2019年のバーチャルYouTuber(VTuber)シーンを振り返ると、やはり印象的だったのはにじさんじなどのいわゆる「企業勢」の動きだろう。
かねてより勢いのあった音楽アーティスト方面への展開はより活発になり、2000から3000人規模でのライブや、中には幕張メッセなどの大型会場でのイベントも多数開催された。
華々しい発展を見せる一方で、不祥事などが目についたのも確かだ。
革新的なスピードで進化を続ける代償とでもいうかのように、キャラクターの中の人、つまりはキャラクターの「魂」とも言えるVTuberならではの要素に関係した問題が頻発し、幾度もシーンに暗い影を落とした。 本筋たるYouTubeのフィールドにおける活動は、ゲーム実況を中心とした生配信が圧倒的にシェアを獲得している。
大型コラボ企画が開催されるとTwitterトレンドを賑わすのも、もはや珍しい光景ではなくなった。だが「企業勢」と対照的に語られる「個人勢」として毎日投稿を続けた甲賀流忍者!ぽんぽことオシャレになりたい!ピーナッツくんのコンビ、通称「ぽこピー」を筆頭とする、生配信でなはく動画を投稿するスタイルに傾倒したVTuberの活躍も忘れてはいけない。毎日投稿9ヶ月経ちました!が、豆は危機です。
YouTubeにおいてはゲーム実況がVTuberに最も相性の良いメインコンテンツのように見えるが、2020年は本来の魅力であるVR方面の発展に期待したいと筆者は思っている。
カルチャーとしてのシナジーもあって、ファンの関心を引きやすく、ゲーム実況に最も勢いのあるのは確かだが、にじさんじが最新のモーションキャプチャシステム・VICONを導入したことが大きなニュースになったり、各キャラクターの3Dモデル公開がファンの間で話題になっているように、本来の魅力であるVR的な要素への注目もまだあるはずだ。
長らくネックとなっているのは、VR技術が簡単には取り扱えるものではないという点だろう。技術的にも費用的にも、やはりまだ個人が気軽に触れられるものにはなっていないのは確かだ。
しかしその想いをKAI-YOU Premiumのインタビューで語っていた「ぽこピー」のプロデューサー・兄ぽこさんをはじめ、VR技術の可能性を信じて挑戦を続けるクリエイター達はシーンに確実に存在する。 前置きが長くなったが、今回はそんなVR技術に対して熱き信念を持ったクリエイター、そしてバーチャルタレントである九条林檎さんを紹介したい。
「1名のキャラクターの正式な中の人(魂)の座を賭けて10人を超える人が同じキャラクターとしてSNS上で振る舞う」というオーディション内容が、一つの壺に入れた虫を共食いさせて、最も毒性の強まった生き残りを呪術に利用する古代中国の儀式「蠱毒」(こどく)に似ていることから「バーチャル蠱毒」と言われた過酷なオーディションを勝ち抜き、現在に至るまで活動を続けている。 そしてこの2020年より運営企業の体制変更に伴って「AVATAR2.0」への所属は変わらぬままフリーに転身し、益々の活躍を期待されるバーチャルタレントの1人だ。1分でわかる九条林檎
配信プラットフォーム・SHOWROOMをホームグラウンドに精力的に配信を行いながら、YouTubeへの動画投稿や各種イベントなどにも出演。人気イラストレーター・LAMさんのデザインによる麗しい姿も目を引くが、視聴者から"主様"と称えられる彼女の魅力はそれだけではない。
3Dモデリングに取り組んだり、VIVE Pro Eyeなどの最新VR機材を自ら購入しては、配信で楽しそうに紹介しながら日々表現をアップデートしている。【忙しい人間のための】9/30 夜 アーカイブ【釣りと箱と操作不能の左手】
特にVRライブ・コミュニケーションサービス「バーチャルキャスト」の取り扱いについてはVTuberで最も詳しいとも言われ、降り注ぐコメントと戯れたり、実装された3Dアイテムで遊ぶなど普段の配信でも巧みに活用している。
RPGで遊んでいたと思ったら踊っていた【クリスマス】
VR配信プラットフォーム「REALITY」での番組制作権をかけたプレゼンテーション大会「REALITY 企画王」では、バーチャルキャストを活用してのVR鬼ごっこを企画し優勝。未来のエンターテイメントを感じる新しい鬼ごっこ企画を見事に実現させた。
九条林檎さんは自らを"微"技術系と名乗っているが、その活動は本格的と言えるだろう。「REALITY企画王 presents 九条林檎の挑戦状」
配信で放つ名言の数々に加え、Twitterの投稿、匿名のメッセージサービス「マシュマロ」の返信に至るまで、ただ生きることを強烈に肯定する姿勢を一貫しており、その高貴な振る舞いに心をわし掴まれる"ディナー"は後を絶たない。
ファンネームの設定は、新人VTuberデビューの際には、いの一番に行われる作業のひとつである。その効能については諸説あり、掲げる看板を定めることでファンコミュニティの連帯を強めることなどが挙げられるが、九条林檎さんはあえて熱心なファンの区別を行っていない。
