連載 | #37 漫画百景 いま読むべき漫画たち

『あずまんが大王』の功績──4コマ漫画のニュースタンダード「日常系」の確立

“起伏のある物語”ではなく、“いつもの日常”を描く

ここまで書いてきたように、『あずまんが大王』は日常の描写を重視しています。“起伏のある物語”ではなく、“いつもの日常”に焦点を当てるスタイルです。

これは4コマ漫画の一つのスタンダードで、1946年から1974年まで連載された国民的作品『サザエさん』や、1982年から読売新聞で連載中の「コボちゃん」シリーズといった、偉大な先達が積み上げてきたものと言えます。

『あずまんが大王』はこのスタンダードの真ん中に、“女性キャラクターたちの他愛もないやり取り”を据えることで、俗に“萌え4コマ”と呼ばれる新しいスタイルを確立しました。

20世紀に生まれたスタンダードを受け継ぎつつ、21世紀の新たなスタンダードを生み出したのです。

後に生まれる『けいおん!』『ゆるゆり』など、『あずまんが大王』の影響を受けた作品は数え切れません。今日“日常系”と呼ばれる作品も、大なり小なり本作の影響下にあると見て間違いないでしょう。

10周年記念本『大阪万博』の書影。本作の歴史が詰まった資料集。あらゐけいいちさん、カヅホさん、道満晴明さんといった作家に短編も掲載/画像はAmazonから

また、高校卒業という明確な時間の経過を取り入れたことは、基本的に登場人物の加齢がぼやかされる『コボちゃん』『サザエさん』との明確な違いです(『コボちゃん』は2011年に、連載開始時は5歳だった主人公・コボちゃんが小学校に入学するなど、後に経年が明確に描写されるようになりました)。

小学館が刊行した新装版1巻の帯には、「21世紀の4コマ漫画は、ここから始まりました」というコピーがあるのですが、これは伊達じゃありません。

まさに、本作から21世紀の4コマ漫画がはじまったのです。

物語を重視する4コマ漫画の潮流

21世紀が幕を開けてはや23年。『あずまんが大王』が完結してから22年もの時が経過しました。

この間には『あずまんが大王』の影響を受けた日常系4コマ漫画が数多く生まれ、同時に新しい潮流として、物語を重視する4コマ漫画が増えつつあるように思います。

前述した「“起伏のある物語”ではなく、“いつもの日常”に焦点を当てるスタイル」の逆を行くものです。

今を代表する4コマ漫画としてまず名が挙がるであろう『ぼっち・ざ・ろっく!』を筆頭に、『まちカドまぞく』『NEW GAME!』『星屑テレパス』『スロウスタート』『mono』など、登場人物の成長に焦点を当てる4コマ漫画が近年大きな支持を得ています(同時にきらら作品の隆盛が際立ちますね)。

『あずまんが大王』が一般的にした可愛らしい登場人物たちによる4コマ漫画に、成長物語を強くかけ合わせる。このスタイルが、今後どのような変化を迎えるのか。

原典の『あずまんが大王』を時折見返しながら、楽しんで見届けていきたいと思います。

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テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げて、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。

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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:10395)

きらら作品をひとくくりにするなら、きらら関連誌初期の看板作品「トリコロ」「ひだまりスケッチ」「GA」くらいは読んでるのだろうか。

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