KADOKAWAとはてなの小説投稿サイト「カクヨム」のレビュー専門ブログ「ヨムカク」を運営しています、masafiro1986と申します。
2月末に「カクヨム」がリリースされ、ミステリーを中心に読み進めている中で、「ヨムカク」では書評も投稿しています。
今回は、中でも大変面白かった「ネッ禁法時代:東京試炸例(トーキョー・バースト・プロトタイプ)」という作品を紹介したいと思います。
まずはじめに、あなたは、Web小説というものにどんな印象を持っていますか? 人によって様々な印象を持っているものですが、正直、紙の小説よりも、クオリティやランクを落としたものだという見方をしている人も多いのではないかと僕は考えています。
確かにクオリティの保証がないというのはWeb小説のひとつの特徴かもしれません。もちろん実際には、Web小説ではない紙の書籍だって、クオリティが必ずしも保証されてはいません。しかしそれでも、紙の書籍については、少なくとも出版社や編集者が出版に値するという評価を下している以上、そこまでひどいものではないだろう、と多くの人が考えているのではないかと思います。
ところが、小説に人が求めるものはまったく一定ではない。人によって様々です。だから、多少文章が乱雑だとしても、どこかで見たような設定のご都合主義な物語だとしても、スマホで手軽に読めて、自分を楽しませてくれるならそれでいいと考える人は少なからずいると思います。これまでのWeb小説というのは、そうした需要に応えるひとつのありかただったのではないかと思います。
ただ、カクヨムの登場を経て、僕は今後そうしたWeb小説に対する「あなどり」は通用しなくなっていくのではないかと感じています。程度が低い、大した作品ではないだろうという軽視。そんな目線でWeb小説をみつめる時代は終わる。
そして僕こそが、本作品「ネッ禁法時代:東京試炸例(トーキョー・バースト・プロトタイプ)」を、無意識のうちに、そうしたあなどりの目で見てしまっていた一人であることを懺悔しなければなりません。
僕は「小説家になろう」や「エブリスタ」といった従来のWeb小説サイトを以前から利用していました。しかし正直なところ、面白い小説に出会えることはあっても、クオリティ面で満足できると感じた作品にはほとんど出会えていませんでした。
そんな状況だったからこそ、本作品を読んでいるときに気づきました。「Web小説にしては面白い」「アマチュアの作品にしては面白い」――カクヨムローンチ以降、何十作品も目を通すうちに、そんな感覚で読書をしていた自分に。
だからこそ声を大にして紹介したい作品です。
本作品は、かつて藤井太洋さんがKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)を利用して個人出版した『Gene Mapper』で電子書籍の地平を切り開いたように、カクヨムという場所を最高に盛り上げてくれる、目を見張るクオリティの作品です。
本格的な作品ですが、ぜんぜん堅苦しくなんかない。なんたって、とにかくむちゃくちゃに面白いエンターテイメントです。
本作はネット免許制が導入された、イマココとは違う二十一世紀の物語。
そう聞くと「表現の自由」とか「ネットの自由」をめぐるテーマではないかと安直な発想をしてしまいがちです。しかし本作は違う。主人公やその仲間たちは、むしろ「ネット免許制」を推進する側の人間。さらに、2016年の注目すべき革新的技術のひとつにも選ばれている、まさにトレンドというべき「自動運転技術」というモチーフを盛り込んだ意欲作です。
現代の僕たちにとって代表的な身分証明書というえば「運転免許証」です。健康保険証や住基カードなど、様々な身分証明書があるなかで、現代日本における最強の身分証明書といえば運転免許証であるということは多くの人に同意いただけると思います。
携帯電話を契約するときやインターネットカフェを利用するときなど、身分証明書をもとめられたときに運転免許証さえ出せばまず間違いはありません。
本作はそんな「運転免許」に、高度な情報技術の知識を必要とする「ネット免許」の資格をハイブリッドさせることで、自動運転技術というトレンドを取り入れつつ、人間のコンプレックスや身分関係を描く「資格」というテーマを、極上のエンターテイメントとしてしあげた見事な作品です。
そして、ネット免許が施行された東京という設定をめぐって本作が描くのは、自由を争って戦うようなSF的監視社会の物語ではありません。むしろ誰もが共感できる普遍的なテーマを描いています。
運転免許を持っていても人は交通事故を起こす。医師免許を持った人だって医療事故を起こす。しかし調理師免許を持った人が料理人になり、弁護士資格に合格したひとが弁護士の道を歩むように、どんなに不完全でも「資格」というものは人生を左右するひとつの重要なファクターです。
罪と罰、責任と自由、劣等感と優しさ、愛と憎悪──本作は様々な人間模様をその「資格」というテーマを通じて描き出します。
そのうえで、謎のハンドルネームを持つ登場人物、誰から届いたか分からないメール、散りばめられた様々な謎、見事に回収される巧みな伏線、軽妙なキャラクターの会話劇や、胸を熱くさせる熱狂的展開、後半には手に汗握るアクションや涙を禁じ得ない感動まで用意されていて、ほんとうに誰もが楽しめるミステリー&エンターテイメントになっています。
37万文字あるけど、37万文字ずっと面白いよ!!