これは「ファンコミュニティ内の争いによって滅んだコンテンツを何度も見てきた」という九条林檎さんの経験に基づくもので、過度な横の繋がりは必要なく「我と貴様(視聴者)だけの関係でいい」とも説いている。
そうした細かな配慮にも現れているように独自の哲学に基づいて活動を展開していて、その聡明さには感服させられるばかりだが、時折ティーンエイジャーらしい可愛さも覗かせることもある。この「ギャップ萌え」では済まないチャームポイントの数々が形づくる等身大の吸血鬼像が人々を魅了していくのだ。
SHOWROOM内でのオーディションイベントにも積極的に参加することで新宿ユニカビジョンでの映像放映権や、SHIBUYA109次世代モデルの座を獲得。さらに「AVATAR2.0」のメンバーとして、VTuberと1対1で1分間コニュニケーションができるイベント「VTuberおしゃべりフェス」や、バーチャルキャラクターが一同に集結する音楽イベント「DIVE XR FESTIVAL」などのイベント出演もこなし、対外的な活動も活発に行っている。 活発で継続的な活動は、時には閉鎖的な環境を育む危険性を備えているが、上記のファンコミュニティを囲わない主義や、配信内で少しでも前提知識を必要とする話題になると「知らない者の為に説明すると」と逐一フォローを入れるので、いつ活動を追い始めても、久しぶりに配信を見に行っても疎外感を覚えることは比較的少ないと言えるだろう。
そんな人間達への愛溢れる取り組みの数々によって、どこからでもハマれる間口の広さと応援しがいのある活動頻度の二律背反を成立させている。
だがこうして熱く記させていただいた通り、彼女は精力的に活動を続けており、VTuberの本懐たるVR表現への挑戦も意欲的である。
慎ましき我らが主様は、吸血鬼らしく羽根を広げるのを好まないそうだが、2020年はより大きな舞台への飛躍を祈ってやまない。
2017年末のブーム発生より丸2年、短い期間の中に濃すぎる歴史を重ねてきたVTuberカルチャー。企業が企業ならではのパワーを発揮する傍ら、熱きクリエイターたちはアイデアと情熱を燃やす。
2020年は互いが互いに刺激しあい、テクノロジー的にも新たなブレイクスルーが訪れ、シーンがよりエキサイティングに発展していくことを願う。
かねてより勢いのあった音楽アーティスト方面への展開はより活発になり、2000から3000人規模でのライブや、中には幕張メッセなどの大型会場でのイベントも多数開催された。
華々しい発展を見せる一方で、不祥事などが目についたのも確かだ。
革新的なスピードで進化を続ける代償とでもいうかのように、キャラクターの中の人、つまりはキャラクターの「魂」とも言えるVTuberならではの要素に関係した問題が頻発し、幾度もシーンに暗い影を落とした。 本筋たるYouTubeのフィールドにおける活動は、ゲーム実況を中心とした生配信が圧倒的にシェアを獲得している。
大型コラボ企画が開催されるとTwitterトレンドを賑わすのも、もはや珍しい光景ではなくなった。だが「企業勢」と対照的に語られる「個人勢」として毎日投稿を続けた甲賀流忍者!ぽんぽことオシャレになりたい!ピーナッツくんのコンビ、通称「ぽこピー」を筆頭とする、生配信でなはく動画を投稿するスタイルに傾倒したVTuberの活躍も忘れてはいけない。
カルチャーとしてのシナジーもあって、ファンの関心を引きやすく、ゲーム実況に最も勢いのあるのは確かだが、にじさんじが最新のモーションキャプチャシステム・VICONを導入したことが大きなニュースになったり、各キャラクターの3Dモデル公開がファンの間で話題になっているように、本来の魅力であるVR的な要素への注目もまだあるはずだ。
長らくネックとなっているのは、VR技術が簡単には取り扱えるものではないという点だろう。技術的にも費用的にも、やはりまだ個人が気軽に触れられるものにはなっていないのは確かだ。
しかしその想いをKAI-YOU Premiumのインタビューで語っていた「ぽこピー」のプロデューサー・兄ぽこさんをはじめ、VR技術の可能性を信じて挑戦を続けるクリエイター達はシーンに確実に存在する。 前置きが長くなったが、今回はそんなVR技術に対して熱き信念を持ったクリエイター、そしてバーチャルタレントである九条林檎さんを紹介したい。
吸血鬼と人間のハイブリッド・ティーンエイジャー
九条林檎さんはバーチャルタレント輩出プロジェクト「AVATAR2.0」に所属する吸血鬼と人間のハイブリッド・ティーンエイジャー。「1名のキャラクターの正式な中の人(魂)の座を賭けて10人を超える人が同じキャラクターとしてSNS上で振る舞う」というオーディション内容が、一つの壺に入れた虫を共食いさせて、最も毒性の強まった生き残りを呪術に利用する古代中国の儀式「蠱毒」(こどく)に似ていることから「バーチャル蠱毒」と言われた過酷なオーディションを勝ち抜き、現在に至るまで活動を続けている。 そしてこの2020年より運営企業の体制変更に伴って「AVATAR2.0」への所属は変わらぬままフリーに転身し、益々の活躍を期待されるバーチャルタレントの1人だ。
