今回のサプライズ起用は、かねてから神聖かまってちゃんのファンということを公言していた『進撃の巨人』原作者の諫山創氏たっての希望によるものだという。
マンガ界を騒然とさせた『進撃の巨人』と、インターネット配信から音楽業界を波立たせた神聖かまってちゃん。今回の『進撃の巨人』とのタッグをはじめ、2017年の神聖かまってちゃんの今について、インターネットについて、メンバーのの子(Vo,Gt)、mono(Key)、ちばぎん(Ba)に話を聞いた。
取材・文:須賀原みち 撮影:時永大吾 編集:新見直
「早く結婚すればいいのに」 みさこもドハマりな『進撃の巨人』
──今回、神聖かまってちゃんの新曲「夕暮れの鳥」がTVアニメ『進撃の巨人 Season2』のエンディングテーマに起用されました。まず最初に、今回のタイアップの話を聞いた時は、どう思われましたか?の子 「ついに来たか」って。
ちばぎん 元々、諫山先生はご自身のブログで神聖かまってちゃんのことを「好き」って言ってくれたり、「『男はロマンだぜ!たけだ君っ』がエレンのテーマソングだ」とか色々言ってくれていたので、アニメ第一期が放送されている頃から「なんかで使ってくれるといいのに」って妄想の話をしてました(笑)。なので、それが本当に実現しちゃったっていう喜びを感じてましたね。
──『進撃の巨人』という作品はもともと知っていたということですが、最初に作品と出会った時の印象を覚えていますか?
の子 色んな意味でインパクトがありましたよね。やっぱり「親が食われてる」とか、ストーリーも面白かったし。
mono ショッキングなシーンから始まったんでね。
ちばぎん 僕は『進撃の巨人』が大好きで、みさこさん(Dr)と熱く討論したりします。「巨人って何なのか?」とか「次は誰が死ぬか」みたいな。
あと、みさこさんはアルミンが大好きなんで、「いかにアルミンが素晴らしいか」って話を散々聞かされたり……。最近、アルミンのキャラソンが発表されたんですけど、「もう感動して動悸が止まらない」って言ってましたよ(笑)。
の子 早く結婚すればいいのに…現実を見て(笑)。
ちばぎん アルミンと?
の子 アルミンと結婚できるわけないでしょ!!
ちばぎん 現実の男を早く見つけろと(笑)。 mono ちばぎんはどのキャラが好きなんだっけ?
ちばぎん 僕は強いて言うならジャン。わりと周りが見えていて、あわよくば楽なほうに逃げようとする性質がある。だけど、仲間が死んで自分がやらなきゃダメだってことで調査兵団に入ることを決めるシーンにグッと来て……。自分とめっちゃ重なるんですよね。バンド内でも、今、すべきことが何かをわかっているっていう。
の子 俺はベタに、主人公のエレンが好き。熱血なところとか。あと、リヴァイ兵長。って、原作のこと何も知らねーやつみたいなこと言ってる(笑)。
やっぱり熱さだったり、剣を持って切り開いていこうってところは、自分と重ねるところがありますね。
mono 俺は最近だと、コニーが良いなって思い始めた。ビビリなところが人間っぽいじゃん。
──みなさん、自分と重なる部分のあるキャラがお好きなんですね。
の子 それは、どの作品でもそうですね。ただ、僕の場合はキャラクターというより、作品の世界観に惹かれるところのほうが大きかったです。
「夕暮れの鳥」は仮歌では日本語だった
──神聖かまってちゃんのアニメタイアップですと、2011年のTVアニメ『電波女と青春男』の「Os-宇宙人」(エリオをかまってちゃん名義)以来です。『進撃の巨人』のエンディングテーマを手がけることにプレッシャーはありましたか?の子 僕は特になかったですね。元々、(『進撃の巨人』と神聖かまってちゃんは)作品の持つ世界観が合うと思ってたので。『電波女と青春男』の時も、”電波”ってことでやりやすかったし、今回の『進撃の巨人』もすごくやりやすかったです。結果的に、作品の世界観がうまく融合されたって感じがします。
──今回の楽曲「夕暮れの鳥」は静謐な印象ですね。楽曲製作はいかがでしたか?
