“暴力”が生む恐怖──ホラー映画『近畿地方のある場所について』白石晃士×背筋 対談

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“暴力”が生む恐怖──ホラー映画『近畿地方のある場所について』白石晃士×背筋 対談
“暴力”が生む恐怖──ホラー映画『近畿地方のある場所について』白石晃士×背筋 対談

映画『近畿地方のある場所について』原作者の背筋さん(左)と白石晃士監督(右)

2023年1月にWeb小説サイト「カクヨム」で投稿がはじまり、累計2200万PVを超えるヒットを記録したホラー作家・背筋さんによる『近畿地方のある場所について』。

同年8月に単行本化され、発行部数70万部を突破するベストセラーが、『ノロイ』の白石晃士監督によって映画化される。

オカルト雑誌の編集長が、忽然と姿を消してしまう。急遽彼の仕事を引き継ぐことになった編集者・小沢(赤楚衛二さん)は、ライターの千紘(菅野美穂さん)と共に資料を確認するも、どれも噂や都市伝説、怪談話といった真偽が定かではない内容ばかり。

映画『近畿地方のある場所について』本予告

だが、調査を進めていくうちに2人は、“近畿地方のある場所”へと繋がる、恐るべき共通点を見つけてしまう──。

映画版では、原作者の背筋さんが脚本協力として参加。8月8日(金)の劇場公開を前に、白石晃士監督と背筋さんが制作秘話やモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)/ファウンド・フッテージホラーのブームについて語り合った。

取材・文:SYO 編集:恩田雄多

白石晃士と背筋のファウンド・フッテージ・ホラー遍歴

──白石監督と背筋さんは、どんなタイミングでお互いの作品にはじめて触れたのでしょう。

白石晃士 背筋さんがカクヨムで『近畿地方のある場所について』を連載中にSNSで評判になり、興味を持ちました。中には「白石晃士に映像化してほしい」と投稿している方も多くて。

背筋 たくさんいらっしゃいましたよね。

白石晃士 そういうこともあって気になって読みはじめたら、自分の過去作『ノロイ』(2005年)とスタイルが似ているなと親近感を覚えていました。そこから程なくして今回の映画化の企画の依頼をいただいた形です。

背筋 私は、今話題に上った『ノロイ』を学生時代に観てものすごく衝撃を受け、白石監督がつくられる作品を芋づる式に観ていきました。白石作品にハマる入口として、あまりに強烈な作品でした。

※ノロイ:白石晃士監督によるホラー映画。2005年公開。失踪した怪奇ルポ作家が残したドキュメンタリー映像を元にした映画……という建て付けの作品であり、モキュメンタリーやファウンド・フッテージの要素を持つ作品。とても怖い。

菅野美穂さん演じるライターの千紘と赤楚衛二さん演じる編集者・小沢

──近年、『ノロイ』や『近畿地方のある場所について』が該当するファウンド・フッテージ・ホラー(何者かが撮影した映像を第三者が見つけた体で進行するホラー)やモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)が人気を集めています。それぞれそういった作品との出会いについて教えてください。

背筋 私が最初に触れたのは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)でした。その後『REC/レック』(2007年)や『パラノーマルアクティビティ』(2007年)、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)と観ていきました。

ただ、『ノロイ』に関してはファウンド・フッテージやモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)というよりも、POV(主観映像)として捉えていました。

映像ジャンルにおいては、POVとモキュメンタリーが相性が良く、セットになっている場合も多いかと思います。『ノロイ』に関しては「本当にあったのだろうか?」という楽しみ方もありつつ、私個人は登場人物視点で物語を追える迫力の方により惹かれていました。

背筋さん

白石晃士 自分の原点としては、中学生の頃にレンタルして観たオリジナルビデオ『邪願霊』(1988年)です。その後、大学に入って『ありふれた事件』(1992年)と出会いました。私がフェイクドキュメンタリーをつくりはじめるきっかけとなった暴力映画で、殺人鬼にドキュメンタリー映画のスタッフが密着するという形式です。

本作に影響を受けてこの手法に手を染めはじめたため、自分の中では霊的なものよりも暴力が先にあります。『ありふれた事件』は、最後まで徹底してリアリティを保持しながら映画的な面白さも追求しており、ブラックユーモアと言いますか、悪趣味さも当時の自分にはとてもフィットしました。