九条林檎のVRへの情熱と探求
九条林檎さんは冒頭で述べたVTuber本来の強みを活かすことができる“VR技術”に並々ならぬ情熱を注いでいるクリエイターだ。3Dモデリングに取り組んだり、VIVE Pro Eyeなどの最新VR機材を自ら購入しては、配信で楽しそうに紹介しながら日々表現をアップデートしている。
九条林檎さんは自らを"微"技術系と名乗っているが、その活動は本格的と言えるだろう。
心を捉えて離さない強烈なカリスマ性
「蠱毒」、あるいは「デスゲーム」ともたとえられた過酷なオーディションを勝ち抜く要因となったのはカリスマ性。その個性は今なお健在、それどころか更なる進化を遂げている。配信で放つ名言の数々に加え、Twitterの投稿、匿名のメッセージサービス「マシュマロ」の返信に至るまで、ただ生きることを強烈に肯定する姿勢を一貫しており、その高貴な振る舞いに心をわし掴まれる"ディナー"は後を絶たない。
"ディナー"とは、九条林檎さんのファンを指す総称ではない。吸血鬼たる彼女にとって人間は皆平等にご馳走であるため、「熱心なファン」と「初見視聴者」の境目はなく、皆"ディナー"と呼ばれるのだ。今年も1年よくがんばったな
— 九条林檎 (@ringo_0_0_5) December 28, 2019
まだ仕事があるのか?
ははは、今は素直に褒められているといい
何を成そうが何を成さなかろうが
貴様は人間としての生をきちんと生きた
それが全てだ、褒めてやろうな
偉いぞ、次の波までの束の間
ひと息ついていくといい
ファンネームの設定は、新人VTuberデビューの際には、いの一番に行われる作業のひとつである。その効能については諸説あり、掲げる看板を定めることでファンコミュニティの連帯を強めることなどが挙げられるが、九条林檎さんはあえて熱心なファンの区別を行っていない。
これは「ファンコミュニティ内の争いによって滅んだコンテンツを何度も見てきた」という九条林檎さんの経験に基づくもので、過度な横の繋がりは必要なく「我と貴様(視聴者)だけの関係でいい」とも説いている。
そうした細かな配慮にも現れているように独自の哲学に基づいて活動を展開していて、その聡明さには感服させられるばかりだが、時折ティーンエイジャーらしい可愛さも覗かせることもある。この「ギャップ萌え」では済まないチャームポイントの数々が形づくる等身大の吸血鬼像が人々を魅了していくのだ。
手軽さと推しがいの両立
活動のベースであるSHOWROOMでの配信は、1日複数回配信などを挟みながら毎日継続。公式のデータ上でも360日以上の連続配信を記録しているが、年末年始の休止を除くと更に長大な記録となる。SHOWROOM内でのオーディションイベントにも積極的に参加することで新宿ユニカビジョンでの映像放映権や、SHIBUYA109次世代モデルの座を獲得。さらに「AVATAR2.0」のメンバーとして、VTuberと1対1で1分間コニュニケーションができるイベント「VTuberおしゃべりフェス」や、バーチャルキャラクターが一同に集結する音楽イベント「DIVE XR FESTIVAL」などのイベント出演もこなし、対外的な活動も活発に行っている。 活発で継続的な活動は、時には閉鎖的な環境を育む危険性を備えているが、上記のファンコミュニティを囲わない主義や、配信内で少しでも前提知識を必要とする話題になると「知らない者の為に説明すると」と逐一フォローを入れるので、いつ活動を追い始めても、久しぶりに配信を見に行っても疎外感を覚えることは比較的少ないと言えるだろう。
そんな人間達への愛溢れる取り組みの数々によって、どこからでもハマれる間口の広さと応援しがいのある活動頻度の二律背反を成立させている。
2020年もVTuberと踊ろう
— 九条林檎 (@ringo_0_0_5) December 31, 2019デビュー前のオーディション段階での話題の大きさに対し、「バーチャル蠱毒」後の九条林檎さんの活動はあまり知らないという声も多く、Twitterのフォロワーは2万人以上いるものの、YouTubeでのチャンネル登録者数はいまだ1万人に至っていない。
だがこうして熱く記させていただいた通り、彼女は精力的に活動を続けており、VTuberの本懐たるVR表現への挑戦も意欲的である。
慎ましき我らが主様は、吸血鬼らしく羽根を広げるのを好まないそうだが、2020年はより大きな舞台への飛躍を祈ってやまない。
2017年末のブーム発生より丸2年、短い期間の中に濃すぎる歴史を重ねてきたVTuberカルチャー。企業が企業ならではのパワーを発揮する傍ら、熱きクリエイターたちはアイデアと情熱を燃やす。
2020年は互いが互いに刺激しあい、テクノロジー的にも新たなブレイクスルーが訪れ、シーンがよりエキサイティングに発展していくことを願う。
九条林檎さんのインタビューを読む
2020年のVTuberを考える
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