小説版ハッカソン「NovelJam」参戦レポ! 新城カズマ、うめ…プロアマ入り乱れる大混戦

小説版ハッカソン「NovelJam」参戦レポ! 新城カズマ、うめ…プロアマ入り乱れる大混戦
小説版ハッカソン「NovelJam」参戦レポ! 新城カズマ、うめ…プロアマ入り乱れる大混戦

日本初の小説創作セッション「NovelJam」参戦レポート/写真は筆者

2017年2月4・5日、NPO日本独立作家同盟による小説創作イベント「NovelJam(ノベルジャム)」が開催された。

「NovelJam」とは、著者と編集者による即席チームにより、2日間で小説の完成・販売までを目指す短期集中型のジャムセッション(即興演奏)。日本初の“小説版ハッカソン”である本企画の参戦レポートをお届けする。 文:結城紫雄 編集・一部撮影:新見直 撮影:加藤甫

【プロローグ】NovelJam参戦前夜

いちスポーツファンである筆者に言わせれば、人生は常に「一発勝負」の連続だ。

その最たるものがアスリートである。練習で積み重ねたささやかな成功は、本番で犯した「一度のミス」で水泡に帰す。

音楽業界も同様で、CDの売り上げに反してライブアクトがいまいちなミュージシャンがいる一方、一度のフェスで伝説となるインディーズバンドだって珍しくない。文学の世界でも、俳句や短歌には瞬発力が問われる場が常に存在する。

しかし小説には、それがなかった。 我々小説家だけがぬるま湯に浸かってのんびりしていていいものだろうか?

NovelJamでは小説の「完成」のみならず、期間内に電子書籍サービスへの入稿・販売まで行なう。写真手前は全作品の表紙を手がけるデザイン・イラストチーム

便宜上「我々小説家」と書いたが、筆者はサラリーマン(校閲事務所で働いている)の傍ら、休日に執筆業を行なう兼業作家にすぎない。「何を偉そうに」と叱られるかもしれないが、業種を問わず駆け出しの頃のほうが抱く夢や野望は大きいものだ。

そしてぬるま湯と決別すべく筆者は昨年、「一発勝負」=「文学的瞬発力を養う場」を小説の“外”に求めた。お笑い芸人が参加する大喜利大会に参加し叩きのめされた。渋谷のフリースタイルバトルにのこのこ出かけてB-BOYにボコボコにされた。

審査員を務める作家・藤井太洋氏(右)

ぬるま湯どころか大火傷を負った筆者だが、特に筆力の向上は認められなかった。やはり小説家は小説の場でこそ成長するものだ、と悔し紛れにうそぶいた筆者が「NovelJam」に飛びついたのは至極当然の話、ということがご理解いただけただろうか。

かくして無事著者枠での選考(定員20名に対し、応募は80名程度であったらしい)を通過した筆者は満を持して、この“小説版ハッカソン”に参戦する運びとなった。

【1日目 10:00】いざ、NovelJam参戦!

前置きが長くなったが、以上を経て2月4日、筆者はNovelJam会場に足を踏み入れた。会場となる株式会社ブックウォーカー(東京・市谷)オフィス内会議室にはすでに十数人が待機している。受け付けで「Dチーム」に振り分けられたことを知った筆者は所定のテーブルへ向かった。

キャリーケースいっぱいの機材を持ち込んでいる人、モヒカンの人、ギター持参の人もいる。一見してクセが強すぎんよ

本イベントの定員は著者20人に対し編集10人。つまり「著者2人+編集者1人」が1チームとなり、編集者は同時に2人の作家を担当することになる。A〜Jまでの計10チームの割り振りは、当日まで著者本人にも明かされていない。

著者と編集者による熱心な議論が各所で展開されていた

筆者は著者枠での参加であるため、「自分の担当編集が誰か」が重要なポイントであることは言うまでもない。が、2日間机を共にする「もうひとりの著者」もまた大切である。

円滑なコミュニケーションが取れるに越したことはないし、世代が近ければ話題には事欠かない。執筆のストレスで暴れだすような人物は困る。金髪眼鏡の黒ギャルとかだとなおよい。対面にいるだけで筆が進みそうだ。