白石晃士監督

白石晃士 こういった流れがあったものですから、ブームとはちょっと違うところに自分はいて「いま『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』という映画がヒットしてるんだ、じゃあ自分もできるんじゃないか」という感覚で観ていました。

『REC/レック2』(2009年)はフェイクドキュメンタリーやPOVの手法を用いつつ、ゾンビものの世界を推し進めていて面白かったですし、霊的なものとはまた異なる『クローバーフィールド/HAKAISHA』もすごく好きです。

俺だってこれだけお金があったらやりたいよ! 最後の方はもうちょっと面白くできるよ」と思いながら観ました(笑)。

モキュメンタリーホラー『近畿地方のある場所について』は書籍化、映画化で恐怖が減る?

──いまや、コアな映画ファンに限らず一般化するほどのブームになりましたが、一連のブームをどのようにご覧になっていますか?

白石晃士 スマートフォンで誰でも手軽に動画を撮影できるようになったのが一番大きいのではないかと思います。だからこそフェイクドキュメンタリーやPOVが身近に感じられるようになり、一般化したのではないでしょうか。

背筋 文章の方に手繰り寄せるなら、SNSの台頭でしょうか。プロの作家が書いた怖い話よりも、一般の方が記した不条理気味な都市伝説の方が迫真性が増して、怖く思える流れはあるかと思います。

白石晃士 YouTubeやTikTokなどにもフェイク映像が溢れていますし、拡散して収益化を図ったり、バズろうとする人が増えたのは間違いないですよね。

映画『近畿地方のある場所について』より

──『近畿地方のある場所について』の原作の仕掛けについて、背筋さんは書籍『ジャパン・ホラーの現在地』の中で「無名だからできたリーサルウェポン」とおっしゃっていましたね。

背筋 となると、「パッケージ化されて一般化したときに良さが損なわれるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、重要なのは「伝えたいことが何なのか」だと考えています。

『近畿地方のある場所について』の伝えたいことが「これは本当にあったことなんです」だったら、劇映画になっている時点で成立しません(笑)。そうではなく、「怖い体験をしてください」「面白みを感じてください」であれば、この手法はプロレス状態になっていくもの。

プロレスは「本気で殴り合っている」というよりも「エンターテインメントとしてパフォーマンスしている」と受け止める方が多いジャンルですよね。ファウンド・フッテージものやフェイクドキュメンタリーも、一般化するに従って、そういった楽しみがされるまでに昇華されてきたようには思います。

朽ち果てたかのような鳥居。本編にどう関わるのか

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──おっしゃる通り、カクヨムでの投稿→書籍化→映画化となっていくにしたがって、フィクション性は増していくと思います。その過程でユーザーが味わう恐怖のタイプも変化していくかと思いますが、白石監督は今回の映画化にどう挑まれたのでしょう?

白石晃士 確かに映画ではフィクション性を強めてはいますが、入口でなるべくリアリティを感じさせて、原作の感触になるべく近づけたいとは思っていました。

現実にもありそうなゾーンからはじめて、最終的には映像ならではの飛躍をさせつつ、映画はやはりキャラクターで観ていくものですからより立たせて、花を持たせるようにはしました。とはいってもひどい目には遭うので、毒の花ではあるのですが(笑)。そういったところに主眼を置いてつくっています。

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作品情報

映画『近畿地方のある場所について』

公開日
2025年8月8日(金)
原作
背筋「近畿地方のある場所について」(KADOKAWA)
出演
菅野美穂、赤楚衛二
監督
白石晃士
脚本
大石哲也 白石晃士
脚本協力
背筋
音楽
ゲイリー芦屋 重盛康平
主題歌
椎名林檎「白日のもと」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
配給
ワーナー・ブラザース映画

【STORY】
「行方不明の友人を探しています。」・・・から始まる衝撃展開の連続!
これは、あなたを“ある場所”へと誘う、近畿の禁忌の物語。

行方不明になった雑誌編集者。友人のフリーライターは、彼が消息を絶つ直前まで、過去のオカルト記事を読み漁っていたことを知る。記事はどれも噂や都市伝説、怪談話といった真偽が定かではない内容だった。しかし、それらの情報をつなぎ合わせると、ある場所にまつわる、恐ろしい事実が浮かび上がる…。

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