読者も生徒になる理論的な言葉と教え
諦めるの語源が、“明らかにする(明らむ)”であることを本作で知りました。皆さんは知っていましたか?
明らかにするとは、物事を明らかにして現実的に見極めることです。夢を諦めるための授業とは、「将来なりたい夢」なるあやふやなものの対象の実体を解体し明らかにして、改めてよく見てみようとする実学的な分析として本作では描かれます。
そのなかで高梨は、キャリア教育の理論(ウィリアム・ブリッジス氏のトランジション理論など)や、心理学者のカール・ロジャース氏が説く理想と現実とのすり合わせ方、キャリアの大まかな方向性を決め、後はあえて流れに身を任せるキャリアドリフトという考え方を紹介します。
こうした実際の理論を元に夢の向こうにある現実を提示する。夢の輪郭をはっきりさせて、本質をむき出しにするのです。
夢を諦めるための授業は作中の生徒だけでなく、読者にも響くものがあります。ついつい自分の今と重ねてしまう。読み込んでいくうちに、高梨の生徒になっていくのです。
夢に殺されかけて、別の夢に生きる
さて、高梨と共に自分の夢を明らかにしたことで、別の道を行く者、それでも挑戦する者と結末は様々ですが、生徒たちは皆最後には立ち上がります。
決して消えない心の傷を背負いながらも前を向く彼らの姿は、蛹が羽化する時の美しさを思わせる描写もあって印象的です。
若者に夢の恐さを教え、夢を諦めることを肯定する教師漫画とはなかなかに異色。しかし、異色なだけに他の教師漫画にはない、ほんのりと苦みのある読後感は無二の味わいです。
最後に少し余談となります。
筆者自身も高校在学中、とある出来事をきっかけに精神的に参ってしまい、夢のことでかなり悩んだ経験があります。そのときに手を差し伸べてくれたのは、担任を含めた教師の方々で、彼らの厚意もあって進むべき道を定められました。
……と、今はこうしてサラッと書けちゃいますが、当時は「なんで生きてんのか……」とか考えて、かなり深刻でした。先生、本当にありがとう。
というわけで、夢に殺されるとは、決してフィクションだけの話ではありません。これはマジ。
では、皆さんもお気をつけて。心機一転の季節だからこそ、気を引き締めていきましょう。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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