JinmenusagiとIttoが語る 「共感の時代」が生んだヒップホップの熱狂

──どのジャンルにも少なからずありますが、ヒップホップは特に様式を重んじているイメージがあるように思います。ある種、囚われてるとすら言えるような。

Jinmenusagi 決して囚われているわけじゃないんですよ。「様式を重要視している」には、いろんな意味があって。

様式を壊せば壊すほどヒップホップは進化する。なんですけど、やっぱり一番心に残るヒップホップって基本の様式そのまんまだったりするんですよ。「(手を縦に振りながら)Put Your Hands Up In The Air!」ぐらいの、そういうのって記憶に残る。これぞヒップホップ! みたいな曲の方が盛り上がる瞬間もあるし。 ──共通認識としてのヒップホップらしさ、というのはありますよね。

Jinmenusagi 様式の話をするなら、一番やばいのはサンプリングっすね。人の曲をちょっとつくり変えただけで、自分の物にしちゃっていいっていう……、メタな言い方をすれば泥棒すれすれの(笑)

Itto 様式っていう意味では、音楽はなんでもパクりまくって進化していってるから他ジャンルも繋がってるよね。取り入れ方とか曲の組み替え方のセンスはそれぞれだから斬新なアイデアはオリジナルになるし。

Jinmenusagi でも、そのパクりに名前がついているのは、(音楽では)ヒップホップだけじゃないかな。「ある程度だったらパクってもいいです」って、公式から言われてるみたいな。

ちゃんとリスナーとしての愛があって、オシャレなサンプリングしてるとむしろ上がるポイントだぞ、みたいな。これはヒップホップ独自の形式ですよね。

ヒップホップが一番売れてる音楽になった

──なるほど。そして2017年、「アメリカで一番売れたジャンルがヒップホップになった」というニュースが話題になったんですが、なぜそのようになったんだと思われますか?

Jinmenusagi 情報量がすごく現代的、なおかつ共感度が高いんですよ。例えば「(テーブルにあった缶を手に取り)レッドブル飲んでる」とか、ほかのジャンルだと出てこないくらい細かく語れる。

Itto 受け取る側が受動的になっているんだと思います。ぶっ飛んだプレゼンを視覚ありきで聴いてるような感覚ですかね。

ヒップホップ以前の音楽って言葉の間が長くてシンプルじゃないですか。その分リスナーが回想できる部分があって自分の中で解釈ができる。SNSも然り、すぐに共有できたりスピード感のある時代に合致したんじゃないですかね〜

Jinmenusagi あとは、ヒップホップがロックとかパンクの代わりになってきてたり……。2017年のヒップホップシーンでは、オーバードーズで亡くなったんですけれど、Lil Peepをはじめとしたラッパーが楽曲にエモ/パンクを吸収していった。

マッチョイズムの強いストリート/ワークアウトみたいな世界観から、マリリン・マンソン的なゴスロック、ダウナーな方向へ。

──時代的が共感を求めた結果、ヒップホップもエモを取り入れていった。

Jinmenusagi 自分の聞きたいこと、見たいものに自分でたどり着いていくっていう世の中。テレビ見ない人も増えてますけどそれはスマホがTV並みの情報量、もしくはそれよりも多い情報量を持っていて選択できるから。

Itto 自分たちで探せるようになってるから分散されてるよね。

Jinmenusagi だからニーズに沿った細かい情報が揃ってるヒップホップの世界が魅力的なんじゃない? 扱っているテーマの種類が多いから時代に即してるんじゃないですかね。 ──なるほど。少しお話が戻ってしまうんですけれど、Ittoさんは数年前までアメリカにいらっしゃったじゃないですか。ヒップホップ人気についてどのように感じられていましたか?

Itto ヒップホップは日本より全然メインストリームだと思います。5年前の僕がいた頃でもラジオから流れてくる曲のほとんどがヒップホップだったし、ラッパーに対する周りの認識ももっと身近なものでしたね。

どのジャンルも曲の要素として引き継がれて行くと思いますが、ヒップホップは日本でいうポップスくらいの認知度なんだと思いますよ。

あと、絶対的な違いとしてはCDがほとんど無いってことじゃないですかね

──CDショップが軒並み潰れちゃって、もうほとんど無いとは聞きますが……。

Itto 置いてあるとしても、スターバックスと提携してたりとか電気屋にちょろちょろって置いてある程度で、CDショップ自体は全然ないです、まだレコードショップの方が多いですね。

