連載 | #2 「ワンダーフェスティバル2018[冬]」

薄い本が厚くなりすぎ!! “立体同人“が男の子の夢を叶える

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薄い本が厚くなりすぎ!!  “立体同人“が男の子の夢を叶える
薄い本が厚くなりすぎ!!  “立体同人“が男の子の夢を叶える

POPなポイントを3行で

  • ワンフェスではもはや3Dプリントが当たり前になっている
  • 「たな絵画」では、勝手に設計図を出力してきたファンと組むことに
  • デジタルとアナログの垣根を超えた製作方法で可能性が広がる
サイエンスの匂いがするクールなデザインとどこかとぼけたユーモアを交え、3DCGや模型、同人誌と、表現方法をまたいで活躍しているディーラー・たな絵画

巨大ロボットからニセ新聞記事、はたまたソ連の宇宙機や粘土細工に至るまで、主催者の田中建史氏の興味とセンスの赴くままに長年活動する、知る人ぞ知るサークルである。

田中氏の本業は建築関係のパース画のデジタル作成。図面を元に構造物が実際に建った場合をシミュレートするという作業のプロらしく、その活動は緻密なデザインと「異形の存在がもし実在したら」という想定の楽しさに満ちている。

そんなたな絵画が、ここ数年ガレージキットを売っている。以前は同人誌しか売っていなかったのに、シンプルなデザインながら極めて高精度なモデルをワンダーフェスティバルはじめ各造形イベントで販売。

そのキット内容と言えば、接着剤を使わずほぼドライバーだけで組み立てることができ、完成後は可動させて遊ぶことができる独特な形状のロボットというものだ。
板からロボットに! 変形ロボット「フユク」
なぜここまで高精度なキットを量産できたのか。そこには3D出力の進歩がもたらした驚くべき話と、クリエイターとそのファンの理想的な関係があった。

取材・文:しげる 編集:新見直

設計図を描いてたら、ファンが勝手に立体にして持ってきた!

長年、田中氏一人で活動してきたたな絵画。しかし現在イベントなどには2人体制で参加している。そのもう一人のメンバーが、立体物の設計と量産を担当するToshi氏である。実はToshi氏、最初は田中氏の単なるファンだった。

田中「2人でやっているのはここ2年半くらいです。僕がこういう同人誌をつくって売っていたら、いきなり僕がつくったロボットを立体にした物を持って、Toshiさんが挨拶に来てくれたんですよ。『田中さん、これを差し上げます』っていきなりそれをくれて。『なんじゃこりゃ! 夢でも見てるのか?』って思いました」

元となった同人誌。持っているのは田中さん

3DCGで設計していたとはいえ、それをいきなり立体として組み立てたものを持ってファンが現れたら、そりゃ驚くはずである。高いスキルを持った個人との繋がりが突発的に発生するのは同人活動の醍醐味のひとつだが、それにしても極端だ。

一方のToshiさんは以前からCADソフト(デジタル設計支援ツール)に親しんでおり、高精度な設計に関する技術とその出力に関する知識があった。

Toshi「元々私は田中さんがホームページで活動している頃から『これの立体がほしいな!』と思ってたんです。当時は自分自身スキルがなかったんですけど、ここ数年で3Dプリンターの精度が上がって、田中さんの作品を立体化する目処がついたんですね。そこでまずは言葉より実物だということで、出力したものを持って田中さんのところにプレゼンに行ったんです」

変形ロボット「フユク」

すごい行動力だ。まさにファンの鑑である。「誰にも頼まれてないけど勝手にやる」というのは同人活動の基本ではあるが、出力された立体物があまりにも高精度だったことが、その後のたな絵画の活動を大きく変えていく。

同人誌を元に採寸したデータに狂いなし

Toshi「実物を持ってプレゼンしたところ、自分たちだけで楽しむんじゃなくて、これと同じものが欲しい人もいるかもしれないから世に出していこうということになったんです。だから私自身は1ファンとしてサークル活動に参加している感じですね。デザインは全て田中さん自身が考えたものを尊重するような形でやっています」