の子 楽曲はスムーズにできましたね。今回のタイアップが決まったのが1年半くらい前で、そこから『進撃の巨人』を読み直して歌詞を考えたりしました。曲自体は10〜15分くらいで出来たんですけど、歌詞のほうがちょっと時間がかかった。(カップリングの)「光の言葉」も候補に出したりしたんですけど、結果的に半年くらい前に「夕暮れの鳥」に決まりましたね。
mono それ、多分、俺らも聞いてないよね。
ちばぎん 日本語のは聞いてないね。俺らが聞いたのは、今のウィスパーボイスのバージョンと、ボイスチェンジャーを使った子どもみたいな声で歌う2パターンだったけど、どっちも英語だった。 ──曲を書く時には、どういった部分に気をつけましたか?
の子 諫山先生と打ち合わせした時に、「『風の谷のナウシカ』のオープニングのイメージで、ホーリー感を出していただけたらいいです」みたいな依頼がありました。あとは、例えとして「コンクリートの向こう側へ」とかも出してくれて(カップリングには「コンクリートの向こう側へ」という楽曲もリマスター収録)。なんで、その感じで曲をつくるっていう。
の子 まったく逆で、完全に感覚だけですね。
──実際に、「夕暮れの鳥」が起用されたエンディング映像を見て、いかがでしたか?
の子 放送のときに初めて見たんですけど、「あぁ、(諫山先生が言っていたのは)こういうことか!」って。
ちばぎん ずっと『ナウシカ』のイメージだったのが、「なるほどー!こういうことだったのかー!」っていう感じで、素晴らしかったですねぇ。
いつ終わるかわからない緊張感
──ここからは少し踏み込んでお聞きしますが、『進撃の巨人』という作品は、特に初期の絵の不安定さや衝撃的な展開の連続など、ある種の“危うさ”“緊張感”が漂っていたように思います。それは、神聖かまってちゃんにも通じる部分があるのかな、と。の子 バンドについてはそうですね。
──「神聖かまってちゃんがいつ終わってもおかしくない」という“危うさ”は自覚されてるんですか?
ちばぎん このメンバーになってから来年で10年ですけど、結成当初からずっと「3カ月後には解散してるかもな」って思い続けてますし、今でも思ってます。
──バンドの将来について、みんなで話したりは?
の子 いやぁ、したことないですね。マジで。
mono 「今をどうするか」っていう話はよくするんですけど。
の子 むしろ、そういうことするようなバンドだったら、多分もっと早く終わってるんじゃないかな(笑)。
ちばぎん もちろん、僕らが「いつ終わるか、わからない」って外側から言われてきたのはわかってます。でも、それが武器だと思ったことはないです。そう言われることが良い方向に進んでいった時期もあるとは思うんですけど。
──「いつ終わるか、わからない」バンドと言われることについて、不快感は?
の子 全然ないっす。「もっと思ってくれ」って思う。
mono 配信とかで「俺らもいつ解散すんのかわかんないんだから、今のうちにライブ来いよ」とかよく言ったりするもんね。若干、便乗してる感はありますね(笑)。
の子 今聞いていて、そういうの(“危うさ”)ってプラスにもなるんだなって思いましたけどね。今までは単なるマイナスにしかならないと思ってたんで。
ファンからも「見ていて辛い」とか「(解散する)結果がわかるから、応援するのが辛い」って言われたことありますし。俺は「そんな情けねー奴いるんだ」って思うんだけど(笑)。
──でも、わざと「辛くなりたい」って人もいますし……。
の子 マジで、そうですよね(笑)。
ぶっちゃけ、今のメンバーの仲は?
──昔はバンド内でよく衝突していた印象もあります。の子 喧嘩のシーンとかがよくピックアップされてますから。いつも喧嘩してるイメージにとらわれてたっていうのはありますね。
──最近は喧嘩しないんですか?
mono まったくです。
ちばぎん ちょっと前に、の子とみさこさんが冷戦したくらい? それも解決して大丈夫だったんですけど。
の子 昔はライブのやり方とかも何も決めてなかったんで、ハプニングが起きやすかった。本当に完全なるフリーダム。
ちばぎん 曲が終わって、「次の曲、どうする?」って間に喧嘩が起きてた。
の子 喧嘩が起きてる時は、大体俺が精神的に病んでる影響もあったんで。
ちばぎん 「影響“も”」っていうか、大体そうなんだけど(笑)。
──の子さんは、諫山先生との対談(外部リンク)で「今ちょっと気分が落ちてる時期」「エンディングテーマのお話をいただいたとき、ズタボロな僕を諫山さんが戦場で救ってくれたような感覚」とおっしゃっていますね。
の子 去年のちょうど忙しいとき、単純にダウナーになって落ちてた時期がありました。
──monoさんとちばぎんさんは、そんなの子さんの姿は見てるんですか?
mono そういう面は見せたくないでしょうし、僕らも見ようとしないっていうのはちょっとあったりしますね。わからないところも多いですけど、わからないほうが良いんだろうなって感覚。
の子 ハハハ(笑)。メンバーとはべったりじゃないんで。
──神聖かまってちゃんは、メンバー間でどういった距離感で接しているのかが気になります。
の子 「仲良いな」ってよく言われたりするんですけど、ほかのバンドと比べたら、みたいなのはわかんないっすね。
──プライベートの悩み相談とかはしないんですか?