期待に胸を膨らませDチームの机に座ると、もうひとりの著者がすでに作業を進めていた。脚本家・マテバ牛乳氏である。

マテバ牛乳氏は地上波アニメなどを手がけるバリバリの脚本家。「金髪」「眼鏡」は辛うじて合っていた

しばらくして我々の命運を握る編集者も到着。高橋文樹氏である。かくして2日間を戦うDチーム3名が結集した。メンバーが到着するにつれチームの男臭さが増していき、筆者は少々閉口した。

今回は編集者枠での参加となった高橋文樹氏。オンライン文芸誌『破滅派』を運営するキレキレの小説家である

【1日目 10:30】藤井太洋氏・三木一馬氏講演

オリエンテーションを終えた後、著者枠の20名にはSF作家・藤井太洋氏による講演が、編集者枠の10名に向けては数々のライトノベルをヒットさせてきた編集者・三木一馬氏の講演が行なわれた。

ヒットメーカー・三木氏による講演では、「タイトルのつけ方」など編集者垂涎の極意が伝授された

講演によると、今回の「3000字以上」という規定をつくったのは藤井氏。ライブライティングと呼ばれる即興創作経験を持つ同氏によると、「最初『8000字』という話もあったんだけど、『それじゃ書けない人がたくさん出るよ』と僕が提案しました」とのこと。

藤井氏の講演。当時筆者は「8000字とか余裕じゃん」と思っていたと後に語る

「特に著者枠の方は普段ひとりで作業することが多いと思うので、ほかの人の執筆スタイルも参考にしてください」というアドバイスに、これぞ“小説創作セッション”ならではの醍醐味だなと感じさせられた。ちなみに藤井氏は普段「立って」執筆されるとのことである。

【1日目 13:30】作品打ち合わせ

講演が終わり13時30分。いよいよ「NovelJam」の火蓋が切られた。我々Dチームは小会議室に移動してプロット(物語のあらすじ)を練る。今回、我々参加者に与えられたテーマは「」。これを基に小説を創作する、というのがNovelJam唯一にして最大のキモなのだ。

しかし早くもDチームは問題にぶつかる。筆者とマテバ氏はふたりとも、プロットを一切用意してこなかったのである。

「事前に本格的な準備をせず」という要項を素直に聞き入れ、本当に丸腰で来た純粋なおっさん2人。「平服でお越しください」と言われTシャツで行っちゃうタイプだと思う。頭を抱える筆者(中央)

ということで文字通り“ゼロから”スタートした打ち合わせ。SF作家である藤井氏の講演に感銘を受けた直後の筆者は、「SF要素を加えた時代エンタメ」に即決。ちなみに筆者の最近見た時代劇といえば映画『どろろ』である。すでに雲行きが怪しい。

マテバ氏は「普段の自分を打ち“破”る」「服を“破”って変身」というモチーフから、「変身ヒーロー」というコンセプトで行くことに。まったく同じテーマにもかかわらず、スタート地点からすでにバラバラなのも面白い。

打ち合わせ後デザイン・イラストチームに発注した、マテバ氏作品の表紙デザイン要望書

方向性が定まったら次はとにかくプロットをゴリゴリ書く。本イベントでは、「プロット完成」「初稿完成」「二稿完成」といったタイムスケジュールが細かく分かれており、各チェックポイントで事務局に原稿を提出しなければならないからだ。

その工程は単なる進捗確認に留まらず、普段読者が決して目にすることはない「小説が生まれるプロセスの記録」という重要な意味を持つ。そして、すべての「途中段階の原稿」はGoogleドライブにて逐一一般公開されるのだ。

執筆ツールやスタイルもさまざま。同業であっても普段は目にできない貴重な光景だ

小説に限らずなんらかの制作物をつくった経験のある方ならご理解いただけると思うが、この「過程の公開」はとても恥ずかしい(だからこそ公開に意味があるのだが)。デート前に鼻毛を切っているあほづらを中継されるようなものである。できればキマった姿だけを見てほしいのだ。

Googleドライブで「NovelJam 2017 途中成果物公開用フォルダ」を見る

【1日目 16:00】プロット完成

マテバ氏の「イメージはポワトリンですかね」発言を受け、「シュシュトリアン見てましたよ!」「トトメスは中華丼が好きらしい」とニッチな話題で盛り上がるDチーム。何気ない雑談に創作のヒントが(ないことも多々ある)

