【2日目 9:30】二稿完成
「ジャムる」とは即興演奏を指すと同時に、拳銃の弾詰まりも意味する。後者の場合、一部の例外を除きそれが発言者の最期の言葉になる。1日目の講演で藤井太洋氏が「執筆は体力、睡眠は勝利」と語っていたことを寝不足の頭で思い出しつつ、市谷に向かう。初日、自宅で原稿の続きを書いていた筆者は深夜3時前、志半ばで寝落ちした。
資料と思われる書籍が積まれている。斬新なストーリーを支えるのは先人の知識だ
NovelJam参加者は業種を問わずなんらかのクリエイターがほとんどだ。彼らにとって徹夜の1日や2日は日常的なものだろう。が、1日でプロット・初稿を完成させるという「初めての経験」に要した精神力・体力は、我々の想像を遥かに超えていたのだ。
同じくSAN値が著しく低下していた筆者は当時、「みんなものをかくのがとくいなフレンズなんだね!」と繰り返していた、と後に周囲は語る。
到着から30分後には「第二稿」の提出期限が迫っていた。
平成生まれの著者2人で挑むフレッシュネスチーム、J(左は著者・小野寺ひかり氏)。編成によるチームカラーも個性的で面白い。あと5年すれば徹夜なんてできなくなるぞ!(戒め)
前日13時30分より作業を開始した著者・編集者チームに比べ、プロット完成を待ってのスタートなった彼らのスケジュールはよりタイトなのだ。ほぼ全作のアートディレクターを務めた松野美穂氏による発破の声が飛び交う。
拙著表紙作業中のjitari氏。筆者はイメージソースに『モチモチの木』を指定したため、デザイン・イラストチームには「この人モチモチのお兄さんやて」「あーモチモチの人」と呼ばれた
ほかのチームからは「語尾の指摘」や「語句の統一」「誤字脱字の訂正」といったワードが聞こえ始め、すでに校正・校閲作業に入っていることがうかがえる。この時点でDチームは両者とも校正どころかストーリーの完結に至っていなかった。悪いほうの意味で絶賛“ジャムって”いたのだ。
同じくデザイン・イラストチーム有田満弘氏による表紙イラスト。有田氏は『ポケモンカードゲーム』などを手がけるイラストレーター
【2日目 12:00】最終稿完成
会場内には締め切りまでのカウントダウンが。当時(締め切り28秒前)の筆者「わーい!」
執筆作業はPC上でも、最終確認は皆一様にプリント出力して行なっていた
編集・高橋氏にべったり甘えていた筆者だが、他チームだと著者×編集者の熱いバトルが展開されたりしたのだろうか? 気になるところだ(右はEチーム著者のラノベ作家・坂東太郎氏)
2月5日正午、全17作品の完成稿が提出された
執筆から解放された著者陣が続々と会場Wi-Fiを利用しSNSに没頭し始めたため、回線が圧迫されたデザイン・イラストチーム(絶賛作業中)から悲鳴が上がる。
【2日目 13:00】電子書籍制作講習
ようやく一段落ついた著者・編集者だが、ここで終了ではない。デザイン・イラストチームが手がけた表紙を合わせ、電子書籍サービス『BCCKS(ブックス)』への入稿・販売を行なわなければならないのだ。本イベントのスポンサー企業でもあるBCCKS代表・山本祐子氏
使い勝手のよいインターフェース、かゆいところに手が届くエディター機能など、電子書籍サービスの進化は日進月歩である。
講習を受けながら、完成原稿を入稿し、奥付や目次を作成。筆者は初めての作業だったが簡単に完成した
BCCKSエディター上で作品にルビを振る筆者。難読漢字を多用したことを後悔し始める
【2日目 16:30】作品プレゼン
続いて間をおかず、編集者による作品プレゼンに入る。計17作品の魅力を各チーム編集者が熱く語る。「2日での作品完成」というミッション完遂は、編集者の力があってこそ
一切言葉を発さずギターを弾きっぱなしというチームもあった。プレゼンぶっつけ本番でした(しかもギター借り物) #noveljam pic.twitter.com/vYZ7VBPWDv
— 澤俊之 (@Goriath_Publish) 2017年2月5日
プレゼンに耳を傾ける審査員の海猫沢めろん氏(中央)、米光一成氏(右)
プレゼン時点ではすでに全17作のリリースが開始されていた