の子 絶対しないですね! 別に酒飲んだら話してもいいことはいっぱいあるんですけど、あえてそうしようとするタイプじゃないんで。多分、みんなもそうだと思うんですけど。
mono でも、俺、基本的に結構してない? よく人に「今日こういうことがあってさ〜」って言いたがる性格だし。
ちばぎん monoくんはなんでもかんでも言ってくるね。
の子 あれで悩み相談してんだ! そのレベルなのか、君は(笑)。……いや、それが良いところでもあると思うけど。
──バンドメンバー4人で飲みに行ったりは?
mono それが一回もないんですよね〜!
ちばぎん ライブ後の打ち上げとかはありますけど、スタッフを含めてだったりするので。
の子 ちばぎん、運転してるから飲めないしね。
ちばぎん メンバーが昔、全員千葉に住んでた時は、朝メンバーの家を回って仕事場に行って、帰りもみんなを下ろして帰ってたんです。今は次々と千葉から引っ越していったんで、の子だけですけど。
mono 幼稚園バスみたいだよね(笑)。
の子 確かに(笑)。まぁ、4人の飲み会はあったとしても、もっと先の50代とかになってからかな。「そんなバンドやってたな〜」みたいな。
一同 (笑)。
“放送事故”はいつも求められている
──喧嘩をしなくなったということでしたが、例えば一時期は、神聖かまってちゃんというバンドには“放送事故”のイメージがついて回っていました。今の時代、SNSだったりでどこか“放送事故が求められている”ようにも感じます。の子 みんな刺激を求めてるんじゃないか、みたいな。でも、いつの時代もそういう奴はいるんだろうな。
ちばぎん 最近というよりもね。
mono 誰かがやったのを「ざまーみやがれ」って感じで見ているんでしょうね。やった本人はたまったもんじゃないけど。
の子 「ざまーみやがれ」ってやつだけじゃなくて、「俺たちのかまってちゃんがやってやったぜ!」みたいな人もいるんだろうな。「てめーは何もやってねーだろ」って思うけど(笑)。
──みんなが放送事故を見たいから、「それを提供しよう」という気持ちはない?
の子 「提供してやろう」というよりも、むしろ自分がやりたかったことをやってる。やっぱり度胸がいることなんで、そうじゃないと出来ないっす。ただ、必要なのは度胸だけなんで、簡単といえば簡単。当然、世の中がざわつくのを狙ってやったところもありますけどね。「何してもいい」って言われたから、実際にやったら完全にお蔵入りになって放送事故にもならなかったことはありますけど……。
──そうした放送事故的な行動によって、自分の狙いを超えた何かが起こるということはありますか?
の子 ありますけど、今、それをやろうって気にはやっぱならないですよね。ああいうのは諸刃の剣なんで。
──そんな中で、圧倒的人気を誇る『進撃の巨人』のエンディングに起用されるなど、神聖かまってちゃん自身の立ち位置も変わってきたのでは?
の子 どうなんですかね。実際問題、うちらに代わる立ち位置の人がいないんで、いまだにアンチテーゼみたいなのを求めてくる人は求めてくるんじゃないですかね。ファンはもう「そういうことはやらない」っていうのをわかってるんですけど。
──神聖かまってちゃんとして、大人になった?
の子 大人になってるってことでもいいんですけど、自分が行きたい方向に自然と行ってるっていうのはあります。
──ちばぎんさんやmonoさんは、神聖かまってちゃんの10年の変化をどう捉えていますか?
ちばぎん バンドは本当に変わったって思います。一番変わったのはライブで、昔だといつもは20〜30点で、たまに120点を出すようなライブをやってたんですけど、今は平均して80〜90点を出すみたいな。
の子 ちょっと出来る子になっちゃったよね(笑)。そこはファンも思ってるし、俺らも「どんな風にしてまた120点を出すか」っていうのに、真剣に向き合っていかないといけないって思ってるのが今の状態。まぁ、今までが今までだったので、今は高い平均点を狙う感じでいいと思うんですけどね。
──ある意味、神聖かまってちゃんは今も過渡期にあるという意識ですか?
