェスやクラブで踊ったり、カードゲームの大会に出たり、そんな当たり前だったことが、もしかしたらしばらくできなくなるかもしれない。 しかし人類とウイルスが切っても切れない関係であるように、人類と「遊び」の関係もまた長い年月をかけて少しずつ変容してきた。こんな「STAY HOME」な状況だからこそ、今だからこそできる「遊び」や、時代の要請によって新しく生まれた「遊び」を特集。 ポストコロナの現代──ただ暇だといって何もしないで自宅に籠っているよりも、「STAY HOME」を遊びつくす。それがKAI-YOUのスタンスだ!

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8件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:3320)

リアイベに金ばらまいて、IPv6対応しませんとか公式資料で言っちゃう動画サイトはちょっと…
https://www.janog.gr.jp/meeting/janog35/download_file/view/121/153/index.pdf

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:3303)

企画力、発想力、スピード感のある決断と実行力、ドワンゴの凄さを実感しました。ピンチを逆手に取って、チャンスに変える考え方は、言葉は知っていても、中々できる事ではないと痛感してます。
企業人から見てもそれをやってのけた、ドワンゴのスタッフさん、関係者の方へ敬意を表します。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:3300)

ゼロから作り直した方がいいのはドワンゴとかいう会社そのものだと思うけどな
このまま潰れてもらっても構わないから、これからもユーザーの意見は一切聞かない姿勢を貫いてください

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