いやね、確かにね、誤字とかあるかもしれません。うん、僕も見つけました。編集者の校正が入らないWeb小説だもの。
微妙な描写だってゼロじゃない。まだ誰の編集の手も入っていないんだもの。(同性愛者に関する記述で正直僕がひっかかったのも事実)
でも、そんなこと吹っ飛ばせるくらい、おもっしろい小説だからそんなことは大丈夫です。そんなことは、たぶんそのうち書籍化されて編集者さんがなんとかしてくれるでしょう。
僕はこの作品をお金を払って書籍でもう一度読めると信じていますから。無料で読めるなんて単純にラッキーです。
2月末に「カクヨム」がリリースされ、ミステリーを中心に読み進めている中で、「ヨムカク」では書評も投稿しています。
今回は、中でも大変面白かった「ネッ禁法時代:東京試炸例(トーキョー・バースト・プロトタイプ)」という作品を紹介したいと思います。
Web小説をあなどるのは時代遅れ
角川とはてなが満を持してローンチした小説投稿サイト「カクヨム」が、その最初のコンテストとともに産声をあげて約2ヶ月が経過しました。まずはじめに、あなたは、Web小説というものにどんな印象を持っていますか? 人によって様々な印象を持っているものですが、正直、紙の小説よりも、クオリティやランクを落としたものだという見方をしている人も多いのではないかと僕は考えています。
確かにクオリティの保証がないというのはWeb小説のひとつの特徴かもしれません。もちろん実際には、Web小説ではない紙の書籍だって、クオリティが必ずしも保証されてはいません。しかしそれでも、紙の書籍については、少なくとも出版社や編集者が出版に値するという評価を下している以上、そこまでひどいものではないだろう、と多くの人が考えているのではないかと思います。
ところが、小説に人が求めるものはまったく一定ではない。人によって様々です。だから、多少文章が乱雑だとしても、どこかで見たような設定のご都合主義な物語だとしても、スマホで手軽に読めて、自分を楽しませてくれるならそれでいいと考える人は少なからずいると思います。これまでのWeb小説というのは、そうした需要に応えるひとつのありかただったのではないかと思います。
ただ、カクヨムの登場を経て、僕は今後そうしたWeb小説に対する「あなどり」は通用しなくなっていくのではないかと感じています。程度が低い、大した作品ではないだろうという軽視。そんな目線でWeb小説をみつめる時代は終わる。
そして僕こそが、本作品「ネッ禁法時代:東京試炸例(トーキョー・バースト・プロトタイプ)」を、無意識のうちに、そうしたあなどりの目で見てしまっていた一人であることを懺悔しなければなりません。
僕は「小説家になろう」や「エブリスタ」といった従来のWeb小説サイトを以前から利用していました。しかし正直なところ、面白い小説に出会えることはあっても、クオリティ面で満足できると感じた作品にはほとんど出会えていませんでした。
そんな状況だったからこそ、本作品を読んでいるときに気づきました。「Web小説にしては面白い」「アマチュアの作品にしては面白い」――カクヨムローンチ以降、何十作品も目を通すうちに、そんな感覚で読書をしていた自分に。
だからこそ声を大にして紹介したい作品です。
「ネット免許制」が導入された異未来SF
「ネッ禁法時代:東京試炸例(トーキョー・バースト・プロトタイプ)」は、そもそもコンテスト用に投稿された作品で、規定の10万文字を大幅に超える37万文字あるけど、とにかく読んでみたら面白いのわかりますので!!!本作品は、かつて藤井太洋さんがKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)を利用して個人出版した『Gene Mapper』で電子書籍の地平を切り開いたように、カクヨムという場所を最高に盛り上げてくれる、目を見張るクオリティの作品です。