の子 それはあります! 人生もそうですし。
ちばぎん 人間関係やバンドの動きだったり、10年間でマンネリを感じたことはほとんどないです。かまってちゃんはずっと過渡期ですね(笑)。
──ちなみに、かまってちゃんに長期的な目指すべき目標っていうのはあるんですか?
の子 「具体的な目標にマジで向かう」みたいなのは、俺が嫌かもしんない。ONE OK ROCKとかはありそうだけど(笑)。
ちばぎん そういうのってあったほうが良いのかな?
mono 宇宙でライブとか?
の子 したいね! 俺らも話せば何か出てくるんですけど、ちょっと抜けてますよね。ダラダラしてます。けど、ダラダラしてるから居心地は良いんすよね。
──では、もし今後、“アンチテーゼ”としての神聖かまってちゃんに代わる存在が出てきたら、どうします?
の子 そうしたら、嬉しいっすね。俺らは疲れたんで、ぜひ同じ目にあってくれって(笑)。俺らみたいなバンドがオリコンで1位取ったり、『NHK 紅白歌合戦』に出たりしたら、それはほかのバンドがやるよりも意味があることなんで……。そういう存在が出てきたら、応援したくなりますわ。
2017年のインターネットについて
──かまってちゃんのデビュー前後は、顔出しで配信生放送、宣伝をするっていうのはセンセーショナルな新しさがありました。の子 YouTubeでもなんでも、俺らの時代は「ネットで顔を出す」なんてもってのほかみたいな風潮がありましたけど、今はガキでもバンバン顔出ししてますよね。俺は、今みたいな時代になるっていうのはわかってましたけど、本当に。
──それこそ、「インターネットポップロックバンド」を謳っていますよね。
の子 そこには結構、誇りを持ってるんですよ。
──その神聖かまってちゃんにとって、今、ネット配信に代わる新しいものってあるんですか?
の子 2010年ぐらいは「このツールはこれからどうなっていくんだろう」って思えるよくわからないものが色々あって、そういう時代とうちらのカオスな感じが合ってたんでしょう。今、ネットはいろんなものが熟しちゃって、ちゃんと整備されてる印象。俺らはネットの新しい砂場に乗っかる感じなんで、誰かが新しいものを作ってもらわないとなって。
俺もYouTuberになってみようと試したんですけど、毎日アップロードするの大変だし、おっさんはあまり見向きされないしで難しかった(笑)。特にネットとかは、同世代の人に共感を得るツールなんでね。
──最後に、2017年のインターネットについて、どう感じているのか、教えてください。
ちばぎん 2017年に始まった話ではないですけど、バンドマンとか芸能人もみんなSNSをやっていて、ファンの人との距離が近いなっていうのは思いますね。俺らは配信とかしてるのもあって、Twitterのリプライとかもみんなタメ口です。それが楽しい時もあれば、ウザい時もある(笑)。良い意味でも悪い意味でも、そういった近さは感じますね。
の子 今、ネット芸能人みたいでYouTuberが熱いですよね。はじめしゃちょーとかHIKAKINとか、そこらへんの芸能人よりフォロワー数が多かったりするし。そういう10代の若い子とかの「テレビとかの今までの価値観を覆してやろう」っていう動きとかパワーっていうのは、良いなって思います。そういうパワーが音楽のほうにも起こらないと、つまらないまま終わるんじゃないかなって。曲作りも面白いですけど、基本的にネットのほうが面白いですよ。
mono インターネット…2017年…
ちばぎん 特に何も出てないね(笑)。
mono あいかわらず「困った時に助けてくれるなぁ」って、思ってしまうなぁ(笑)。
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神聖かまってちゃん
インターネットポップロックバンド
の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人組からなるインターネットポップロックバンド。の子、mono、ちばぎんは幼稚園時の同級生。みさこは、ネットのメンバー募集で加入する。自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生配信、自作MVの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。
2010年12月にメジャーレーベルのワーナーミュージック・ジャパン/unBORDE から「つまんね」、インディーズレーベルのPERFECT MUSICから「みんな死ね」という2枚のアルバムを同時リリース。2011年4月に入江悠監督の映画「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」が全国で順次公開される。
この5月24日(水)には、TVアニメ「進撃の巨人」Season2のエンディングテーマ主題歌「夕暮れの鳥収録のダブルAサイド・シングル「夕暮れの鳥/光の言葉」をリリース。
の子(Vo,G)自らの体験や感情をタブーなき赤裸々な言葉で紡ぎ、美しいメロディーによる楽曲と強烈なライブパフォーマンスで、常に話題になるインターネットポップロックバンドとして活動中。
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