留置所がテーマという本作品が実話ベースと紹介されたときは会場が一瞬ザワついた。実際に言葉を交わした工藤氏は、最近では珍しい超・好青年であったことをここに記しておく。
【2日目 18:30】審査発表、表彰
審査風景。計17作品の合計字数は約13万字とのことで、これは単行本1冊分に相当する
上記は、開催中の自分のメモから引用したものである。普段は別々にやってくるはずの、執筆による興奮状態「ライティングハイ」と「脱稿ハイ」の波が同時に訪れ、筆者は何を見ても過度に感動する精神状態に陥っていたらしい。
ともあれ18時30分、審査発表が行なわれた。NovelJamでは審査員賞×3、日本独立作家同盟賞、優秀賞、最優秀賞の6賞が送られる。
我らがDチームからは、マテバ氏が見事「日本独立作家同盟賞」を受賞! 写真左は日本独立作家同盟理事長・鷹野凌氏
各審査員賞には、松永肇一氏『老人とプログラム言語』(海猫沢めろん賞)、米田淳一氏『スパアン』(米光一成賞)、かずはしとも氏『輝家魔法的肉包子店』(藤井太洋賞)が選出された。優秀賞には、ギター演奏によるプレゼンで鮮烈な印象を残した澤俊之氏の『PAUSA』。
大賞を射止めたのは、Aチーム・新城カズマ氏!
数十本のプロット群から生まれ満場一致で最優秀賞を射止めたという同作は、AI(人工知能)×小説家がテーマ。制作過程はもちろんGoogleドライブにて公開されている。
「作品がつくられ、誕生する過程」を収めた非常に貴重な資料のため、ぜひこちらにも目を通してほしい。繰り返すが、一線級で活躍する作家の制作プロセスが公開されることは非常に稀なのだ。
最優秀賞副賞として、本イベントスポンサーのひとつであるジャストシステムより日本語ワープロソフト『一太郎2017 スーパープレミアム』が送られた。「欲しい〜」という呟きが会場から漏れ聞こえる
ではなぜ、筆者のジャイアントキリングはかなわなかったのだろうか? 答えは、一般公開されている「制作プロセス」にあった。
1日目の初稿時点では、筆者のプロット(あらすじ)も案外悪くないように思われた。いつもプロット作成で難産となる筆者は、この工程をクリアした時点で「もらった」と思った──あとは文章力・構成力でねじふせればいい話だからであり、これまでもそういった力技で乗り切ってきたからである。
しかしそこから初稿、第二稿と手が加えられるたび、筆者と他著者との差は見る見る開いていった。その過程を初めて目にし、筆者は痛感した。プロがプロたるゆえんは、この工程にこそあると。
誤解されることが多いが、「物語をつくる能力」は万人に備わっている。それは一流作家や脚本家といった、ごく一部の人間に与えられた力ではない。しかし言語として出力するスキル、すなわち「物語を“書く”能力」となると話は別だ。
その単純な事実を頭でしか理解していなかった筆者は、自らの手に余るプロットを制御できなかったのである。
「(副賞の)一太郎インストールするのに外付けドライブ買わないと」と皮算用中の筆者
しかしこのような無茶を完遂できたのは、編集者・そして他著者の力に他ならない。本イベントは「面識のない著者と編集者が出会う」という偶然からすべてがスタートした。そして2日間という作業時間は、通常の小説執筆に比べれば刹那的だと言える。偶然と刹那という本来小説とは縁遠いところに位置する要素が、今回のイベントを成功に導いたのだ。
各賞受賞の著者・編集者6組及び審査員の皆さん(と、ギター)
ジャムセッションでは、一度流れた旋律が繰り返されることはない。本イベントでリリースされた17作は、いずれもその「一瞬」をとらえたモノという意味でも貴重な作品群であろう。
全参加者及びNovelJamスタッフ、審査員、スポンサー企業の皆さん(と、ギター)
表紙を手がけたデザイン・イラストチーム、審査員を含めたNovelJam運営スタッフにもこの場を借りて御礼申し上げる次第である。
懇親会で全作品の講評を語る海猫沢めろん氏、米光一成氏、藤井太洋氏
