2018年のいま、改めて「ストリート」を考えるにあたって、インターネットを欠かすことはできない。
ラッパーたちの言動を振り返ってみても、例えばMinchanbaby(当時はMINT)は、2012年には“「ネットも現場」がモットー”とプロフィールに記載していたし、2014年にPUNPEEは「誰かが言う『ネット上もストリート』」とリリックを残していた。
「自身の生活がすべてヒップホップ」という考えがある以上、ネットやSNSをただ宣伝の道具であると割り切るのは理に合わないだろう。
今回取材を行ったJinmenusagi(TYORiO)は、ヒップホップとインターネットの先端を走ってきたラッパーの一人だ。2017年夏にダブルネームでアルバムをリリースしたIttoとともに、いまの時代を包むゆるふわな空気感としての“ストリート”について考える時間をいただいた。
取材・文:ふじきりょうすけ 写真:Jun Akahane (Depth)
Jinmenusagi 僕らインターネット側は人口はどんどん増えていますよ。でも、ストリートにいる人だって、家に帰ってからビートをネットにあげてる。今はそれくらいカジュアルになっているんですよね。
だから地域に依存する人の数は絶対減っているんですけれど、ストリートの繋がり自体はより強力になっている。元々ヒップホップらしさとして構築されてきた「ストリートの事象を目に焼き付ける」という体験の強さは今も残ってるわけじゃないですか。 ──ANARCHYやBAD HOPなどの人気を見ると顕著ですね。具体的な“地元”の事象が、ストリートとして表現されているような?
Jinmenusagi ただ、体験を元にしていても、ストリートって言葉が具体的な「路上/土地」を指してるわけではないんですよ。
ヒップホップで出てくるカタカナって普通の一般社会の言葉と響きは似てても意味は全然違って。バイブスも振動のことじゃないでしょ。その中でも一番顕著なのがストリートかもしれない。
Itto 例えば“ビッチ”とかもヒップホップだと「Girl」ぐらいの意味だよね。
Jinmenusagi そう。ストリートって言葉を聞いたら、普通の人は路上そのものを想像すると思う。俺は「裏路地でハスラーがドラッグを売りさばき……」みたいなことを想像しちゃうし(笑)。
Itto そのイメージも間違いなくあるとは思うけど……でも、ストリートって今そんな当たり前に皆が言うの?
Jinmenusagi 言う言う、でも言う人によって全く意味が違う。「裏社会」みたいな文脈で使ってる人もいれば、流通会社を通さないでCDを売るときに「ストリートでさばく」って言い方をしたりもするし。
一般の人だと、バスケットボールストリートとか、セサミストリートとか、そういうの?(笑)。みんな違う意味で使ってるっすね。 Itto こうやって、話してみるといろんな解釈があるんだなって思う。国やコミュニティによっても違いがありそうだね。とにかく響きがかっこいい。
Jinmenusagi 俺らが思うストリートの意味を解説することによって、少なからず「ん?」ってなる人はいると思うんですよ。それくらいストリートって言葉の受け取りは人によって違う。
──例えば、韓国のアーティストの人気が高くなっている中で、しばしばヒップホップ/ストリートという言葉も当てられたりしますが疑問に思う場合もあります。
Jinmenusagi 韓国のアーティストに対してそういう意見があるとしたら、それは「ストリートファッションがすごく似合うヒップホップ」の略なのかもしれない。もしくは、「ストリート(街中)でよくかかっているヒップホップ」だとか……。
結局、言葉尻を掬うようですごい嫌なんすけど、みんなが思う共通認識としての「ストリート」なんてものは無いんですね。
これは少し俺の想像が入るんですけど、ライフスタイルとして音楽をやっている人たちはミュージシャンとしての技術向上ではなくカルチャー/ライフスタイルの充実を優先する。そうなると、さっきも言った通り、目で見て耳で聞いて手で触ってのことが重要視されるわけですよ。
メディアとかから受動的に入ってきた情報・価値観ではなく、自分に近いことで構成されたリアル。それを“ストリート”って言ってるんだと思います。
Jinmenusagi (縦社会の風潮が薄れて)若い子の意見が強くなってるんじゃないですか。ただ、これについては、そうあるはずの文化が元に戻っただけだと思うんですけどね。
ヒップホップとかパンクは若ければ若いほど価値があるカルチャー……のはずなんだけど、日本は様式が強い国なんで実情と乖離していったんじゃないかと思います。
それこそ、ネットラップのようなシーンが出来上がってという状況は、表立った音楽シーンとして誰も認めたがらなかった。それは、やっぱり縦社会的な様式が強いからじゃないですか。わかりやすく嫌な例え方をすると「チケット2枚しか売れてなくても、現場でやってることこそが音楽だぜ」みたいな。
逆にネットの世界だけにいる人たちもいるから──そこはバランスが取れてないと、どっちもダサいと思っちゃうんだけど。
Itto 聴く人がいるってことが必要なのに自分だけで完結しちゃうってこと?