方向性が定まり、一息つくDチーム。ほかのチームを見わたす余裕も出てきた筆者は、改めて参加者の面子に驚くことになる。

なんといっても度肝を抜かれたのは、星雲賞受賞作家の新城カズマ氏の参戦だ。そして『東京トイボックス』などで知られる漫画ユニット「うめ」の小沢高広氏、そして小沢氏と『スティーブズ』を手がける原作者・松永肇一氏の姿も(小沢氏は今回編集者枠での参加)。

新城カズマ氏、松永肇一氏(左)を擁するNovelJamきっての銀河系軍団、Aチーム

加えて『月刊コミック@バンチ』に連載を持つ漫画家・小沢かな氏、ライトノベル作家の坂東太郎氏なども名を連ねている。校閲者である筆者や脚本家のマテバ氏も含めて、会場はプロ・アマ・業種を問わない異種格闘技戦の様相を呈しているのだ。筆者はサイン用色紙を買うことに決めた。

ともあれ感心している場合ではない。あと2時間で最初のチェックポイント「プロット提出」を終えなければならないのだ。当日、筆者が行なったプロット作成手順は以下である。

画力には目をつぶっていただきたい

まず大きめの付箋にシーンごとの状況を描き、漫画のコマのように貼りつけていく。こうすることで話の流れが把握できるだけでなく、途中で順番を入れ替えたり、追加シーンを入れるという作業も容易になるのだ。

大体の流れができあがると、このコンテをベースに文章化していく。担当編集の高橋氏によるアドバイスを受けつつ、付箋を削ったり追加したりという作業を何度も繰り返した。

【1日目 20:00】初稿完成

高橋氏(右)「オチが弱いな。ヒロインが『切れない刀』を利用して復讐するっていうのはどうです?」瞠目する筆者(左)「天啓っ……!」

Dチームの作業共有はDropboxにて行なわれた。筆者とマテバ氏の初稿執筆状況を高橋氏がリアルタイムで確認し、都度鋭いアドバイスを投入してくれる。

「刀の名前変えたほうがいいですね」「一つ目小僧っているでしょ? あれって、火を見すぎて失明した刀鍛冶っていう説もあるみたいですよ」「日本刀の名前まとめたサイトあるんで送っておきます」

──目からうろことはこのことである。筆者の足元は剥げ落ちた無数のうろこでキラキラ輝いていた。

高橋氏の指摘を受け「作中の固有名詞にまったくこだわらない」という自身の悪癖を痛感した筆者は、送られた資料に目を通す。すると不思議なことに、固有名詞の由来やエピソードから新たな展開が生まれたり、話の筋が膨らむという現象が起こってくるのだ。

編集者による指摘が入った他チームの原稿。執筆スタイルが多種多様であるように、編集方法もまたバラエティに富む

例をあげると、「彼岸星」という日本刀の名前。筆者の物語の根幹となる本アイテムの名は、当初(適当につけた)異なる名称だったのだが、高橋氏のアドバイスを受け変更した。

すると「彼岸星」が「りゅうこつ座」を指す古語であることがわかり、敵役のモチーフとして「ヘビ」が立ち上がった。また「あの世」を意味する「彼岸」から、ヒロインの行動目的がより明確になる。

改めて振り返ってみると、この「偶発的タッグ」による瞬間的な化学変化こそが、NovelJam事務局の意図するところであったのかもしれない

とにかく強力なタッグパートナーを得た筆者のテンションはブチ上がり、一気に初稿を提出した。この時点での字数は2500字、まずまずである。この時点で6時間以上ぶっ続けでキーボードを叩いている。

高校時代、筆者の古典の偏差値は30台。「まず普通に現代語で書いて(左)、漢字を閉じまくって漢語を多用すればそれっぽくなるのでは(右)」という苦肉の策

その後初稿戻しを21時に終え、22時までの作業をもって初日は解散となった。

最終日となる2日目には作品の完成はもちろん、電子書籍サービスを使用した作品の入稿・販売開始、編集者によるプレゼン、そして作品の選考・審査、最優秀賞をはじめとする各賞の結果発表までが予定されている。

今日は帰ってゆっくり体を休めねばなるまい。

帰路につく筆者はまだ楽観していた。しかし怒涛の2日目、事態は波乱の展開を見せることになる──!!

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