田中「Toshiさんはもう、未来から来た人みたいな感じです。自分でもアナログな模型をつくったりイラストを描いたりするんですけど、ここまで高精度なものになると手作業では無理なんですよ。そこをがっちりサポートしてもらってる感じです。モニターの中の世界だったら、0.1㎜単位でも精度を高く設計できるじゃないですか。本当にほしいのはそれの立体物なんだけど、それをやろうと思った時に僕の手先の器用さではどうしようもないので……」 一方のToshiさんも、田中さんの設計の精度に驚かされている。何と言っても田中さんの本業は建築物の完成予想図となるパース画をデジタルで作成する仕事。立体化した場合に全く破綻のないデザインは、その仕事から生み出されたものだったのである。

最初に試作品をつくったToshiさんには3Dデータすら渡されておらず、同人誌を元に採寸してデータを作成したのに辻褄が合ったという事実がそれを物語っている。

田中さんが同人誌に掲載していた、フユクの分解図

Toshi「ロボットの構造に破綻がないのは、建築関係の職業の人が作ったデザインだからだと思うんです。普通のCG屋さんのデザインだと、おそらく矛盾した部分が出てくる。だからロボットでも自立しなかったり、デフォルメしないといけないところが出てくると思うんだけど、田中さんのデザインはそれがない。アレンジを加えるにしてもネジ穴の位置を合わせたりとか予算と相談して細部を調整したりとか。私としてもやりやすいです」

田中「パースの仕事はもう20年近くやってるんですけど、パースで培った技術は同人活動に持ってくるし、同人で得たものをパースの仕事に持ち込んだりしている。相互にフィードバックがあるんです。幸い図面が読めるんで、そのアドバンテージを生かして『僕の考えたかっこいいロボット』を真剣に設計したらどうなるかを考えてます。建築よりロボットの方が好きだから(笑)」

3DCGで何をつくるか? 今こそそれが問われている

もはやワンフェス会場でも特に珍しいものではなくなった3DCGによるフィギュアの製作。現在では3DCGで作品をつくっているということ以上に、それをどのように活かして活動するかが鋭く問われるようになっている。

その点において、当初から3DCGを用いて特異な関節構造やフォルムを設計し、「限りなく整合性があるのにどこでも見たことがないロボット」をつくり続けて来たたな絵画の活動には大きなアドバンテージがある。なんせToshi氏のような技術力があれば、それをほぼそのまま出力して立体化することができるのだ。 見方によっては、3Dプリンターの登場と高精度化によって、ようやく時代が田中氏に追いついたということなのかもしれない。

更に興味深いのが、これまでつくってきたデータを高精度で立体化できたことによって、田中氏の中で「アナログへの回帰」が発生していることだ。

田中「僕としてはこういう緻密な設計の立体がほしいという欲がもう満たされてしまったので、昔からやりたかった粘土細工的なアナログの作業をできるようになったんです。それまでは3DCGでやっていたことけど今はアナログな手書きっぽい絵を全力で描けるようになって、すごく助かってます」

Toshi「田中さん自身の作家活動でウエイトを占めていた3DCGの部分がごっそり私の方で手伝えるようになったんで、そのぶん田中さん自身が作家としてやりたいものを集中してやっているという感じですね。私がやっているのはあくまで量産なんで」

その方針はワンフェスでの卓の様子にも表れている。シャープにエッジのたった「フユク」や「オリンピア」といったロボットのキットと、反対にどこか旧共産圏のモニュメントに似つつアナログゆえのユーモアもある田中氏の一点ものの作品が同時に並ぶ様子は、テクノロジーとセンスの幸福な共存関係を見ているようだ。

草の根的な活動が、人との繋がりを経て有機的に変化する様は、まさにインディーならではのなんでもあり感である。 あくまで今の時代だから可能になった、デジタルとアナログの垣根を大きく超えた製作方法。そしてファンと作家それぞれの熱意に支えられたキットたち。たな絵画の活動からは、現在の立体製作環境の持つ豊かさが溢れている。

ワンフェスの気になるブースを取材してます

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しげる

Writer

1987年岐阜県生まれ。プラモデル、アメリカや日本のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や元軍人やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。好きな女優はメアリー・エリザベス・ウィンステッドとエミリー・ヴァンキャンプです。
https://twitter.com/gerusea
http://gerusea.hatenablog.com/

連載

「ワンダーフェスティバル2018[冬]」

トイやフィギュアの祭典「ワンダーフェスティバル2018[冬]」に取材に行ってきました! コスプレはもちろん、個人ディーラーの注目ブースや、立体のトレンドなどを独自の視点で取材しています。

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