Jinmenusagi ヒップホップは価値観の音楽だからこそ、履歴書のようにリリックを書くことで満足してる……みたいなところもあると思う。今はもうそんなにいないと思うけど、ステレオタイプなラッパーは曲で自己PRをしてるんですよ。
Itto 俺はこうだ! ってね。ヒップホップの音楽性の一部でもあるから。 Jinmenusagi それに勇気付けられるのもあるんですけど、流石にもうそんな簡単な年齢じゃなくなってきたんで。
──(笑)。
Jinmenusagi 縦のつながりが強いと、狭い観点になって新しいものを取り入れたりできなくなっちゃう。
ネットラップは横のつながりなんで、知り合った時の流れで6個上とかにタメ口だったりるんですよ。そういうところで育ってきたんで「こういうのが縦社会なのか〜」みたいな。
Itto それはもうシーン関係なしの日本文化だよね。音楽に限らず年功序列は変えられなくない?
Jinmenusagi そういう空気を打破するためにやってやるぞっていうのが一番のモチベーションかもしれない。
ラッパーたちの言動を振り返ってみても、例えばMinchanbaby(当時はMINT)は、2012年には“「ネットも現場」がモットー”とプロフィールに記載していたし、2014年にPUNPEEは「誰かが言う『ネット上もストリート』」とリリックを残していた。
「自身の生活がすべてヒップホップ」という考えがある以上、ネットやSNSをただ宣伝の道具であると割り切るのは理に合わないだろう。
今回取材を行ったJinmenusagi(TYORiO)は、ヒップホップとインターネットの先端を走ってきたラッパーの一人だ。2017年夏にダブルネームでアルバムをリリースしたIttoとともに、いまの時代を包むゆるふわな空気感としての“ストリート”について考える時間をいただいた。
取材・文:ふじきりょうすけ 写真:Jun Akahane (Depth)
ストリートの繋がりは強力になっている
──2016年に取材させていただいた際、ネットに曲をドロップすることが当たり前になったことで、ネットラップというジャンルは瓦解したというお話をされていました。そこで「ストリート」の現在を考える今回の特集で、Jinmenusagiさんにお話をうかがえればと思ったんです。Jinmenusagi 僕らインターネット側は人口はどんどん増えていますよ。でも、ストリートにいる人だって、家に帰ってからビートをネットにあげてる。今はそれくらいカジュアルになっているんですよね。
だから地域に依存する人の数は絶対減っているんですけれど、ストリートの繋がり自体はより強力になっている。元々ヒップホップらしさとして構築されてきた「ストリートの事象を目に焼き付ける」という体験の強さは今も残ってるわけじゃないですか。 ──ANARCHYやBAD HOPなどの人気を見ると顕著ですね。具体的な“地元”の事象が、ストリートとして表現されているような?
Jinmenusagi ただ、体験を元にしていても、ストリートって言葉が具体的な「路上/土地」を指してるわけではないんですよ。
ヒップホップで出てくるカタカナって普通の一般社会の言葉と響きは似てても意味は全然違って。バイブスも振動のことじゃないでしょ。その中でも一番顕著なのがストリートかもしれない。
Itto 例えば“ビッチ”とかもヒップホップだと「Girl」ぐらいの意味だよね。
Jinmenusagi そう。ストリートって言葉を聞いたら、普通の人は路上そのものを想像すると思う。俺は「裏路地でハスラーがドラッグを売りさばき……」みたいなことを想像しちゃうし(笑)。
Itto そのイメージも間違いなくあるとは思うけど……でも、ストリートって今そんな当たり前に皆が言うの?