本格的な作品ですが、ぜんぜん堅苦しくなんかない。なんたって、とにかくむちゃくちゃに面白いエンターテイメントです。
本作はネット免許制が導入された、イマココとは違う二十一世紀の物語。
そう聞くと「表現の自由」とか「ネットの自由」をめぐるテーマではないかと安直な発想をしてしまいがちです。しかし本作は違う。主人公やその仲間たちは、むしろ「ネット免許制」を推進する側の人間。さらに、2016年の注目すべき革新的技術のひとつにも選ばれている、まさにトレンドというべき「自動運転技術」というモチーフを盛り込んだ意欲作です。
現代の僕たちにとって代表的な身分証明書というえば「運転免許証」です。健康保険証や住基カードなど、様々な身分証明書があるなかで、現代日本における最強の身分証明書といえば運転免許証であるということは多くの人に同意いただけると思います。
携帯電話を契約するときやインターネットカフェを利用するときなど、身分証明書をもとめられたときに運転免許証さえ出せばまず間違いはありません。
本作はそんな「運転免許」に、高度な情報技術の知識を必要とする「ネット免許」の資格をハイブリッドさせることで、自動運転技術というトレンドを取り入れつつ、人間のコンプレックスや身分関係を描く「資格」というテーマを、極上のエンターテイメントとしてしあげた見事な作品です。
こんな作品を無料で読めるなんてラッキーとしか言えない
高校生56人の命を奪ったバス事故で幕を開ける本作は、その黒幕を追うミステリーでありながら、コンプレックスを抱えたヒロインをめぐって仲間たちが繰り広げる青春活劇でもあり、今とは異なる未来を歩むもうひとつの日本で繰り広げられる異未来SFエンターテイメントでもあります。そして、ネット免許が施行された東京という設定をめぐって本作が描くのは、自由を争って戦うようなSF的監視社会の物語ではありません。むしろ誰もが共感できる普遍的なテーマを描いています。
運転免許を持っていても人は交通事故を起こす。医師免許を持った人だって医療事故を起こす。しかし調理師免許を持った人が料理人になり、弁護士資格に合格したひとが弁護士の道を歩むように、どんなに不完全でも「資格」というものは人生を左右するひとつの重要なファクターです。
罪と罰、責任と自由、劣等感と優しさ、愛と憎悪──本作は様々な人間模様をその「資格」というテーマを通じて描き出します。
そのうえで、謎のハンドルネームを持つ登場人物、誰から届いたか分からないメール、散りばめられた様々な謎、見事に回収される巧みな伏線、軽妙なキャラクターの会話劇や、胸を熱くさせる熱狂的展開、後半には手に汗握るアクションや涙を禁じ得ない感動まで用意されていて、ほんとうに誰もが楽しめるミステリー&エンターテイメントになっています。
37万文字あるけど、37万文字ずっと面白いよ!!
いやね、確かにね、誤字とかあるかもしれません。うん、僕も見つけました。編集者の校正が入らないWeb小説だもの。
微妙な描写だってゼロじゃない。まだ誰の編集の手も入っていないんだもの。(同性愛者に関する記述で正直僕がひっかかったのも事実)
でも、そんなこと吹っ飛ばせるくらい、おもっしろい小説だからそんなことは大丈夫です。そんなことは、たぶんそのうち書籍化されて編集者さんがなんとかしてくれるでしょう。
僕はこの作品をお金を払って書籍でもう一度読めると信じていますから。無料で読めるなんて単純にラッキーです。
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:2178)
最近読了したんですけど、これも面白かったですよ!
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154893854
魔法バトルの王道ものかな。バトルシーンがすごく熱かった!おすすめ!