──それも結局は音楽マニアがレコードをディグする需要が増えてるっていう。

Jinmenusagi CDはビジネス的な競争において淘汰されたんでしょうね。

日本においては「国民総オタク」の節があって、収集の欲望を満たしてくれるコンテンツが氾濫しているのにもかかわらずCDの売り上げが落ちている。それはもう抗えない時代の波がCDをかっさらおうとしているんですよ、ザッバーンって。だから俺もCDとかもらっても困るんです。再生する機械がなくて。

──アーティストですらCDを聞いてない(笑)。

Jinmenusagi Windowsのパソコンが壊れたので、MacBookを購入したんですが……CDドライブがなくって。とうとうCDを聞ける環境がなくなったんですよ。からこのインタビューを見ている人にはCD渡さないでほしい!(笑)

Itto ダウンロードURLとかでほしいよね。Spotifyとかもすごく便利だし。

Jinmenusagi それが一番良いんですよ、クラウドでも聴けるしダウンロードもできるしみたいなカジュアルさが今一番求められてるんじゃないかなって。

Itto そうなんだよね。もう曲自体買わない人が増えてきたよね。YouTubeのPVで完結している人たちもすごい多いと思う。

アルバムの価値とは?

──リスナー視点としては、クレジットを見れることや、所有欲、ファンアイテムとしてでもCDの価値はまだまだあると思っていますが……。

Jinmenusagi 俺は昔ネットラッパーだったんで、フィジカルを残すことにある種の憧れがあったんですよ。出せば出すほど評価に繋がると思ってたし。でもほとんどのコンテンツが電子化されていくようになって、「物」として残すっていうことの意味が世の中全体でも、自分の中でも大きく変わった。

思い入れの深いものだけは形にして残した方が良いよな〜、くらいの考えになったんです。少し前は1年に2枚くらいのペースでリリースをしていた時もありましたけど、その中で在庫を抱えるリスクとか、デメリットについても学んだし。

Itto 僕はもうCDを出すことに意味をあんまり持たなくなってきてる気がしてて(笑)。前だったら歌詞カードが見れるとか思ってたんですけど、ネットで見れるしっていう人たちもこれから増えてくと思うんですよ。

だからちょっとCDに関してはこれから出すか全然わからない。物として存在するっていう良さもあると思うんですが、基本的に何でもかんでもCDで出すっていうことに意味を感じないですね。

Jinmenusagi CDのプレスって、だいたい1ヶ月くらいかかるんですよ。でも、今の世の中1ヶ月もすればトレンドが一周してしまう。時代には則さないスピード感なんです。フリーの配信リリースの方が社会との足並みが合うんですよ。

Itto それで残っていく曲があれば集めてCDで出すっていう感じにしていきたい。
今日も/Itto x Jinmenusagi
──お二人がリリースされた『Eternal Timer』は凄くアルバムという形式を意識された作品だったように感じました。

Jinmenusagi ittoが曲の流れをすごく緻密に決めるんです。

Itto そこまで綿密に決めて行ったわけじゃないですが、飽きない流れはつくりたくて。アルバムを1回ちゃんと通しで聴いてやっと完結する話だし、やっぱりメッセージ性がそっちの方が強く出ると思うんですよ。だからアルバムっていう存在があるわけで、そうじゃなかったらシングルで出しますね。

Jinmenusagi うん。好きになった面白い漫画続きで買うのと一緒だよね。『グラップラー刃牙』の10巻だけ持ってても訳わかんないし(笑)

Itto (笑)。僕はいつか、アルバム全部に通しでMVをつくりたくて、映画みたいな感覚にしたいんですよね。今の音楽はPVありきじゃないですか。シングルを出すにしても、MVがなかったら伝わらないみたいなのもあるし。

──なんだったらYouTubeに上がってる曲以外は知らない、なんて人もいるくらいです。

Jinmenusagi でも、さすがにそれを面と向かって言われたらムカつくっすね(笑)。

特集「2018年のストリート」


KAI-YOU.netが送る特集第3弾「2018年のストリート」は、1月中に更新予定。

記事一覧と更新予定記事の予告は、特設ページから。続々更新していきますので、ご期待下さい!!
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Itto

ラッパー

2014年、牛乳の配達をしていたIttoが、たまたま街で盆踊りの練習をしているJinmenusagiと出会う。互いの音楽性に惹かれ合い、意気投合。その後、2人は音楽修行の一環としてロシアの秘密結社に所属するも、同期の不慮の事故により政府機関から手を引くこととなる。2017年、秘密結社にて培った経験を活かし、初のコラボアルバム「Eternal Timer」をリリース。世界を巻き込み、猛進する彼ら。もう、誰も止めることのできない革命が今、起ころうとしている。

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