“起伏のある物語”ではなく、“いつもの日常”を描く
ここまで書いてきたように、『あずまんが大王』は日常の描写を重視しています。“起伏のある物語”ではなく、“いつもの日常”に焦点を当てるスタイルです。
これは4コマ漫画の一つのスタンダードで、1946年から1974年まで連載された国民的作品『サザエさん』や、1982年から読売新聞で連載中の「コボちゃん」シリーズといった、偉大な先達が積み上げてきたものと言えます。
『あずまんが大王』はこのスタンダードの真ん中に、“女性キャラクターたちの他愛もないやり取り”を据えることで、俗に“萌え4コマ”と呼ばれる新しいスタイルを確立しました。
20世紀に生まれたスタンダードを受け継ぎつつ、21世紀の新たなスタンダードを生み出したのです。
後に生まれる『けいおん!』『ゆるゆり』など、『あずまんが大王』の影響を受けた作品は数え切れません。今日“日常系”と呼ばれる作品も、大なり小なり本作の影響下にあると見て間違いないでしょう。
また、高校卒業という明確な時間の経過を取り入れたことは、基本的に登場人物の加齢がぼやかされる『コボちゃん』『サザエさん』との明確な違いです(『コボちゃん』は2011年に、連載開始時は5歳だった主人公・コボちゃんが小学校に入学するなど、後に経年が明確に描写されるようになりました)。
小学館が刊行した新装版1巻の帯には、「21世紀の4コマ漫画は、ここから始まりました。」というコピーがあるのですが、これは伊達じゃありません。
まさに、本作から21世紀の4コマ漫画がはじまったのです。
物語を重視する4コマ漫画の潮流
21世紀が幕を開けてはや23年。『あずまんが大王』が完結してから22年もの時が経過しました。
この間には『あずまんが大王』の影響を受けた日常系4コマ漫画が数多く生まれ、同時に新しい潮流として、物語を重視する4コマ漫画が増えつつあるように思います。
前述した「“起伏のある物語”ではなく、“いつもの日常”に焦点を当てるスタイル」の逆を行くものです。
今を代表する4コマ漫画としてまず名が挙がるであろう『ぼっち・ざ・ろっく!』を筆頭に、『まちカドまぞく』『NEW GAME!』『星屑テレパス』『スロウスタート』『mono』など、登場人物の成長に焦点を当てる4コマ漫画が近年大きな支持を得ています(同時にきらら作品の隆盛が際立ちますね)。
『あずまんが大王』が一般的にした可愛らしい登場人物たちによる4コマ漫画に、成長物語を強くかけ合わせる。このスタイルが、今後どのような変化を迎えるのか。
原典の『あずまんが大王』を時折見返しながら、楽しんで見届けていきたいと思います。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
4件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:10432)
この記事をどう読んだらきらら作品をひとくくりにしてるように読めるの?
匿名ハッコウくん(ID:10431)
え?「トリコロ」「ひだまりスケッチ」「GA」を読んでなきゃ(きらら作品の隆盛が際立ちますね)って書いちゃダメなの?
匿名ハッコウくん(ID:10430)
で、出した作品が「トリコロ」「ひだまりスケッチ」「GA」笑笑