Jinmenusagi 言う言う、でも言う人によって全く意味が違う。「裏社会」みたいな文脈で使ってる人もいれば、流通会社を通さないでCDを売るときに「ストリートでさばく」って言い方をしたりもするし。
一般の人だと、バスケットボールストリートとか、セサミストリートとか、そういうの?(笑)。みんな違う意味で使ってるっすね。 Itto こうやって、話してみるといろんな解釈があるんだなって思う。国やコミュニティによっても違いがありそうだね。とにかく響きがかっこいい。
Jinmenusagi 俺らが思うストリートの意味を解説することによって、少なからず「ん?」ってなる人はいると思うんですよ。それくらいストリートって言葉の受け取りは人によって違う。
──例えば、韓国のアーティストの人気が高くなっている中で、しばしばヒップホップ/ストリートという言葉も当てられたりしますが疑問に思う場合もあります。
Jinmenusagi 韓国のアーティストに対してそういう意見があるとしたら、それは「ストリートファッションがすごく似合うヒップホップ」の略なのかもしれない。もしくは、「ストリート(街中)でよくかかっているヒップホップ」だとか……。
結局、言葉尻を掬うようですごい嫌なんすけど、みんなが思う共通認識としての「ストリート」なんてものは無いんですね。
これは少し俺の想像が入るんですけど、ライフスタイルとして音楽をやっている人たちはミュージシャンとしての技術向上ではなくカルチャー/ライフスタイルの充実を優先する。そうなると、さっきも言った通り、目で見て耳で聞いて手で触ってのことが重要視されるわけですよ。
メディアとかから受動的に入ってきた情報・価値観ではなく、自分に近いことで構成されたリアル。それを“ストリート”って言ってるんだと思います。
ヒップホップは若いほど価値がある
──リアルな繋がりが強くなっている、というのはよくわかります。一方でTwitterのフォロワー数をプロップスとして扱うこともあったり、ネットの影響力そのものが“リアル”だと感じているアーティストも台頭していませんか?Jinmenusagi (縦社会の風潮が薄れて)若い子の意見が強くなってるんじゃないですか。ただ、これについては、そうあるはずの文化が元に戻っただけだと思うんですけどね。
ヒップホップとかパンクは若ければ若いほど価値があるカルチャー……のはずなんだけど、日本は様式が強い国なんで実情と乖離していったんじゃないかと思います。
それこそ、ネットラップのようなシーンが出来上がってという状況は、表立った音楽シーンとして誰も認めたがらなかった。それは、やっぱり縦社会的な様式が強いからじゃないですか。わかりやすく嫌な例え方をすると「チケット2枚しか売れてなくても、現場でやってることこそが音楽だぜ」みたいな。
逆にネットの世界だけにいる人たちもいるから──そこはバランスが取れてないと、どっちもダサいと思っちゃうんだけど。
Itto 聴く人がいるってことが必要なのに自分だけで完結しちゃうってこと?
Jinmenusagi ヒップホップは価値観の音楽だからこそ、履歴書のようにリリックを書くことで満足してる……みたいなところもあると思う。今はもうそんなにいないと思うけど、ステレオタイプなラッパーは曲で自己PRをしてるんですよ。
Itto 俺はこうだ! ってね。ヒップホップの音楽性の一部でもあるから。 Jinmenusagi それに勇気付けられるのもあるんですけど、流石にもうそんな簡単な年齢じゃなくなってきたんで。
──(笑)。
Jinmenusagi 縦のつながりが強いと、狭い観点になって新しいものを取り入れたりできなくなっちゃう。
ネットラップは横のつながりなんで、知り合った時の流れで6個上とかにタメ口だったりるんですよ。そういうところで育ってきたんで「こういうのが縦社会なのか〜」みたいな。
Itto それはもうシーン関係なしの日本文化だよね。音楽に限らず年功序列は変えられなくない?
Jinmenusagi そういう空気を打破するためにやってやるぞっていうのが一番のモチベーションかもしれない。
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Itto
ラッパー
2014年、牛乳の配達をしていたIttoが、たまたま街で盆踊りの練習をしているJinmenusagiと出会う。互いの音楽性に惹かれ合い、意気投合。その後、2人は音楽修行の一環としてロシアの秘密結社に所属するも、同期の不慮の事故により政府機関から手を引くこととなる。2017年、秘密結社にて培った経験を活かし、初のコラボアルバム「Eternal Timer」をリリース。世界を巻き込み、猛進する彼ら。もう、誰も止めることのできない革命が今、起ころうとしている。
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