BCCKSで「NovelJam 2017」参加作品を読む BOOK☆WALKERで「NovelJam 2017」参加作品を読む Kindleで「NovelJam 2017」参加作品を読む 楽天ブックスで「NovelJam 2017」参加作品を読む

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イベント情報
小説創作イベント「NovelJam」(開催終了)
- 日程
- 2017年2月4日(土)9時~2017年2月5日(日)21時
- 場所
- 東京都千代田区五番町3-1 五番町グランドビル7F(株式会社ブックウォーカー内)
- 参加費
- 1人税込8000円(期間中の食事代を含む)
- 定員
- 著者20名、編集者10名(応募者多数の場合、事務局にて選考を実施)
- 協賛企業
- ブックウォーカー、BCCKS、Voyager、NextPublishing、The Grapes、シミルボン、comico
- メディアスポンサー
- アオシマ書店
【作品テーマ「破」】
既存の出版のあり方とは違った新たな方法をもとに、『作家と編集者がタッグを組んで取り組む作品』をテーマとして設定しました。例えば、「殻を破る」「守破離」「破壊」など、世の中には「破」をもとにした言葉が溢れています。新たな殻を破る作品が生まれることを、期待します。
【当日】
■2月4日(土)
0900:開場、受付開始
1000:イベント開始、ファシリテーター挨拶、企画概要説明
1030:ゲスト講演
著者向け:藤井太洋氏(テーマ『作品作りにおけるポイント』など)
編集者向け:三木一馬氏
〜昼食〜
1330:作業開始
〜夕食〜
2200:1日目終了、会場クローズ
■2月5日(日)
0900:2日目開始
1200:校正原稿完成
〜昼食〜
1300:EPUB作成講習ワークショップ(1時間)
1600:作品提出(EPUB入稿)
1630:作品プレゼン
1730:スポンサードセッション
1830:審査発表・表彰(各審査員賞、優秀賞、最優秀賞発表)
1930:懇親会
2100:イベント終了
【参加要項】
作家と編集者。二人三脚で挑む、集中創作道場。
■参加要項
・“面白い”短編小説を著者1人につき1作品、会期中に完成させる
・作品本編(3000字以上)、タイトル(16字以内)、キャッチコピー(32字以内)、概要(100字以内)、紹介文(400字程度)と、表紙をセットにして電書(EPUB)にして電子書店で販売するところまでを目指す
・小説のジャンルは問わない
・完成した作品は、その場で審査し、賞を授与する
■募集人数
・著者20名
・編集者 10名
*原則、編集者1人が著者2人を担当する。編集者と著者の組み合わせは、参加フォームをもとにした情報を踏まえながら、事務局側で決定する。
■参加費用
・税込8000円(イベント期間中の飲食代を含む)
■注意事項
・チームにてイベントを進行するため、参加確定後のキャンセルはご遠慮ください。やむを得ず不参加となった場合は、事前に事務局にまでご連絡ください
・参加確定とお支払のご案内は、ご記入いただいたメールアドレス宛にお送りいたします
・参加者決定後の参加費のお支払方法は、Peatixを利用いたします
・審査対象として提出した作品の著作権は、著者自身に帰属します(All rights reserved by the Author.)。次項の通り、初出は日本独立作家同盟からの出版とさせて頂きますが、その後の作品の出版、公開、利用等は著者が自由に行うことができます
・電書の制作はBCCKSを使い、共有編集機能で印税分配(著者7対編集3、日本独立作家同盟のアカウントを用い「群雛NovelJam」レーベルで発行します)、ストア配本機能でBOOK☆WALKERなどの電子書店へ配信します
・NovelJam内で制作した原稿やラフ案は、最終稿を除き一般向けにクリエイティブ・コモンズライセンス(CC BY-NC-SA)で共有・公開します(Googleドライブを利用)
・マスコミ取材や広報のため写真や映像を随時撮影させていただきます
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